第二章 6話『『元』究極メイド、特殊な矢を作る4』
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本当は今回で終わらせたかったんですけど、文字数的に次回にします!
翌日の早朝、アミナ雑貨店の扉が開いた。
「ようこそいらっしゃいました。私も準備は整っております」
アミナは開けられた扉の先にいる冒険者達に言った。
そこには困惑した表情のエリック、軽い挨拶をするロイ、笑顔で手を降るレドラ、そして俯いているサーラがいた。
するとエリックは驚いた様子でロイに問いかけた。
「ロイ、どういう事だ。矢を受け取るだけだと言っていただろ。まさか……店主さんを巻き込んだのか?」
驚きの中にある確かな強い語気。
ロイはうろたえながらも冷静にそれを諭す。
「落ち着けよエリック。店主さんはあの英雄エルミナにも勝てるような人だぞ。この街にこの人以上に心強い人なんてそういやしないぜ」
「店主さんが強い弱いの話はしていない。そしてそれはさしたる問題ではない。問題なのは、俺達のケジメに無関係の他者を巻き込んだ事だ」
「ちょ、落ち着きなよ……」
静かに憤るエリックをレドラが宥めるように抑える。
アミナはそんな空気を変える為に口を開く。
「無関係と言われてしまうと少し寂しいですが……ご安心下さい。私はロイさんに無理矢理ついて来いと言われた訳ではありません。私自身が、エリックさんに直接矢の構造をお伝えしたくて無理を言って同行させてもらう事にしたんです。エリックさんに事前にお知らせできず、申し訳ありませんでした。何分、直前まで矢の最終調整を行っていたものですから……」
アミナはそう言って鞄の中から布に包まれた依頼の品を取り出した。
エリックに詰め寄られていたロイだったが、アミナの介入によって事なきを得、「な?」と言った。
こんな態度を取っているが、エリックの事が心配で心配で堪らないと考えると、ギャップもいいところだ。
するとエリックはため息を付いた。
大方この小芝居の魂胆を見抜いたのだろう。
「はぁ……とっくに話は終わっていたという訳か。店主さんにサクラをやらせるとはな、呆れたヤツだ」
「へへ、いつもの事だろ?」
「茶化すなロイ。お前はもっと自重しろ。……店主さん、すまないがよろしくお願いします」
ロイを叱った後、エリックはアミナの方を向いてお辞儀した。
それに対してアミナもお辞儀をして返した。
そして、4人とアミナ、フィーを含めた計6名は、討伐対象のガレキオーラが住んでいる森林まで向かった。
―――
「店主さん……いや、アミナさん。ロイが一芝居打ったという事は、もう既に俺達の事情を知っていると考えてもいいのか」
馬車の中でエリックはアミナに問いかける。
今、エリックのパーティーとアミナとフィーは街で馬車を借りて討伐対象がいるとされている森へと向かっていた。
運転はロイが、後方の見張りはサーラがやっており、馬車にある椅子に座っているのはエリックとレドラとアミナとフィーだ。
「はい、なんとなくの事は聞いています」
「そうか……」
そこで会話は途切れてしまった。
サーラにあんな事を言ってしまった手前、とても気まずい。
何か話題を、話題を……とアミナが頭を悩ませていると、エリックが再び口を開いた。
「一つ聞いてもいいだろうか」
「いくらでも」
「何故アミナさんは、あの店を始めようと思ったんだ?」
突拍子のない質問……そう思ったが、それが会話というものだ。
それにエリックさんにとって、キッカケというのはとても意味を持つものなのだろう。
「これはエリックさん以外の皆様には話したのですけど、私も実は故郷を出てきたんです。追い出されたって言い方が一番近いんですけどね。それで、斜に構えていた私が気に入らなかった同僚の子がいまして、その子が私の雇い主に上手く取り入り、雇い主は私をクビにして、その子は別の土地へ送る許可を与えました。そして私はその子の転送魔法でこの大陸まで飛ばされました」
「それは理不尽だな。ちなみにどこの大陸から来たんだ?」
「第四大陸です」
「そうか、あそこは平和だと聞く、さぞかし、来た当時は大変だっただろう」
「まぁ、それなりには……。でも私にはスキルがありましたから。他の誰かが送られるのを黙って見ているよりかは、ずっと気が楽でしたけどね」
アミナは笑顔で言う。
それは今だからこその本心でもあったが、この大陸に飛ばされた当時は、半分本心で半分疑念と言った調子だった。
この大陸に飛ばされた事で様々な人の形を見た。
だからこそ得られた成長とも言えよう。
「それで、最初は冒険者になろうともしたんですけど、お金が金貨30枚程しか無くてですね、お恥ずかしながらどうにかケチれないかと思い、祖母がくれたギルドの紋章が描かれた謎のカードを受付の人に見せてみたんです。そしたら受付の人が現在のお店になっている一軒家に案内してくれたんです。それでそのまま住んでいいのかと思ったら、維持費やらなんやらをカード持ってきたヤツに払わせろって言っていたらしくて、30枚しかない中の25枚を持っていかれました」
「あ、貴女のお祖母様は中々の人だな……」
「本当ですよ、初めて祖母の顔を殴りたくなりました。……あっ、すみません。気が回らず……」
肉親の話をしてしまった事をアミナは謝罪した。
しかしエリックは「俺が聞いた事だ」と言って謝罪を受け取らなかった。
「最も大きなきっかけになったのが、とある少女の土鍋を直した事ですね」
「土鍋?」
「はい、その少女の母親が少女と一緒に作った物だそうで、それはそれは立派でした。でも私は、誰かの思い出に私自身が介入する事があまり好きではありません。私が土鍋を直す事で、少女の中の母親との思い出が傷ついてしまわないか心配だったからです。だから私は少女に言いました。「これは本物と母親を思い出す為の依代だ」と「唯一無二の思い出を忘れないように」と」
アミナがそう言うと、後方を見張っているサーラの体が一瞬だけわずかに動いた。
その後、エリックは感慨深そうに「……とても身に染みる言葉だ」と呟いた。
「そこで思ったんです。今までいらないと思っていたスキルが人を助けた。メイドだった私は他者の為の苦労なら厭わないし、それを苦労とも思わない。この2つの事柄が上手く融合した結果が今のお店になります
。強いて言えば、今話した事が、私がお店を始めるキッカケとなったお話ですかね」
そう言って、アミナの話は終わった。
それを聞いたエリックは満足そうに「そうか」と言った。
知り合ったばかりだが、ここまで穏やかな笑顔をしているのをアミナは初めて見た。
根っこは誰よりも優しくて笑顔の素敵な男性なのだろうと、容易に想像できる。
「そういえば、今更なのですが、どうして今回の討伐対象がエリックさんの村を襲ったガレキオーラだとわかったんですか?」
アミナは何故か今まで気にもならなかった質問を投げかけた。
よくよく考えればガレキオーラなんて世の中的に考えれば沢山いる。
その中で一匹を見つけるというのは雲を掴むような話だ。
アミナの横から声が聞こえてきた。
「それはね、ヤツの左目にはエリックの親父さんが付けた傷跡があるの。それにそいつは色も違っていたから多分変異種だし。これだけの特徴があって尚且つ人を襲うような魔物なら討伐依頼が出てもおかしくないわ」
アミナはその説明に「なるほど」と納得の声を上げた。
その後、何かを思い出したかのように鞄を漁った。
「あっ、そうだ。それでは……この矢の性質についてお教えしておきますね」
アミナは絶対貫通の矢を布から取り出してエリックに見せる。
再び矢を目にしたエリックは「頼む」と言ってアミナの説明を受け始めた。
自分の背で楽し気な会話が聞こえている中、サーラは思い出していた。
『土地に記録は残っても、記憶そのものは残りません。だからこそ、本当に大切なのは『人』なのです。』
『私の仮説に少しでも共感頂けたのなら、エリックさんを助けてあげて下さい』
先日聞いたアミナの言葉が耳と脳を反響しながら行ったり来たりする。
それは理解出来ない事は無い言葉たちだった。
しかし、肝心の納得ができない言葉でもあった。
「私にどうしろってのよ……」
サーラは低く小さく呟く。
ため息すら出ないような爽やかな空が、一層鬱陶しく感じられる。
「エリックを……助ける……」
その呟きと、アミナの言葉だけが自身の中で反響し続け、心の霧がより一層濃くなるの感じたサーラは、気を紛らわすかのように見張りに没頭した。
―――
「着いたぞ。ここにヤツがいる」
ロイが馬車を停止させて言う。
「遂にか……」
「たった十数年……」
「今日、その十数年にケジメを付けましょう」
その場にいる全員が淡々と言う。
4人はとても冷静だったが、それは決して怒りを感じていない訳では無い。
むしろその逆で、怒りで我を忘れてしまわないように自分の感情を噛み殺しているのだ。
「アミナさんのお陰で矢の使い方も大体は把握できた。矢で貫いた部位を一斉攻撃だ。俺達の攻撃力でもそれならなんとかなるだろう」
エリックが作戦を伝える。
内容は至ってシンプル、戦士であるロイが前方で注意を引き、遠距離からの狙撃と指示をエリックが、盗賊のサーラは素早い動きで翻弄しつつ隙を作り、レドラによる支援魔法で全員のサポートと回復をする。
今回はガレキオーラの討伐の鍵を握る矢がある為、短期決戦でいくようだ。
「あのぉ、私とフィーちゃんは何をすれば……?」
「いえ、これ以上アミナさんのお世話になる訳にはいかない」
「そんな事言われましても、私がこの場にいる以上、何もしないつもりはありません」
アミナの確固たる意思表示にエリックは面食らった様子だった。
そして少しだけ頭を悩ませてから言った。
「それでは、アミナさんとフィー殿は、すまないがレドラを守ってやってくれ。俺の気が回らなくなったら一番に危険なのはレドラだ」
それは身体能力という面や耐久力、パーティー全体の重要度を加味した結果の言葉だった。
戦士ほどの耐久力を僧侶は持っていない、盗賊や弓術士も身軽に動く事が可能だ。
このパーティーで一番機動力と耐久力の無い彼女が危険だというのは明々白々だ。
「ちょっとそれどういう意味?……って言いたい所だけど、本当の事だからあんまり強く言えないのよね。悪いけどお願いしちゃうわね、アミナさん、フィーちゃん」
アミナは丁寧に「お任せ下さい」と頭を下げ、フィーもそれを真似して頭を下げた。
「作戦も決まったことだし、さっさと行こうぜ。この奥にお目当ての野郎がいる」
ロイは先頭に立って手招きをした。
その言葉にエリックは反応して「あぁ……行こう」と低く言った。
―――
森の中はとても静かで、大きな一本道がずっと続いているだけだった。
「この道は一体……」
アミナは周囲を見回しながら異質な森の道に疑問を抱く。
何かが這ったような潰れた植物達が痛々しく緑の汁を吹き出している。
「これは……ガレキオーラの通った跡だ」
ロイが地面に手をついてそう呟く。
「ヤツ等は体が巨大だ。だから歩く度に地面を這うように抉り取る事がある。この道はその残骸だ」
「……という事は、この先に皆様のご家族やご友人の仇が……」
「可能性としては十分有り得る」
一同はその掛け合いに頷くと、更に歩みを進める。
私達はかなり歩いた。
手がかりは標的であるガレキオーラが通った痕跡だけ。
それの上を歩いて、標的の元まで向かう。
複数道が別れていれば、より押し固められた方へと進んでいく。
次第に森は深さを増し、遂には空すら遮るようなドーム状に広がる広い空間へ辿り着いた。
「道は途切れてる……だが、ここだけで道が何十も……」
ロイの言う通り、そのドーム状の部屋はとても広かったが、その部屋にはいくつもの通路が作られていた。
その光景を見ると、なんだか迷宮遺跡・ララバイの最下層をアミナは思い出していた。
「ここにいるのか……」
一同が周囲を警戒しながらそのドームの中を歩く。
すると突然、何か重いものが動くように、森全体が揺れた。
その衝撃で、全員がよろけ、体勢を保つのに一苦労だった。
「なんだ!?」
「全員、警戒だ!!」
ロイの疑問の声にエリックは気合を入れるようにして叫ぶ。
各々が武器を構え、戦闘態勢をとる。
『ほう、餌がわざわざ俺の所へ……』
唐突に全員の耳に響いたその言葉は嫌悪感を意図的に抱かせているように不愉快な声だった。
「この声って……まさか……!!」
サーラが何か思い立ち、上を見上げる。
そこには空と大地を分離するように生い茂る樹木しか無い……アミナはそう言おうとした。
しかし、その選択肢はすぐさま潰れた。
「左目の……傷……!!」
空と大地を分かつ樹木のほんの少しだけ下からそいつは姿を表した。
そいつの左目には確かに白くなった傷跡が見受けられた。
「これが変異種……!!ガレキオーラ……!!」
アミナはその巨大さに思わず開いた口が塞がらない状態だった。
大きさは縦幅だけでも推定20メートル以上、横幅は60メートル程と見受けられた。
『人間の餌なんぞ数ヶ月振りだな。さぁ、貴様等家畜は、俺にどれだけ食わせてくれる………』
巨大という言葉そのものを体現したかのような亀の魔物は、不気味に笑いながら、そう言った。
「ガレキオーラ……!!」
押さえつけていた静かな怒りに薪を焚べ始め、憤怒の炎が内側から血を煮え滾らせる。
ロイ、レドラ、サーラ、そしてエリック。
彼等のケジメを付ける為の戦いが、今始まる。
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