第一章 16話『『元』究極メイド、英雄と戦る2』
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自由市場も終りを迎え始めていた頃、無職アミナと女傑エルミナは木剣を互いに持って向かい合っている。
二人を取り囲むのは、エルミナが申し込む決闘の結果を楽しみに見ているスターターの住人達や、冒険者ギルドに所属している冒険者達だ。
その異様な人の集まり方から、エルミナがかなり有名な冒険者だという事と、滅多に決闘を申し込まないのだろう、とアミナは予測していた。
「さぁ、始めようか」
そう言ったエルミナは木剣を正面に向けて構えている。
対するアミナはこの大陸に来て短剣を日常的に使っているためか、身軽に次への行動が移せるように少しだけ腰を落としている。
初めに動いたのはやはりアミナだった。
エルミナの言葉や決闘をする目的からエルミナが完全に受け身になっているのを察し、木剣による攻撃を仕掛けようとしていた。
まずは様子見――スキルを見たいって言ってたけどすぐ見せるのは癪だな……。
木剣だけで攻めてみるか。
そう思考してから数瞬、アミナはエルミナの懐に潜り込んだ。
アミナとエルミナの間にはそこそこの距離があった。
にも関わらず、彼女がエルミナの元まで移動した様を誰も捉えられなかった。
――素早い!!
エルミナはアミナの俊敏性の高さに目を見開いてアミナを見た。
振り上げられる木剣をエルミナが紙一重で躱すと、アミナは追撃するようにして更に木剣を振りかざした。
木剣を振り上げた反動で上がっている右腕を器用に動かし、木剣を逆手に持ち替えて奇襲するように上半身を狙う。
しかしこれも体を真横に移動された事で躱されてしまった。
「うおぉぉ!すげぇぇ!!」
「流石エルミナ様だ!!」
「一連の動きに無駄が無ぇ!」
「あの女の子も速いけどエルミナ様も更に速ぇ!」
歓声と共に感嘆の声が響き渡る。
アミナの素早い身のこなしに感動し、エルミナは興奮と喜びから思わず笑みを零していた。
その表情に調子を狂わされいるアミナも、何度避けられても木剣を振り続けた。
なるべく彼女の死角となる所から斬撃を繰り出すが、それをエルミナはサッと避ける。
そんな攻防が暫く続いた。
しかしいい加減そんな現状に嫌気が差したアミナは遂にアレを出す。
あぁもう!焦れったい!
スキルを見せるのが癪とか言ってられないわね……。
仕方が無いけど、使わせてもらいますよ。
攻めるのを一旦止めたアミナは、最後の一撃を入れた後、後方に飛び退いてしゃがんだ。
そして地面に手をついてエルミナを見つめる。
「やはり貴女は素晴らしい!!冒険者でもないのにこの身の熟し!!前職は一体何をなされていたんだ!?」
その問いかけに一瞬答えるのを躊躇ったが、別の大陸だしいいか、となって嘘偽り無くそのまま答えた。
「……ただのメイドですよ」
「メイド……!!身の回りの世話をするだけかと思っていたが、まさかそんな秘められた鍛錬の方法があるのか……!!」
「メイドだって結構ハードなんですよ」
その時アミナはふと思った。
メイドの仕事って結構色々なところを鍛えられたのではないか、と。
掃除洗濯炊事に主人の世話、庭の手入れに屋敷中の部屋の把握、置いてあるものが正常に動くかの確認や何を問われても答えられるように物質や物体の名前を一生懸命学んだ。
これらを鍛錬と思った事は無いが、それなりに鍛えられていたのかもしれない。
戦う予定なんて無かったから自覚した事無かったな。
……まぁいい、今はエルミナさんに攻撃を当てる事に集中しよう。
さっさと解放してもらわないとこっちも面倒だ。
アミナは地面についた掌から石の塊をエルミナに投げつけた。
それは地面にある石タイルから石の塊に作り替えたのを悟られないよう、掌で隠していた物を投げつけた。
そしてその石の先端は鋭利に尖っており、完全に攻撃性を帯びていた。
「……!!それが貴女のスキルか!!」
ようやく見れた、と言わんばかりの表情を浮かべるエルミナは、飛んでくる石を必要最小限の動きだけで避け、嬉しそうな顔をしている。
しかしアミナも怯まず、石を投げて牽制を続ける。
だがどれもエルミナには当たらず、アミナは次にその石達を砕いて砂を作り出した。
それを投げて目潰しをする作戦なのだ。
卑怯と言いたければ好きにすればいいわ。
スキルを見せろと言ったのはエルミナさん自身だ。
だったらどんな手を使っても勝ちを掴んでやる……!!
掌に砂粒の感触が伝わる。
次の瞬間、それをエルミナ目掛けて投げつける。
砂煙が舞い、エルミナの視界を一瞬だけ塞ぐ。
「煙幕か……こんな事まで出来るとは……!」
しかしエルミナは怯む様子も見せず、ただ一振、木剣を振るっただけで砂埃全てを振り払ってしまった。
砂埃の中から木剣を振ろうと考えていたアミナは今更止まれる訳も無く、そのまま剣を振るった。
だが見え透いている剣を喰らう程、エルミナの注意力は散漫では無い。
背後から斬りかかって来るアミナを、体を翻して躱し、木剣で攻撃した。
アミナはすんでの所でそれを防ぎ、飛び退いて距離をとった。
「いい作戦だったよアミナさん!」
くそっ……やっぱりこんな小細工じゃ一撃もくれないか……。
でも……初めての反撃は貰った。
今なら意識が攻めに動き始めている。
後はもう、"アレ"に賭けるしかない……!!
体勢を立て直したアミナは、広場に設置されている街灯の方をチラリと見ると、エルミナが自ら攻めに来ないというのが分かっていた為、街灯の上まで跳び上がった。
「ん?アミナさん……何を?」
誰もがそう思った。
しかしアミナは気にせず行動を続ける。
そして、おもむろに街灯の中に手を突っ込むと、その中からとある物を取り出した。
「これ、何か知っていますか?」
それは小さな石で、光り輝いていた。
そして小さな炎を纏っている為ほんのり暖かく、鮮明な赤色をしている。
「それは……街灯の中に入っていた炎の魔鉱石かい?日中溜め込んだ光と熱を解放して少しだけ燃えながら夜道を照らす……。それで何をしようと言うんだ?まさか、その小さな炎が勝負の鍵になると言うのかい?」
エルミナは言う。
街の街灯には炎の魔鉱石が入っている。
それは第四大陸にも同じ形式の街灯があった為、アミナも知っていることだった。
しかし第二大陸でもこの形式だと知ったのはつい最近だった。
街を照らす炎は緩やかで穏やか。
とてもじゃないが、人や魔物を倒せるほどの威力は持ち合わせていない。
エルミナの言葉にはその思いが込められていた。
「さぁて……じゃあお次に、これが何か分かりますか?」
そう言ってアミナは腰に巻いているベルトのポケットから、紐で縛られた袋を出した。
アミナの掌に乗せられたそれは、紐が解けると中から粉のようなものが現れた。
「何だいそれは」
「この形態だと分かりづらいかもしれませんね。こちらは『フレイムペタル』という植物の花弁を乾燥させて粉末にしたものです。無論、私のスキルならば乾燥の工程は必要ないのですが」
エルミナは黙って聞いている。
アミナがこれから何をしようとしているのか、次の行動はどうしようか等考えている様子だった。
静かにしているエルミナに向かって、アミナは話を続ける。
「この粉末、炎系の魔法の触媒になって、その魔法を強化することが出来るんです」
「……それがどうしたというんだい。貴女は魔法が使えない。それは今までの戦闘で理解している」
「欲しがりさんですね女傑様。私がこれから何をするか、少しはご自分で考えてみてはいかがですか?」
そう煽ったアミナだったが、エルミナは表情や視線を変えずにアミナに向かって言った。
「私には貴女が木剣を燃やそうとしているとしか思えない。だから聞いているんだ。それがどうした、と。まさか、燃え盛る木剣で私に殴りかかってくる訳じゃ無いだろう」
そう言っているエルミナを余所に、アミナは粉末を乗せた木剣に炎の魔鉱石を乗せた。
すると弱かった炎が粉末に引火することで、凄まじい熱を放ちながら燃え盛った。
「流石女傑様、凄まじい洞察力です。すっかり目的を当てられてしまいました」
燃え盛る木剣を持ちながら、アミナは言う。
しかしそれは所詮木。
炎に焼かれればたちまち炭となって燃え尽きてしまう。
「さぁ、私の一撃、受け止められますかね」
アミナはそう言って燃える剣を持って街灯から飛んだ。
そしてエルミナへと一直線に向かった。
「フフ……本当に面白い方だ。……いいでしょう!私にすら分からない貴女の作戦を見せてくれ!!」
両手を広げて飛びかかってくるアミナをエルミナは受け入れる。
飛びかかった勢いのまま剣を振りかざすアミナ。
しかしそれを、燃えてしまった事で脆くなった持ち手より先端を、エルミナは木剣で砕くように殴った。
「なっ……」
木剣の刀身部分は地面へぼとりと落下する。
そしてただの炭となって、その炎を消した。
木剣が無くなった事で勝ちを確信したエルミナは、剣の持ち手だけを持っているアミナに近づいた。
「さぁ、これで貴女の勝ちへの道は無くなった。貴女の負けだ。正直私は、貴女のスキルが見られた、だから満足だ」
エルミナは言葉通り、満足そうな表情をする。
しかしそれと同時に失望の色も伺えた。
「……ただ正直、戦闘センスにだけはガッカリしてしまったがね。私から挑んでおいて、申し訳ない……」
アミナは黙って膝をついたまま、燃え尽きた木剣の一部だったものを見つめている。
そのアミナに更に追い打ちをかけるように声をかけた。
「戦ってくれてどうもありがとう、アミナさん。私にとっていい経験となった」
エルミナのその言葉とは裏腹に、彼女のテンションは相当下がっていた。
期待通りの相手では無かったのを観客達もその風貌から理解していた。
しかし、アミナは立ち去ろうとするエルミナの後ろで「フッ」と笑う。
その声に気がついたエルミナが振り向くと、アミナの顔は耳で判断した通り、笑っていた。
そして、それだけを呟いた。
「……勝負はこれからでしょう」
アミナは地面に落ちている炭を飛びかかるようにして手に取り、木剣の持ち手と合わせた。
そしてその刹那にスキルを発動させ、木剣の持ち手と炭になってしまった刀身部分をくっつけ、エルミナに向かって振り抜いた。
「そんな不意打ち私には通用しない!」
その言葉通り、エルミナは木剣を構えてアミナの攻撃に備える。
相手の刀身はただの炭、こちらは新品同様の木剣。
アミナに勝てるハズも無い、剣同士が触れた瞬間弾いて終わりだ。
そう思考していた。
そして、アミナとエルミナの木剣がぶつかる。
「詰みだ」とエルミナがアミナの木剣を弾こうとした瞬間、エルミナの木剣にヒビが入り、メキメキと音を立てて砕けた。
「なっ……!?」
振り抜かれてくるアミナの木剣を脇の横で受け止めていたエルミナは、自身の木剣が折れた事で脇腹にアミナの木剣による鋭い一撃が入り、「くはっ」と咳き込み、そのまま広場の中央へと飛んでいった。
緊張から変わり、今度は静寂だけが広場全体を包み込む。
そしてその一撃を放ったアミナは「ふぅ」と一息ついて立ち上がった。
「一撃入れました。私の勝ちですね」
しかし静寂は終わらない……と思っていたが、とある一言によって、その静寂は崩された。
「お姉ちゃんが勝ったぁ!」
それは少女の声だった。
その少女は、アミナが土鍋を直してあげた時の少女だった。
そして、静寂にその声が響き渡ると、観客達が雄々しい声を上げて広場を歓声の渦の中央とした。
「うおぉぉ!!すげぇぇ!!」
「お嬢ちゃんがエルミナ様に勝ったぞ!!!」
「アミナちゃんすげぇよ!!」
先程までエルミナの味方をしていた住人や冒険者達が、一斉にアミナコールをする。
流石に気恥しいが、勝ったのは気分がいい。
少しだけ胸を張りたい気分だったアミナはその気持ちを置いておいて、エルミナの方へと歩いていった。
しかしとうの昔にエルミナは座っており、俯いていた。
そのなんとも言い難い雰囲気はとても話しかけにくかった。
流石のアミナも気を使わざるを得ない。
「あ、あのぉ……エルミナさん……」
エルミナは震えていて何も答えない。
気まずさだけが二人の間に発生し、他の人々は目の前で起こった素晴らしい戦いに歓喜しているだけだった。
その笑い声達がエルミナへの当てつけになっているとも知らず。
「その……私、不意打ちした訳ですし、今回の勝負は引き分けでいいですよ。……だから早く解散しましょ?ね?」
アミナが彼女の中で最大限の配慮をしながら言葉をかける。
するとどんどんエルミナの震えは大きくなっていった。
やばい……これ泣いてるのか?と、アミナは一歩引き下がった。
そりゃそうだよな。
あんだけ期待されてたのに結果的にモテ囃されてるの私だし……。
でも負けるのだって癪だったし、法律まで持ち出されたら勝つしかないし……。
あぁ……この人、難儀過ぎる。
面倒臭そうな顔をしながら慰めをしているアミナだったが、次の瞬間にその表情は更に歪む事になった。
突然エルミナが顔を上げたと思ったら、その表情はトロンととろけているかのようにだらしなく垂れ下がっており、先程のキリッとした表情の面影はほんの少ししかない。
「〜〜〜〜〜ッ!!やっぱり貴女は凄い人だ!!燃え尽きて炭となった木でどうやって私の剣を砕いたのだ!?」
グイグイと来る彼女に思わず後退りしてしまったアミナは、反った態勢のまま答えた。
「あ、あれは炭素の結合角を変えて硬く……」
「なるほど!言っている意味はさっぱり分からないがそんな事を戦闘中によく思いつくものだな!!」
アミナはいい加減うんざりし、耳を塞いで体をさらに反らした。
食い気味に言うくせに内容全然理解しようとしてくれない……!!
心配して損したぁ……!!
よく分からない理由から始まった無職vs女傑の決闘は、アミナの勝利で幕を閉じた。
しかしまだ一悶着あるという事を、この時のアミナは知る由もなかった。
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