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第一章 4話『『元』究極メイド、街に到着する』

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 昨夜の即席の寝床は意外と悪くなかった。

 遮蔽物のない荒野では、風の音すら静寂の中で強調され、夜の寒さが骨の芯まで染みる。

 それでもアミナは、周囲に置いた簡易的な魔法陣と焚き火の温もりのおかげでぐっすりと眠ることができた。

 冷静に考えれば完全な安全地帯とは程遠かったが、彼女はこういう局面に慣れている。危険に対応するには、まずは体力を整えること。

 それは彼女がメイドとして生きてきた中で、数々の状況を乗り越えた教訓の一つだった。


 薄明かりが東の空を薄赤く染めるころ、アミナは目を覚ました。

 昨日の疲れがまだ残っているものの、彼女は顔を一つしかめることなく、淡々と支度を始める。


「さてと……今日も歩くしかないか」


 焚き火の残り火を確認しつつ、彼女は荷物を再確認した。

 昨夜作った携帯食料とレッドポッチが入った小さな袋、そして水筒。

 最低限の物しか持たない彼女は、その身軽さを最大限活かす術を心得ている。


 地平線まで続く荒野は、まるで終わりのない画布のようだ。見渡す限り砂礫とまばらな草木しかないこの風景に、アミナはどこか既視感を覚えた。

 そうだ、昔見た絵画の一つに似ている。何もない広がりにぽつんと立つ小さな点。それが今の自分自身だと思うと、少しだけおかしみがこみ上げてきた。


「ほんと、気の利かない景色ね」


 そう皮肉を吐きつつ、彼女は歩き始める。昨日と同じ荒野が広がる中で、彼女は小さな変化を見逃さなかった。

 砂礫の間に混じる草の種類が変わっている。細長く硬い葉を持つ草が目立つようになり、ところどころで花を咲かせているものもある。

 アミナは足を止め、一つの草を摘み上げた。


 アミナは足を止め、手に取った草をじっと観察した。

 乾燥した地面の中でも力強く育っているその草は、細長い葉が風に揺れ、どこかしっかりとした生命力を感じさせた。

 その葉の先端に、小さな花が咲いている。花びらは薄紫色で、砂塵の中でもその色を失わず、微かに香りを漂わせている。


「……『ブルームサブレ』。強風に耐える為に根を深く張っている植物だっけか」


 アミナは草を手のひらに置き、慎重にその花を指で摘み取った。

 その香りを嗅いだ瞬間、頭の中で情報が瞬時に整理される。ブルームサブレは、元々乾燥した土地で育つが、少量の水分と栄養を持つ草木と共に生長する特徴があり、その花を使うことで軽い解毒作用を得られる事がある。

 しかも、花の根本に含まれる成分は体力回復にも使える。


「これを使えば、少しは体力を補充できるか」


 アミナはその花をそっと袋に入れ、再び歩き出す。

 荒野を歩く道中、彼女は見知らぬ草や木を次々と観察しては、それらの知識を引き出して自分の手札に加えていく。


 砂に足を取られながらも、徐々に足元がしっかりしてきた感覚を覚える。

 彼女の頭は常に冷静だ。

 問題は次々と出てくるが、解決策もまた常に用意している。


「食料と水の補充、少しずつ進むしかない。ここまで来たら、無駄な動きはしない」


 そのとき、視界の端に動きがあった。

 前方、遠くのほうで何かがちらちらと揺れる。アミナは一瞬、立ち止まってそれを見つめた。

 その揺れは、風で動く草のようでもあり、または何かがこちらに向かって動いているようにも見えた。


「魔物……?」


 アミナは眉をひそめる。

 魔物はもちろん、異世界であればこそ頻繁に出現する存在だ。だが、彼女は冷静にその動きを観察した。

 敵か味方か。

 どちらにしても、無理に接触を避ける理由もない。むしろ、情報を得るチャンスだと思えば、躊躇うことはない。


 だがすぐにその「何か」の正体が分かる。

 風に舞う砂をかき分けて現れたのは、長い足を持つ小柄な魔物だった。目の前に出現した瞬間、アミナはその魔物の特徴をすぐに頭に記憶させた。

 背中に小さな羽が生えていて、やや猿のような体型をしているが、四肢には鋭い爪を持ち、身軽に地面を歩いている。


「……イザベル族の『スカウト』。見た目以上に力はあるはず。」


 イザベル族は、敏捷性を活かして獲物を仕留める鳥類型の魔物だ。

 彼らの群れに入れば、戦闘能力を高められるが、基本的には過信することなく距離を取るのが賢明だと、アミナは本の記憶を思い出しながら冷静に判断する。


 魔物はこちらに気づいたのか、少し立ち止まった。その目がアミナをじっと見つめ、次第に近づいてくる。

 彼女は構えることなく、そのまま軽く立ち止まり、手元のブルームサブレを振りかざして見せた。


「近づいてくるつもりなら、ちょっとだけお付き合い願おうか」


 その瞬間、魔物は目を見開き、明らかに戸惑ったような素振りを見せた。

 アミナがこの土地で初めて使った己のスキル、敵意を見抜く嗅覚と、さらに冷静な観察力によって、彼女の戦闘方法は無駄を排除してきた。

 攻撃するか、交渉するか。それが常に選択肢として心の中で回るが、この場で無駄に血を流す理由はない。


 魔物は一度アミナの方をじっと見つめた後、突然方向を変えて歩き出した。

 アミナはその背中を見送りながら、すぐに次の行動に移る。

 彼女は無駄に力を使うことなく、軽やかに歩き続けた。



―――



 もうどれほど歩いただろうか。

 長距離を歩き慣れていない細い足に残る痛みや疲労感。それだけがアミナが歩いた距離を静かに語る。

 すると夜の闇の中を無理矢理歩く彼女に、希望の光が見え始める。


「あれは……光……?」


 彼女が口にしたのは文字通り遠くに見える明かりのことだった。

 その光を背にした何かが光を遮って影を形作る。それは到底自然物には見えない様な角張った形状で所々蠢いているものがあった。


「建築物……!しかも影が動いているということは……」


 全て言う前にアミナは走り出した。

 脚に残った疲労や、体中に纏わりつく汗の感覚など、疲れに関係するものすべて忘れて走った。

 重い砂を次々に蹴り上げて走っていく。


 そして、息を切らしながらその街の入口と思われる、大きな城門前まで辿り着いた。

 城門を目の前にし、そこに書かれた文字をそのまま読み上げる。


「『駆け出し冒険者の街――スターター』」


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