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第一章 19話『『元』究極メイド、英雄を見る』

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スターターを出発してから半日程。

アミナとエルミナ一行は未だ平原を歩いていた。


「お、このリヴァルハーブ。状態がとてもいいです。摘んでも良いですか?」


アミナは隣を歩いている3人に問いかける。

「もちろん」とエルミナが言うのでアミナは遠慮なく、その場にしゃがんでリヴァルハーブを摘み取る。

そして摘んだ物を鞄の中に仕舞い、再び立ち上がった。


「やっぱり物作りを生業にするって事は素材収集が大事なのか?」


その様子を見ていたギーラが問いかけてくる。


「そうですね。最初は素材は依頼をしてくれたお客様に持ってきてもらえばいいかと思っていたのですが、それではどうしても冒険者の方々相手にしか商売ができません。ですので、住民の皆様にも対応できるように、私自身が素材を集める。という方針にしたんです」


「へぇ〜なるほどな。確かに、仮に一般人が作って欲しい物があっても、素材が準備できなきゃ依頼できないし、素材を集める為に冒険者ギルドに依頼を出したら金がかかる。そんで素材が集まってもアミナさんの店でも金がかかる。……そう考えたら溜まったもんじゃねぇもんな」


ギーラは自分の解釈を口にした。

その考えにはアミナも同感で、方針を変えた理由とドンピシャだった。


「お店を経営するって一言で言っても結構大変なのね」


「まぁまだ開けてすらいないんですけどね……何かしら良い手立てがあれば、もう少し円滑に進むのですが……如何せん物を作るというスキルを持っているから、という思いつきでやろうとしているだけですので何もかも分からない事だらけで……」


「それなら商業ギルドに所属したらどうだろうか」


突然、隣を歩いていたエルミナが言った。

またしても聞き覚えのない言葉にアミナはその言葉を繰り返した。


「商業ギルド?」


「あぁ、アミナさんは以前、冒険者ギルドに入ろうとして持ち金的な問題で加入するのを渋っていたとギルドの受付の人から聞いた」


それを言われたアミナは嫌な記憶が蘇る。

あの時変に渋っていなければ冒険者になっていたかもしれない、祖母の家を買わなくて済んだかもしれない。

……いや、仕え続けてきたメイドの仕事を私の代で止めてしまったのだ。

祖母の家を買った事は間違いじゃない。


「それで、商業ギルドというのはなんですか?」


「その名の通り商人の為のギルドさ。商業ギルドは基本的に依頼の募集、それを所属している商人に提案、依頼達成、報酬と、冒険者ギルドとやっている手順自体は変わらない。……ただ、商業ギルドの建物はスターターには無いし、基本的には王都やその周辺の貿易が盛んな土地にしか置いてないから、その点はとても不便なんだ。でも一応依頼の募集やその提案なんかは魔水晶で行われるみたいだから、行くのは報酬を受け取る時だけらしいよ」


「ちなみにちなむと、今言った商業ギルドの初代創設者はエーテリアの灯を作った『開拓者』と同じ人なんだよ。それに魔水晶っていう映像を映し出せる水晶も『開拓者』が作った物なんだ」


開拓者は物作りに長けた人物なのか……

少しだけエーテリアの灯とか魔水晶の構造に興味が出てきたかもしれない……

でも今は――


「こんな事言っている余裕がないのは重々承知していますが、やはり私は誰かの下に就くのはまっぴらです。ギルドやそういった組織に所属するのだとしたら、私が一番上でなければ私のような人がきっと出てくると思うのです」


「それって、この大陸に飛ばされたのはアミナさんを嫌ってる奴が原因ってやつか?」


ギーラの問いかけにアミナは黙って頷いた。


「私が傷つくのはまだ私が我慢すればどうにかなりますけど、その事で私の部下や同僚が傷つけられるのだとしたら、それは耐えられません。だから、私は私の掌に収まる人達だけを助けて、私が助けた人がその他の手に収まる人を助ける……。私のような扱いをされる人を最大限減らすためには、私がそういった組織のトップに立たなければならないのです」


アミナの話を聞いた3人はその話のスケールの大きさに目を丸くした。

商業ギルドと言っても、そのほとんどが一番大きなギルドの傘下だからだ。

その一番上に立つとなると、並の努力だけでは補えない。

元来あるセンスや才能、それらを磨きながら向上心を絶やさず歩むのはとても苦しく、茨の道となるのは確定している。

するとアミナは柄にもなく喋り過ぎた、と思って少しだけ顔を伏せた。


「……まぁ、今の私にそんな力はありませんし、もし所属するとしたら、という話ですので平和ボケした温室育ちの戯言とでも思って下さい。とにかく、今は冒険者ギルドにも商業ギルドにも加入する気は無いですとだけ」


アミナは最後にそれだけを言うと、少しだけしんみりとして口を噤んだ。


―――


しばらくそんな気まずい雰囲気が続いた。

日も暮れ始め、空は朱色に染まってきた。


「そろそろ野営地を決めておこう」


エルミナがそう言って3人と1匹も頷いた。

そして、街道から少し横に避けた所の原っぱで4人と1匹は野宿をすることにした。


「今日はここまでだな」


「だいぶ歩いたし、明日には到着できるかもな」


「それじゃ、準備始めよっか」


ケイが背負っていた荷を下ろしながらそう言うと、それぞれが手際よく動き始めた。


ケイは火起こしのための枯れ枝を探し、ギーラは野営地の周囲に簡単な罠を仕掛け始める。

アミナはフィーと一緒に、近くの小川へ飲み水を汲みに向かった。


「なんか、こうしてるとキャンプしてるみたいですね」


アミナが軽く笑いながら言うと、フィーが「にゃあ」と相槌を打つ。

先程のしんみりとした気持ちが、少しだけ晴れてきたアミナの表情には余裕が見て取れる。

すると、冷たい水をすくいながら、アミナはふと辺りの静けさに違和感を覚えてた。


「……なんだか、静かすぎませんかね?」


自分でもそれがただの思い過ごしなのか、何か違和感があるのかは判断がつかなかった。

ただ、普段なら聞こえてくるはずの小動物や鳥の鳴き声が、この辺りでは妙に途切れている気がした。

フィーも小首をかしげながら、周囲の匂いを嗅ぐように動き始める。


「何かいるのかしら……」


念のため、水を汲み終えたアミナは急いで野営地に戻った。


「おかえり。どうした、ちょっと慌てた顔してるじゃねぇか」


ギーラが振り返り、にやりと笑う。


「いや……なんか、辺りが妙に静かなんです。気のせいかもしれないですけど……」


その言葉を聞いた途端、エルミナの表情が引き締まった。

彼女は素早く腰の剣に手を伸ばし、ケイにも警戒を促す。


「確かに……このあたりにしては不自然だ。ギーラ、もう少し罠を増やしておいてくれ。念のためだ」


「了解」


ギーラは手に持っていた仕掛け用の縄を引っつかむと、即座に周囲の草むらへ消えた。


「アミナさん、何か変わったものを見たり感じたりはしなかった?」


エルミナが問いかける。


「いえ、特には。でも、フィーちゃんも少し気にしてる様子で……」


アミナの足元でフィーが小さく「にゃあ」と鳴く。

その声が妙に鋭く聞こえ、全員の意識をさらに集中させた。


「……このタイミングで来られるのは、少し面倒だな」


エルミナが剣を抜き、周囲の気配に集中し始める。

その動きはもはや日常のように洗練されていて、アミナは自分の短剣を握りしめながら、少しだけ気後れする自分を感じた。


そのときだった。

遠くの草むらがわずかに揺れたかと思うと、低い唸り声が風に乗って届く。

それは一匹ではない。複数の喉が響かせる、不気味な音だった。


「出るぞ……!」


エルミナが鋭く告げた瞬間、草むらから一斉に現れたのは、赤黒い目を光らせた魔物の群れだった。

獰猛な牙をむき出しにし、全員を取り囲むように動き始める。


「ここで出くわすとはな……相手してやるか!」


ギーラは拳を打ち付けながら草むらから飛び出してきた。

その表情にはまるで喜びすら浮かんでいる。


「アミナさん、安心して!私達が守るから!」


短剣を握っているアミナを見て、ケイが言った。

そしてそれに続くように「アミナさんは戦わなくても構わない!我々で対処してみせる」とエルミナも言った。

フィーが彼女の足元から飛び出し、魔物たちに向かって威嚇の声をあげた。

戦いの幕は、既に切って落とされていた。


ケイが最初に動いた。

彼女は背負っていた杖を地面に突き立て、冷静な声で呪文を紡ぎ始める。

杖の先端に青白い光が集まり、それが次第に形を成していく。


「『アクアストーム』!」


叫ぶと同時に、ケイの前方に巨大な水流が渦巻きながら放たれる。

その水流は勢いよく魔物たちに直撃し、複数の魔物を吹き飛ばした。


「いいぞ、ケイ!」


ギーラが後方で拳を振り上げ、前方に突っ込んでいく。

彼の周囲には淡い光の壁が展開されており、魔物たちの攻撃を弾いている。

これが彼の防御特化スキルである防御壁(バリア)だ。

ダメージを肩代わりしてくれるそれは、エルミナのパーティーにおける耐久力不足を補っていた。


「俺の仕事はお前らの相手だ!」


魔物の一匹が飛びかかってきたが、ギーラはバリア越しに受け止め、全力で拳を振り下ろした。

拳はその巨体の骨を粉々に砕き、鈍い音が鳴り響く。

その事で周囲の魔物たちが一瞬ひるむ。


「おいおい、まだまだだろ!」


ギーラが笑いながら吼えると、さらに多くの魔物が彼に向かって突進してきた。

しかし、バリアに守られた彼は一切ひるまず、そのたびに巨体を揺らしながらその身を振り回していく。

血飛沫が空に舞い、魔物たちの咆哮が響き渡る。


後方でその光景を見守っていたアミナは、緊張のあまり息を呑む。


「すごい……ギーラさん、一体どんな体力してるの……?」


もしかしてあのまま殴りかかってこられてたら私死んでたんじゃ――って、何考えてるんだろ私。

潰れた自分の事なんて考えたくもない。


そう思考している足元ではフィーが「シャー!!」と低い声で鳴きながら魔物たちを睨みつけている。

魔物からアミナを守りつつ、牽制も欠かさない。

この猫型の魔物は本当に主に従順だ。


ケイが再び魔法を放つ。

今度は杖を振り上げ、空に向けて詠唱を続ける。


「『ライトニング』!」


雷鳴が轟き、空から無数の雷が魔物の群れに降り注ぐ。

その光景はまるで天罰のようで、一瞬のうちに数体の魔物が黒焦げとなり地面に崩れ落ちた。


「ケイ! そっちのフォローは頼んだぞ!」


ギーラが叫び、別方向から攻め寄せる魔物たちを迎え撃つ。

ケイはその言葉に頷き、次々と属性魔法を繰り出していく。

炎魔法の『フレイム』が草むらごと魔物を焼き、『ウィンドブレイド』の鋭い風の刃が複数の敵を一度に切り裂く。

ケイの魔法は多彩で正確であり、まさに「後方支援」の理想的な動きだった。


一方でギーラは、肉弾戦を続けていた。

バリアが時折きしむ音を立てながらも、彼の猛攻を支え続ける。

その姿は力強く頼もしく、アミナは思わず拳を握りしめて見守った。


だが、次第に魔物たちの数が増え、彼らの動きにも統率が見え始めた。

まるで指揮者でもいるかのように、一斉にギーラを包囲しようと動き始めたのだ。


「くそっ、数が多い……!」


ギーラが汗を拭いながら呟いたそのとき、エルミナが静かに一歩前に出た。


「ありがとう二人とも。ゆっくり休んでいてくれ。あとは私がやる」


その声は冷静で、どこか余裕すら感じさせた。

ギーラとケイが一瞬動きを止め、アミナもその場に立ち尽くす。


エルミナが腰に帯びた片手剣を抜く。

その剣は普通の片手剣に見えたが、その異様な雰囲気をアミナは感じ取っていた。

彼女が剣を構えると同時に淡い光が剣全体を包み込み、次第に輝きを増していく。


「行くぞ、『黒刀・ニヴル』」


その言葉とともに、エルミナは剣を振り抜いた。

剣から放たれた光の刃が、周囲の魔物たちを薙ぎ払うように飛び、次々と敵を消し去っていく。

その一撃の範囲と威力は圧倒的で、ケイの魔法やギーラの力強さをも凌駕するものだった。


さらにエルミナは動きを止めない。

その場で回転するように剣を振るい、彼女の周囲に光の円環を作り出した。

その円環は次第に拡大し、魔物たちを次々と飲み込んでいく。

まるでその場の空間そのものを支配しているかのようだった。


「これが……エルミナさんの本気……?」


アミナが息を飲む。

彼女の黒い剣の周囲を覆っている黒とは相反する色をした光は、単なる力ではない。

剣技と魔法が融合した技、その全てが洗練されており一切の隙がない。


「これで終わりだ……!!『剣技・空薙(そらなぎ)』!!」


赤黒い斬撃が剣から解き放たれ、最後の一体を斬り伏せると、エルミナは剣を下ろした。

戦いの場に立つ彼女の背中は静かで、それでいて確固たる威圧感があった。


「全員無事だな」


振り返ったエルミナの声に、全員が無意識のうちに頷いていた。

周囲には魔物の残骸と、焼け焦げた地面だけが残っている。


「すごい……これが、英雄本来の力……」


アミナは呆然と呟く。

それに応えるように、フィーが「にゃあ」と低く鳴いた。

不意打ちとは言え私、よく勝てたな……とアミナはただ感嘆するばかりで、目の前の女性の凄さを本当に理解するのは、まだまだ先の事なのを、彼女はまだ知らない。



最後までお読み頂きありがとうございます!

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それでは次回もお楽しみに!!

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