第一章 29話『『元』究極メイド、帰路につく』
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「おぉ……コイツぁすげぇ……」
ギーラは自身の復元しつつある左腕を見ながら感嘆の声を上げる。
それはアミナがこの場でスキルを使用して作り出した回復薬を使ったのだ。
前回同様の効能が現れるかは賭けだったが、どうやら上手くいったようだ。
「上手くいって良かったです」
「すまねぇなアミナさん。何から何まで。ありがとうよ」
「いえいえ。でもまだ腕の状態がどうかは分かりません。一応街に帰ったらお医者様に行ってくださいね」
「謙遜はいらないぞアミナさん。私の額の傷も、飛び出た肋も、跡形もない程に完璧に治っている。医者なんぞよりよっぽど良い」
何故か自慢気に前髪と洋服を捲り上げながら言ったエルミナに、アミナとギーラは呆れて言葉も出なかった。
そういう事じゃないんだよなぁ……。
こんな調子だからこのパーティーには回復職の冒険者がいないのかな。
――全然言う事聞かないから。
「そうだ、ケイさんもこちらへ」
ケイは呼ばれると一瞬躊躇した様子を見せ、俯きながら近づいてきた。
「な、何……?」
「いえ、スカートやブーツが血で汚れてしまっているので、それを取り除こうかと思いまして」
「え?そんな事も出来るんですか?」
アミナは「はい」と言ってケイのスカートとブーツに触れた。
「服はどうしても汚れてしまいます。その度にスキルを使って汚れを分離してきました。だから血もいけると思います」
そう言ってアミナがスキルを発動させると、たちまちスカートやブーツから血のシミが抜けていき、アミナの掌には染み込んでいたであろう血が溜まっていた。
アミナはそれを地面に捨て、手を拭いた。
一つのシミも無くなった服を見てケイは少しだけ嬉しそうな顔を取り戻した。
「すごい……買った時くらい綺麗……」
「私も成功して良かったです。慣れていない洋服だと失敗する事もあるんですよ。もし失敗すると、服が弾け跳んでキャストオフしちゃうんです」
「弾けっ――!?」
「一度だけ私もやっちゃって……その時はあまりの出来事に全裸で放心状態でしたよ」
笑いながら言うアミナだったが、そんな事を考えると……!と言いたげなケイの表情は強張っていた。
ギーラは何故か少し上を向いて上の空だ。
エルミナに「不埒者」と言われ「別に俺ぁ何も!!」と治った腕を回して誤魔化した。
すると、服から血のシミが取れたケイがギーラの方を向いた。
「どうした?」と間の抜けた表情で言うギーラにケイはモジモジしながら口を開いた。
「そのぉ……ごめんね。私のせいで怪我しちゃって……」
ギーラの治った腕を両手で包み込むように優しく握り、目を潤ませた。
そんな悲しそうな表情をするケイの頭にギーラは手を乗せた。
「お前のせいじゃねぇし、治ったんだから気にすんな。冒険者やってりゃこんくらいの事あんだろ」
ケイは小さく「うん……」と呟いた。
その様子に納得していない様子のギーラは「はぁ」とため息を付いた。
「勘違いすんじゃねぇぞ!俺は俺がやりたくてやったんだ。お前を助ける気なんかこれっぽっちもねぇよ!俺が選んだ事に口出ししてんじゃねぇ!お前俺の女房気取りかこの野郎!」
その言葉に面食らったように目を見開いたケイは「なんですって!?」と大声で反論した。
「人が負い目を感じて謝ってるのに何なのその言い方!!」
「へっ!!誰が謝ってくれなんて言った!!」
「なぁあっ!!心配して損したぁ!!」
「心配もしてくれなんて頼んだ覚えねーよ!」
「んーーー!!!もういい!!ギーラなんて知らない!!」
ワーキャーワーキャー、物音の全くしない遺跡中に2人の喧嘩の声が響く。
ギーラが一見酷く見える言い方をした理由を、アミナもエルミナも理解していた。
負い目を感じないように最初は優しく言ったが、それでもケイは負い目を感じずにはいられなかった。
だからいつものテンションで強めに言う事で喧嘩へと発展させ、その負い目を忘れさせようとしたのだ。
アミナもエルミナも、やれやれ、と苦笑いをして首を振った。
「ほら2人共、そこまでにしないか」
「そうですよ。とにかく街に帰りましょう。入手必須ではないエーテリアの灯も手に入りましたし」
ギーラの首を絞めていたケイに向かって、2人は宥めるように言った。
アミナはエーテリアの灯が入っているギーラの鞄の方を見た。
するとケイは思い出したかのようにギーラを後方に突き飛ばした。
怪我人なのに可哀想だ。
「あっ!!そうだった!早く帰って報酬と祝賀会!!楽しみだなぁ〜♪」
先程の下がりに下がったテンションはどこへやら、ケイは足早に立ち上がり、その場でクルンと回った。
「ったくよ、調子いいぜ」と困ったような笑顔をしているギーラにアミナは心の中で、お疲れ様です、と呟いた。
するとアミナが腰に手を当てて口を開いた。
「ギーラの治療も終わったし、スターターに帰るとするか」
一同は「おー!!」と声を上げ、フィーも「にゃー」と鳴き声を上げた。
―――
私達は、迷宮遺跡から脱出する事が出来た。
帰り道もフィーちゃんの先導によってスムーズに帰り道を進む事が出来た。
行きは迷いながら運任せで2日ほどかかったが、帰りは最初からフィーちゃんに頼った為、体感時間四半日……つまり1日がかりで外に出る事が出来た。
他の冒険者とは会うことは無く、魔物とも遭遇しなかった。
これもフィーちゃんの計らいかもしれない。
3日ぶりに浴びる太陽の光はなんだかとても久しぶりに思えたが、肌がピリピリしたような気もした。
ダンジョンに潜った次の日の太陽は体に少し毒のようだ。
眩しすぎてほとんど目が開けられない。
「眩し……」
「アミナさんはそうなるかもしれないな。私達はいい加減慣れてしまった」
燦々と照る太陽に手をかざしているアミナとは違い、エルミナとギーラとケイはダンジョン内と変わらない様子だった。
そんな様子を目の当たりにするとやはり冒険者は現場に慣れているなと思わされる。
「そちらの方が羨ましいですよ。ほら、フィーちゃんを見て下さい」
そう言われてエルミナは小さくなったフィーの顔を見る。
「シワシワのおじいちゃんみたいになってますよ」
その表情を見てぎょっとしたと思ったら声を殺して笑っていた。
体を震わせて笑っているのに気がついたフィーはシワシワになった顔をアミナとエルミナへ向け、何か文句を言っているかのように口を動かして鳴いているが、その姿がアミナとエルミナのツボにはまってしまい、プルプルと震えて笑っていた。
「久しぶりにシャバだな」
「なにそれ、捕まってた犯罪者みたいな言い方ね」
2人はすっかり普通に会話している。
元々仲が良いからすぐに会話がいつも通りに戻るのだろう。
まぁダンジョンから出ようとしたタイミングでケイのテンションは普段通りに戻っていたような気もするが。
「さぁ、ダンジョンを無事脱出する事が出来た。後はアミナさんとフィー殿をスターターまで送り届け、報酬の受け取り。夜にはギルドで祝賀会をやる。それで私達のもてなしは終了となる。2人とも最後まで頼むぞ」
一通り静かに笑い終わったエルミナは、フィーに頭を齧られながら言った。
「おう、任せろ。腕の恩もあるしな」
「そうそう!ダンジョンの中みたいなヘマはもうしないから、安心してね!アミナさん!」
心強い言葉を受け取ったアミナはフィーをエルミナの頭から剥がし、地面へ置いた。
するとフィーは体を大きくしてくれ、背中に乗るよう促した。
自身もおじいちゃんのように目がシパシパなのにアミナを気遣うその姿は、もはやアミナの親のようだ。
世話を焼くのが好きなフィーは最初からそのつもりだったのかもしれない。
「ありがとうフィーちゃん。じゃあご厚意に預かって……」
アミナはフィーの背中に乗り、スターターへの帰路へついた。
その様子を見たエルミナが一度頷いて前を歩き始める。
フィーに荷物を乗せてもいいかと了承を取ると、嫌がる様子もなく歩いた為、他の3人の荷物をアミナが持つ事にした。
あの時見たエーテリアの灯――とても力強く輝いていた。
魔力を安定させると言われても私にはピンとこなかったが、冒険者の3人はきっと何か凄い力を感じ取っているのだろう。
魔物の活性化を抑制するって聞いた時はフィーちゃんに悪影響が出ないか不安だったけど、特に実害もないしよかった。
アミナはフィーの体を一撫でした。
それに気がついたフィーが「にゃう?」と鳴く。
――これから家に帰れると思うとなんだか感慨深い。
嫌々だったこのクエストだったけど、長いようで短い――面白い旅経験だったな。
アミナはそんな事を考えながら、フィーの背に揺られ、スターターへと向かった。
―――
ギルドの扉がバンッと開く。
その大きな音に食堂の全員が入口の方を見る。
するとそこには身長の高い女性剣士と、屈強な肉体を持つ戦士、新品同様の服を着た魔法使いに、猫を抱きかかえたメイドがいた。
「エルミナ一行、只今帰還した」
迷宮遺跡から帰還した一行は、スターターの冒険者ギルドの扉をくぐるなり、どっと疲れが押し寄せるような表情を浮かべた。
エルミナが手続きのために受付へ向かい、アミナはギルド内の椅子に腰を下ろす。
周囲には酒を飲み交わす冒険者たちの笑い声や、剣の柄を叩いて仲間を呼ぶ音が響いていた。
「おかえりなさい! 無事帰還されたようですね!」
受付嬢が満面の笑みで迎え入れると、エルミナは軽く頭を下げて報告を始めた。
そしてギーラの鞄から取り出した物を目にした途端、大きな目を更に見開いた。
「こっ、これってもしかして!!エーテリアの灯!?回収できたのですか!?」
「あぁ、あちらの人のお陰でな」
エルミナはそう言って椅子に座ってフィーと遊んでいるアミナの方に手を向けた。
周囲からは「マジかよ!!」「すげぇな!!」「流石だぜ!!」といった称賛の声が多数聞こえてくる。
しかしフィーと戯れているアミナにその声は届かない。
「探索だけでも良かったのに……流石英雄様のパーティーですね!!」
「そう言ってもらえて嬉しいが、今回のクエストは私達だけではどうにもならなかった。本当に――」
そう呟いてエルミナはアミナの方を振り返った。
その視線に気がついたアミナは小さく手を振ってきた為、エルミナはそれに反応して手を振り返した。
「何にせよお疲れ様でした!大変貴重な品を持ち帰ってくださりありがとうございます!報酬をお渡ししますので、少々お待ちください」
そう言って受付嬢がカウンターの奥へ姿を消した。
アミナはテーブルに広げられた戦利品を見つめ、ほっと息をつく。
「素材はぼちぼちでしたが、このよく分からないゴーレムの核やら石像の核やらはなんだかレアそうですね」
そんな事を呟いていると、エルミナが受付からアミナのいるテーブルに来た。
向かいに座っているギーラが「どうだった」と聞くと「あぁ、報酬をここに持ってきてもらう」と言って返した。
そしてほどなくして受付嬢がトレイを持って戻ってきた。
その上には何やら袋が乗っている。
「皆様、本当にお疲れさまでした!こちら、クエスト報酬金貨600枚になります!ご確認下さい!」
受付嬢がテーブルに置いた袋の口が解け、中にある金貨の山が顕になる。
アミナはその大量の金貨に一瞬目を丸くする。
「わぁ……本当にこんなに貰えるんですね……」
金貨の輝きに感動するアミナを見て、ギーラがにやりと笑った。
「おいおい、もっと堂々と受け取れよ。立派な報酬だぜ?」
「あぁ。アミナさんの尽力がなければ、このクエストは成功していなかった。自信を持ってくれ」
「8割持ってけドロボー!!」
3人の賛美の言葉にアミナは少しの申し訳無さと微笑みを表に出した。
「ありがとうございます。では……大事に使わせてもらいますね!」
アミナは約束通りの金貨480枚を布袋に詰め、胸元にしっかり抱えると、満足げに微笑んだ。
「さぁ!!今日は飲むわよ!!おねーさん!!お酒大ジョッキで四つ!!あと、ミルクをお皿で下さいな!!」
既に片手に酒を構えていたケイが大声で叫んでウェイトレスに声を掛ける。
もう出来上がっているが、今はそんな事は問題ではない。
今日は、今日だけは楽しんでもいい日だ。
ケイの頼んだ四つのジョッキになみなみ入った酒と、お皿に注がれたミルクが届き、その他の料理が大量にテーブルに並べられた。
美味しそうな匂いが胃袋を刺激する。
空腹感が久しぶりに襲ってきた4人と1匹の食欲は、もはや限界値を突破していた。
全員がジョッキを、フィーが皿を目の前にした。
「それじゃあ改めて――クエスト達成おめでとう!!」
エルミナの掛け声で言い渡されたそれにより、一同はジョッキをぶつけ、つかの間の宴を楽しみ、そのどんちゃん騒ぎは、朝まで街中に響き渡ったそうだ。
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次回!!第一章最終回!!




