第二章 16話『『現』ランクS+魔物、街を奪還する2』
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「じゃあ行こうかフィアレーヌ君!!『スターター奪還作戦』、開始だ!!」
カイドウのその掛け声と共に、運営側の人間が武器を持ってフィーとカイドウに飛びかかってきた。
しかし、フィーが一度街中に轟く咆哮を上げると、飛びかかって来る者全員が衝撃波によって吹き飛ばされ、街中のあらゆる設置物にぶつかって気絶した。
「え……呆気ないな……」
カイドウは目の前で起きた出来事に唖然とした。
あれだけ全員揃って殺すしかない、と言っていた連中が一度の咆哮で全員散ってしまった。
「フィアレーヌ君、君凄いね!」
カイドウはそう褒めるが当の本人は、こんな三下にスキルを使ってしまった事を恥じていた。
オレも衰えたにゃ。
前だったらスキルにゃんて使わにゃくても近づくだけで気絶してたのに。
これも、アミナと一緒にいた事による弊害かにゃ。
フィーはそのまま前進する。
道の端まで飛ばされた運営側の人間を横目に見ながら冒険者ギルドの建物に近づく。
するとギルドの木製の扉がギィと重々しい音をたてながら開いた。
「あーあ。やってくれちゃってぇ。こいつ等、結構手練の冒険者だったのによぉ」
ヘラヘラとした態度で男は言う。
その男はガタイが良く、言葉より肉体で語るタイプだとフィーは直感的に感じた。
「貴方は誰だ。主催者側の人間か」
カイドウが訊く。
しかしその質問の答えは聞くまでもない。
全員が眠らされている中、それを運び込んだギルドの建物から出てきたのならそういう事だ。
「俺の名はブロッセ。商業ギルド『ファルスタ』の―――」
そう言ってブロッセと名乗った男は顎に手を当てて唸った。
先程発した言葉の先の事に関して何か悩んでいる様子だった。
するとカイドウがなにかに気がついたような表情をした。
「ブロッセ?……ってまさか、『瞬速のブロッセ』か……!!」
「あん?俺の事知ってんのかぁ?」
「あぁ、勿論だ。瞬速のブロッセ……対峙した人間は何が起きたかも分からず、お前の姿を捉える事が出来ずに死んでしまう。……だが3年程前、大量殺人でこの大陸の監獄に収監されていたハズ……何故ここにいる……」
「そうそう、そんな名前で呼ばれてた時期があったなぁ……。でも、今の俺はファルスタの……ファルスタの……んーと……商人でもねぇし、搬入係でもねぇし、ましてや会長でもない……。なぁお前等、俺の役職ってなんだと思う?」
堂々とした態度でブロッセは訊いてきた。
間の抜けた問いかけをしてくる彼に対し、カイドウは思わず「知るか!」と返してしまった。
「あれか?用心棒的なヤツか……」
「おう、それだそれ。ヨージンボーだよヨージンボー。いやぁ、中々言葉が出てくなくてな。俺ももう歳だねぇ……ってまだ30半ばだっつーの!」
(あいつさっきからずっと1人で何やってるにゃ。
頭おかしいのかにゃ……ウチにも似たのがいるにゃが)
フィーはそんな事を考えながらカイドウの方を見る。
彼も真面目に見えて生粋のドMだ。
頭はよく動くが、理性と性癖が直結しているから性癖に負けた瞬間木偶の坊と化す。
「あーーまぁ、あれだ。なんにしろだ。……ファルスタの"最高幹部"ってのに間違いはねぇぜ」
腕を一瞬ダラっと垂らしたと思ったら、一瞬にしてフィーとカイドウの元へ迫り、銀色の光を放つナイフをフィーの目元に突きつけてきた。
(――!!)
「――!!」
本能的な動体視力により、フィーは辛うじてその一撃を躱す事が出来た。
「ありゃ、外したか。当たると思ったのにな」
「なんだあいつ!?速過ぎて見えなかった……!!」
攻撃を外したブロッセはダルそうに悔しがり、フィーとカイドウの方を見ていた。
(なんにゃ、今の攻撃。ただの高速移動なら、オレに見えない訳が無い。なのに一瞬で消えたのにゃ……どういう原理にゃ)
「あれ、また来ねぇのか?ほんじゃまぁ、もういっぺんいかせてもらうぜぇ」
またしても両腕をダラけさせたブロッセは残像を残し、姿を消した。
足音は聞こえる。
臭いもする。
なのにこの目で姿を捉える事が出来ない。
一体どういう方法で……
「どこだ……どこから来る……!」
フィーが前方と左右の方向を警戒し、カイドウが後方と左右を警戒する。
周囲を見回してどこから来るのかを予測する。
フィーは体勢を限界まで低くし、どの方向から攻撃されても逆方向に飛び退けるように待機した。
周囲360°を警戒していると、上方向に邪悪な臭いと気配を感じた。
「馬鹿が、上だよっ」
ブロッセは凶刃を突き立て、落下してきた。
カイドウがそれに気がついて見上げた瞬間、彼の姿は鮮明になっていた。
「フィアレーヌ君!上だ!」
(言われにゃくても……!)
フィーは前方に回避し、ブロッセの刃がカイドウの体に達する前に躱す事に成功した。
彼のナイフは地面に深く突き刺さり、その威力と殺意を明確に感じさせた。
「ありゃ、また避けられちまった。それにナイフも地面に刺さったし……なぁお前等、このナイフ地面から抜くの手伝っ――」
深く刺さったナイフを引き抜こうとしてナイフの柄を引っ張っていたブロッセの顔を巨大で鋭い爪が襲う。
切り裂かれた皮膚からは肉が飛び出し、血が大量に吹き出した。
そして道の端まで弾き飛ばされ、建造物に背を打った。
「……これをやり過ぎだと思う僕はきっとあまちゃんなんだろうけど……街な人を助けるのが優先だから、ごめんね」
フィーは、さっさと片付けるにゃ、と心の中で呟き、ギルドの方へ再び歩みを進める。
道の端で倒れているブロッセを横目に警戒しながら歩く。
すると血溜まりの中から、突然ブロッセが体をダラダラさせながら立ち上がった。
(―――ッ)
「まだ立つのか……!」
顔から血の滝を振らせているブロッセは、皮膚が裂けているハズの顔面を人撫でし、垂れた前髪を血で後方に流した。
「今のはそこそこ痛かったぜ」
首をゴキゴキ鳴らしてブロッセはフィーとカイドウを正面に見据えた。
フィーはすかさずスキル『威嚇』を発動し、戦意を削ごうとする。
口から放たれた怒号に似た咆哮は背中に乗っているカイドウですらも吹き飛ばされそうな程の衝撃を放った。
しかし、ブロッセには効いている様子は無く、小指を耳の穴に突っ込んでほじくり回し、小指に付着したカスをフッと息を吐いて飛ばした。
「それ、『威圧』に似てるけどあんたの方が規模も威力も大きいな。体も大きく出来るみたいだし、結構強めの魔物なんだな。ま、今更気づいても大して関係ねぇか」
再び地面に刺さっているナイフを引っ張り、片方、また片方と引き抜いた。
地面から顔を出した刃は血を欲するように銀色に光を反射する。
「なんで効いてないんだ……」
「あ?あぁー。んーなんでなんだろうな。分かんねぇや……なんで効いてねぇんだ?」
またしても間の抜けた回答をする。
「いい加減な事言いやがって……」と苦虫を噛み潰したような表情をしながらカイドウは、フィーの攻撃が効いていない理由を考察した。
あいつのスキルのせいで効かないのか……?
今まで高速移動がスキルによるものかと思っていたけど、まさか攻撃を無効化するのがあいつのスキルなのか?
いや、それだと痛みを感じている彼の発言に矛盾が生じる。
一体何がスキルで、何が実力なんだ……!
「色々考えてるみてぇだけど、多分意味無いぜ。俺、痛みに鈍感なんだ」
腕をダラけさせるモーション、またあの攻撃が来る。
フィーはその動きを見た瞬間、後方に向かって走り出した。
予想外の行動を見せたフィーに向かってカイドウは、何とかフィーの体にしがみつきながら疑問をぶつけた。
「どうしたんだいフィアレーヌ君?逃げてどうにかなるのかい?」
(勝手な事言うにゃ人間が。オレがあんなのから逃げる訳なーにゃ)
後方に走り去っていくフィーとカイドウの様子を見ていたブロッセは「なんだ逃げんのか」とガッカリしたように俯いた。
しかし次の瞬間には頭を振り上げて笑顔になっていた。
「分かったぜ!追っかけっこだな!負けねぇぞ!」
ギルドの前に残像を残し、再びブロッセは消え去った。
その頃、街中の狭い通路をフィーは凄まじい速度で駆け抜けていた。
(ここじゃにゃい。もっと違う場所に)
フィーは視界に映る情報を全て一瞬で処理し、迎え撃つに相応しい場所を探した。
「ど、どこに行くんだい?」
フィーの背中の毛を掴むカイドウの手の力が弱まってきたのを感じた。
これだから非力な人間は面倒にゃ、とフィーは思いつつも、そろそろ目処を立てなければならないと考えてた。
すると、彼の目の端に塀の高い路地が映った。
もうあそこでいいにゃ、とカイドウの体力的な事も考え、そこで作戦を決行する事にした。
そこは三方向が高い塀に囲まれ、頭上には屋根のようなものがあった。
「行き止まり……もう逃げられないね」
(ハナっから逃げる気にゃんてにゃーぞ)
フィーは行き止まりを背にし、唯一の通路である正面を向いた。
そしてそこに爪を何度か振るった。
「それはなんだい?」
カイドウは訊くが、フィーの声が理解出来ない為何を言っているか分からなかった。
大体数分待っただろうか。
一向にブロッセは現れない。
追うのを諦めたのか、撒いたのか、それは分からなかったが、どちらにせよ逃げ切った事に変わりは無い。
「こ、来ないね。僕等を見失ったのかな……」
(いや、足音は聞こえる。どんどんこちらに近づいてきている音だ)
人間であるカイドウの耳が聞き逃す音でも、フィーの耳ならば聞き逃すことは無い。
コツコツと石畳を踏み締める音が微かに聞こえる。
その音は段々大きくなり、遂には曲がり角の先に迫ったのをフィーの耳は感じ取った。
カイドウが固唾を飲む。
フィーが、さぁ来いにゃ、と口の周りをペロリと舐める。
そして、石畳がピキッと音を立てた。
(今にゃ!!)
ヒビ割れた石畳を目安にフィーは腕を巨大化させて振り上げた。
(『獣掌印』!!)
筋肉質で巨大な腕が振り下ろされ、普段は柔らかくて気持ちの良いハズの肉球が極限まで硬化した。
「ぐぁあ!!」
「……!?こいつ、どこから現れた!?」
そしてほんの少ししかヒビが入っていなかった石のタイルが完全に粉砕され、フィーの手の下からはブロッセが出てきた。
質量で押し潰された彼は何故か点滅していた。
「体が……点滅してる……?しかも……透明に」
その時、カイドウは全てを察した。
ブロッセのスキル、それは――
「『透明化』か!!すばやい速度で見えなくなっていた訳では無く、本当に姿を消して慎重に近づき、ナイフで一刺し……。攻撃をされる側の僕等からすれば目で追えない速度で移動しているように見える。瞬速のカラクリはこういう事だったのか。……じゃあフィアレーヌ君はそれに気がついて、わざわざこんな狭い路地に?」
その通りだった。
フィーがブロッセの能力に気がついたのは、足音の数だった。
フィーの経験上の話だが、高速で動き回っている相手は基本的に、一歩一歩が細かくなり、獲物に攻撃する瞬間だけ大股になる。
だがブロッセの足音や歩幅は一定で、どのタイミングでも変わっていなかった。
それに、高速移動ではないと確信したのは、フィーが路地に向かっているのを追ってきている時だった。
高速移動なら追いつけない速度では無かった。
しかし、ブロッセが自身の元に来るのがすぐでは無かった為、確信へと変わった。
地面に亀裂を入れ、慎重に歩いているブロッセがそこを踏んだ時に音が鳴り、到着したタイミングをはかったのだ。
「くそっ……今までバレた事ねぇってぇ……のによ……」
そう呟き、ブロッセは気絶した。
痛みに鈍いとはいえ、流石にフィーの巨大な掌底には耐えられなかったようだ。
「邪魔者は消えたね……他の主催者側の人間もフィアレーヌ君の威嚇があれば問題ないし、実質的にあと残っているのはガーベラって人だけだ」
カイドウはブロッセを縄で縛りながら言った。
そして彼に背に乗るように促すと、カイドウは落ち着いた口調で言った。
「いいのかい?トドメを刺さなくて。彼は君の主人を酷い目に合わせた男達だよ」
決してカイドウはただ殺人を促している訳では無い。
彼は、フィーが報復をしたいんじゃないかという気持ちを汲み、そう言った。
しかし、そんな言葉は蛇足だ、と言わんばかりに無視し、また背中に乗るように首を動かした。
「……そうだよね。アミナさんはそんな事望んじゃいないよね」
何か吹っ切れた様子でフィーの背に乗り、1人と1匹は再び冒険者ギルドの建物を目指して風を切った。
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