第二章 7話『『元』究極メイド、特殊な矢を作る 終』
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ちょっと長いです
「俺がまずヤツの気を引く!その隙に矢を撃ち込め!」
腰に携えたロングソードを引き抜き、ロイがガレキオーラへと向かって走る。
それに続いて短剣と、盗賊職では珍しい小型の盾を背中から取り出し、サーラも同時に迫る。
レドラがガレキオーラへ迫る2人に支援魔法を使う。
「『膂力強化』、『俊敏性強化』『防壁強化』!!」
レドラの支援魔法によってロイとサーラとエリックの、攻撃力、速力、防御力が強化される。
それによって底上げされた身体能力を活かし、ロイとサーラは巨大なガレキオーラの体を斬り裂こうと剣を振るう。
しかし、振るわれる剣を微動だにせずガレキオーラは攻撃を受ける。
余裕そうなその態度の原因は、すぐに分かった。
「くっ……!!やっぱり駄目か……!!」
「硬過ぎる……!!」
2人の増強された力で放った斬撃でも、掠り傷一つ刻まれていなかった。
のっそりと動くガレキオーラの姿は、ただ体が大きくて重いのか、それとも攻撃をされても効かないという余裕からなのか、アミナには判断できなかった。
「まだだ!!」
そう叫んでエリックは矢を番える。
それはアミナの作った矢では無く、彼自身の魔力から形成された真紅の魔力の矢だった。
「『爆射貫通』」
爆炎を纏った弓矢が限界まで引き絞られて放たれる。
凄まじい突風に巻き上げられた爆炎が、解き放たれた矢の軌道上をなぞって吹き抜ける。
その炎の光が周囲を明るく照らし、ガレキオーラの頭部と思しき部位に直撃し、爆発を引き起こした。
「すごい……!!」
その爆発は凄まじい突風と爆音を巻き起こし、立っているのがやっとな程だった。
威力で言えばエルミナの使っていた、七大合成魔剣『虹呪・禍津葬送』の方が遥かに上だが、規模だけで言えばこちらの方が遥かに上だ。
詠唱も必要ないと考えると、こちらの方がいくらか上手かもしれない。
これがベテランの冒険者の力なのか……とアミナは心底思った。
「レドラ、頼んだ!!」
弓矢を撃ち終わったエリックはすかさず後ろで待機しているレドラの方を向いた。
アミナもエリックが指示した方向を咄嗟に見る。
すると、先程まで支援魔法を撃っていたハズの彼女が、既に別の魔法へと行動を移していた。
「聖なる純潔な精霊よ、我が導きに介し、全てを浄化する光となれ『ホーリーゲイザー』!!」
魔法の詠唱を終え、魔法を解き放つ。
するとガレキオーラの頭上に複数の魔法陣が展開された。
『何だこれは……!!』
するとそれは、一筋の巨大な光の柱となって落下する。
打ち付けられるような衝撃と共に、凄まじい閃光が迸る。
『ぐあぁぁぁぁ!!!!!』
ガレキオーラは苦しそうな声を上げる。
無理もないだろう、僧侶などの聖職者は基本的には支援を行うが、魔力の最大量は魔法使い職を大きく上回っている。
使える攻撃魔法も限られてはいるが、全く攻撃ができないという訳では無いのだ。
むしろ、このパーティーでの最高火力は意外にもアーチャー職のエリックと、僧侶のレドナかもしれない。
「かなり効いてますね……」
アミナが自身の意見を述べる。
しかし近くにいたエリックは「いや」と低く唸る。
苦しんでいる様子のガレキオーラの口元がニヤリと口角を上げ、アミナは咄嗟に姿勢を低くした。
結論から言うと、その判断は正解だった。
ガレキオーラが口角を上げた次の瞬間、背中がキラリと眩い光を上げたと思ったら、レドナの魔法を背中で反射し、アミナ達がいる方へ向けて放ってきた。
『なーんちゃって。ガッハッハッ!!』
アミナは舞い上がった砂埃の中から立ち上がった。
他の4人も次々に立ち上がり、フィーは体を小さくした事で事なきを得た。
「今のがヤツのスキルの一つ『反鏡』だ。ヤツの装甲を破壊しきれない魔法はあれによって跳ね返されちまう。だから貫通系の魔法か圧倒的な物理攻撃をしなきゃ破れねぇんだ」
レドラが魔法を放つので一旦引いてきたロイがアミナに言う。
彼の言葉に、アミナは少し気になる事があり、聞き返した。
「スキルの一つって事は……もしかしてまだ他にもスキルが……!?」
そんなハズは無かった。
ガレキオーラの危険度ランクはAだ。
そして複数のスキルを持つのは危険度ランクS以上の魔物のみだからだ。
しかし、アミナのその考えは次のロイの説明によって打ち砕かれる。
「言っただろ、ヤツは変異種だ。だから通常のガレキオーラと違って危険度ランクはAじゃない。サイズも力も強度も通常の3倍以上。ヤツは『硬羅の甲冑者』という異名を持つ、危険度ランクS+の強力な魔物だ」
異名――それは危険度ランクS+以上の魔物に付けられる正式な名前とは異なる呼び名。
フィーの名前の由来となった『恐怖しない者』、先日のダンジョンの最奥に待ち構えていた石像の『異形の彫刻家』などがアミナの知っている魔物達だ。
「やはりダメか……矢を撃つ準備をする。3人とも、時間稼ぎを頼む」
それぞれが「了解」と言い、再びガレキオーラへと攻撃を仕掛ける。
一向に攻撃をしてこないガレキオーラの全身は隙だらけだ。
そこへロイとサーラの攻撃が打ち込まれる。
だがダメージは皆無。
そんな徒労にも近いのが現状だった。
「アミナさんは悪いが俺が身を隠すまでの護衛を頼む」
エリックは激しく動く4人の動きに合わせられず、ただガレキオーラを観察する事しか出来なかったアミナに声をかけた。
するとアミナは「身を隠す時間も勿体ないですね」と言って地面に触れてスキルを発動させた。
「『凩落下』!!」
サーラの盗賊職特有の技が炸裂する。
巻き起こした旋風が周囲の物体を持ち上げて一気に落下する。
しかしそれはガレキオーラの硬い甲羅によって防がれる。
「『ソードバッシュ』!!」
先程のサーラの技によって同時に打ち上げられたロイが全体重と落下の威力を剣に込め、回転しながら甲羅を殴打した。
凄まじい衝撃音がするが、甲羅にはヒビ一つ入らず、逆にロイの腕が痺れる。
「くそっ!もう一度だレドラ!」
「煌々たる導きの光よ、命の伊吹に応えたまえ!『ヴェルグラシオン』!」
詠唱を終え魔法を放つと、周囲の植物がガレキオーラの足元から急成長し、巨大な蔓となって襲いかかる。
あるものは足を絡め取り動きを鈍らせ、あるものはその巨大な蔓でガレキオーラの巨体を殴り始めた。
植物の急成長による物理攻撃の為、『反鏡』によって跳ね返ってこない。
しかしそれと同時に、ガレキオーラにダメージが入っている様子も見受けられない。
すると、ガレキオーラが『はぁ』と息を吐き、足に絡みついている蔓を意図も容易く振りほどいた。
『小賢しいわぁぁ!!!』
とてつもない咆哮が辺り一帯の物体全てを吹き飛ばす。
『フン、家畜如きが生きがりおってからに』
荒い鼻息をしながら言葉を吐き捨てる。
その言葉を言った瞬間に、とある声がガレキオーラの耳へ入ってきた。
「なぁ、ガレキオーラよ。何故お前は人を喰らう」
その声は正真正銘エリックのものだった。
ロイとサーラとレドラは周囲を見回すが、彼の姿は見受けられなかった。
『……この声、一体どこから……』
「いいから答えろ。何故、お前は人間を喰らう」
『ハン、人間とは奇っ怪な事を聞いてくれるな。何故食らうのかだと?それが生きる為の手段だからに決まっているだろうが』
意思疎通が出来るとここまで胸糞が悪いものとは思わなかった。
人間を喰らう事、魔物にとってそれは必須な事では無い。
現にフィーちゃんは今は魔物の肉やパン、何でも食べる。
それなのに悪びれた様子もなくそれを言う。
これなら喋れない相手と戦った方が幾分かマシだった。
「別にお前は、人間を食わなくても他の魔物を食えば生きていけるだろう」
アミナと同じ考えをエリックが述べる。
しかしその言葉を鼻で笑い、ガレキオーラは言葉を並べる。
『なんだ、その程度の話か。理由は簡単だ。腹が減った時にたまたま近くにいた。ただそれだけだ』
その言葉に一瞬、エリックは目を見開き、額に血管を浮かべ歯ぎしりをして飛び出そうな怒りを必死に抑え込んだ。
「――!!死にゆく人の悲鳴を……お前は何も思わないのか!!」
『愚問だな!!貴様等は口に運ぶ食料共の最後の悲鳴なぞ気にした事があるか?貴様等人間は魔物の食料だ!飼育などせずとも勝手に増える虫ケラだ!そんな貴様等の言葉なんぞ、いちいち覚えておらぬわ!!』
ガレキオーラは大口を開け『そこか!!』と口から魔力の塊を撃ち出した。
魔力の塊が放たれた方角には土で作られたドームがあった。
そこは、アミナがエリックに隠れるまでの護衛を頼まれた場所だった。
あの戦闘中でも、ガレキオーラはその辺をしっかりと見ていた。
「エリック!!」
サーラの叫び声が響く。
次第に破壊された土のドームの煙が晴れてくる。
ガレキオーラはそこから無惨に粉々になった人間の死体が出てくる事を期待した。
――しかし、煙が晴れても死体は一向に現れなかった。
ガレキオーラが心の中で、何!?、と困惑の声を上げると、ふと、自身の体の下が光り輝いているのが見えた。
それは、絶対貫通の矢を番えていたエリックの姿だった。
「エリックお前!無事だったのか!」
ロイは叫んで目の前の出来事が事実か確認する。
するとエリックは「あぁ」と低く返事をした。
「でもなんであんな場所に……」
レドラがガレキオーラの下にいるエリックを見ながら呟く。
するとその隣にアミナが歩いてきた。
「私があそこまで穴を作りました。先程の土のドームは囮です。本当はあのドームの中に人が一人通れる分だけの通路を作りました。距離感が掴めなくて荒削りでしたけど、上手くいって良かったです」
アミナにそう言われてエリックの足元を凝視する。
するとそこには確かに穴が空いていた。
「本当に便利な力だ……!!アミナさん!!」
そしてエリックは心の中で呟く。
絶対貫通の矢……ブレイクスルー。
コイツは自身の何よりも強い思いを込めて発射する事で、万物をも貫通する威力を発揮する、とアミナさんは言った。
だから――
「だから、俺の全身全霊の怒りを魔力として込める……!!」
赤く、そしてドス黒い魔力がエリックの番えている矢に込められていく。
黒い稲妻が迸り、矢尻に全てが収束していく。
「喰らえ!!我が家族と同郷の者の恨み!!――『怒弓の一撃』!!」
エリックの右腕が限界まで矢を引き絞り、そして解き放たれる。
赤と黒の稲妻が一点に集中するかの如き速度でガレキオーラの腹部を抉ろうと突き刺さる。
『ぬおぉぉ!!なんだこれは!!……まさか!!シュバルドンの牙から作ったとでも言うのか……!!』
腹の中側では撃たれた矢の対処が出来ない。
エリックの考えた通り、ガレキオーラは撃たれた矢をただ腹で受け止める事しか出来ず、エリック達も矢が貫通するのを待つ事しか出来なかった。
最終的に矢に込められた魔力は収束し、小規模だが高威力の爆発を引き起こした。
そして、ガレキオーラの呻き声は突然止んだ。
何故止んだのか。
それは今の一撃でガレキオーラを倒せたから――ではなかった。
「なん……だと……」
エリックが弓を落とし絶句する。
彼の目の前には今撃ち放ったばかりの絶対貫通の矢がカランと音を立てて転がってきた。
小規模の爆発の後、煙が晴れて矢を撃ち込んだ部位を黙って見あげた。
するとそこにはようやく少しだけ傷が付けられ、ほんの少しだけ血が垂れた程度だった。
全身全霊で放った矢の威力が、その程度だったのだ。
『ハッハッハ!!馬鹿め人間が!!俺は高い防御力を誇るガレキオーラの変異種だぞ!!そんじょそこらの雑兵と同一視するでない!!硬化も密度も攻撃力も!!全てが段違いなのだよ!!』
ガレキオーラは高笑いする。
目の前の光景を見てロイもレドラも「そんな……」、「嘘でしょ……」と言葉を見失う。
『さらばだ、虫にしては足掻いたな』
そう呟いてガレキオーラは足を真横に広げ、全体重を落下させエリックを押し潰そうとした。
エリックは放心状態となり、ただ血走った目を降ってくる壁に向けるしか無かった。
全員がエリックの名を呼び彼の意識を取り戻そうとしたが、時すでに遅く、今立ち上がり逃げても間に合わない。
ロイは喉が裂け、レドラは泣き叫び、アミナは何とか間に合わせようと走った。
「エリック!!」
その叫び声を最後に、大量の土煙が巻き上げられ、ガレキオーラは完全に地面に着地した。
『ハッハッハ!!潰れおったわ虫ケラが!!』
全員がエリックの死から目を背けようと目をつぶり俯いていると、アミナはフィーに背中を引っ張られた。
アミナは一度目は無視してしまったが、何度も引っ張る為仕方なくフィーが示す方向を見る。
するとその光景にアミナは目を見張った。
「ハァ……ハァ……」
「……サーラ………」
横たわるエリックに覆い被さるようにして、サーラは両手をついていた。
そう、サーラはガレキオーラが落下してくる直前、高速窃盗という一瞬だけ超高速で動ける窃盗技でエリックを助け出したのだった。
「何してるのよ……!死んじゃう所だったのよ!」
憤ったようにサーラは言う。
しかしそれに反して無気力的にエリックは返す。
「仕方無いだろ……俺の……アミナさんの作ってくれた矢だって効かなかったんだ……俺の中の一番強い思いを乗せて撃ち出したにも関わらずだ……」
エリックは朧気な目でサーラの顔を見つめている。
その目にもはや生気は宿っておらず、死を受けいれた人間の目をしていた。
「結局、俺には無理だったんだ。力も無いくせに高望みして、全部一人でやろうとして、相性の有無を道具で解決しようとした。……でも、そのどれも上手くいかなかった」
「それが……」
サーラの目から大粒の涙が零れる。
その涙の粒はエリックの頬を伝って地面に落ちた。
「それが分かってるのにどうして頼ってくれないのよ……!!」
サーラにとってそれは、心からの言葉だった。
矢の納品一日前にアミナに言われた事をずっと頭の中で考え続けていた。
思い当たる節しか無く、それがグルグルと頭の中を回っている、そんな状態が数日続き、今答えが出た。
「なんであんたはいつも、私達の思いは背負うくせに私達にあんたの思いは預けてくれないの?荷物が重いなら半分持つから……!辛いなら肩を貸すから……!!一緒にって……そう―――」
エリックの目はまだ朧気だが、しっかりとサーラの顔は見据えている。
「あんたは――独りじゃない……!ロイがいる!レドラがいる!私がいる!だから、独りで全部やろうとしないでよ!友達でしょ……!!」
その言葉に、完全にエリックの目に光が戻った。
「サーラ……」
『あ?まだ生きていたのか。虫は虫でも蛆虫だな』
その雰囲気にガレキオーラが水を差す。
しかし今度も攻撃しようとせず、ただ哀れみの目を向けている。
泣きながら叫んだサーラを抱き締め、その後エリックは立ち上がる。
「……すまなかったな、サーラ。余韻に浸るのは後にして反撃開始、と言いたい所だが……アミナさんの作ってくれた矢もあいつの下敷きになってしまったし、俺の右腕も……」
闘志を再び目に宿したエリックはバツが悪そうに言う。
彼の右腕からは血が垂れ、動きそうになかった。
するとサーラは懐から1本の矢を取り出した。
それは先程撃ってほんの少しだけしかダメージが与えられなかった絶対貫通の矢だった。
「サーラ、これは……!」
「私は盗賊よ?高速窃盗は窃盗技、あんたを助けるのは、この矢を取った時の速度に乗じたの」
サーラは涙を拭って言う。
その光景を遠くから見ていたアミナはエリックとアイコンタクトをして作戦を組み直す。
「ロイさん、レドラさん!今から私の指示に従ってください!」
アミナが突然叫び、エリックが無事だった余韻に浸っていたロイとレドラはうろたえた様子で頷いた。
「レドラさんは私に先程の支援魔法をお願いします!あと、あればスキルを強化できるものを!」
アミナはそう言ってフィーに乗ってガレキオーラへ近づいた。
レドラはアミナの指示に「わ、わかったわ!」と言って先ほど使った支援魔法に加え、『特殊技能増加』を発動した。
「今からスキルを使ってあいつを行動不能にします!その時に瓦礫が飛び散ると思うので、それからお2人を守って下さい!」
「なんだか分からんが……了解した!!」
ロイはエリックとサーラの元へ走り出した。
アミナ自身はそのまま前進し、ガレキオーラへと近づく。
『小娘が、調子に乗るな!また踏み潰してくれるわ!』
ガレキオーラは再び体を動かしてエリックとサーラを狙う。
しかしそこにアミナが到着し、地面に触れてスキルを発動させる。
「ここまで巨大なのは初めてですけど……なんとか持ってくださいよ……!!」
アミナが地面に触れてスキルを発動させると、ガレキオーラの足元から巨大な土の腕が生成された。
その大きさはガレキオーラを鷲掴みに出来るほど巨大だった。
形成した瞬間は何でも無かったが、巨大な土の腕でガレキオーラの体を掴もうと指を動かした瞬間、鼻血が垂れる。
なるほど……!
スキルを無理に行使するとこんな代償が……!!
レドラさんの支援魔法がなかったらどうなっていた事か……!!
アミナはそんな事を考えつつ、鼻血を気にしないままガレキオーラを持ち上げ、上空に放り投げた。
その際に飛び散った岩や土をロイは剣で跳ね返した。
『何をするかと思えば無駄な事を!!このまま押しつぶしてくれるわ!!』
投げられた事を逆手に取ったような発言をし、頭や手足を畳んで甲羅だけの状態になった。
より一層重心が中央へと行き、落下の威力が更に強まった。
すると頭を引っ込めた瞬間にとある一筋の光を捉えた。
それは矢を番えているエリックの姿だった。
『ハッ!その腕で何が出来る!!貴様1人ではどうにもならんわ!!』
そう吐き捨てて再び頭を甲羅の中へ引っ込める。
そして体中に魔力を纏って落下してくる。
巨大な崖が落下してくるような光景を、エリックとサーラは正面から見据える。
「1人で駄目なら……」
「2人でやるまでだ!!」
サーラが弓を持って固定し、エリックの片腕では足りない力をサーラのもう片方の手で補う。
その体勢で2人は矢を構えていた。
「俺の……何よりも強い思い。それは怒りなんかじゃなかった!!皆と……仲間たちと明日を生きる!!それが俺の一番強く大きい思いだ!!」
エリックはそう叫んで引き絞った矢から手を離す。
そのタイミングに合わせて、サーラも手を離した。
「『相弓の一撃』!!」
青と白い閃光を纏った矢が発射される。
その威力は先程エリックが放った矢とは比べ物にならない威力と衝撃を持ち合わせていた。
解き放たれた矢は落下してくるガレキオーラの体と衝突する。
一点に集中した力のぶつかり合いにより、大気は震え、周辺の樹木が次々となぎ倒されていった。
『――!!何だ!?この力は!!』
ぶつかり合う衝撃に甲羅の中でガレキオーラは言葉を失う。
それは、自身の身体の下がヒビ割れ、眩い光が漏れ出してきていたからだ。
『何故だ!!何故だ!!人間如きに!!食料如きにこの俺がぁぁぁ―――!!』
そう叫んだ瞬間、腹部、引っ込めていた頭部、そして甲羅、全てを一筋の青白い矢が貫いた。
胴体を突き抜けていった矢は留まるところを知らず、そのままドームの天井を突き破りどこかへ飛んでいってしまった。
「やった……のか……」
軽くなったように落下してきたガレキオーラの亡骸を見て、ロイが呟く。
しばらくの間静寂が続き、ガレキオーラの血液が雨のように振ってくる。
「勝った……勝った勝った勝ったぁ!!!」
レドナは一度発した言葉が止まらず、何度も連呼し、最終的にはその場で飛び跳ねた。
「勝ったよエリック、サーラぁぁ!!!」
そして走って2人に抱きついた。
彼女の目には大粒の涙が浮かんでいた。
怪我をしているエリックに悪いと思って、ロイがレドラを引き剥がした。
彼女は依然泣いている
「実感が無いな……サーラ、ちょっとほっぺたを――って!!いててて!!!」
エリックにそう言われる前に怪我をした腕を触られたエリックは酷い悲鳴を上げた。
「夢な訳無いでしょ」
呆れたように彼女は言った。
そしてその後、目に涙を浮かべ、「夢じゃないよ、エリック」と言って、2人は抱き合った。
アミナは、遠くからフィーと共にその光景を見て、ある事を思っていた。
人の思い出は、私のスキルを持ってしても、作り変える事も、置き換えて補う事も出来ない。
唯一無二、人の心――すなわち『魂』に刻まれた瞬間が、時を超えて永遠に残り続ける。
この世界に、不変の物質など存在しないし、劣化せずに済む道具もない。
どれほど精巧に作られたものであっても、いずれ朽ち、手入れを怠ればその価値は失われる。
だけど、人の魂だけは違う。
どれほどの時を経ても、何十年、何百年の歳月を重ねても、決して揺らぐことはない。
それがこの討伐を成し遂げた。
魂に刻まれた朽ちない思いがこの結果をもたらした。
復讐と言えば聞こえは悪いが、今はそれでもいいだろう。
彼等の復讐にとらわれる日常は今日を持って終わるのだから。
アミナはフィーの体に寄り添うようにして、心から笑い合っている4人の姿を嬉しそうに見つめていた。
―――
数日後――エリックのパーティーはスターターの城門前にいた。
こういった見送りはエルミナさんの時を思い出す、とアミナは思っていた。
「ありがとう、アミナさん。討伐を手伝ってもらった上に腕まで治してもらって」
エリックが治った腕に触れて言う。
「いえ、出来る事は何でもお手伝いすると言いましたので」
「律儀なお人だ……」
あの後、私はエリックさん達と一緒に討伐した証拠である首を切り取ってギルドに帰ってきた。
運ぶのは勿論フィーちゃんがやってくれた。
絶対貫通の矢の代金はガレキオーラの討伐報酬から差し引いて金貨30枚を貰った。
元々スターターのギルド側が難易度設定を間違えていた事もあり、そもそもの報酬金額も少なかったのだが、彼等は「討伐できた事に意味がある」と言って、最低限の移動費や食事代に使う金貨だけを受け取って、残りを私にくれた。
貰えない、と言っても無理矢理受け取らされた。
やっぱり強く言われると断れないな。
「それじゃあ、俺達は行くよ」
「これからどこへ行くんですか?」
アミナは問いかける。
すると今度はロイが答えた。
「俺達の復讐の旅は終わったけど、俺達と似たような人が出ないようにする為に小さな村を点々とする事にしたんだ。まずはこっから一番近い村の手伝いでもするさ」
「そうそう!見返りを求めない冒険者一行……なんだか勇者みたいじゃない!」
「勇者って言うには……ウチの剣使う人は弱すぎるかな……?」
「おい!!どういう事だよ!!」
そんな冗談交じりの雑談をした後、アミナとエリックは握手をした。
この感覚もエルミナを見送った時にそっくりだ。
「それじゃあアミナさん、またどこかで」
「はい、いつでもお店に遊びに来てくださいね」
2人は最後にそう言葉を交わして新たな道へ旅立つ4人の背を見送った。
「さて……帰りましょうか」
アミナは眠そうにあくびをしていたフィーに声をかけ、あまりにも眠そうだったので抱えて家まで歩いた。
家に着くと、アミナは木から作った分厚いノートを取り出し、とある事を書き込んだ。
――今回の依頼――
・依頼者:エリック
依頼内容:硬い魔物の体を貫通出来る特殊な矢
必要素材:シュバルドンの牙1つ
結果:討伐報酬から差し引いて金貨30枚
――依頼達成――
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