第二章 18話『『元』究極メイド、収穫祭に参加する7』
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「さぁ、この戦い。楽しもうじゃねぇか」
そう言ってシェンメイはアミナに飛びかかってきた。
その速度は圧倒的で、アミナは体を咄嗟に地面すれすれに落下させる事で回避した。
しかし彼女の剣を振るう手は止まらず、そのまま薙ぎ払った剣で周囲の木々を一瞬にしてなぎ倒した。
そして次の行動までしばらく時間があると予想していたアミナは後退の準備をしようとした。
だが、その考えは間違いだった。
「なんだよ、案外トロいな」
シェンメイはニヤリと口角上げ、剣の柄頭をアミナの後頭部に振り下ろしてきた。
速い……!!
風を切る音を聞き、その攻撃を察知したアミナは自ら柄頭に向かって勢いよく頭突きし、そのまま振り下ろされる剣を押し返した。
押し返された剣は高らかに振り上げられ、その隙にアミナは後退する。
「へぇ……やるな。パンピーじゃ普通思いつかねぇよ。今から頭かち割られるってのに自分から迎えに行くなんて」
「勢いがついていたら、それこそ頭が割れます」
アミナは地面にしゃがんで体勢を立て直す。
短剣を握り直し、逆手に持つ。
そして今度はアミナから接近し、シェンメイの懐に潜り込む。
「お、やっぱり速いか?」
右手に持った短剣を振り上げた。
しかしそれは必要最小限の動きで躱される。
だがそれは想定内だった。
アミナは左手に持った複数の石を超至近距離で投げる直前、スキルを発動させた。
石はアミナの手を離れた途端、形を変え、尖った無数の岩の弾丸となる。
小さいながら、速度はアミナが放った『砲天源衝』と遜色のない程だった。
体を反らした事でノーガードとなった腹部に、石達が突撃していく。
「思った通りだな」
そう呟くと、シェンメイは急に体を起こし、腹筋に力を入れた。
バキバキに割れた腹筋がピチピチのシャツの上からでも分かった。
そして石の弾丸を腹筋で受け止め、砕いた。
「!!」
石が人間の腹筋に、強度で負けた。
その事実が信じられず、一瞬判断が鈍った。
シェンメイはその僅かな隙を見逃さず、アミナの頬に左フックをブチかました。
頭が千切れ飛びそうな衝撃を受け、アミナは樹木に背を打った。
しかしすぐさま体勢を整え、殴られた事で折れた歯を血と一緒に吐き捨てた。
「マジか。私の拳受けてほとんどひるまねぇなんて、今までそんなヤツいなかったぜ」
よく言うな……。
こちとら今の一撃で顎打って脳みそガンガンに揺れてるってのに……。
でももう収まってきた。
ここからまた反撃出来るだろうか……。
「一旦距離をとるか……」
アミナは森林の木々に身を隠すように上方に飛び上がった。
隙間を縫うように枝から枝へ飛び移る。
「へぇ、追っかけっこか……いいねぇ」
アミナを追うようにシェンメイは飛び上がり、同じように枝を踏む。
しかし彼女の場合は、一蹴りで枝が完全に折れ、アミナが数歩で行く距離を1歩で済ませている。
そうなれば――追いつかれるのは明々白々である。
「よお」
「――!?」
アミナが振り返る隙も無く、顔面を鷲掴みにされ、森をそのまま突き抜けられた。
そして浅い渓谷のような所に飛び出た。
そこで地面に向かって投げつけられ、アミナは落下する。
幸い下には川が流れている。
そこに着水すれば、と考えていたアミナに更なる追い打ちが接近してくる。
シェンメイは先程は持っていなかった巨大な剣を取り出し、アミナに振りかざしてきた。
「――!」
咄嗟に短剣で受け止めるが、上からの圧倒的な質量の打撃とも言える斬撃に押し負け、川へと一直線に落下した。
ドボン……なんて生易しい擬音ではなく、水の一つ一つが巨大な飛沫を上げ、周囲に高く舞った自身を撒き散らした。
その中からアミナは立ち上がる。
次にシェンメイも着水し、大剣を肩に担ぐ。
「あの剣……どこから出てきたんだ……」
アミナが小さく呟くと、それを聞き取ったかのようにシェンメイが口を開いた。
「こいつぁ『鮫釈』。私のお気に入りの武器の一つだ」
「武器の……一つ……」
という事は、複数個武器を所持しているという訳か……。
じゃあそれは一体どこに仕舞っていた。
あの女に武器を収納出来る物なんて……
そう思考しようとして、アミナは一瞬止める。
そうだ、あったではないか。
先程からずっと怪しく感じられていた物が。
思考をシフトし、アミナは彼女の首から下げている六角形のネックレスへと目をやる。
あれだ。
あの変な形の分厚いネックレスから、感じられていた嫌な気配。
きっとあそこの中に武器が収納されている。
原理は分からない、自分で言っていて半信半疑だ。
この女のスキルが『武器を別空間に収納出来るスキル』だとしたらこの仮説は一気に崩れ去る。
だが、今はそれを信じるしかない。
あれを奪う……!
アミナは水飛沫を蹴り上げて目眩しをする。
水は案の定シェンメイに向かって飛び散り、視界を塞いだ。
そこから一蹴りで川から飛び出し、河原へと上がる。
そして水飛沫に囲まれているシェンメイの背後へと周り、短剣を突き立てた。
とった……!
そう確信した次の瞬間、「甘ぇな」とシェンメイは呟き、地面を思い切り踏み、その場の地面を凹ませた。
すると勢いに任せて突撃していたアミナの刺突は、シェンメイの長身のわずか上を通り過ぎ、当たる事は無かった。
「なんて身体能力……!!」
「地面踏んだら普通凹むだろ、ガキでも知ってんぜ」
わざとなのか、それとも本気で言っているのか分からない言葉を口にするシェンメイにまたしても狙いを定め、アミナは対岸の岩壁を蹴って加速する。
そして、すれ違いざまに短剣で斬撃を繰り出す。
しかし今度は先程の大剣を壁として立てられ、攻撃を防がれた。
「軽い軽い」
シェンメイは首を振りながら言う。
アミナはいい加減攻撃が当たらない事とシェンメイの余裕そうな態度にイライラし始めた。
くそっ!
何で当たらないんだ……!
さっきから全ての攻撃が完全に防がれている……!
単純な戦闘経験の差なのか……!
「お、なんで当たんねぇんだ、って顔してんな。歪んでんぞ」
そう、こういう見透かしているような態度もムカつくのだ。
アミナは顔をパチンと叩き、顔を正す。
「教えてやるよ。なんで当たんねぇのか」
聞き返しそうになるのをアミナは堪え、シェンメイの話を遮らないようにした。
「なーんか、さっきから色々気にしてるみたいで戦いに集中出来てねぇようだからよ」
また心の内を見られているような台詞に、アミナはイラッとくる。
きっと何を気にしているのかもバレているだろう。
尚ムカつく。
頭をポリポリとかきながら、シェンメイは口を開いた。
「私のスキルは『悪喰』。私は自身に向けられている感情や意識によって身体能力や五感を強化出来る。向けられた感情や意識の質によっていくらでも向上する、それが私の能力だ。別に、武器を隠し持ったり攻撃を見透かす能力でも無いぞ」
先程考えていた事を全て言い当てられた上に、想像を上回るスキルだった事にアミナは言葉を見失った。
なんと言っていいのか分からない。
ただ、この女はただの冒険者では無い。
逃げる時の行動と言い、戦闘能力の高さと言い、これは――『殺し屋』のそれだ。
アミナは数度、サルバン邸にやってきた殺し屋を返り討ちにした事があった。
平和な第四大陸とはいえ、やはり職に溢れた連中がサルバンを恨むという事はよくあった。
その時の殺し屋達と、このシェンメイの行動には類似している点がとても多かった。
だがしかし、唯一似ていないとすれば、その殺し屋の行動のどれもが、シェンメイの足元にも及ばないという事だ。
どの行動においても、どの技術においても、立ち振る舞いにおいてすら、シェンメイの方が何十倍も上手だ。
五感も上昇する……という事は実質的に行動を予知できるものじゃないか。
インチキな能力してるな、全く……
「だから先程水飛沫で視覚を潰しても聴覚や触覚で対応出来たという訳ですか……」
「そういう事だ。目がなくても風の動きを肌で感じ、走る音を耳で感じる。なんなら目ぇ瞑って戦ってやってもいいぜ。良いハンデになるんじゃねぇか?」
シェンメイは鼻で笑いながらアミナに言った。
しかし、その言葉を受け、アミナの頬に血管が浮かび上がり、眉間にシワが寄った。
そしてただ一言「はぁ?」と、今まで攻撃が当たらない事や、余裕な言動を見聞きした事で溜まったイラつきが全て溢れ出した。
アミナは体をダラッとさせ、完全に脱力する。
短剣を持つ手はもはや力が入っていないようにも見える。
「お?試合放棄か?まだそんなに楽しんでねぇんだけどよ」
大剣を地面に刺し、それに寄りかかりながら、またしても余裕そうに言った。
しかし彼女の態度はすぐに変わる事になる。
何故なら――アミナの逆鱗に触れたからだ。
「覚悟しろよ、破廉恥女……その舐め腐った態度――」
顔をゆっくりと上げた瞬間、今までにない速度でアミナはシェンメイへと迫った。
そしてシェンメイの胸元に深々と蹴りを入れ、背中にある岩壁に激突させた。
そこには巨大な窪みが出来、岩が音を立てて落下する。
「――二度と取れないようにしてやる」
着地したアミナが恨むような目で睨みつける。
ガラガラと音を立てて体から岩を退かして壁の大穴に座り込んでいるシェンメイは、ここ一番の笑顔をしていた。
頭から流れた血が目の上を通り、頬まで伝う。
そしてその血を舌でペロリと舐め、呟いた。
「"真厉害"――!!」
最後までお読み頂きありがとうございます!
アミナ、キレた!!
という訳で初めてのガチガチの対人戦が始まると思います!!
あ、でも次回は恐らくフィーのパートですね
それでは次回もお楽しみに!!




