第二章 94話『『現』剣豪サーヴァント、仮面を斬る3』
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カルムとヒューリーの戦いは、ザストルクの外の森にまで移動していた。
というのも、ヒューリーの繰り出した200の手の内の数十本を束ねた打撃により、カルムは街の外まで飛ばされていたのだ。
それを追いかける形でヒューリーも自身の出現させた手に乗って彼女のを追いかけた。
このままカルムに逃げられて、外部にこの事を知らされては不味い為、誰かに見られるリスクを取ってでも、ヒューリーは彼女を追いかけた。
しかし逆に、カルムが仲間を見捨てて帝都に報告に行くとも考えられないというのもあったが、念の為に追跡したのだ。
そして今、カルムは深い森林の中で、木々の隙間や地面から無数に伸びてくる腕を避けながら、ヒューリーの居場所を探していた。
カルムが木を横切ろうとした瞬間、その木から腕が数本伸びてくる。それを察知してすぐさま斬り落として腕からの攻撃を回避する。
……どうやら至る所から腕を生やさせる事が可能なのですね。しかし直接私の体や体の中に生やしてこないのはそういった特性だからでしょうか。本人の身体からは生やせていた訳ですから、恐らく他者に直接は無理なのでしょう。ですがその定義が分からない以上、この状況はかなり不味いですね……。
カルムは慎重に歩みを進める。
見える全方向に意識を集中させ、どの方向から何本の手が伸びてくるのか。それを意識しつつ、ヒューリーの居場所を探る。
もし仮に、彼のスキルの範囲によって腕を生やせる対象を選べるのだとしたら、迂闊には近づけない。……いや、恐らくそれは無いか。それが出来るのなら真っ先に私を殺している。それをやらないのなら、彼のスキルの対象に自身以外の人間は含まれないと考えるべきですね。
「ほらほら、どこにいるのですか。カルムさぁん」
森の中であの声が響き渡る。
見なくても彼がとてつもない笑顔を浮かべているのが用意に想像できる。その声から場所を割り出したい所だが、深い森の中を響き渡るその声の根源を見つけるのは至難の業だ。
もう一つ考えられるのは、無生物にのみ生やせるというものですが、木から生やしているのがその考えの矛盾になってしまいますね。植物は勿論生きています。しかし地面や壁から生やしていたのを加味すると、無生物でも可能にしている。その境界線が曖昧なのが一番困りますね……。何を警戒して、何に警戒する必要がないのか。それだけで向ける意識の割り振りを調整できて、最も重要なものに意識を集中できるというのに。
カルムは更に後方から迫ってきた数本の腕を斬り落とし、正面から接近してきた腕を叩き斬る。
土の上にボトリと落ちた腕は、それなりの質量を持っているかのような音を立てた後に消えていった。
今はとりあえず、本人以外の人間には生やせない。しかしそれ以外の物質や生物には生やせる。そう考えた方が妥当ですかね。
刀に手を添えながら歩く。どちらの方向にヒューリーがいるのか全く見当がつかない訳では無かったが、それでも深い森の中での探索は困難を極める。
まず足元が不安定でまともに構えを取る事が出来ない。腰が入らず、正しい姿勢を保ちながら攻撃する事が難しくなってくる。
しかしこれは、カルムにとっては些細な問題だった。それなりの期間、メイに修行を付けてもらっていた為、この程度の足場で力が完全に発揮できなくなるといった事は断じて無かった。悪くて1割、力が発揮できない程度だ。
それよりも、視界を遮ってくる植物達が何よりの天敵だ。
ただでさえヒューリーの伸ばしてくる腕は音が中々聞こえない。そのせいで視覚情報しか頼れるものがない。カルムは最初、草木に擦れるような音が聞こえるかと試す為に耳を澄ませたりしたのだが、的確に葉や枝を避けてカルムへと接近してくるのだ。
結局、頼りになるのは視覚か、風の揺れで察知する触覚、あとは気配と予測。それらを最大限駆使しながらこちらからも距離を詰めるしかない。
カルムは腕が来たら斬り、腕が来たら斬りを繰り返しながら、数分ほど森の中を歩いていた。
依然腕はカルムの肉を抉ろうと近づいてくる為、ヒューリーがまだ近辺にいる事は分かったが、まだどこにいるかまでは突き止められなかった。
しかし全く収穫がない訳では無く、カルムもただ無意味に森を徘徊していた訳では無い。
歩いた場所によって、飛んでくる腕の本数に変化が出たのだ。
ある場所では数十本なのに対し、ある場所では数本と、場所によって明らかに差の出ている所があった。
カルムはその場所に、腕を斬るのと同時に木に傷を付けており、それを目印としていた。
そしてヒューリーの性格や、先程無数に並べられた言葉と嘘の数々。カルムはそれ等を元手に、ヒューリーの思考を考察した。
普通でしたら、自身に近づいてきたら完全に身を隠すか、反撃に出るかの二択になるハズです。腕の本数が増えたのは反撃によるものでしょうか……。しかしそれにしては本数が中途半端過ぎますね。周囲を一気に取り囲んで私を握り潰せばそれでお終いでしょうに。……いや、恐らく彼は理解しています。いくら200本の腕とは言えど、所詮ただの腕。火が出る訳でも無ければ氷や雷だって出ない。知っていれば私が全てを対処出来るという事くらい分かっているハズです。あそこまでの実力者なら尚更……。
傷を付けた場所にカルムは戻ってきた。そこにはヒューリーの腕を斬ったのと同時に斬りつけた横薙ぎの傷跡があった。
だったら――多分ここですね。
地面を強く蹴り、カルムは木の上を目指す。空高く伸びている木を途中から側面を走って登っていく。
すると案の定、カルムに迫ってくる腕の本数は減った。というか、カルムが木を登る前からその木の周辺は腕があまり伸びてこなかった。
中途半端な数本から十数本、そういった塩梅でこの周辺はカルムへと攻撃が仕掛けられた。
それは他の場所に比べて振れ幅が大きく、明らかに過剰に意識された攻撃だった。
それが逆に、位置を特定した時の確信となった。
木の側面を登りきったカルムは、頂上へと跳び上がった。
そしてそこには、やはりヒューリーの姿があった。
「なっ……!!」
「やはり……!!貴方と戦う場合は、裏の裏を読めば良さそうですね……!!」
跳び上がってきたカルムを見て、ヒューリーは驚きの表情を浮かべつつも腕に乗って素早く移動する。
しかし分かりきった行動でカルムが負けるハズも無く、一瞬で追いついてヒューリーに渾身の居合を叩き込んだ。
しかし彼はしぶとくも何重にも重ねた腕でカルムの斬撃を防ぎ、衝撃だけがヒューリーへと伝わり、ただの打撃となった。
下方へと吹き飛ばされたヒューリーは気に打ち付けられながら落下する。
今が好機……!!逃す訳にはいかない――!!
カルムも同時に下方へと下りる。木の側面を走り、ヒューリーよりも早く地面に到達し、赤刀・ダムネスを納刀して構える。
「『断魂流居合――』」
落下してくるヒューリーは無抵抗だった。恐らく落下の速度に腕の生成が追いつかなかったのだろう。
そしてヒューリーが射程圏内に入った瞬間、カルムは抜刀して魔力を纏わせた刃を振るう。
「『黄泉送り』!!」
赤紫色の魔力が刀を覆い、それがヒューリーの体にめり込む。柔らかい球体のような肉体に刃がすんなりと入り、鋭い一閃を食らわせた。
「があっ――!!」
ヒューリーは吐血しながら地面へと転がり落ち、弱々しく地面で蠢いていた。
かくいうカルムも、腹部から流れ出た血の量が凄まじく、かなり体力を消耗していた。
お互い瀕死の重傷の中、ヒューリーがニヤリと笑って顔を上げる。
「何が可笑しいのですか……」
近づいて赤刀を首へと突き立てるカルムが問いかける。
しかしヒューリーは「やはり……」と呟いただけだった。何の事を言っているのか検討のつかなかったカルムは、ふと剣先から垂れている血を見た。それで何かに気がついたように血相を変えて目を見開き、すぐさま赤刀をヒューリーの首へと振り下ろした。
だがどうだろうか。ヒューリーは軽々とその一突きを躱し、後方へと跳んだ。
その腹部からは確かに血が出ていたが、それは明らかに浅く、赤刀に付着していた血液も少な過ぎたのだ。
「まさか……!!」
目を見開いて傷跡をよく見た。
するとヒューリーの体が全体的に小さくなり、隙間から蠢く何かが見えた。
「そのまさかですよ。私は貴女から隠れている間、体の中に腕を仕込んでいました。私を発見した貴方は速攻をかけてくる。それくらい分かっていましたからねぇ。ですので体の中に腕を仕込んで、本来の腹部への距離を誤らせたのです。……まぁ、少しは食らってしまいましたがねぇ」
カルムは冷静を装いながらも、自身が犯した判断ミスを悔いた。
ヒューリーの体が大きくなっているだなんて気にもとめてなかった。しかしその慢心としか言えない何かのせいで、最高の好機を逃してしまったのだ。
いや、この好機すら彼によって作られて整えられたものだ。それを見抜けなかった自身が情けない。
「やはり貴女を騙すのは楽しいですねぇ。私を発見したところまでは褒めて差し上げますが……もう終わりにしましょう」
不穏な言葉を吐きながら、ヒューリーは掌を前に向ける。
カルムは何が来ても良いように警戒しつつ、赤刀を納刀して構える。
「そう言えばカルムさん……貴女は相当な武具使いですよねぇ。いやぁ感心しますよ。私のこの体型では鞘から剣を引き抜いた段階で私の腹が裂けますからねぇ」
いきなり軽口を叩き始めた。しかし掌はこちらに向けたままで、カルムも彼から目を離さない。
一体何を仕掛けてくる気なのでしょう、と意識を高めている。
「武具があれば何でも出来る。しかし、逆に言えばそれは自信の無さの現れとも言えますねぇ。武具が無ければ何も出来ない」
「……何が言いたいのですか。時間稼ぎならしても無駄ですよ。次の一言を発した瞬間に斬ります」
威圧的な態度でカルムは忠告をする。しかしヒューリーは話を聞いていなかったかのように振る舞い、次の言葉を発した。
「貴女―――その鞘が無ければ刃に魔力を籠められないのでしょう」
ピクリとカルムの顔が動く。反射的に動かしてしまったそれを見て、ヒューリーは確信を得た。
「図星ですか……。まぁそれくらい誰でも分かりますよねぇ。攻撃の度納刀していたらお猿さんでも気が付きますよぉ。しかし魔力を籠めなければ私の腕は到底斬れませんし、殺傷能力にも欠けますよねぇ〜。だから私に勘づかれても、それは仕方が無いのです。……にしても、貴女のその納刀。今までのどの攻撃よりも速いそれが貴女の攻撃の要となっている。無駄な動作を極限まで洗練し、戦闘に差し込めるようにした。それはとても素晴らしい努力です。ですので……それを崩させて頂きます」
不穏な所で言葉を切ったヒューリーは、カルムに向けていた掌を力強く握りしめた。
すると突然、赤い刃を仕舞っていた鞘に、ヒューリーの腕が生え始めた。
「――ッ!!」
しかも数本では無く、数十本、そのどれもが凄まじい力で鞘を握った。
振り払おうと判断した一瞬の思考の偏りによって生じた隙。
――カルムの鞘は一瞬にして砕け散った。
「――ッ!!」
「あーーーっひゃひゃひゃ!!これで貴女は無力で健気な少女へ大変身ですねぇぇーー!!!」
ヒューリーの哄笑が耳を突き刺す中、カルムは砕け散った鞘の破片を呆然と見つめた。
崩れた破片の間に映るのは、揺れる光。涙か、それともただの幻か。
ヒューリーの笑い声が遠ざかる。その声を聞かないように耳が音を拒絶したのか、世界が静まり返る。
そして、静寂の中で、カルムはただ立ち尽くしていた。




