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第二章 26話『『元』究極メイド、収穫祭に参加する11』

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青緑色の液体が、アミナの欠損した左手に滴る。

するとたちまち骨が伸び、その周りを筋肉や脂肪や神経が取り囲み、最後に皮膚で覆われる。

自身がこれほど大きな怪我をした事が無かった為、アミナは自分で作り出した回復薬の凄さを改めて認識した。


左腕の次は右の掌で、同様に回復薬を垂らすと穴は塞がった。

「おぉ……」とローザが呟く。

それもそのハズで、ここまでの効能がある回復薬など、冒険者ですら持っていない。

ましてやローザは一般人だ。

この反応が普通である。


「さぁ、この空間から出る方法を教えてください」


復活した左腕の前腕部がしっかり動くか確認する為に握ったり開いたりした。

どうやら完璧に元の状態に戻ったようだ。

それに対し、腹部に開いた大穴がアミナの回復薬によって完全に傷が塞がったシェンメイは、起き上がって河原に座りながら「それよりもよぉ」と言った。


「なんでそのおっさんがここにいやがる」


シェンメイはローザを見ながら言う。

彼女の鋭い視線と、強気な女性を見ると嫁を思い出してしまう事から、ローザはシェンメイの顔を見た後バツが悪そうに顔を反らした。


「はぁ……おっさんではありません。ローザさんです。彼はまだ29歳ですよ」


「十分おっさんだろ」


「おい。というか、アミナちゃんも余計な事言わなくてもいいんだよ」


自分から聞いておいて暇そうにあくびをしているシェンメイを後ろにアミナはローザに叱られた。

そして「――で?」とアミナに再び訊いて、先程の作戦の全容の説明をするように促した。

アミナがそれを喋って良いものか悩んでいる様子に、「俺も気になるし、言っても良いんじゃねぇかな」とローザが言った。

すると頷いてアミナは口を開いた。


「最初、1人で貴女を相手する予定でした。……しかし、認めたくはないですが貴女の方が私より強いです。だから、ローザさんに頼る事にしました」


アミナがそう言うと、ローザは嬉しそうな笑顔を浮かべた。

その顔を見たシェンメイは蔑むような目をして「真恶心」と意味の分からない言葉を呟いた。


「おい、今の言葉悪口だろ!意味は分からねぇが言い方で何となく分かるんだぞ!」


そう言われるとシェンメイは「フン」と半笑いで顔を反らした。

アミナはその変な雰囲気に再び説明を続けた。


「私の腕を犠牲にしようと考えたのは、岩を見つけた時でした。その岩を持って殴りかかれば貴女は反撃するでしょう。そして案の定、貴女は私の左腕を斬り飛ばした」


「そういや珍しいよな。腕ぶった斬られてんのに悲鳴一つあげやしねぇ。お前本当に普通のメイドか?」


「生きるか死ぬかの際なんです。悲鳴なんていちいちあげている暇はありません。……ですが、もう斬られるのは懲り懲りですよ。痛すぎて頭がどうかなりそうでしたよ」


するとローザは改めてゾッとした。

斬られた動く事の無い……いや動いたらそれはそれで困るのだが。

そんな他者の手持って走っていたと考えると、なんだか理由の分からない寒気が体を襲う。


「そしてそこからは一か八かの賭けでした。ローザさんが私の腕を見つけられなければ全員死。見つけられたとて、私が指定した場所に私が上手く貴女を誘導できなければ、こちらも全員死。私のスキルが他人の手でも発動するのかも確証はありませんでしたし、そこも賭けです。……本当に、人生の中で五本の指に入るくらいには、盛大で壮大な賭けでしたよ」


アミナは本当にくたびれた様子で言った。

こんな危険に塗れた作戦を、1人の少女が激しい戦闘の中で考え、冷静に、そして慎重に実行している。

その事実にローザは驚き、驚愕するばかりだ。


「さぁ、私の作戦の全容はきっちりお伝えしました。約束通り、この空間から出る方法を教えてください」


シェンメイを倒した作戦の全てを伝えたアミナは、彼女に言った。

しかし彼女は、後方に手をつき、後ろに体重を預けながら空を見上げてニヤけながら言った。


「やだね」


静寂が広がる。

付近を流れている川のせせらぎが、今は妙にやかましく感じられる。


「は?」


アミナとローザの声が重なる。


「私がいつ、ここからの出方を知ってるって言ったよ」


その言葉の後、「はぁぁ!!!???」という大きな疑問の声へと昇華する。

相変わらずニヤケ面をしているシェンメイは、ごちゃごちゃと聞き取れない量の言葉を発している2人に向かって「嫌だけど」と続けた。

その言葉を聞き、2人はピタリと動きを止めた。

ローザに至ってはアミナの短剣を引き抜いてシェンメイに突き立て、アミナはシェンメイを羽交い締めにしていた。


「アミナと戦れなくなんのはもっと嫌だな」


片目を閉じて2人の方を見た。

その視線を同時に受け止めたアミナとローザは顔を見合わせた。

ローザは短剣を下ろし、アミナは羽交い締めを止めて地面にドスンとシェンメイを落とした。

その弾みで「いでっ」とシェンメイは呟いた。


「それじゃあ――」とローザ。

「つまり――」とアミナ。


「あぁ。このままここでくたばって、アミナと戦れなくなるのは私としても困るんでな。しょうがねぇから脱出する」


地面に寝転ばされたシャンメイは腕の力だけで飛び起き、立ち上がった。

腰に手を当ててしゃがんでいる2人を見下ろして「ついて来な」と言って歩き出した。

アミナとローザはもう一度顔を見合わせた後に、先に歩き出したシェンメイの背を追って小走りで走ってついて行った。


―――


シェンメイが黙って先導している中、砂漠地帯でアミナのベルトから何か声が聞こえた。

アミナがポケットをまさぐると、そこにはカイドウから貰った魔水晶があり、声の正体は先程と同様、カイドウだった。


『アミナさん!!無事だったかい!?』


「カイドウさん!はいこちらはローザさんも私も無事です!」


アミナが笑顔でそう言うと、ローザは心の中で、片腕には穴が空いてもう片方は腕ごとぶった斬られたけどな、と苦笑した。


『こっちでガーベラって人とその部下達を拘束したよ。そっちの雇い主って人はどうなった?』


カイドウのその問いかけにアミナはビクッと小さく跳ねて、本人がいないにも関わらず顔を反らして明後日の方向を見ている。

本来ならばカイドウとフィーがガーベラ達を倒して街を奪還した事を称賛して喜ぶべきだったのだろうが、今はそんな事を考えている余裕はなかった。


そして、水晶に声が入らないように「うーん」と唸っている彼女の様子を見ながら、ローザはどう答えるのかニヤニヤしながら見ていた。

すると


「……はい、実はその雇い主……シェンメイさんというのですが。その人にこの空間からの出方を教わる為に今同行しています……」


言い終わると、アミナは有無を言わさず水晶を遠くへと投げた。

すると砂にぽすっと着地した後、大きな音で『えぇぇぇぇ!!!!!?????』と砂漠地帯に響き渡った。

バリンバリンに割れていたその叫び声が止んだ後、アミナはそーっと水晶を拾い上げる。


『主催者側の人間と同行しているの!!??縄は!?当然縛ってるよね???』


アミナはチラリとシェンメイの方を見る。

すると彼女はそこら辺をプラプラ歩きながら2人を誘導し、地面になにか落ちているのを発見するとしゃがんでそれを持ち上げたりして遊んでいた。


「い、いえ……縛っていません……」


そう言うと、水晶の向こう側から、カイドウの声にならない叫び声が聞こえた。

どうやらアミナの今の説明に気が滅入っているようだ。

しかし次には気を取り直したように喋り直した。


『まぁとにかく。その人について行かないとその空間から出られないのなら仕方が無い。主催者の人が気絶しても能力が解除されないから、きっとその人しか出方を知らないハズだ。……くれぐれも気をつけてね』


その言葉でカイドウとの連絡は途切れた。

折角ならフィーの声も聞きたかったな、と思っていたが、魔力の込め方なぞ知らない為、アミナは静かにベルトのポケットに水晶を仕舞った。


「おい、着いたぜ」


前方から声が聞こえた。

アミナとローザはその方を向いて、少し離れた所にいるシェンメイに近づいた。

2人が彼女のいる場所まで着いて止まると、目の前にある小さな建物を見上げた。

そして「ここは?」とアミナがシェンメイの方を見て訊いた。


「ここはガーベラ唯一のオリジナル空間。この建造物を中心にこの仮想空間は存在している。とりあえず入るぞ」


シェンメイはそう言って先に入る。

しかし何か罠があるのかもしれないと警戒しているアミナに向かって、シェンメイは振り返って言った。


「安心しろよ。罠なんてねぇし、この中には少しだけ広い部屋があるだけだ。……言ったろ?私はお前と戦れなくなるのが嫌なんだ。だからお前は無事に送ってやるよ。ついでにそこのおっさんもな」


言い終えた彼女は入口の闇に消える。

そこまで言われてしまっては入らない訳にもいかず、アミナは再びローザと顔を見合わせて同時に入った。

するとその建物の中は確かに大きな部屋空間が広がっており、中央には何か光っている石があるだけだった。


「これを砕けば、この空間は崩壊してあっちに戻れる。こっちの空間にいる奴等も漏れなく帰れるって訳だ。本当は砕かずに触れるだけで帰れるんだが、お前等はどうせこの空間内にいる連中全員を返してぇんだろ」


その問いかけにアミナはコクリと頷いた。


「そんじゃあ早速――」


ローザが地面に落ちていた石を拾い上げて手に握った。

その石で砕こうとしているようだった。

中央の光る石に近づいていくローザを、シェンメイは顎を掌で押し上げて「待て」と言った。


「アミナ。一つ言っておく」


「……なんでしょう」


「私はお前と戦う為に常にお前を狙っている。それを受け入れろ。さもなくばこの場でこのおっさんを殺す」


持ち上げられている顎に力が入る。

ローザは圧倒的な握力で今にも顎が砕かれそうだった。

この状況でローザを助ける事は、アミナには出来ない。

実力的に敵わない相手に嘘を言ったり断ったりするほど、アミナは馬鹿ではない。


「……分かりました。私は貴女に狙われても、決して文句は言いません」


その言葉を聞くとシェンメイはニヤリと笑って、地面にローザを落とした。

「それが聞ければ十分だ」と言って彼女は拳を振るって中央の石を破壊した。


次の瞬間――石から溢れ出した光が、三人を包み込んだ。

眩い輝きが爆ぜるように広がり、世界を白く染め上げる。

アミナとローザは思わず目を細め、反射的に手をかざして光から視界を守った。

だが、まぶたを閉じても、なお光は脳裏に焼き付くように鮮烈で、まるで身体ごと光の中へ溶けていくかのようだった。


ローザが息を呑む。

耳をつんざくほどの音が響くわけではない。

むしろ、静寂すら感じるほど穏やかな光だった。

しかし、その輝きには確かに力があった。

全身が温もりに包まれ、風の感触さえ感じない。まるで世界そのものが停止したかのような感覚。


ふと、足元が揺らいだ。

重力が薄れ、身体が浮き上がるような錯覚に襲われる。

視界には何も映らない。ただ、光の粒子が空間を漂い、ゆっくりと3人の体を包み込んでいくのが見える。


――転移が始まっているのだ。


ローザが隣を見ると、もうそこに地面はなかった。

足元の大地はいつの間にか消え、彼女たちは光の中を漂っていた。

浮遊感が増し、体の境界すら曖昧になっていく。


――意識が溶けていく。


光の粒が彼女たちの肌を滑るように流れ、どこか遠くへと導いていくようだった。

まるで、世界そのものが優しく彼女たちを送り出しているように。

次第に、まぶしさは和らぎ、視界が開けていく。


白かった空間が淡く色づき、遠くから聞こえてくる風の音が耳の奥に入り込んでくる。

冷たい空気が肌を撫で、土と草の匂いが鼻をくすぐった。


光が完全に消えたとき、彼女達は元の世界に立っていた。

見慣れた景色が広がり、確かな重力が足元に戻ってくる。まるで夢から覚めたような感覚だった。


「……戻った……のか?」


ローザが周囲を見回し、アミナも静かに地面を踏みしめた。

確かな感触。

確かな現実。

光の残滓が空に溶けて消え、ただ静かな風が吹き抜けていった。



最後までお読み頂きありがとうございます!


無事脱出!!

次回収穫祭は最終回です!


それでは次回もお楽しみに!!

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