第一章 12話『『元』究極メイド、成果を確認する』
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今度は正午になる前にスターターに到着することが出来た。
それもそのハズだった。
なぜなら、今のアミナは徒歩ではない。
彼女はとある魔物の上に乗り、移動していたのだ。
その魔物は、柔らかく輝く毛並みは月明かりを纏ったかのようで、どんな猛者でも思わず触りたくなるほどの魅力を放つ。
しかし、黄金色に光る瞳には獰猛さと知性が宿り、目が合うだけで動きを封じられたかのような威圧感を感じる。
鋭く大きな牙と爪は岩をも砕く威力を秘め、動きは巨大な体躯に似合わないほど俊敏。
筋肉質で魅惑的な四本脚の歩みは静かで、周囲の空気を変えるほどの存在感を持つ。
一方で、時折見せる仕草や動きには、小動物と同じ無邪気さが垣間見える。
毛づくろいをしたり、蝶を追いかける姿はその凶暴さを忘れさせるほど愛らしい。
口から放たれる咆哮は雷鳴にも似た轟音で、敵を震え上がらせるが、気に入った相手には喉を鳴らして懐くという一面も。
恐ろしいほどの力を持ちながらも、どこか可愛らしさを手放さない、矛盾の中に生きる存在である。
「お疲れ様ですフィーちゃん。ここが私の住んでいるスターターという街です。」
フィーちゃんと呼ばれた魔物は巨大な猫型の魔物だ。
その本名、フィアレーヌ・ラピセリア・グランシエル・ノヴァリス・エテルナ。
長い、とにかく長い。
その為アミナはフィーちゃんと呼び、フィアレーヌもそれを了承している。
「さぁ、早くお家に行きましょう」
アミナがそう言ってフィーから降りて街の城門を潜ろうとする。
すると門の横にいた兵士のような人に止められた。
「ちょっとちょっと!困るよお嬢ちゃん!こんな大きな魔物入れたら危ないでしょ?」
「そうそう、その魔物は返してきなさい」
まるで子供が拾ってきた動物を返してこいと言う親のような注意を受けた。
しかしアミナも名前をつけて愛着が湧いてきた為簡単には引き下がらなかった。
「大丈夫ですよ。この子、いい子ですから絶対に噛んだりしません。ほら、こんなにも可愛らしい顔をしているではないですか」
そう言ってアミナはフィーの顔を二人の門番に見るよう促した。
アミナの視線の誘導によって、二人の顔は上へと上がっていき、フィーの顔を見上げる。
二人のむさくるしい男に見つめられ、穏やかだったフィーの顔は険しく、そして恐ろしい形相へと変化していった。
そして二人の門番に向けてとんでもない声量で吠えた。
その咆哮は街周辺にまで轟き、口から吐き出され続ける息と唾液が門番たちを包みこんだ。
フィーが吠え終わると、二人の門番は順番に尻餅をついて後退りをした。
どうやらフィーの威嚇に完全に臆してしまったらしい。
「きっ、貴様!!我々が王都より派遣されていると知っての狼藉か……!!」
「いっ、今すぐ立ち去るがいい!!」
二人は尻餅をつきながらも、自分の体裁をどうにか保とうとして威厳を示そうとした。
最初に口を開いた方は半泣きで、もう片方の声は上ずっていた為、そんなのなんの脅しにもならず、アミナは可笑しくなった
しかし、フィーが入れない事に代わりはなかった為、一旦その場を離れた。
―――
「どうしましょうか。確かにこの大きさだと街の皆様を怯えさせてしまうかもしれませんね。ちゃんと見ればこんなにも可愛いのに……フィーちゃんは災難ですね」
アミナはいつもの斜に構えた態度から一変した様子でフィーと馴れ合う。
スターターに来てから明らかに他者との交流が増え、感情表現も豊かになってきた。
やはりリュウにこの大陸に飛ばされたのは正解だった。
だってこんなにも可愛い友達が出来たから。
「……おっと、こんな事考えてる暇ではありませんね。なんとかしてフィーちゃんを街の中まで入れなくては……」
そう呟きながら、アミナはフィーのいる所へと手を伸ばした。
すると、寄っかかれるものが何もなく、アミナはそのまま転倒してしまった。
「あれ、フィーちゃん?どこですか?」
アミナはフィーのもふもふの毛並みに寄りかかろうとしていたのだが、フィーが居たであろう場所に、巨大な猫の姿はなかった。
その瞬間、アミナはものすごい寒気と焦燥感に駆られた。
ついさっきまで直ぐ側に居たものが急に居なくなった時の焦りは尋常ではない。
祖母や母が死んだ時もそんな感覚に陥った。
「フィーちゃん!!どこですか!!」
アミナは口に手を当てて慣れない大声を出してフィーを呼んだ。
周囲を見回しても巨大な猫の影はない。
もう一度、と息を吸い込んで口から声を出そうとした瞬間、小さな声で「にゃあ」と聞こえた。
「フィーちゃん!?近くにいるんですか!?」
その声にまたしても「にゃあ」と返ってくる。
この声の感じからしてそう遠くない。
かなり近くだ。
それもすぐそばの。
アミナは脚に何かが擦られるような感覚を感じ、スカートを少しだけめくって足元を見た。
するとそこには、アミナの膝までもない程に小さくなったフィーの姿があった。
「フィーちゃん!?なんでそんなに小さいんですか!?」
「みゃあ」
相変わらず何を言っているのかは分からなかったが、アミナの中で一つの推測が立てられた。
それは――
「もしかしてフィーちゃん、小さくなれたりするんですか!?」
その問いかけにフィーはようやく嬉しそうに「にゃあぁ!」と鳴いた。
アミナは先程の門番二人の時より可笑しくなって笑った。
それは高笑いと言うほどではなかったが、少なくともアミナの今までの人生の中では一番大きな可笑しさと安心の籠もった笑いだっただろう。
笑っているアミナを不思議そうに眺めているフィーはアミナのスカートを引っ張った。
それに気がついてアミナは顔を上げる。
どうやら街に入ろうとしているようだ。
「おっと、そうでした。安心ですっかり忘れてしまうところでした。この小ささなら、鞄の中に入っていればバレませんね。……少し狭いですが、我慢してください」
そう言ってアミナは、手のひらサイズほどに小さくなったフィーを鞄の中に入れて、門番の横を通り過ぎた。
門番はアミナが通ろうとするとビクビク怯えていたが、フィーの姿がないと見るに、安心したようにいつもの体勢へと戻った。
ごめんなさい、今魔物が入っちゃいました……!!
アミナは心の中で謝罪しつつ、早足で自分の家まで帰っていった。
―――
「さて、成果の確認から参りましょうか」
家に到着した私は、テーブルに収集物を広げ、一つずつ確認を始めた。
フィーちゃんはテーブルの端にちょこんと座り、興味津々といった様子でこちらを見ている。
小さくなった猫の姿には、危険度の高い魔物だった時の面影はまるで無く、家にいる普通の猫そのものだ。
「まずはこれですね、『リヴァルハーブ』。回復薬の主要素材です。古来よりその生命力を活性化させる性質が知られており、傷の治癒や体力の回復に使われています。明日、自由市場がこの街で開かれるそうなのですが、その時に試作品の回復薬を出品してみようと思います。買って頂いた方から感想を貰って、より本物に近い回復薬を作れるようにしようと思っています」
指先でそっと葉を摘み上げる。
柔らかな緑色の葉にはかすかに甘い香りがあり、それが薬効を象徴しているかのようだ。
「にゃあ」
フィーがちょっと鼻をひくつかせる。
どうやらその香りが気に入ったらしい。
「でも、これだけじゃただの薬草ですから、蒸留や調合が必要になります。私の場合それが必要ないので見せられないのが残念ですが」
そう言ってリヴァルハーブを横に避けた。
続いて、珍しい素材に手を伸ばす。
「こちらは『ブルースパイクの実』です。硬い外皮を割ると、中に青いゼリー状の果肉があります。この果肉には毒を分解する効果があり、解毒剤の調合に最適なんですよ。」
外皮を軽く指で押すと、パリッと音を立ててひびが入る。
中から覗く透明な青が美しく、思わず見入ってしまう。
「ただし、外皮には軽い麻痺作用があるので、素手で触るのは控えた方がいいですね。」
「にゃあ…」
フィーが興味を示して前足を伸ばしかけたが、軽く指で制する。
「触ると痺れますから、ダメですよ。」
アミナはそう言うが、フィーが言いたいのはそこでは無いようだった。
しかしあまりにもしつこく実に触れようとしてきたので、仕方無く机の上に置いて触れさせようとすると、その手はピタリと止まった。
「??どうしたんですか?触らないんですか?」
そして今度は、何故か私の手に触れ始めた。
……そういえば私、フィーちゃんに注意してたのに素手で触ってた。
それに気がついたアミナが手を洗ったのを見て、フィーは満足そうにした。
「き、気を取り直して……」と言って、次は赤みがかった花を手に取る。
「これが『フレイムペタル』。炎属性の魔法を増幅させる触媒として有名です。花びらを乾燥させて粉末状にすると、その効果がより強まるんだそうです」
軽く花を振ると、ふわりと香ばしい香りが漂う。
その香りはどこかエネルギーを感じさせる。
しかしこれまた冒険者に関係する物の為、アミナはその調合や製造を手探りで行わなければならなかった。
やはりこの大陸には冒険者や、過酷な魔物の蔓延る環境に適した植物達が生きているようだ。
「戦闘系の冒険者には重宝されますが、取り扱いには注意が必要です。燃えやすいらしいので、火の近くには置かないように」
「にゃー!」
フィーが楽しそうに尾を振る。どうやらその香りが気に入ったようだ。
「フィーちゃん、これは食べ物じゃないですよ」
そして、少し不思議な見た目の素材を手に取った。
「これは『シルヴァウッドの樹皮』。帰り際にフィーちゃんが拾ってきてくれたやつです。本来は森林の深部でしか採取できない貴重な素材なのですが、フィーちゃんのおかげで手に入りました。この樹皮は魔力の蓄積に優れていて、魔法道具や護符の材料になります」
手触りは驚くほど滑らかで、樹皮というよりも布に近い感触だ。
持つだけで微弱な魔力の脈動を感じる。
普通の木の皮と違うところは、内側に葉っぱ等に見られる葉脈のようなものがあるところだ。
その葉脈のようなものが魔力の蓄積に一役買っているんだそうだ。
「また、湿度に強いので保存もしやすく、しっかり乾燥させれば長期間保管できるんですよ」
そう言って今までの素材達を一旦端に避けた。
そして最後、ちょっと奇妙な素材を広げた。
「これもフィーちゃんが持ってきてくれたやつで『シャドウクラフトの触手』です。闇属性の魔物から取れる素材です。見た目は不気味ですが、遮断の魔法や結界の構築に役立つそうですね」
触手は漆黒の艶を放ち、まるで生きているように微かに揺れているように見える。
そのしかも揺れているように見えるだけのはずなのに妙に不気味で、正直あまり触りたくない部類の素材だった。
「これは浄化しないと魔力が暴走する危険があります。調合には特別な工程が必要だそうです……しかし恐らく!私のスキルならば必要ない可能性もあるので、設計図や図鑑を購入したら、これを使って作れるものを探してみようと思います」
「にゃっ!」
すると突然フィーが驚いたように背中の毛を逆立てる。
自分で取ってきたものに驚くハズも無かったため、アミナはすぐに、それを自身への心配だったのだと理解した。
「大丈夫ですよ、触ると危険なのは私も分かっていますから」
一通り素材の確認が終わり、私は小さく息をついた。
他の鞄に入っている素材達は、特に普通のものと変わらない物だったため、それは様々な素材が置いてある所に置くことにした。
その他の特徴的な素材達は、余っている棚にそれぞれのスペースを設けて保管した。
「さて、これだけの素材があれば、色々と試作が出来そうですね。フィーちゃん、あなたのおかげで助かりましたよ。ありがとうございます」
「にゃあ。」
誇らしげに胸を張るフィーちゃん。
その姿を見て、自然と笑みがこぼれる。
「それではこれより、明日の自由市場に向けて、回復薬を作ってみましょう!」
フィーが嬉しそうに喉を鳴らす音が聞こえ、アミナは早速回復薬を作る準備をせっせと始めた。
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