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第三章 6話『『元』究極メイド、様子を見る』



 視界は良好、被った布から覗く景色はまるで、この大陸に来てすぐに作ったデザートウルフの毛皮のマントを思い出す。

 隠れた頭を左右に振って周囲を見回す。


 村人達は数日前にゾフトを追い回したハズだが、何事も無かったかのように日常を過している。

 どこか緊張した様子も、殺気を振りまいている様子も無い。

 和気あいあいと歓談し、遊び、商売をし、旅人に扮したアミナ達を物珍しそうに見ている。


 途中、ゾフトが言っていた白と黒の翼とゼゴットと名の記された刻印がされた店の看板を見かけた。

 どうやら本当に加工品などを多く作っているようで、店頭にも多くの加工品が並んでいた。


 すると突然、メイがアミナの頭を上から鷲掴みにし、正面に向き直させた。


「顔が動き過ぎだ。マントの上からでも見えるぞ。周囲を見る時は目だけで見ろ」


 メイはそう呟いてアミナに注意する。

 頭をあまり動かさないように意識していたアミナだったが、どうやらメイから見れば違和感だらけだったらしい。

 何も言わずに頷くと、アミナは改めて目だけを周辺に巡らせた。


「おや、そこのお2人さん。旅の途中かい?」


 道を歩いていたアミナとメイに声がかけられる。

 声の方向を見ると、そこにはどこにでもいそうな老婆が椅子に座っていた。


「はい、そうなんです。宿を探すついでに街を見て回っているんです」


 アミナは性格上その声掛けを無視出来ず、そのまま答えた。

 だがメイもアミナのそれを止め無かった。

 街の住人の誰かしらとコミュニケーションを取っておけば今後どこかで有利に働く可能性が大きいと睨んだからだ。


「そうかいそうかい。宿屋はこの道を真っ直ぐ進んで右側に見えてくるハズだよ」


 老婆は親切に答えた。

 彼女の言葉を素直に受け止め、アミナはお礼を言い、メイは1つ頭を軽く下げてその場を去った。


「今度はウチのお店に来ておくれよー」


 老婆は笑顔で手を振り、2人に向かって言った。



 老婆の元から歩いて数十歩。

 彼女には聞こえない程の声と距離で2人は会話を始めた。


「あのおばあちゃんから何か感じ取りましたか……?」


「いや、敵意や悪意どころか好意しか感じねぇ。村人に裏はねぇ……って判断するには早ぇかもしれねぇが、教祖の一言であれが急変するってのも変な話ではあるな」


 メイは自身のスキルである『悪喰』の特性を利用し、向けられているものが悪意かどうかを判別していた。

 向けられた悪意や敵意によって身体能力が上下する『悪喰』で、身体能力が下がったとメイが感じ取ればそれは善意や好意。逆に身体能力が向上すればそれは悪意や敵意と判断できる。

 それは隠そうと思っても隠せない為、村人の本意が自ずと分かるという訳だ。


 だが今のところ、メイに向けられている視線や言葉に乗せられている感情は、敵意や悪意などでは無く、疑問や疑いのものがほとんどだった為、身体能力の上下は微々たるものだった。



 そのまま2人は道なりに歩き、宿屋へと到着した。

 そして受け付けを難なく済ませ、2階にある部屋へと案内された。

 無論その時も『悪喰』にて確認をしたが、敵意や悪意は感じとれなかった。


 宿屋の部屋は、さほど広くはなかったが、簡素でありながら清潔に整えられていた。

 窓からは村の一部と遠くに森の端が見え、涼やかな風が薄く開けられた窓から吹き込んでいた。


「……ふぅ、とりあえず一息ですね」


 アミナがマントを外してベッドの端に腰掛け、軽く足をぶらつかせる。

 メイは無言で扉の鍵を確かめ、部屋の隅に鞄を置いたあと、窓辺に立って外を一瞥した。


「なあアミナ。あの村の雰囲気、どう思った?」


「……正直、拍子抜けって感じですね。ゾフトさんの話から想像していたより、ずっと普通の村だった」


 アミナは胸元で両手を組み、足を止めた。


「みんな明るくて、穏やかで、まるで追い回したなんてなかったみたいな顔してて……逆に怖いなって」


「私も同感だ」


 メイは窓を閉じ、椅子に腰掛けた。背もたれに体重を預けつつも、油断のない姿勢は崩していない。


「ただな、今のところスキルに引っかかる奴はいねぇ。誰も明確な敵意を持ってる訳じゃねぇんだ」


「じゃあ、ゾフトさんが言ってた事は……?」


「嘘じゃねぇとは思う。あいつの反応は本気だった。問題は何がどうして村人の態度を変えたのか、だ」


 アミナはうつむいて考え込む。

 するとアミナは懐から小さなノートを取り出し、短くメモを取っていた。


「まず整理しよう。ゾフトの話では、死んだ姉が生き返ったと。それが教祖様の奇跡だって事になった」


「はい。それで教祖様に異を唱えたゾフトさんは優しかった村人達から命まで狙われたって……」


「つまり村人にとってその現象は当たり前って事になる。だが変な事に今の村には信仰に傾倒しすぎてる雰囲気もねぇし、教祖の名前を出してる村人すらいねぇ」


 アミナは思い返してみた。

 確かに彼女の言う通り、話しかけてきた老婆や雑談をしている村人達、宿屋の女将さんまで誰もアルダナ教の話はしていなかった。


 黒と白の翼をかたどった刻印は破壊と創造を模した物だとゾフトから聞いたが、堂々と店の看板に使用されていた。

 だがその大元であるアルダナ教の話は一言も出てきていない。

 仮にもここはアルダナ教総本山であるハズにも関わらずだ。

 その違和感がアミナの頭から離れなかった。


「……確かに。それに、もし洗脳みたいなものがあるのなら、もっと統一感があってもいいハズ。なのにあの違和感のないバラバラ感……何事も無かったかのような日常の様子……」


 メイはふっと目を細めた。


「記憶操作の類か……それとも、教祖の力そのものが心を変えるのか……」


 答えの出ない疑問を口にしても、部屋の空気はただ静かに澄んでいた。


 やがて、メイが再び立ち上がった。


「アミナ。しばらく別行動だ」


「え?」


「私は宿に残って上から村人を見てる。お前は村を回って情報を集めてくれ」


「……それは別に構わないんですけど……ゾフトさんの話が本当なら、1人で動いたら変に嗅ぎ回ってると思われて、お互いに目をつけられるかもしれませんよ?」


「その辺は大丈夫だ。逆に考えろ。怪しいと村人が思うなら、宿屋にずっといる私は監視しやすい。つまりいくつかの目はこっちで引き受けられる。その間にお前が街に繰り出してくれればいい。それに、こういうのはお前の方が得意だろ?」


 メイはニッと片目を細めて笑う。

 確かにメイは誰とでも分け隔てなく喋れるが、返ってそれが欠点となる場合もある。

 アミナならば、一定の距離感を保ちつつコミュニケーションを取れる為、この場合はアミナの方が適していた。


「じゃあ、メイさんは何をしてるんですか?」


「そうだな……情報を整理して、ゾフトの証言と今日見た村の様子の違いをまとめておくかな。あと、もし宿に村人が来たら、軽く会話して様子を見ておく。それと、上から村の様子観察するくらいだな。誰かが見てきたら、愛想良く返してみせるさ」


「……分かりました」


 アミナは不服そうながらも、小さく頷いた。

 そして部屋の出入口へと近づき、マントを片手に取る。


「ではメイさん、気をつけてくださいね」


「もちろんだ。アミナの方こそ、油断すんなよ」


 そう言って、アミナは再びフードを深く被り、部屋を出て行った。

 扉が静かに閉まり、メイは一人部屋に残された。


 少しの違和感を感じながらも、彼女は机の上にアミナの持ち込んだノートを開き、今日の出来事を整理し始めた。


 部屋には紙をめくる音と、遠くから聞こえる村人の笑い声が、静かに交錯していた。




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