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第二章 103話『開戦の火蓋』

よろしければブックマークや感想の方よろしくお願いします〜!

先日の通信障害の影響で更新が遅れてしまいました!

申し訳ありません……!!



 帝都・パラディンから徒歩での進軍により数時間。

 次第に地面が柔らかい土から、光を鈍く反射する硬い物へと変わっていく感覚が、徒歩の騎士団員の足裏に感じさせた。


 そこでは馬も歩きづらいようで、鉄鉱平原と土の大地の間に丁度いい広さの平原が広がっていた為、そこに拠点を立て、明朝の開戦までそこで休憩と騎士団員の編隊の確認をする事にした。


「こちらベルリオ・ナーダ。こちらは鉄鉱平原の手前まで到着した。そっちはどうだ」


『はい。問題ありません。既に拠点の設置を終え、それぞれが配置についております』


 ベルリオが声をかけた水晶から声が返ってくる。

 どうやら順調に事は進んでいるようで、ベルリオがいなくてもしっかりやっているようだった。

 今更だが、流石俺の部下達だ。と自慢の部下達に鼻高々……といきたい所だったが、今はそんな場合では無いのをベルリオは知っている。


「我々も配置につくぞ!第1師団はメイ殿と共に鉄鉱平原東!第3師団はフィアレーヌ殿と俺と共に鉄鉱平原の西!そして第7師団はアミナ殿と共に鉄鉱平原の中央へと向かう!ここで別れる者もいる!その為今のうちに言っておく!」


 ベルリオはそれぞれの担当する方向に向かおうとしている騎士団員全員の耳に聞こえるように大きく息を吸い込み、胸を膨らませて全てを一気に吐き出す。


「絶対に死ぬな!!それが俺からの、唯一の命令だ!」


「はい!ベルリオ総団長もどうかお気をつけて!!」


 その言葉を噛み締めつつ、ベルリオは自身が共に行く第3師団以外の者を送り出していく。

 途中、メイの元へと近づき、一言発する。


「貴女との決着はまた今度となりそうだ」


「あぁ、私も生意気なガキンチョを分からせられなくて残念だぜ」


 メイは煽り口調で再びベルリオの意思に薪を焚べた。

 しかし、ベルリオはその挑発に乗るどころか、黙ってメイに頭を下げた。


「メイ殿――。どうか、俺の部下達をよろしくお願いします」


 突然の黙礼に一本取られたメイは鼻で笑い飛ばし「あぁ。どーんと任せとけ」と言った後に、「もう、あんな失態はしねぇからよ」と暗い表情で低く呟き、第1師団を率いて鉄鉱平原の東の方角へと消えていった。


 その後、ベルリオは拠点の中で鉄鉱平原の地図を広げて唸っているネブロへと挨拶をしに向かった。


「ネブロ大臣、それでは我々も行って参ります」


「あぁ。お前ばかりに危険な役を押し付け、すまないと思っている」


「いえ。それが俺の役割だと思っていますから。……それに、俺より辛い思いをしている人が、同じ戦場に誰の手も借りずに立とうとしているのです。俺だけ危険だなんて言ってられませんよ」


 最初に右手の義手、次に拠点のテントの入口の方へと目を向ける。入口は開いていなかったが、その視線の先には鉄鉱平原の中央へと向かおうとしてるアミナがいるのを、ベルリオの耳は捉えていた。


「……そうだったな。ベルリオ、お前も決して死んではならんぞ。命は等しく平等じゃ。お前であろうと、一般の騎士であろうと。同じ重さじゃ。私にとってそのどちらを失う事も、等しく痛みを感じるのだと自覚しておいてくれ。……ホッホ、お前には必要のない説教だったな」


 ネブロは時折訓練場に顔を出していた。その為ベルリオの日々の鍛錬には、彼のものもいくつも含まれていた。

 その為性格が似ている所があった。

 ネブロは、自身の感情的になりやすい所がベルリオにも感染ってしまっているのでは無いかと心配してこの言葉をかけたのだ。


 しかしその心配の必要は無く、ベルリオは笑顔でテントを出ながらネブロへと言う。


「安心して下さい。俺は自分の命を犠牲にして全部を助けたりしません。俺がちゃんと救われてから、他の人を救いますよ。俺は死なないって決めたので」


「ホッホ。バルグレア会戦で仲間を助ける為に第一線へと向かい、イーリルの助け無ければ死んでいた男がよく言うわい」


 テントを出る直前、「だからですよ」とだけ言い残し、ベルリオはフィーを引き連れて、鉄鉱平原の西へと歩みを始めた。


 そして最後、拠点に未だ残っていたアミナは、持たされていた重い水や食料を他の騎士団員へと預け、1人で地図で見た鉄鉱平原の中央付近の仮拠点地へ向かう。


「あのぅ……アミナ殿?食料の方は……?」


「……私には必要ありません。私の分も配分して下さい」


「いやしかし、それではアミナ殿が……」


 心配した騎士団員がアミナへと再び声をかけるが、アミナはその話を最後まで聞かずに遮る。


「私の心配は無用です。皆さんはベルリオさんに言われた事だけを守っていて下さい」


 それだけを言ってただ真っ直ぐに進んでいく。

 その姿は勇ましく、勇敢さを兼ね備えていたが、同時に死に急いでいる人間特有の、中途半端な無謀さも感じられた。

 無自覚の死に急ぎ。それは無自覚故に本人は穴の無い計画を立てたつもりでいるが、実際にはいつどこで死んでもおかしくないような場面がいくつもある。

 中途半端な無謀とはそういう事なのだ。


 しかし騎士団員達は、黙ってアミナについて行く。

 その理由は、単にアミナが自分達のリーダーだからでは無い。アミナに同行する第7師団の騎士団員達は、出撃直前にベルリオからこう言われていた。



『アミナ殿を頼んだぞ。あの人を決して1人にするな』


 それを言った後、ベルリオは頭を下げた。

 全ての騎士団員を束ねる総団長が、束ねられている騎士団員の一部へと頭を下げたのだ。

 それがどれだけの事を示すのか。傍から見ればとんでもない光景であった。


 自分達が志している地位にいる総団長に頭を下げさせるような事をしたアミナをよく思わない者もいるだろう。

 そんな可能性すら有り得そうで、ベルリオはただ頭を下げていた。

 自分が傷つくならいい。ただアミナがこれ以上心に傷を受けるのはあってはならない。ベルリオはそう考えていたのだ。


 だが、騎士団員達は顔を見合わせると笑顔になり、ベルリオに対して『なぁに頭下げてるんですか』と言った。


『言われなくても、それぐらい分かってますよ!俺達だってアミナ殿には感謝してるんです!』


『そうです!だから総団長は、安心して俺達に背中預けて下さい!』


 と次々言葉を発した。

 言葉が詰まってしまったベルリオは一度ニヤリと笑い、『生意気な野郎共だ……』と呟き、彼等と肩を組み、その後出撃したのだった。



 アミナに置いていかれた騎士団員達は、それぞれ顔を見合せて頷く。


「俺達でアミナ殿を守るぞ!」


「あぁ!アミナ殿がベルリオ総団長に言われた事を守れって言うなら、俺達はそれに従うだけだぜ!」


「今こそ第7師団の力を見せる時だ!」

 

 それぞれが拳を突き上げて声を出したが、先に歩いているアミナには気づく余地は無かった。

 するとそこに「全くお前達は……」と呆れた声を出した者がいた。


「あ、ムター師団長。いたんですか」


 1人にの騎士団員に存在がいた事すら分からなかったのを指摘されると、ムターと呼ばれた男は額に血管を浮かべる。


「いたんですか、じゃあない!!はぁ……私はお前達の上官だぞ。いくら今はアミナ殿が隊長だからとはいえもっと敬いをだな……」


「いーじゃないですか別にー。今貴方は俺達と立場は同じなんですからぁー」

「そーですよ。強さだって俺達より強いか怪しいじゃないですかー」


 と騎士団員達はムターに近寄りベタベタとした。

 普段からこんな調子なのだろう。舐めた態度をとった部下達の対応が面倒臭くなり、ムターは黙ってため息をついただけだった。


「だが真面目な話、アミナ殿は死守するぞ。これは師団長としての命令じゃない。1人の男として、1人の人間として、彼女を守るんだ。……いいな」


 ムターのその真剣な表情をした真剣な言葉に、一同は頷き、引き続きアミナが歩いていった方向へと歩みを進めた。



―――



 帝都・パラディンから徒歩での進軍により数時間。

 次第に地面が柔らかい土から、光を鈍く反射する硬い物へと変わっていく感覚が、徒歩の騎士団員の足裏に感じさせた。


 そこでは馬も歩きづらいようで、鉄鉱平原と土の大地の間に丁度いい広さの平原が広がっていた為、そこに拠点を立て、明朝の開戦までそこで休憩と騎士団員の編隊の確認をする事にした。


「こちらベルリオ・ナーダ。こちらは鉄鉱平原の手前まで到着した。そっちはどうだ」


『はい。問題ありません。既に拠点の設置を終え、それぞれが配置についております』


 ベルリオが声をかけた水晶から声が返ってくる。

 どうやら順調に事は進んでいるようで、ベルリオがいなくてもしっかりやっているようだった。

 今更だが、流石俺の部下達だ。と自慢の部下達に鼻高々……といきたい所だったが、今はそんな場合では無いのをベルリオは知っている。


「我々も配置につくぞ!第1師団はメイ殿と共に鉄鉱平原東!第3師団はフィアレーヌ殿と俺と共に鉄鉱平原の西!そして第7師団はアミナ殿と共に鉄鉱平原の中央へと向かう!ここで別れる者もいる!その為今のうちに言っておく!」


 ベルリオはそれぞれの担当する方向に向かおうとしている騎士団員全員の耳に聞こえるように大きく息を吸い込み、胸を膨らませて全てを一気に吐き出す。


「絶対に死ぬな!!それが俺からの、唯一の命令だ!」


「はい!ベルリオ総団長もどうかお気をつけて!!」


 その言葉を噛み締めつつ、ベルリオは自身が共に行く第3師団以外の者を送り出していく。

 途中、メイの元へと近づき、一言発する。


「貴女との決着はまた今度となりそうだ」


「あぁ、私も生意気なガキンチョを分からせられなくて残念だぜ」


 メイは煽り口調で再びベルリオの意思に薪を焚べた。

 しかし、ベルリオはその挑発に乗るどころか、黙ってメイに頭を下げた。


「メイ殿――。どうか、俺の部下達をよろしくお願いします」


 突然の黙礼に一本取られたメイは鼻で笑い飛ばし「あぁ。どーんと任せとけ」と言った後に、「もう、あんな失態はしねぇからよ」と暗い表情で低く呟き、第1師団を率いて鉄鉱平原の東の方角へと消えていった。


 その後、ベルリオは拠点の中で鉄鉱平原の地図を広げて唸っているネブロへと挨拶をしに向かった。


「ネブロ大臣、それでは我々も行って参ります」


「あぁ。お前ばかりに危険な役を押し付け、すまないと思っている」


「いえ。それが俺の役割だと思っていますから。……それに、俺より辛い思いをしている人が、同じ戦場に誰の手も借りずに立とうとしているのです。俺だけ危険だなんて言ってられませんよ」


 最初に右手の義手、次に拠点のテントの入口の方へと目を向ける。入口は開いていなかったが、その視線の先には鉄鉱平原の中央へと向かおうとしてるアミナがいるのを、ベルリオの耳は捉えていた。


「……そうだったな。ベルリオ、お前も決して死んではならんぞ。命は等しく平等じゃ。お前であろうと、一般の騎士であろうと。同じ重さじゃ。私にとってそのどちらを失う事も、等しく痛みを感じるのだと自覚しておいてくれ。……ホッホ、お前には必要のない説教だったな」


 ネブロは時折訓練場に顔を出していた。その為ベルリオの日々の鍛錬には、彼のものもいくつも含まれていた。

 その為性格が似ている所があった。

 ネブロは、自身の感情的になりやすい所がベルリオにも感染ってしまっているのでは無いかと心配してこの言葉をかけたのだ。


 しかしその心配の必要は無く、ベルリオは笑顔でテントを出ながらネブロへと言う。


「安心して下さい。俺は自分の命を犠牲にして全部を助けたりしません。俺がちゃんと救われてから、他の人を救いますよ。俺は死なないって決めたので」


「ホッホ。バルグレア会戦で仲間を助ける為に第一線へと向かい、イーリルの助け無ければ死んでいた男がよく言うわい」


 テントを出る直前、「だからですよ」とだけ言い残し、ベルリオはフィーを引き連れて、鉄鉱平原の西へと歩みを始めた。


 そして最後、拠点に未だ残っていたアミナは、持たされていた重い水や食料を他の騎士団員へと預け、1人で地図で見た鉄鉱平原の中央付近の仮拠点地へ向かう。


「あのぅ……アミナ殿?食料の方は……?」


「……私には必要ありません。私の分も配分して下さい」


「いやしかし、それではアミナ殿が……」


 心配した騎士団員がアミナへと再び声をかけるが、アミナはその話を最後まで聞かずに遮る。


「私の心配は無用です。皆さんはベルリオさんに言われた事だけを守っていて下さい」


 それだけを言ってただ真っ直ぐに進んでいく。

 その姿は勇ましく、勇敢さを兼ね備えていたが、同時に死に急いでいる人間特有の、中途半端な無謀さも感じられた。

 無自覚の死に急ぎ。それは無自覚故に本人は穴の無い計画を立てたつもりでいるが、実際にはいつどこで死んでもおかしくないような場面がいくつもある。

 中途半端な無謀とはそういう事なのだ。


 しかし騎士団員達は、黙ってアミナについて行く。

 その理由は、単にアミナが自分達のリーダーだからでは無い。アミナに同行する第7師団の騎士団員達は、出撃直前にベルリオからこう言われていた。



『アミナ殿を頼んだぞ。あの人を決して1人にするな』


 それを言った後、ベルリオは頭を下げた。

 全ての騎士団員を束ねる総団長が、束ねられている騎士団員の一部へと頭を下げたのだ。

 それがどれだけの事を示すのか。傍から見ればとんでもない光景であった。


 自分達が志している地位にいる総団長に頭を下げさせるような事をしたアミナをよく思わない者もいるだろう。

 そんな可能性すら有り得そうで、ベルリオはただ頭を下げていた。

 自分が傷つくならいい。ただアミナがこれ以上心に傷を受けるのはあってはならない。ベルリオはそう考えていたのだ。


 だが、騎士団員達は顔を見合わせると笑顔になり、ベルリオに対して『なぁに頭下げてるんですか』と言った。


『言われなくても、それぐらい分かってますよ!俺達だってアミナ殿には感謝してるんです!』


『そうです!だから総団長は、安心して俺達に背中預けて下さい!』


 と次々言葉を発した。

 言葉が詰まってしまったベルリオは一度ニヤリと笑い、『生意気な野郎共だ……』と呟き、彼等と肩を組み、その後に出撃したのだった。



 アミナに置いていかれた騎士団員達は、それぞれ顔を見合せて頷く。


「俺達でアミナ殿を守るぞ!」


「あぁ!アミナ殿がベルリオ総団長に言われた事を守れって言うなら、俺達はそれに従うだけだぜ!」


「今こそ第7師団の力を見せる時だ!」

 

 それぞれが拳を突き上げて声を出したが、先に歩いているアミナには気づく余地は無かった。

 するとそこに「全くお前達は……」と呆れた声を出した者がいた。


「あ、ムター師団長。いたんですか」


 1人にの騎士団員に存在がいた事すら分からなかったのを指摘されると、ムターと呼ばれた男は額に血管を浮かべる。


「いたんですか、じゃあない!!はぁ……私はお前達の上官だぞ。いくら今はアミナ殿が隊長だからとはいえもっと敬いをだな……」


「いーじゃないですか別にー。今貴方は俺達と立場は同じなんですからぁー」

「そーですよ。強さだって俺達より強いか怪しいじゃないですかー」


 と騎士団員達はムターに近寄りベタベタとした。

 普段からこんな調子なのだろう。舐めた態度をとった部下達の対応が面倒臭くなり、ムターは黙ってため息をついただけだった。


「だが真面目な話、アミナ殿は死守するぞ。これは師団長としての命令じゃない。1人の男として、1人の人間として、彼女を守るんだ。……いいな」


 ムターのその真剣な表情をした真剣な言葉に、一同は頷き、引き続きアミナが歩いていった方向へと歩みを進めた。



―――



 一方ククルセイの聖騎士団は、鉄鋼平原の手前で既に配置を終え、手配されて来た者達の対応をしていた。

 日はすっかり落ち始め、黄昏時特有の橙色の光が鉄鉱平原の鉄鉱石を眩しく反射していた。


「おぉ!よくぞ来てくれました!貴女が、レリックで知らぬ者がいないと噂の女傑エルミナ殿ですね!」


 ククルセイの聖騎士団団長が、エルミナとギーラとケイの3人へと握手を求めて手を差し出す。

 エルミナはそれに応じ、彼女に続いてギーラもケイも握手する。


「つい先程、国王様からこちらに向かわれたと聞き及んでおりましたが、まさかここまでお早いとは……!」


「あぁ、超高位魔法であるワープを使用した。うちの魔法使いは優秀でね」


 そう言ってエルミナはケイの頭に手を置いて撫でる。

 エルミナの身長が178なのに対し、ケイの身長は

145。まるで親子のようなサイズ感と対応にケイは恥ずかしさと嬉しさで頬を赤く染めた。


 レリック王都から数分かからずにエルミナ達はその場に登場した為、ククルセイの聖騎士団団長は疑問に思ったが、実際にはケイの魔法の技術が向上していただけだった。


「それで、状況はどうなっている?明朝のこちらが撃ち出す魔力の塊が習わしだと聞いているが」


「はい。今回の件に関してはコルネロが100悪い状況なので、宣戦布告を受けたのは我々ククルセイという事になっています。ですので、宣戦布告を受けた側が開戦の合図を上げるのという規則に則り、それによって戦争が始まります」


「なるほど……。宣戦布告を敵国がしてきたという事は相手にはそれなりの準備が整っているという事……。だから宣戦布告を受けた側のタイミングで開戦の合図を上げるという事なのだな。もし仮に宣戦布告をした側が開戦の合図を上げようものなら、敵国の準備が整う前に制圧してしまえばいいだけになってしまうしな」


 エルミナが顎に手を添えて考える。

 彼女の考察はその通りで、敵対している国であろうとその間に規則は存在し、公平性を維持する為にそれは義務付けられている。そしてそれ等全てを取りまとめ、仕切っているのが、この大陸の中央に佇む、起源王朝・マーモなのである。


「流石エルミナ殿!その場の状況を一瞬で判断する洞察力!流石の慧眼ですな!」


「いや、この程度大した事じゃない。貴方から聞いた事を自分なりに理解して考え直しただけだ」


 褒めたのに軽くあしらわれた聖騎士団長は苦笑いをしてから気を取り直し、再びエルミナへと言葉をかける。


「そ、それではエルミナ殿にこちらから命令を……」


 そう言った途端、ギーラの鋭い目が聖騎士団長を睨みつけた。

 彼の巨体が放つプレッシャーは凄まじく、聖騎士団長は無様にも怯んでいる様子だった。


「あ?命令だと?」


「は、はい……。一応派遣されてきた皆様は私の部下という事になっておりますので……」


「チッ。誰がお前等の部下だ。こちとらレリックの国王様の言葉が無きゃそもそも来てねぇんだぞ。エルミナに対してもっとそれ相応の態度をだな……」


 ギーラが顔を近づけて言う。

 しかしエルミナは「やめろギーラ」と彼を制止した後「行くぞ」と言って聖騎士団長の元から歩き去ろうとしていた。


「ちょっとお待ちを……!!」と引き留めようとする彼に少しだけ振り返り、呟く。


「一つ、貴方の考えを正そう。私は貴方の命令では動かない。我々冒険者は、己の信じるものは己で決めるのだ。そしてその対象が貴方に向く事は決して無い。……努々忘れるな」


 そう言い残して彼女は2人を置いて先に歩いていった。

 ギーラは聖騎士団長に向かって「あんまりウチの大将舐めんなよ」と言い残して彼女に続いて歩き、ケイは「すみません、粗暴な人達なので……」と頭を下げてから小走りでエルミナの元へと戻っていった。


「………」


 3人がいなくなった後、その場に取り残された聖騎士団長は先程のエルミナ達の態度が気に食わなかったのか、腰に携えていた剣を地面に投げつけて地団駄を踏んだ。


「くそっ!!冒険者風情が生意気を言いおって……!!」


 そして数度地面を踏みつけた後、エルミナ達が歩き去った方向を睨みつけ、落ち着く為にため息を付く。


「はぁ……。まぁいい。あいつ等の機嫌を取るのは俺の仕事では無いしな。……さて、役者は揃った。コルネロ帝国のグズ共め……。今度こそ、貴様等を滅ぼしてくれる……!!」


 聖騎士団長は役職に全くそぐわない言葉を発し、彼等の拠点であるテントの中へと姿を消していった。




―――



 そして時は、無情にもあっという間に過ぎ去った。深く、静かに。

 世界がまだ眠っている時間――夜明け前。空の端が仄かに白んでいるにもかかわらず、まだ星は幾つか残っていた。遠く、冷たい風が草の海をなでてゆき、吐く息は白く、その輪郭すらもすぐに消える。


 その場には、二つの軍勢が並び立っていた。


 一方は重厚な鉄と黒革に身を包んだ、コルネロ王国の武装騎士団。もう一方は、純白と金の装飾を纏ったククルセイ神聖騎士団。互いに相容れぬはずの両者が、同じ丘の上に、同じ地面に、奇妙な沈黙の中で佇んでいる。

 誰も声を発さない。だが、そこにあるのは敵意ではなく、ただただ、待機の姿勢。――合図が来る、その瞬間を待つという、無言の意志。


 空気は緊張と共に張り詰めていた。耳を澄ませば、鎧がわずかに軋む音、風に揺れる旗のひそやかなはためき。足元の霜を踏む音すら、まるで禁じられたように響く。

 兵たちは無言で剣に手を添え、槍を立てたまま、遠くを見据えている。顔には光が乏しく、影ばかりが落ちる。だがその目は、闇を貫く鋭さを持っていた。目を逸らす者はいない。逃げる者もいない。ただ、その時を待つ。


 やや離れた場所には、馬上の者たちもいた。指揮官達。どちらの軍にも年若い騎士の姿が混じっていたが、その顔には迷いがなかった。年齢ではない、彼らはもう覚悟を終えていた。

 コルネロの黒兜の一団は風に揺れる羽飾りをわずかに震わせ、ククルセイの白鎧の騎士たちはそれに応えるように手綱を握る指に力を込める。互いを見やる者はいない。むしろ意識して、見ようとはしていないようだった。視線は前方――共通の敵が待つ平原。


 そして、不意に風向きが変わった。雲が流れ、星がいくつか見えなくなる。代わりに、東の空がほんの少しだけ、橙に染まる。夜が明けようとしていた。


 その瞬間、誰ともなく姿勢が変わった。

 まるでその光が、何かの始まりを告げたかのように。

 旗手が手綱を正す。馬が小さくいななき、地を蹄で叩く。だが、それでも誰も動かない。まだ、合図は来ていない。


 両軍の騎士たちは、まるで鏡合わせのように同じ構えを取っていた。

 黒と白。剣と祈り。鉄と信仰。敵対する色が、いまは同じ夜明けを待っている。


 それぞれの軍の中央。数人の騎士が懐から何かを取り出す。

 それは、光を宿す石。

 同じもの。――国も違えば、信じる神も違うはずの両国の者たちが、手にするものはまったく同じ光を放っていた。温度のない冷たい輝き。だが、それが確かに「同じ」ものであることに、誰もが気づいていた。


 夜が明ける。空は橙から薄青へ。足元の霜が解け、草が濡れる。

 空が完全に白みきる、そのほんの一歩手前――。


 風が一瞬、止んだ。

 旗が揺れず、馬の鬣も凪いだ。すべてが、まるで時間そのものに呼吸を止められたかのように静まった。


 そして、丘の頂に立つ、ククルセイの旗手が腕を掲げた。

 白銀の装飾が朝の光を受けて、一瞬だけ鋭くきらめく。

 次の瞬間、空に向けて放たれたのは――矢でも剣でもない、聖なる光。


 青白い閃光が夜明けの空を切り裂いた。

 高く、眩く、どこまでも真っ直ぐに。まるで神への宣誓か、天へと届く怒りの槍か。

 それは間違いなく、すべての者にとって「始まり」を告げるものだった。


 その光に、コルネロの黒き旗が静かに翻る。

 誰も叫ばない。だが、誰もが同時に動き出す。


 蹄が地を打ち、鎧が吠える。

 長く張り詰めていた沈黙は、わずか一閃の光によって破られた。


「全軍!!突撃ぃ!!!」


 男共の野太い声が怒号となって放たれ、地面を踏み荒らして進んでいく。

 武器を振り抜き各々が全うすべき役割を熟そうと目を血走らせている。

 

 コルネロとククルセイ。

 ――満を持して、その2つの国の間の戦争の火蓋が、切って落とされた瞬間だった。




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