第一章 2話『『元』究極メイド、スキルを使う』
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足元には深いひび割れが刻まれた乾いた地面が広がり、そこに小さな石ころひとつさえ見当たらないほど荒涼とした大地が果てしなく続いていた。
空には、奇妙に揺らめく黒雲がぽつぽつと浮かび、それがかすかな風に流れるたびに形を変える。
その下で、アミナはひたすら歩き続けていた。
「この荒野……どこまで続いてるのかしら……」
独り言の声はこの広大な荒野にあまりにも小さく溶け込んだが、その言葉は自分に言い聞かせるような響きを持っていた。
この地で一体何が待ち受けているのか、彼女には想像することすら難しい。
対策を講じようにも、彼女の手荷物は金貨30枚と少しの筆記用具、趣味で読んでいる本とそれだけだった。
全身を苛む疲労感、喉の渇き、そして孤独が、じわじわと彼女の心を侵食していく。
だが、それでも進むほかに選択肢はなかった。
周囲の風景には目立った変化がなく、地平線の向こうに見えるのは異様に黒ずんだ山々だけだった。
それが近づいているのか、あるいはただ幻影を追いかけているだけなのかも分からない。
気温はじわじわと上昇しているようで、頭上から降り注ぐ紫の光が肌をじりじりと焼く感覚を生む。頬を伝う汗が次第に塩っぽいかさつきとなり、喉は砂漠のように渇いていた。
―――
乾ききった大地の中に、突如として異変が現れた。
足元が粘つき始め、靴底に何かぬるりとした感触がまとわりついてくる。それはただの湿った泥ではなかった。
見下ろすと、黒く光る粘液がじわじわと地面から滲み出している。しかもその粘液は、まるで生き物のように蠢いているではないか。
「……なに、これ?」
疑問を口にする間もなく、その粘液から長い触手のようなものが伸び、彼女の足首を掴もうとしてきた。
驚きに息を呑むアミナは後退しようとしたが、その動きは鈍い。足が地面に絡め取られ、うまく引き抜けない。
「っ、離れなさい!」
必死に足を振り払おうとするが、次々と新たな触手が地面から湧き出し、彼女の動きを阻んでいく。
数十本にも及ぶ触手が、彼女を絡め取ろうと蛇のように滑らかに動くさまは、悪夢そのものだった。
「……このままじゃ、死ッ――」
アミナは必死に冷静さを取り戻そうとした。
背後で地面が揺れ、足元の粘液がさらに膨れ上がっていく。
触手が伸び、目の前に迫る。それらの動きが彼女の体を追い詰めてくるが、頭の中で冷静に考えることを強引に続けた。
どうすれば……どうすれば――
頭を振り、足元の石に目を落とす。
細かな鉱物がちらほらと散らばっている。だが、その中で一際異彩を放つものがあった。
紫がかった光を反射する小さな石。それは他の石よりも重く、硬そうだった。
これを使って……
とっさにそう考えたが、即座にそれが可能かどうかはわからなかった。普通の方法じゃ、こんな状況では無理だ。それでも、このままでは確実に殺される。
ならば、試すしかない――。
「ええいままよ!!一か八か!!」
声に出して、アミナは自分を奮い立たせた。
これが無理なら、何もかも終わりだ。
だが、今の自分にできる唯一の手段だと理解していた。
頭の中で短剣のイメージを練り上げる。
刃の長さや厚み、柄の形状、重心のバランスまで、細部にわたる設計を思い描く。
そのイメージが鮮明になった瞬間、アミナの手が自然と動き、静かに呟いた。
「素材とイメージを――融合させる。『究極創造』!」
その言葉を信じ、アミナは自分の手のひらをぎゅっと握りしめる。
石が、まるで自分の意識に反応するかのように、力を持って形を変えていく。それは、彼女の頭の中で描いたものが現実になっていく瞬間だった。
目を開けると、もう手のひらの中には、整った刃先と柄を持った短剣が現れていた。
まるで最初からその形を持っていたかのように、滑らかで鋭い――。
できた……!!
驚きと興奮がこみ上げる。
これが彼女のスキル『究極創造』。
素材とその素材に関する知識、それと細かな設計図を頭の中で思い浮かべることによってどんなものでも生み出すことの出来るスキルだ。メイドの身である彼女はこれを『いらないもの』と思っていたが、今まさに、それが彼女の命を救おうとしている。
込み上げてくる興奮、しかしその感情に浸っている暇はない。
足元に広がる黒い粘液がさらに増え、触手がしつこく迫ってきている。
手にした短剣を無意識に握り締め、アミナはその刃を振り上げた。
「頼む、これで――!」
振り下ろすと、短剣は驚くほど軽やかに触手を切り裂いた。
まるでただの空気を切るように、抵抗なく、スムーズに。
鋭い刃先が黒い触手を断ち切る感覚が手に伝わり、思わず声を漏らす。
「嘘……」
次々に切り裂いていく触手が、アミナの周囲に次々と倒れていく。
その度に、黒い液体が飛び散り、地面を焦がしていくが、彼女はそれを気にせずに刃を振り下ろし続けた。刃を扱う感覚がどんどん馴染んでいく。まるで自分の体の一部であるかのように、スムーズに動く。
切り裂く速度は速く、そしてその精度は驚くべきものだった。
目の前に迫る触手は次々に切り裂かれ、やがてそれらが全て倒れると、アミナは短剣を振り下ろして、ついに荒野に静寂が戻った。
その時、アミナは手にした短剣をじっと見つめた。
この力ってこんなに――
目の前に広がる荒野には、ただ無残に黒い触手の残骸が転がっているだけ。
しかしアミナの手には、まるで自分がずっと使っていたかのようにしっくりと馴染んだ武器がある。
不安と興奮が入り混じった感情が、彼女を支配していた。
頭を振って自分を落ち着けようとするが、実際には頭の中で何が起こったのか理解しきれない。
どうしてこんなことができたのか、そして今後どうするべきなのか、全く分からない。
震える手を見つめながら、アミナはその力を確かに感じていた。だが、それ以上に、この力がどこまで通用するのかは分からなかった。
ただ一つ言えることは――この荒野を越えるために、何とかなるかもしれない、ということだった。
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