表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

128/298

第二章 97話『ザストルク防衛戦 最終結果』



「本当に申し訳ない……!!」


 ザストルク本庁舎の町長室に大きな謝罪の声が鳴り響く。地面に頭を擦り付けているイーリルが、立っている全員に対して言った言葉だった。


「お前が謝る必要無ぇって言ってんだろ。さっさと顔上げろ」


 部屋の入口の横に立っているメイが静かに呟く。全員から少し離れている彼女のその表情は前髪で隠れていてよく見えないが、重厚な雰囲気を纏っている事だけは確かだった。


「しかし……!!ヤツ等が使用していた武器は、私が先程使用したこの武器と同じ物です!!」


 イーリルがリグザを撃ち殺した時に使用した魔道銃器の事を示しながら言う。

 そしてその次に魔人会の構成員がカイドウの頭を撃ち抜いたのに使用した魔道銃器の事を今度は示す。

 それはイーリルが使用していた物と形状も構造も、魔力の籠もった弾丸を撃ち出した痕跡すら全てが共通していた。


「黙れ。やめろって言ってんだろ」


 メイが再び諭すように呟く。しかしイーリルは変わらず頭を下げたままだった。


「私がこんなものを作らなければこんな事には……!!」


 イーリルの顔が地面からソファへと移る。

 その先にあったのは、頭を包帯で巻かれ、応急処置を終えたカイドウの姿だった。彼はソファの上で寝ており、テーブルを挟んだ先にはアミナが俯きながら座っていた。


「彼の容態だが……まだ生きてはいる。しかし意識が戻る気配が無い。栄養を摂取させるだけでどれだけ持つか……」


 他の避難所から来た町医者がその場にいる全員に対して言う。

 街の住人は、既に魔人会の危機から逃れた事を知り、避難所から自宅の方や仕事場の事を確認しに出ていったりしていた。その中で町医者をベルリオが連れて来て、今カイドウの手当や状態を確認してもらっていた。


「みゃう……」


 フィーがカイドウの頬を舐める。普段だったらここで気持ちの悪い声を上げるのだが、今はそれすら聞こえてこない。そしてアミナの隣へと座り、彼女の顔を見上げている。


 アミナは何も言葉を発さずにただ俯いていた。その目は大きく見開かれ、瞬き一つしていない。まるで廃人状態だった。カイドウが撃たれてから数十分の間で相当のストレスが溜まったのだと用意に想像できる。


「本当にすまない!!カイドウ殿!!アミナ殿!!」


「よせイーリル。悪いのはお前の技術を悪用した魔人会の連中だ。それにこれが無ければリグザは倒せなかったし、お前はこれを誰にも口外せず1人で作っていた。それが漏れたのには何か理由があるハズだ」


 ベルリオが未だに頭を地面に擦り付けているイーリルの背中に触れながら諭す。

 するとメイが何か思い当たる節があったのか、再び口を開いた。


「メルナス……私が戦った魔人会の最高幹部の野郎は、自分の肉体を魔物や他者、構造や外見そのものを作り変える事が可能だった。そしてあいつは帝都に暫くの間潜入してたとも言っていた。お前がいない間にお前の極秘の試作物を見ていても不思議じゃねぇ」


 メルナスの能力を加味した上での話をメイはした。

 彼女の能力は体を生物無生物問わずに作り変える事が出来るというものだった。しかもそれは他者にも有効で、実際に彼女の部下だったロイドとリグザは魔物の耳と足、体そのものを手に入れていた。

 メイの考察では見た事がある、または相手の反応を見つつ調整して再現をしている。といったものがあったが、どれも考察の域を出ない、不確かで確かめようの無い事だった。


「ヤツは私達より帝都を出発するのが遅かった。ヤツは私達が出発した後、つまり騎士団員やある程度の兵器開発部門の連中が外にいる間に魔道銃器を持ち出した。そしてようやく、あいつは帝都を出発したんだ。私達より出発が遅れた理由がそれだったとは、今の今まで思わなかったがな」


 メイの言葉で全員が黙る。

 それはイーリルは勿論、町医者の老人や、ベルリオもだった。敵の能力が全く知れていなかった為誰も責めれず、誰も責められはしない。ただ魔人会への怒りが募っているだけだった。


 そんな時だった。

 扉の外がざわざわと騒がしかった。そしてメイの立っていた部屋の入口が弱々しく開き、そこからは血塗れのカルムが現れた。


「お前……!!なんだその格好……!!」


 流石のメイも驚いたのか、すぐさま羽織っていた大きめのタオルケットを破ってカルムの腰の止血をする。彼女の腹部からは、今もなお絶えず血が流れ続けていた。


「少し……ヤンチャをし過ぎました……。今、どういった状況で――」


 カルムの顔が段々とソファに向かって動く。そして次第に青ざめていく。脳の処理が追いつかない彼女は黙ってその場の状況を頭の中で整理する。

 しばらく黙り込んで何となく事情を察したカルムは、辛うじて動く体で無意識に膝をつこうとしていた。


 だが、それは叶わなかった。

 メイが彼女の右腕を持ち上げ、膝を付けないようにした。

 カルムは顔をメイの方に向けて何故か、と問うような目を向けた。しかし、メイの静かだが威圧的な目にハッとされ、「申し訳ありません……」と呟いた後そのまま立ち尽くした。


「君はとりあえず応急処置が必要だ。すぐに包帯と余った回復薬を持って来させる。君の方はまだ助かる見込みが――」


 医者がそう言うと、メイが出ていこうとした医者の肩を掴んで止める。


「口の利き方に気を付けろよ。君の方は、じゃねぇ。君の方も、だ」


 無意識の内の失言を指摘され息を呑んだ医者は、そのまま静かに頷いて部屋を後にした。


―――


 それから更に数十分経過し、医者はカルムの腕と腹部の応急処置を終えた。カルムは医者に「ありがとうございます」とお礼を言って用意された椅子に力なく座る。立っているのですらギリギリだったハズだ。無理もなかった。

 そんな中、医者が口を開いた。


「彼や彼女。それにベルリオ様やイーリル様の本格的な治療がしたい。ここは一つ、帝都に戻るのはどうだろうか」


 今後の提案だった。

 どちらにせよ報告と応援要請の為に帝都には戻る必要があった為その提案に乗る事にした。


「特に頭を撃たれた彼は急いだほうが良い。彼には回復薬の効果が半減しているように見えた。自己回復もこのままじゃ見込めなくなる」


「……それは私の作った魔道銃器に、そういった魔法を編み込んでいるからだ」


「なら尚更です。帝都なら魔法を解除できる者がいても不思議ではありません。至急、帝都へと向かいましょう」


 医者は部屋を飛び出し、アミナ達の宿泊していた宿屋の方へと向かった。部屋を出る直前、ベルリオが「騎士団の者が一階にいるから案内させるといい」と告げ、それを聞いた医者は去っていった。

 比較的無事で回復し始めていたベルリオが、カイドウをなるべく動かさないようにして部屋から運び出した。馬車ならすぐに到着すると踏んでの事だった。


 それに続いてイーリルとカルムも部屋の外へと出た。

 しかし、メイだけは全員が出ていってもしばらくは部屋に残り、ソファに黙って座っているアミナを見つめていた。


「先……行ってるからな」


 メイは普段出さないような声で呟くと、言った通りに部屋を後にして扉を締めた。

 

 誰もいなくなった部屋で、アミナはただ俯いていた。それを心配したのか、フィーが彼女の膝の上に座って顔を伺う。


「……約束、したのに……」


 アミナは一言呟く。

 静かな水面に波紋が走る。それ程までに静まり返っていた空間に、彼女の小さな一言が響いたのだ。


「私が……カイドウさんを守るって……」


 それはこの国に到着する前、バザールという街でした、カイドウとの口約束だった。



『アミナさん、なんだか顔色が昨日より良いみたいだけど……何かあったのかい?』


『いえ……ただ、大変なのは私だけじゃない。それを知ったら、皆の為に私はもっと頑張れる気がしてきていて。……なので安心して下さい!カイドウさんは私が守ってみせますので!』


『それは頼もしいね』



 アミナは膝に乗っていたフィーを抱き、ソファの上で蹲って啜り泣くようにして涙を流した。

 流れ出る涙をフィーは舐め取ったが、それだけでは彼女の涙を止めるには到底足りなかった。

 紙のような物を指で握り、アミナは声を殺す。


 彼女の抑え込んだような泣き声は部屋の外にまで聞こえ、扉の横にもたれ掛かっていたメイはその声を聞いて歯を食いしばり、横にあった植木鉢を威圧感だけで枯れさせた。

 今までにない程の怒りを表した後、彼女は部屋の前を後にした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ