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第二章 22話『『現』ランクS+魔物、街を奪還する 終』

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雨――

それは、天が静かに紡ぐ詩。

大地を優しく撫でる囁きであり、記憶の隙間にそっと染み込む水彩の筆跡。

時に激しく、すべてを洗い流す浄化の涙。

時に穏やかに、乾いた心を潤す慈愛の雫。

無数の点が地面に描く波紋は、過ぎ去った時間の残響のように広がり、消えていく。

そして、雨音に耳を傾けるたび、人は忘れていた想いに静かに触れるのだ。


しかし今、駆け出し冒険者の街の上空に浮かび上がっている雨粒は、常軌を逸している。

一つ一つが様々な素材で構成されており、無理矢理ぶつけ合わされ、メキメキと音を立てている。

所々から瓦礫が落下し、それが地面に落ちる音は、無惨にも破壊された建築物の悲鳴を聞いているようだ。


「雨にしちゃあ、ちぃっと大きいかもなぁ」


自身で作り出しておいてそう言う。

街を飲み込んで作り出された数百の瓦礫の雨粒は、巨大過ぎる体が落下させられるのを今か今かと待っている。


(アイツのスキルの切り取れる最大範囲は15メートル四方。あの瓦礫の塊は直径15メートル。つまり、切り取った空間の箱にピッタリ収まるサイズの球体を作り出し、空中に切り取った空間を浮かべる事で無数の瓦礫の塊を浮かべている。規模と言い被害と言い、無茶苦茶過ぎるにゃ……)


「この街を地図から消してやらぁ!!クソ猫ぉ!てめぇごとな!!」


遂にガーベラは手を振り下ろし、巨大な雨粒達は重力に任せて落下し始める。

迫り来る豪雨は手始めに冒険者ギルドの屋根を破壊した事で崩壊し、地面へと落下した。

どうやら一度障害物に触れる事で簡単に崩壊するようだ。


だがしかし、今この街に残っている障害物と言えば、ギリギリ被害を免れた民家や街にとっての重要な施設ばかり。

数百もある瓦礫の塊が落下すれば、いくら崩壊しようとも、その質量で結局は街が壊滅する。


「ふははは!!滅びろぉ!!」


ガーベラは怒りを通り越し、甲高い笑い声を上げている。

狂ったような表情をうかべるガーベラはもはや救いようが無い。


(どうする……この落下物全てを完全に防ぐのは、認めたく無いが流石に不可能にゃ……どうする……)


フィーは必死に頭を働かせる。

全てを防ぐ事は今の自身では不可能。

認めたくないその現実を念頭に入れながら思考をめぐらす。

しかし、彼の頭の中に一つの魔物らしい考えが浮かび上がる。


(……そうにゃ……もう人間なんて放っておけばいいのにゃ)


それは『放置』である。

彼自身魔物であり、人間を助ける義理も理由も無い。

その思考になれば、体を小さくして瓦礫から逃れられる場所まで逃げれば終わりである。


(オレがわざわざ助けてやる必要なんてにゃい。一体オレは何を必死になってたんだ。人間なんて放っておいてもその内勝手に増える。ここで何人死のうと、人間なんて100年以内には絶対死ぬにゃ。まだあと数百年以上生きるオレからすれば、些細な事にゃ)


フィーの中のやる気がどんどんと削ぎ落とされる。

ここに来て魔物としての思考が、彼の頭を支配していた。

するとそこに、自身を呼ぶ声が聞こえた。


「フィアレーヌ君!!大丈夫かい!?」


それは、先程ギルドの屋根に瓦礫の塊が当たった事で破壊された部分から体を乗り出しているカイドウの声だった。

彼の体はボロボロで、腫れ上がった顔が痛々しい。


「街の人は皆見つけた!ギルドの2階の部屋でギュウギュウに閉じ込められていたんだ!まだ寝ているからパニックにはなってないけど、この状況を知られたら不味い!……頼ってばかりで申し訳無いけど……頼むフィアレーヌ君!!この瓦礫達を何とかしてくれないか!!」


フィーは目を見開いた。

何故この弱者は他者の為に動けるのか。

自身が最も弱いクセに大勢を助けようとする。

それは自身の主人とは全く異なる。


――主人。

その人は戦闘能力が高く、頭もキレるがどこか抜けている。

今まで負け無しだった自身を一方的にボコボコにし、認めざるを得ない状況を作り出した。

彼女に言われた言葉が蘇る。


『フィーちゃんとカイドウさんは街の人の救出と街そのものの奪還をお願いします!』


『お願いします』

その言葉が徐々に拡大されていく。

お願い、それすなわち命令。

主人の命令を聞かない従魔がどこにいるだろうか。


(……危ない所だった。ここで逃げていたらアミナに酷く叱られるトコだったにゃ。……はぁ)


ため息を一つ吐き、フィーはアミナと自身の家がある方向を見た。


(アミナの家もあるし、そこはオレの家でもあるにゃ……それが潰れるのは困るにゃ……)


フィーは少しだけ首をフルフルと振るい、決意を決めたように空に浮かぶ瓦礫達を見た。

空全体を覆い尽くすように落下してくる瓦礫は、もうすぐそばまで接近してきている。


(褒めてくれなきゃ許さにゃいからにゃ)


そう心の中で呟き、フィーは体を大きくし始めた。

今までの大きさが10メートルあるか無いかくらいの大きさだった。

しかし、みるみる体は大きくなる。

今までに無い程のサイズに自身でも違和感を覚える。


(今までやった事あるのはせいぜい20メートルくらいにゃ……どこまでもつかにゃ……!!)


体が小さくなる事で消費魔力が減るのと同様に、巨大化していくに連れて消費する魔力の量は爆発的に増えていく。

体が大きくなろうと小さくなろうと、元々の魔力の総量は変化しない。

故に巨大化すればする程持続時間は極端に短くなっていく。

具体的な数字を挙げる事も出来ない。

それほど極端かつ膨大な魔力を消費する。


「へっ!!巨大化して防ごうってか!!そんな無防備な体、俺が見逃す訳ねぇだろ!!」


ガーベラがまたしても別空間から何かを取り出した。

それは先端の尖った岩だった。

彼の切り取っていた空間に、そういった地域のものがあったのだろう。

投げるようにして、それをフィーの無防備になった肉体に浴びさせる。


岩はフィーの毛皮を貫通して皮膚に突き刺さる。

そこからは大量の血液が滝のように溢れ出す。

「どうだクソ猫!!いてぇだろざまぁ見やがれ!!」と、初めてマトモに攻撃が当たった事で喜びの声をあげるガーベラだったが、それに対してフィーは苦しみの声どころか、瞬き一つしない。

そんな暇があったら体を巨大化させる速度を速くしろ、と本能が告げている。


顔は見えないが悲鳴が上がらないのが気に食わなかったのか、ガーベラは次々とフィーの肉体に攻撃を浴びせる。

岩の刺突や、空気の押し出しによる殴打。

樹木を弾丸のように発射され、体内に複雑に木の枝が突き刺さって折れて残る。

体からは絶え間なく血液が漏れ出し、遂には口からも血が吐き出される。


だがしかし、それでもなおフィーの表情に変化は無い。

あと少し、もう少しで街全体を覆う事が出来る大きさまで来ているのだ。

主人の家を守る為、街の住人を守る為、そしてなにより、主人の命令を遂行する為、フィーは命を賭している。


その光景を見ているカイドウは、フィーの生き様と自身の不甲斐なさで思わず涙した。

何故こうも自身は非力で無能なのか。

いくら魔道具に知識があっても実際に戦いになれば一番に足手まといに成り下がる。

自分にも何か出来ないか、という一心で体を張ってガーベラのスキルを解き明かしたが、結局は役に立っていなかった。

僕はどうすれば――と。


そして、フィーは遂にスターター全体を覆えるほど巨大になった。

15メートルもある瓦礫の塊がもはや石ころ同然に見える。

体を巨大化させたフィーは、街に覆いかぶさるように手足を広げ、街の即席の屋根となった。


フィーがそのサイズになるのを待っていたかのように、彼が街に覆いかぶさった瞬間、全ての瓦礫がフィーの背面に激突し始めた。


鋭利な瓦礫が突き刺さり、粉塵が激しく舞い上がる。

大気を震わせる轟音が鳴り響く中、鋼の如き肉体を砕こうとするかのように、重く、鋭く、狂ったように破片が降り注いだ。

木材が肉に食い込み、鉄筋が深く突き刺さる。


煉瓦の塊が背にぶつかり、粉々に砕け散る。

鉄筋の折れた先端が突き刺さり、肉を貫通する。

木片が鋭い刃となり、皮膚を切り裂く。

肉の奥へと喰い込み、異物としてそこに沈み込んでいく感覚。

しかし、フィーは眉一つ動かさない。


重く鋭い瓦礫が、次から次へと降り注ぐ。

その度に肉が裂け、骨がきしむ音が響く。

だが、彼の表情はあまりにも静かだった。

まるで痛みを感じていないかのように、ただそこに立ち、無数の瓦礫を受け止め続ける。


衝撃の余波で地面が揺れ、粉塵が嵐のように巻き上がる。

辺りは視界が奪われ、耳をつんざくような音の渦が続く。

人であれば、この状況に息を詰まらせ、恐怖に震えるだろう。

しかし、フィーの瞳には何の感情も浮かんでいなかった。


その光景を見ながら攻撃を続けていたガーベラは、段々言い表せぬ恐怖心に駆られた。

これ程の規模の大技を防がれている。

それに自身の体力は、先程の戦闘でもはや限界。

そんな事もあってからか、冷や汗が止まらない。


「なんだよ――なんだよなんだよなんだよなんだよなんだよ!!!何なんだよぉ……!!」


―――


やがて、瓦礫の雨は収束を迎えた。

崩壊した建物の残骸がすべて降り注ぎ終わり、ようやく静寂が戻る。

瓦礫を全て受け止めたフィーは体力の限界から、体のサイズが子猫ほどにまで小さくなっていた。

その場で気絶しても誰も文句は言わない、そんな状況だったが、彼はヨロヨロと立ち上がり、前に歩き出した。

彼の視線の先には、恐怖に溺れる1人の男がいた。


「来んなよ……!!来るんじゃねぇ!!」


歩いて近づいてくるボロボロの子猫に向かって、床に転がっている石を投げつける。

しかしそれは当たらず、フィーの横を通り過ぎる。


「クソっ!!クソっ!!クソっ!!クソぉ!!」


次々と石が投げられるが、そのどれも当たらない。

フィーに関して言えば、避ける素振りすら見せず、体中から絶えず流れ続ける血を気にする様子すら無い。

そしてとうとう、フィーはガーベラの目の前に立つ。

何も言葉を発さない彼に、ガーベラは心底恐怖した。

自身より遥かに小さなその生物に、本能が怯えているのだ。

まるで、その小さな生物の背後に数百メートルの魔物が鎮座し、いつでも貴様の喉笛を噛み千切れる、と言わんばかりに。

言葉に表しきれない恐怖心が脳全体を支配し、遂にガーベラは泡を吹いて気絶した。


気絶したガーベラをフィーは見下ろし、その場で静かに眠るようにして倒れた。

ギルドへの道には、暫くの間静寂が続いた。

その静寂を破ったのはフィーの身を案じてギルドから足を引きずって走ってきたカイドウだった。


「フィアレーヌ君!!」


カイドウはフィーを抱き上げる。

体中には瓦礫を防いだ時に突き刺さった破片達が並んでいる。

カイドウに医者としての知識は無い。

その為何をするのが最善なのか分からず、思わず抱き上げてしまったのだ。


「フィアレーヌ君……」


全く動かない腕の中の魔物にカイドウは涙を流し、うずくまった。


「街を救えても……たった1人の友人に頼り切る事しか出来ないなんて……その上、君を、こんなボロボロに……」


抑えようとしても涙は絶えず溢れかえる。

その数粒がフィーに落ちるが、彼は目を覚まさない。

もう駄目だ、そう思い、叫び声が出そうになった。

口から言葉にならない悲鳴を上げそうになった時だ。


カイドウの口に、ふにっ、と柔らかいものが当たる感覚がした。

それはとても柔らかくて心地が良く、誰もが一度は触れてみたいであろう感触をしていた。

その感触に驚いたカイドウは、思わず目線を下へ戻す。

するとそこには、叫び声を上げようとするカイドウの口に手を当て、うるさい叫び声を制止しているフィーの姿があった。


「……!!フィアレーヌ君!!無事だったんだね!!」


カイドウが歓喜の声をあげると、フィーは目をゆっくりと瞬かせ、周囲の状態を確認した後に呟く。


(ったく、いきなり叫ぼうとしやがって……。なんで開口一番お前の叫び声を聞かにゃならんのにゃ……。それに無事に見えるならお前の目は腐ってるにゃ。……って、言っても伝わらにゃいか)


すると、自身の頬に液体が伝っているのに気が付く。

よく見ると、それはカイドウの涙だった。


「良かった……僕はてっきり、君が死んでしまったのかと……」


涙出前が見えていない、そんな表現が、今のカイドウにはお似合いだった。

フィーは照れ隠しなのか、素で言っているのか分からなかったが、(オレが死ぬハズにゃーだろうが)言った。

そしてその後、カイドウが一通り泣き止んだ後、「にゃあ」と呼びかけ、カイドウの目線を誘導させた。

彼と目が合った後、カイドウの腕の中でフィーは親指をグッと立てた。

それに対しカイドウも泣きながら笑い、「お疲れ様」と親指を立てて見せた。


こうして、1人と1匹によるスターター奪還作戦は終わった。

被害は大きかったが、死亡者数はゼロ、この上ない結果だ。

黒幕であるガーベラを止めた事で、残る主催者側の人間は、アミナと戦闘を繰り広げているシェンメイのみとなり、仮想空間内での全てはアミナに託されたのだった。



最後までお読み頂きありがとうございます!


現実世界はこれにて一件落着!

さて次回はアミナと謎の暗殺者シェンメイとの戦闘となります!

臨場感溢れる表現が出来るよう頑張ります!


それでは次回もお楽しみに!!

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