第一章 1話『『元』究極メイド、路頭に迷う』
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足元を掴むような浮遊感が一気に消え、代わりに重力が身体を押し戻してきた。
アミナは膝をつき、反射的に地面に手をついた。ザラリ、と乾いた砂が指の間からこぼれ落ちる。
その触感は奇妙なもので、ただの砂ではないように感じた。
ざらざらとした感触に紛れて、ほんのり冷たく、どこか湿り気を帯びている。それはまるで生きている何かの皮膚を撫でたような、不快な感覚を引き起こした。
顔を上げると、目の前にはまったく見慣れない光景が広がっていたが、幸い空の色はそのままだった。
風は冷たく、湿った匂いが鼻を突く。風に運ばれてくるのは、甘ったるい腐敗臭と金属のような苦味が混ざり合った異臭だ。
目を凝らして遠くを見やると、不気味にねじれた木々が林立しているのが見えた。
その木々は普通の植物とは明らかに違っていた。幹は細長く、光沢のある黒い表面はどこか湿っぽく、時折くねるように動いている。
枝は蜘蛛の足のように細く鋭く、青白い光を放つ果実のようなものがぶら下がっていた。その果実は揺れるたびに微かに明滅しており、まるで誰かに見られているような不快感を感じさせる。
「……ここ、どこよ……」
アミナは呆然と呟いた。声は空気に吸い込まれるように小さく響き、すぐに消えた。
耳を澄ませば、遠くで風が唸る音が聞こえるだけで、他には何の音もない。鳥の鳴き声も、虫の羽音も、さらには自分以外の生命の気配すらない。完全に無人の大地だ。
地面をもう一度見る。
乾ききった砂地には、ところどころ黒っぽい岩が顔を出している。その岩の表面には奇妙な模様が刻まれていた。それは幾何学模様にも見えるし、何かの生物の骨の化石のようにも見える。
どちらにしても、人間が関与したものとは思えない、不気味な造形だった。
立ち上がり、足元を払ってからもう一度空を仰ぐ。
唯一見慣れた空を背景に、遠くに見える山々がうっすらと影のように浮かび上がっている。
山の形状も普通ではなかった。頂上が鋭利に尖り、まるで地上から突き出した牙のようだ。
そこから放射状に広がる稜線は、いびつに曲がりくねり、正確にどうやってできたのか想像すらできない。
「確かリュウは、召喚先を“魔物の大陸”って言ってたわよね……」
自分の声が虚しく響いた。
あの適当な性格のリュウが放った一言が、今になってリアルに思い出される。アミナは首を横に振りながら、無理やり自分を納得させるように言葉を続けた。
「ということは、ここは第二大陸――“マーモ”ってことになるのかしら」
それが唯一の説明になる。
けれど、こんな場所に本当に人間が生きているのだろうか?そう思った瞬間、全身に冷たい汗が滲んだ。
マーモには確かに魔物が蔓延していると聞いているが、ここまで不気味な土地とは思わなかった。何より、完全に見知らぬ土地でたった一人という状況が、彼女の神経をじわじわと蝕んでいく。
「確かこの大陸には冒険者が多い……人を探せばまだどうにかなるでしょう……」
呟きながら、一歩を踏み出した。
その足音は妙に大きく響き渡り、自分の存在を大地そのものに知らせているようだった。乾いた地面を踏みしめるたびに、砂が舞い上がり、周囲に小さな風の渦を作る。
その砂の色はところどころ赤黒く、血が染み込んだようにも見える。どれだけ気にしないようにしても、視界に映るたびに不安感が募る。
進む方向も分からないまま歩き続ける。足元には奇妙な植物が生えているのが見えた。
地面から直接伸びる茎は、まるで筋肉の束のようで、薄く青白い膜を張った葉がわずかに振動している。
それらは触れれば動くのだろうか。それとも、こちらを待ち伏せているのか。考えれば考えるほど、気持ちが沈んでいく。
「リュウ、あんた……本当にやってくれたわね」
苛立ちを紛らわせるように、彼女は砂を蹴り飛ばした。
その砂が前方に舞い上がり、再び静かに地面へと落ちていく音だけが響いた。
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