第一章 27話『『元』究極メイド、ボス戦をする』
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ごめんなさい!
まともな戦闘シーンは次回になりそうです!
「いわゆるボス戦の――開戦だ!!」
空気が吹き抜ける乾いた咆哮を放った後、目の前の白い石像は拳を振り下ろしてきた。
一同はそれを後方に飛び退いて躱す。
異形の彫刻家――ゴーレムとはまた違うその異質な形状は、まさしく異形の名に相応しい。
胴体から無数に伸びた腕や無表情の顔が不気味さを際立たせ、腹が避けたと思ったらそこから叫び声のような咆哮が放たれる。
「俺が前に出る!!続け!!」
ギーラが拳同士をぶつけ、自身の周辺にバリアを展開する。
彼のスキルは本来、自分の肉体だけをバリアで覆い、ダメージを肩代わりするというものなのだが、応用で周囲にバリアを展開し、仲間を直接守ることも出来るのだ。
「『球体壁』!!」
ドーム状に広がったそれにケイ以外のアミナとエルミナは入り、スカルプト・ホラーに迫る。
最初、エルミナはアミナが入ってきた事に何か言いたげだったが、アミナに助けられた事を思い出し、その口を噤んだ。
そしてフィーは入らずに、体を大きくして相手を威嚇している。
だがそのサイズは森林にいた頃の半分程度しか無く、恐らくは部屋が狭く満足に巨大化出来ないのだろう。
そんな状態でもフィーはその大きな爪を立て、石像を斬り裂く。
「シャアア!!」
斬り裂かれた部分が砕け散り、飛び散った石膏の破片達が地面に打ち付けられる。
それがいい牽制になり、次にケイの魔法が直撃する。
「清き水の流れよ、刃となりて我が敵を斬り裂け――『アクアカッター』!!」
ケイが詠唱を必要とする魔法を放った。
それは単独での戦闘に不向きなものだが、現在はフィーが先制攻撃をしたお陰でその隙が出来た。
詠唱によって放たれた鋭い水の刃は、石像を斬り裂くのと同時に炸裂し、石膏の体を砕いた。
乾いた悲鳴が部屋中に響く。
そしてその隙を逃すハズも無く、飛んでくる破片からアミナ達を守りつつ、ギーラは飛び上がり、その拳を振るう。
するといとも容易く、石像の体は砕けた。
「想像より柔けぇ!エルミナ!アミナさん!行けるぞ!!」
自分の大きな体の影に隠れている2人に声をかけ、彼女等は「了解した」「了解です」と返事をし、ギーラの肩を借りて石像へと飛び上がった。
「私の短剣でも届きますかね」
「あぁ、いけるハズだ」
2人はそんな会話を瞬時にし、お互い武器を構えた。
アミナは腰の革ベルトに差していた短剣、エルミナは既に引き抜いていた黒刀・ニヴルを、目の前の石像に向かって振りかぶる。
2人の斬撃は、斬るというより砕くように石像の体を破壊し、石像は倒れる。
そして最終的にケイが更なる魔法で追い打ちをかける。
「天に輝く赤き星よ、今こそその力を解き放ち、我が敵を焼き滅ぼせ!!『クリムゾン・バーン』!!」
赤く渦巻く炎の柱が崩れ去った石像に直撃する。
笛がなるような悲鳴を上げ、石像は苦しんでいる様子だった。
よし、かなり効いてる……!!
地面に着地したアミナとエルミナはその燃え盛る柱を見ながら相手の様子を伺っている。
2人の足場となったギーラはフィーの背中に乗せられてケイの横まで運ばれると、フィーから降りてケイの隣に並んで立っていた。
あそこまで砕いた、それにこれだけ燃やした。
……でも、その姿を見るまでは、まだ安心できない。
心でそう呟きながら、炎が消え失せるのを待つ。
そして、炎の柱が消え、中に残った残骸を見た。
するとそれに魔物の生命力は感じられず、破片たちもピクリと動かなかった。
「やった……の……?」
ケイが不安そうに言う。
それに続いてギーラも「確信はねぇが……動かねぇな……」
そんな微妙な空気が流れている。
倒せたのか、はたまた死んだように擬態しているのか、長年冒険者をしている彼女等には、そんな疑問が絶えない。
すると次の瞬間、ケイとギーラとフィーの後ろで何かが蠢いた。
それは白くスパイクの生えた拳を形作り、凄まじい勢いでケイへと迫った。
しかし、全員がその空を切るような速度の拳に気がついた時には既に遅かった。
「ケイ!!」
エルミナがそう叫び、ケイは思わず目を瞑ってその攻撃の恐怖から目を逸らした。
迫りくる恐怖で体が震えて動かない。
音から察するに当たれば即死、当たりどころがよくても致命傷にはなる。
もうダメだ……!!
ケイがそう思った瞬間、彼女の体は何かに押されるように横に流され、その衝撃に目を開けた時に入ってきた光景は、大量の赤黒い血と、吹き飛ばされたギーラの屈強な左腕だった。
ケイはドサッと尻餅をつき、目の前に広がる血の海に脚を浸した。
「ギーラ!!」
「ギーラさん!!」
エルミナとアミナが前方から駆け寄り、倒れるギーラを抱きかかえた。
ギーラの腕を吹き飛ばした白い拳はフィーが捻り潰し、他に被害を出さないようにした。
エルミナはギーラの片腕に自身の服を巻き付けて止血を試みた。
「わ、悪ぃな……バリアごとぶっ飛ばされちまった……」
「喋るな!傷口が開く!この程度ならまだ大丈夫だ、休んでいろ!!」
そうして傷口を縛り終わったエルミナは部屋の隅にギーラを連れていき、優しく座らせた。
ギーラは腕が吹き飛ばされる瞬間、何も言葉を発しなかった。
冒険者としての覚悟の表れか、仲間を守る自分が悲鳴なんぞあげていられないとでも言いそうだ。
そんなギーラを見てアミナは、初対面時にくだらない人間と称した自身を恥じた。
荒い息を吐いているギーラは、屈強な体をしているハズなのに今は弱々しく感じる。
時間はあまり残されてはいないだろう。
回復薬の材料が無い訳ではない、しかし今この状況でスキルを使って回復薬を作ってギーラさんに使うには時間がなさ過ぎる。
それにそれを許すほど優しい魔物じゃないだろう。
ギーラさんを助けるには迅速に敵を打ち倒す事しか方法はない。
そして、ギーラを部屋の端に運んでいる間に、石像は当たり前かのように形を取り戻し、体を再生している真っ最中だった。
ギーラの犠牲一があって、こちらは一つも得たものがない。
ボス戦とはこういうものか……と、アミナは心底思い知らされた。
ギーラを運び終わったエルミナは今度、地べたに座り込んで吹き飛ばされたギーラの腕を見ながら震えているケイに声をかけた。
「ケイ、立て。立って戦うんだ」
ケイは震えたまま動かない。
目の前でおきた出来事が衝撃的過ぎたのだろう。
しかしそんな彼女等を待ってくれるほど、魔物は親切心に溢れていない。
今もなお、再生を続けている。
幸い、フィーがその再生を阻害しようと攻撃を仕掛け、再生時間は急激に遅れているが、それもいつまで持つかわからない。
「ケイ、立つんだ」
ケイは何も言わない。
ただ座り込んで血溜まりの血で服を汚しているだけだ。
すると一本の石像の腕がフィーの攻撃を掻い潜り、ケイとエルミナに迫った。
咄嗟の事に剣を構えられなかったエルミナはケイを抱えて横に飛び退いてそれを躱した。
アミナはその腕を短剣で斬り裂き、2人の元へ近づこうとした。
しかし、その考えはすぐに失せた。
パンッと乾いた音が鼓膜を揺さぶる。
エルミナの左手が、ケイの右頬を叩いたのだ。
ケイは震えながら恐怖に染まった顔でエルミナの顔を見上げる。
彼女の表情は背中で分からなかったが恐らく冷静で落ち着いた表情をしているという予想はついていた。
そしてケイの胸ぐらを掴み、大声で叫んだ。
「立て!!立って戦え!!命を懸けた者の覚悟が、助けられた者以外の誰に背負える!!」
その言葉にケイは目を見開いて自身の血に染まった手や服を見る。
それは決して自身の血ではない。
自身を助けるためにギーラが必死に振り絞った結果の血液達だ。
次に目を向けたのは瀕死の重症を負っているにも関わらず立ち上がろうとしているギーラの姿だった。
ギーラを見ているのに気がついたエルミナはケイに続けて言う。
「あそこまでの怪我をしている人間が今も尚戦おうとしているのに、無傷な私達が膝を折るのを誰が許す」
諭すような言い方で、ケイの瞳に光が戻った。
「ごめん」と呟いて、エルミナの手を借りて立ち上がった。
「待っててね、ギーラ。すぐ片付けて、ちゃんと謝るから……!」
新たに意を決したケイを含め、アミナ、フィー、エルミナ、ケイ。
この3人と1匹、目の前の強敵を倒す覚悟を各々が決めていた。
無事にダンジョンから脱出する為に。
傷つけられた、仲間の為に――。
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