第二章 17話『『元』究極メイド、収穫祭に参加する6』
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「――ですのでフィーちゃんとカイドウさんは街の人の救出と街そのものの奪還をお願いします!」
『了解』
その会話を最後に、カイドウとの通信は切れた。
「………」
指示を聞いた後、アミナはバツが悪そうな表情をしている。
ローザには大体何を考えているかの予想はついた。
その為彼女が発現しやすいように己が最初に言葉を発した。
「ほんじゃあま、目的も決まった事だし、さっさとその『雇い主』ってヤツ探しちまおうぜ」
頭に手を置きながらローザは言った。
しかし返事は返ってこない。
まだ何かを悩んでいる様子だった。
「ほら、時間ねぇんだろ。さっさと行こうぜ」
「……本当に良いのですか?」
やっと返ってきた言葉が想像と違い、思わず「あ?」と聞き返してしまった。
「私のお願いを男性が聞いたら、きっと……不幸になってしまいますよ……」
こりゃ相当のトラウマがあるみてぇだな……と、改めて彼女の父や祖父、兄へのトラウマの重さを思い知らされた。
「さっきは頼ってくれそうな雰囲気だったじゃねぇか」
「いえ、でも……カイドウさんやフィーちゃんを巻き込んでしまいましたし……それを考えるとやっぱり……」
いつもハキハキと何でも熟すアミナが珍しくウジウジしている。
いい加減その態度と自身への信頼の無さが気に食わなくなってきたローザは、遂に抑えていた言葉を口にする覚悟をした。
それを口にしてしまえば、もう二度と話してもらえないかもしれないが、その程度で彼女のトラウマを少しでも消せるなら、いくらでも犠牲になってやるという覚悟だった。
「アミナちゃん……いやアミナ!!」
いきなり呼び捨てで怒鳴られた事で一瞬体がビクッと動いてしまい、「はい!」と返事をし、その場で直立した。
「アミナが関わった事で、そいつが幸せになるか不幸になるかなんて、本人にしか分かりゃしねぇ!それを決める権利はお前にゃねぇんだよ!!現に俺は一緒にいれるのは楽しい。きっとフィーもカイドウっつーヤツも一緒にいて楽しいから、幸せだからお前に協力してんだよ!!不幸になってまで、お前みたいにいつまでもトラウマでウジウジしてる面倒な女に関わるような物好きはいねぇ!!――分かったら、さっさと俺を頼れ!!」
最後まで言い切り、ローザは少しだけ目線を落とした。
すると不思議そうな目で目の前の少女は自身を見つめてくる。
全身から汗が止まらない。
冷や汗というか脂汗というか、とにかく気持ちのいい汗では無い事は確かだ。
すると、一本の棒のように立っていたアミナの体がピクリと動いた。
ローザは、デリカシーの無い事を言い、本人の古傷を抉った事で、殴られるかもしれない、と身構えた。
しかし、彼女の手は口元に行き、またしてもプッ、と吹き出した。
「はぁ……ローザさんは我儘ですね」
「そいつぁ、どの口が言ってんだ?」
ローザが冗談交じりに言った。
「そうでしたね。……では、参りましょうか」
「え?良いのか?」
歩いて数歩先にいるアミナに問いかけた。
すると彼女は振り返り、困ったような笑顔を見せた。
「ローザさんが、私の私情を引き受けて、それを手伝えと言ったんです。なら、最後までお供しますよ」
その瞬間、体から力が抜けた気がして「よかったぁぁぁ」と心からの安心の声を漏らした。
「俺ぁてっきり、もう縁を切られるんじゃねぇかって、内心バックンバックンよ」
「そんな事するわけ無いじゃないですか。さぁ、先程私が撃った岩が着弾した所へ向かいましょう」
アミナはそう言って、雇い主であろう人物がいた1キロ先にある崖を指差した。
ローザもその方向を見据え、2人は歩き出した。
―――
「ひえ、おっかねぇ……」
ローザ目の前の光景に思わず呟いた。
2人はアミナの岩の弾丸が着弾した地点に到着した。
そこは森林の端の方で、周囲には生茂っている草木があった為隠れるのにはうってつけだった。
――そう、うってつけ”だった”のだ。
アミナの岩の弾丸の着弾地点、そこには森の面影など無く、地面が丸く抉られ、その周囲の草木も綺麗にゴッソリと削ぎ落とされたいた。
「こ、ここまでの威力が出るとは……」
アミナは両手で顔を隠しながら言った。
今後、アミナちゃんを怒らせないようにしよう、ローザはそう心に深く誓った。
「お?見ろよアミナちゃん。犯人への大ヒント、血痕様だぜ」
ローザは地面に膝をついて指摘した。
そう言われたアミナもローザの方へ歩き、その血液を見る。
「やっぱり……。ここにいた人が、リッポルさんとロクトさんを撃った人で間違いないですね」
真剣な眼差しでアミナは言う。
ローザにはここに人間がいたというのは分かっていなかったが、その考えには同感だった。
「向こうに血が続いています。行ってみましょう」
アミナが指差した方向には森の奥に逃げるように血痕が列を生していた。
2人は頷き合い、その血痕を追うことにした。
―――
しばらく血痕を追って歩いていると、途中で血痕が途切れていた。
それは深い森の中でアミナの撃ち放った岩の弾丸の被害圏からも外れていた。
「やべぇな、完全に撒かれちまったか?それとも血に気がついて止血したのか?」
ローザが考えられる可能性を口にしていく。
しかしアミナはそう考えてはいなかった。
周囲をキョロキョロと見回し、めぼしい草むらの中へと入っていった。
ガサガサと草むらを漁り、葉っぱをかき分けて行った。
そして「ありました」とローザを呼んだ。
「これって」
「はい。草むらの中に血痕と足跡がありました。どうやらただの悪者という訳では無く、冷静に物事を判断出来る手練のようですね」
アミナの予想では、かなりの重傷を負っている。
そんな中、草むらに逃げ込むという判断を出来る人間はかなり肝が座っている人間か、動物くらいだからだ。
「今度はこれを辿って進んでみましょう」
「おう」
―――
またしばらく血痕を追った。
すると、今度は血痕や足跡そのものが完全に消えてしまっていた。
「おいおいマジかよ……完ッ全に途切れてるぞ」
ローザは悲観的な感想を述べた。
それもそのハズだった。
周辺には手がかりとなりそうなものが何一つ残されていないからだ。
「こりゃ詰んだか……」とローザは呟いた。
しかしまだ、アミナの目には光が残っていた。
アミナはおもむろに地面に膝をつき、足跡をよくよく観察した。
そして、何かに気がついたようにニヤリと喜びと嫌悪が混ざったような笑いをし、「やっぱり」と呟く。
「何がやっぱりなんだ?」
ローザにそう聞かれると、アミナは笑顔を消し去り、立ち上がった。
「いえ、なんでもありません。ここからは二手に別れて探してみましょう。何せ、広い森ですからね」
アミナは先程とは違う笑顔を作り、ローザに向けた。
ローザはその笑顔に、なんだか聞き返してはいけないような不気味な雰囲気を感じ、「お、おう分かった。じゃあ、後でな」と歯切れ悪く言い残し小走りでアミナが示した方向に走って行った。
森は深く、ローザはあっという間に見えなくなった。
それを確認したアミナは後ろを振り返った。
すると――
「逃がしてあげるなんて、優しいじゃねぇか」
頭上から声が聞こえてきた。
しかしアミナは動じない。
ゆっくりと上を向き、その人物の顔をしっかりと捉える。
「あぁいった足跡を戻るのは獣がよくやるものです。草むらの中に逃げて足跡と血痕を隠したのも、あの周辺にあった逃げていた時の癖と一致します」
アミナは静かに言った。
獣特有の逃げ方を知っている人間は限られるハズ。
それを立て続けに実行して逃げているのならば尚更だ。
「――しかも、わざと証拠を残しましたね。私が追えるように」
続けて言う。
今までの全ての痕跡が、”わざと”残されたものだと。
そして、得た情報の全てを統合し、確信する。
「貴女ですね。リッポルさんとロクトさんを雇い、挙句の果てには捨て駒のように扱ったのは」
貴女――
そう、アミナ達が『雇い主』と呼んでいた者の正体はなんと女性だった。
彼女は木の上から飛び降り、地面に着地した。
目の前の憎むべき女性は、黒髪にウルフヘアをしており、長身でスタイル抜群。
少しサイズが小さめの黒いTシャツか豊かな胸と、細身だが強靭な肉体の映えをよくしている。
灰色のダボッとしたズボンを履き、底がほとんど無い平らな黒い靴を履いていた。
そして極めつけはよく目立つ特殊な形のネックレス。
六角形の形をしたそれを、アミナはただのアクセサリーして認識する事は出来なかった。
「あぁ、あの猿達ってそんな名前があったのか。悪い、忘れてた」
目元がニヤつく。
切れ長でまつ毛の長い目が細められ、目の下のホクロが主張される。
「あの人達は猿ではありません。自身のお仕事を懸命にこなそうとしていただけです。そして猿は貴女です」
「へぇ、守秘義務破って敵に情報与えんのがプロってか」
2人の睨み合いが繰り広げられる。
目付きが悪い2人の睨み合いを目の前にして、立っていられる者はいないだろう。
それだけ2人の周りを取り巻くプレッシャーが大きく、そして強力だった。
「何故わざと追わせたんですか」
「別にわざとのつもりはねぇよ。痕跡を消さなかったのはホントだがな。――戦りたくなってきちまったのさ。私の遠距離からの狙撃を見破り、あまつさえ反撃してきやがった。見ろ、この右耳。お陰様で千切れちまったわ」
そう言ってポケットから千切れた耳を取り出し、傷口に着けたり外したりを繰り返した。
「貴女も戦闘狂タイプですか。……それで死んでいてくれたら楽だったのに」
「まぁそりゃそうだ。でもよ、ここで死んでも向こうに戻るだけだ。……”アレ”が始まってなきゃな」
「アレ……?」
何か含みのある言い方をした雇い主の言葉に、アミナは言葉を繰り返した。
「安心していいぜ。さっきの2人はフツーに向こうに戻った。ただ、雇われたって記憶は消したがな」
「どういう事ですか……?」
「あ?どうもこうもねぇよ。私は金が欲しくてガーベラの野郎に雇われただけだ。冒険者を使ってスターターの冒険者を足止めするってよ。でもあっちで色々進んだらしいから、もう仕留めて良いって言われたんだ。元々雇われた冒険者はこの空間で死ぬと記憶が消えるように魔法を仕込んである。だから今頃、なんでスターターにいるか分からねぇって状態だな」
その言葉を聞くと、アミナは一瞬安心し、心の中で胸を撫で下ろした。
彼等はちゃんと元の空間に戻れたのだと。
そして再び、目の前の敵に集中する。
「とまぁ、そんな感じで仕事をこなしていたらあーら不思議、レベチの女が1人いるじゃねぇか」
「それが私だと?私以外にも強い人はいるでしょう」
「いーや。お前は気づいてねぇだけだ。その引き締まった肉体に詰め込まれた戦闘センス。産まれてから数年で修行を始めねぇとそんな肉体にはならねぇ」
彼女に指摘されると、アミナの中の嫌な記憶が蘇る。
それは、メイドとしての辛かった日々。
だが、誰かが笑顔になってくれればそんなの忘れてしまっていた。
しかし時々思い出すのだ。
産まれてからたったの3年の幼子に徹底的な教育を叩き込む主の姿を。
失敗をすれば躾と称して何度も暴力を振るわれた日々を。
けれど、何故か忌むべき主が喜んでくれるのも嬉しかった。
こんな自身でも誰かを笑顔にできる。
そんな歪んだ思想が植え付けられていた。
私はおかしい人間なんだ、と何度も思ったが、結局その考えが変わる事は無かった。
今の身体能力は、その当時の歪んだ日々のお陰なのだと言われると、複雑だが、それが今の私に力を与えてくれているのは事実だ。
私は素直に前に向き直り、短剣を抜き構える。
そして、目の前の女性を睨む。
「メイドだって、大変なんですよ」
戦闘態勢に入ったのが分かると、雇い主も腰から両刃の特殊な形の剣を取り出した。
「へぇ、私んトコにも専属のメイドが1人いるから、何となく分かるぜ」
剣を構えながら言った。
そして今度は彼女から口を開いた。
「お前、名前は」
「……アミナです」
一瞬躊躇したが、アミナは答えた。
すると雇い主は「そうか……」と呟き、唇をしたで舐めた。
「私の名は『ラウ・シェンメイ』」
聞いた事の無い名前の並び方に違和感を覚えつつ、アミナはシェンメイを見つめる。
「さぁ、この戦い。楽しもうじゃねぇか」
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