第一章 28話『『元』究極メイド、覚悟の連撃』
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「まずはヤツの特性を知りたいです。あの破壊しても合体する体……あれだけダメージを与えて無傷なのも気になります」
アミナが目の前の敵を冷静に見ながら言う。
フィーから始まり、ケイの水の刃、アミナとエルミナの斬撃、最後にケイの放った渦巻く炎の柱。
これだけの攻撃を仕掛け、石像へのダメージは皆無に思える。
今のところフィーが威嚇とアミナ達への被害を抑える為に再生し続ける石像を戦ってくれている。
「フィーちゃん!戻ってきてください!」
アミナの声でフィーは石像の相手をやめ、地面を一蹴りした。
常にアミナと石像の射線に入りながら、フィーは戻ってくる。
「フィーちゃんはギーラさんをお願いします」
フィーは黙って頷き、ギーラの真横で彼の体を支えている。
「へへ、あったけぇなチクショウ」と悔しそうな笑顔を浮かべた。
「アミナさん。先程の考え、私とケイでどうにかしよう。再生しようとも攻撃を続ける」
「うん、私も頑張るよ」
エルミナは剣を構え直し、ケイは杖を強く握った。
2人が言った事にアミナは頷き、短剣を低く持つ。
敵の性質の観察に集中し戦闘は最低限にする。
それはエルミナとケイが守ってくれるという確信があったからこそ出来る体勢であった。
「ケイ。まずは氷の魔法を使ってくれ。その後に私が炎で斬る」
「わかった」
その会話のすぐ後、エルミナが剣を横に振りかざし走り出した。
そして後ろではケイが氷魔法を使用する為に力を溜めている。
「凍りつけ!『フリーズ』!」
杖から放たれた冷気を纏った風は地面に霜を走らせ、石像を足元から凍りつかせる。
数多の石の腕があるせいで凍らせるのに時間がかかると思われたが、足に侵食した氷はすぐさま上半身へと渡り、無数の腕すら完全に凍りつかせた。
「流石ケイさん」
アミナはその光景を見て小さく呟き、エルミナの次の攻撃を見ていた。
「炎の範囲をもっと広く……」
エルミナは呟きながら飛び上がり、剣に紅蓮の炎を纏わせる。
「聖なる炎刃に、焼かれ斬り裂かれよ『剣技・灼』!!」
剣の通った軌道上に炎の残像が残り、
温度差で極端に脆くなった石の体を、エルミナは次々に剣で砕いていく。
左右に剣を振るい、地面に落ちる破片はもはや粉末状になっている。
「さぁ、これでどうだ」
地面に着地したエルミナは姿勢を低くして呟く。
胴体から切断して切り離した四肢は粉々、再生する様子もなくいとも容易く切り刻める。
それは先程と全く変わらない。それ故に手応えもない。
でもそれじゃあ……!
アミナの予測した通り、石像は再生を始めた。
周囲の物体が石像の胴体へと集められ、完全に修復するまで数秒とかからなかった。
「やはりいくら細かくしたところで再生するのに変わりは無いのか……!」
エルミナへ角張った拳が飛んでくる。
それを剣で一刀両断しまたしても斬りかかる。
「炎、氷が駄目ならば!!『剣技・空薙』!!」
「『ライトニング』!!」
赤黒いエルミナの斬撃にケイの雷の魔法が乗り、威力が格段に上がった攻撃が石像に炸裂する。
巻き上げられた煙が視界を遮り、煙の中から再び腕が飛んでくる。
またしてもエルミナはそれを躱し一太刀入れる。
「芸の無い攻撃パターンだが……倒せない以上、どうする事も出来んな……!!」
地面に着地したエルミナを今度は横から拳が襲う。
「エルミナさん!!後退して下さい!」
拳が射出される瞬間を見てたアミナはエルミナに指示を飛ばす。
それを聞き、エルミナは拳を目視せずとも後退して避けてみせた。
「今のはどこからだ!!」
「あの魔物、どうやら体の一部をこの部屋中に張り巡らせているようです!今更やってきたという事は、これからさらに壁や地面から攻撃が来ると思われます!注意して下さい!」
「なるほどな……芸が無いと言ったから怒ったか?」
そしてエルミナは再び石像に向かって特攻する。
特攻するエルミナをサポートするようにケイが魔法を放ち、障害物となる物達を破壊している。
その隙にアミナは考える、何が弱点で、どうすればこの不毛な戦いに終止符が打てるのかを。
無限に周りの物を取り込んで再生する……部屋中に張り巡らされたヤツの体の一部によってどこから攻撃が突き出されるか分からない。
壁を経由してヤツの体を砕くか……?
いや、砕いたとてまた再生される。
それに一歩間違えればこの部屋全体が崩壊して全員生き埋めだ。
誰一人として欠ける事は許されない。
ならどうする……考えろ……よく見るんだ。
何か、何か弱点は……!!
アミナが目を凝らして石像の方を見ていると、ケイの魔法によってその体が砕かれた。
そして周囲の物を胴体が取り込んで再生する。
何度目か分からないその光景にアミナはようやく、違和感を覚えた。
それは、今までの謎解きの部屋で散々見てきた謎の石の球体の事だった。
その球体がこの部屋にもあったのだが、何故だか石像はそれを吸収しようとしない。
球体の周りに落ちている瓦礫や岩達は吸収し、自身の再生に使っている為、石の球体の周りだけ異様に綺麗だった。
それともう一つ、いくら破壊され再生されようと、破壊された本体の形状はずっと同じだった。
どれだけ複雑に細かく破壊しようと、魔法を使って破壊しようと、一定のラインまで破壊されると、本体の分解は止まっていた。
何で球体を再生に使わない……?
何故破壊の仕方が違うのに形状は一定に保たれている……?
球体と他の岩とでは何が違う……。
形状――無いな。それだったら形状がバラけている破片達の方が吸収出来る理由に説明がつかない。
大きさ――じゃない。これも形状と同じだ。サイズがバラけていたら意味がない。
考えうる可能性を一つずつ消していく。
しかしどれもどこかしらで否定できる要素が出てきてしまう。
想像してたどれでもない。
再生に使う物の基準と破壊された後の胴体の事を考えるなら……もう、"これ"しか無い。
アミナは覚悟を決めたような表情をした。
唯一可能性の有りそうな事、それを試すのだ。
一か八か――アミナのこの大陸に来てからの口癖が飛び出す。
「アミナさん!!危ない!!」
作戦を頭の中で組み立てているアミナの元へケイの叫び声が聞こえてくる。
顔を上げると巨大な岩がアミナに迫っていた。
しかしここで冷静さを欠いて攻撃を食らう程、アミナは慌てない。
アミナは片腕を、飛んでくる巨大な岩にかざした。
その光景を見たエルミナが汗をかきながら振り返る。
あの勢いでは腕が折れてしまう!
くそっ!間に合わない!
エルミナがそう思考しながらも全速力でこちらへ向かってきている。
しかしアミナは呟く。
「大丈夫ですよ」
次の瞬間、鈍い音と共にその巨大な石がアミナに直撃した。
エルミナは歯ぎしりするように俯き、石像の本体を鬼の形相で睨みつけた。
そして走って石像に斬りかかろうとした時「エルミナさん!」と呼ぶ声が聞こえ、後方へ飛び退いた。
この場で自身に敬称をつける人は一人しかいない、そう理解していたエルミナはアミナの方を見る。
するとアミナに傷はなく、足元には砂のようなものが広がっていた。
「アミナさん!!無事だったか!!」
「はい。私も最初は不味いかと思ったんですけど、思ったより体が頑丈で助かりました」
アミナは膨らんでいない力こぶを見せながら笑顔で言った。
そして次にエルミナは地面に落ちている砂について問いかけた。
「この砂のような物はなんだ?……まさか、さっきの岩なのか!?アミナさんにここまでの破壊力があるだなんて思わなかったぞ」
結論を急ぐエルミナにアミナは「いえいえ」と言ってエルミナの考えを否定した。
「私のスキルって物体に触れて、それを作り変えたり再構築して新しい物を作ったり、物体を直したりするんです。だから再構築する前の段階で構築するのを止めたら、触れている物体を破壊できるんじゃないかなぁって思いまして……やってみたら成功しちゃいました。一か八かってやつですね」
アミナは簡単に言うが、エルミナはこう思っていた。
腕が折れるかもしれない危機的状況で、出来るかもしれないを試したというのか……!!
失敗したら重症、アミナさんの場合スキルが使えなくなるかもしれない。
そんな可能性も加味せずに私達と戦ってくれている。
エルミナはプルプルと震えながら俯いた。
アミナには決して見せられないその表情は、エルミナ史上最も口角の上がった笑顔だった。
頬や耳を赤く染め、声が出ないように耐えている。
これだけのセンスと才能と度胸を持ち合わせた一般人を、エルミナは見た事が無かった。
それ故の笑顔、戦闘狂故の喜びの顔であった。
「エルミナさん?」
アミナに声をかけられ、すぐさま顔を上げて引き締まった顔を見せる。
「あぁ、すまない。それでどうした?」
「ヤツの弱点が分かりました」
エルミナはもう驚かない。
彼女の実力を十二分に理解したからだ。
「え?」や「本当か」という疑いの言葉は一切口から出てこない。
彼女は口から反射的にこう言った。
「その言葉を待っていた……!!」
エルミナとケイは背中をアミナに向け、耳以外の器官を全て石像に向けていた。
「今から壁を伝ってヤツの体を粉砕します。粉砕出来たら、私はヤツの体まで近づき触れます。その時に瓦礫や攻撃が飛んできたら援護を頼みます!」
「了解した」
「了解っ!」
2人から返事の返ってきたアミナは笑顔で頷き、すぐ後ろにある部屋の壁に触れた。
背中はエルミナとケイが守っている。
その為、防御や攻撃の意識を捨て去り、石像本体の体を探るのに全神経を集中させる。
壁を伝って伝って伝って、手探りで藪の中を進むように、道なき道を切り拓いていく。
そして一つ、エルミナと共に戦ったゴーレムの素材とは全く違う物を感じ取った。
ゴーレムは地面や壁と同じ素材だった……。
それなのに違う物が混ざっているという事は……!!
アミナはそこでスキルを発動させる。
再構築はせず、分解だけを行う。
「ここだ!!」
そう叫んで力を込めると、石像の後方部分が砕け始めた。
メキメキと音を立て、最終的には石像全体にヒビが入り、そして砕けた。
「やった!成功したぞ!」
「はい!援護を頼みます!」
アミナは目にも止まらぬ速さで砕かれた石像へ迫る。
その速さにエルミナもケイもほんの一瞬戸惑ったが、いちいち疑問の声を上げている暇は無い。
アミナに並走しながら、地面から繰り出される拳を叩き割り、壁から飛び出してくる攻撃はケイの魔法によって破壊される。
破壊された事で落下してきた瓦礫や石の破片は、アミナの邪魔にならないようエルミナが全て取り払った。
そして石像の目の前まで迫ったアミナは飛び上がり、石像の体の上に乗る。
「さぁ、可愛く作り変えて差し上げます……!!」
アミナは狙いをつけてスキルを発動させる。
狙いをつけた場所とは、石像の胴体の少し下、人間でいうところのへそ辺りにあった石の塊だった。
詳しい範囲は分からないが、アミナはそこをがっしりと掴んでスキルを使う。
両の手が光り輝き、その石の塊をまんまるの球体に変化させた。
その瞬間、ずっと変わらない表情をしていた石像の顔が急に焦ったように目を見開いた。
「その恐怖した表情、ギーラさんの傷の鎮痛剤くらいにはなりますかね。先程の分解するだけの創造――さながら『破壊創造』とでも名付けましょうか」
アミナはそう言い放ち、作り直した球体を本体から剥がし、空中へ投げ飛ばした。
すると石像の胴体が崩れ去り、足元が不安定になった。
そして後方にいる全員に聞こえるように大声で叫んだ。
「ヤツは何回砕いても、絶対に飛び散らずに形も変えなかった部位があります!それがこれです!!そこは変える事も壊される事も許されない――ヤツの"核"となるハズです!!」
石の球体は宙を舞いながら、その場にいる全員に見つめられている。
アミナはそれに続いて言葉を加えた。
「そしてそいつは恐らく、断面が滑らかな物を吸収できません!!部屋中の球体が綺麗に残っているのと、切り離した瞬間に胴体が崩れたのが良い証拠です!だから今は再生もできず、叩くチャンスです!」
「傷口から無限に再生する魔物の傷口を焼いて塞ぐ事で再生を止める……それと同じ原理という事か!!」
エルミナが感心したように空中の球体を眺めていると、それは自身の頭の上を遥かに通り過ぎ、より後方へと飛んでいく。
「あとはお任せしましたよ―――"ギーラさん"!!」
その名をアミナが呼び、エルミナとケイは思わず振り返った。
するとそこにはフィーの体を借りて辛うじて立ち上がっているギーラの姿があった。
「冒険者、舐めてんじゃねぇぞ……石ころが……!!」
球体の飛んでいった方にいるギーラは、ちぎれた片腕をだらっとさせながら右腕に全ての力を込めている。
ギーラの右腕に溜められた力が光となって開放される。
「削れた分だけ強くなる……!!『弱者の逆襲』!!」
光り輝く拳は石像の核を直撃し、ヒビを入れた。
完全に力が出せていない彼にはこれが限界だったが、とどめを刺すには十分過ぎる威力だった。
「やれ!!エルミナ!!ケイ!!」
完全にフィーにもたれかかったギーラが最後の力を振り絞って叫んだ。
言われずとも、と言いそうなエルミナとケイは既に魔法の詠唱を終えていた。
「何度も撃てる代物では無いのだがな」
「いいから撃つよ!!」
2人は同時に剣と杖に込められた魔力を開放した。
「七大合成魔剣!!『虹呪・禍津葬送』!!」
「『冥界の星々』!!」
虹色に輝く光の刃に灰色の雷が上乗せされ、目の前に落下してきた球体を貫いた。
石像の本体はその光に包みこまれ、最後に悲鳴のような断末魔をあげ、跡形もなく消し飛んだ。
その場にいる全員が「ハァ……ハァ……」と息を切らしていた。
核が破壊され、粉々になっていくその様子を全員が静かに見ている。
そんな戦いの余韻に飲まれながら、不毛で終わりの見えなかったこの戦いにようやく、終止符が打たれたのだった。
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