第二章 93話『『現』コルネロの英雄達、合流する』
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ザストルク東部――
戦闘を終えたベルリオとイーリルが、逃げ遅れの住人がいないか確認する為に、ボロボロの体で本庁舎までの道のりを注意深く確認しながら歩いていた。
「大丈夫かい?ベル。少しだけペースを落とそうか」
「いや……心配ねぇ。お前も肩なんて貸さなくていいから、自分の体の心配しろよ。掴まれてた腕……折れてんだろ」
「言ったろ、君は僕が守るって。全身ボロボロの君を1人で歩かせる訳にはいかない」
イーリルもベルリオも、お互いの怪我を心配しながらゆっくりと歩みを進める。
ベルリオは主に体全体に、イーリルは主に腕に負担がかかっており、イーリルがベルリオに肩を貸して何とか2人で歩いているといった状況だった。
「にしても、こんなモンよく持ってきてたな」
ベルリオが貧弱なイーリルに代わって肩に担いでいる魔道銃器を目で示してイーリルへと向かって言う。
「今回は魔人会が絡んでるというのが最初から分かっていたからね。全員分の魔道銃器を持ってきた時に忍ばせておいたんだ。奥の手としてね」
「完全狙撃特化の魔道銃器か……とてつもねぇ威力だったな」
「あぁ。威力は従来の物の十数倍。回復薬や自然治癒を阻害する魔法が編み込まれた特殊な弾丸だ。その分肩への負担が大きくて、そうそう何発も撃てる代物でもないし、銃弾一発作るのでも大分手間と時間がかかってしまったよ」
「だから俺に本体持たせてんのか。……脱臼してっから」
「やっぱりバレてた?」
バレてないとでも思ってたのか、とベルリオの顔はそう言っていたが、イーリルの反応からするに、本当にバレていないと思っていたようだ。
「たりめぇだ。あんな爆音鳴るような武器の衝撃をお前の体が耐えられる訳ねぇからな。これからはもっと鍛えなきゃなんねぇな。なんなら騎士団で面倒見てやるぜ?」
「耳が痛い事はやめてくれ。僕は鍛錬はもう懲り懲りだよ」
苦笑いしながらイーリルは冗談交じりに言う。
半分冗談、半分本気。そんな塩梅の言い方だろう。
「……なぁイーノ。俺はちゃんと、英雄になれてんのかな……」
ベルリオが突然呟く。しかし彼の心中など、イーリルは見抜いていた。大方、リグザとの戦いで色々思う所が出来てしまったのだろう。
「何故、そう思うんだい」
「俺はよ、正直言って怖ぇんだ。俺もあいつみたいになっちまうんじゃねぇかって。弱けりゃなんも守れねぇのは事実だ。だからって人々の生活を脅かす魔物に落ちちまったら本末転倒だ。でも、強くなる為にそういったモンの力を借りなきゃならねぇんだったら、俺はどうするべきなんだろうな……って、あいつとの戦い終わった今、そう思うんだ」
イーリルは黙って聞く。
ベルリオの拳は幾度も戦いを重ねてきた分厚い皮膚に覆われている。しかし、その手のひらは今、少しだけ震えていた。
恐怖ではない。迷い。
リグザは強さを求めた末に獣と化した。力だけを求めた先にあったのは、破壊と狂気。ベルリオはそれを間近で見た。
イーリルは小さく息をついた。
「君は、君自身が恐れている道を歩まないさ」
「……どうして言い切れるんだ」
「君は、最後まで自分を見失わずに戦ったからだよ」
イーリルの声には、確信があった。
「もし君が強さに溺れるような人間なら、今ここでそんなことを考えたりしない。リグザのように、ただ力を求め続けるだけだったハズだ」
ベルリオはじっとイーリルを見つめる。
これから何を言われるのか、気が気でないからかもしれない。少しの緊張が見て取れる。
「でも、俺は……」
「悩むのは当然だ。けれど、その悩み自体が、君が正しい道を選ぼうとしている証拠なんだよ」
ベルリオは一度唇を噛みしめる。
「……ちょっとは、英雄に近づけてるのかね」
「僕はそう思うよ」
イーリルの言葉に、ベルリオは小さく鼻を鳴らす。
「へっ、まあ……こんなボロボロで英雄面するのも笑えるけどな」
その言葉の裏に、少しだけ安堵が滲んでいた。
一番近くにいる一番大切な存在にそう言ってもらえる。それだけでベルリオは、少しだけ気が紛れた。
「それに――」
イーリルが言葉を続けようとした。ベルリオは「?」と疑問に思いながら彼の言葉を待った。
「――僕の英雄が、そんな事になる訳無いって信じてるし、確信してるからね。恐れる事なんて何一つ無いよ」
心の底から出た言葉に続いて、イーリルは「だからってわざと道を踏み外さないでくれよ」と笑いかけながら言った。
ベルリオは唇を噛み締めたようにして口ごもり、イーリルとは反対側の方向を見ながら「あーっ、全っ然人いねぇなぁ!流石避難指示が行き届いてるなぁ!」と大きな声で言った。
彼のその態度に引き続き微笑みながら見ていたイーリルは「あぁ、そうだね」と呟く。
そんな時、ベルリオの耳がピンと立った。どうやら遠くから聞こえる何かの音を聞き取ったようだ。
「おい、何か近づいてきてるぞ」
「え?僕には何も聞こえないけど……」
イーリルが周囲を見渡しながら言う。彼の言う通り、特に何かが近づいてきている様子はなかった。
しかしベルリオは身構える。その近づく何かが敵だという可能性を捨てきれず、剣へと手を伸ばす。
だが、その心配はすぐに安堵へと変わり、ベルリオの顔は緩んでいく。その根拠は足音の数だった。
2本足で走っている音と、4本足で走っている音は勿論違う。
――そう、聞こえてくる足音は4本足で走っており、この街で4本足で走る生物を、ベルリオは1人しか知らない。
空を大きな影が覆い、ベルリオとイーリルの2人を包み込む。そしてその巨体が地面へと靭やかに着地し、2人の目の前に立つ。
「フィアレーヌ殿!」
「やっぱり貴方だったか」
イーリルが驚きの声を上げている一方、ベルリオの顔は安心の一言に尽きるような表情をしていた。
2人の顔を見たフィーは「にゃうにゃ」と鳴いて答えた。
「ベルリオが聞いてた足音はフィアレーヌ殿のものだったのか」
「あぁ、そうみたいだな……ってフィアレーヌ殿。背中のそれは――」
ベルリオはフィーの背中を指差す。
彼の背中には怪我をしたであろうザストルクの住人達が背負われており、フィーが西部での戦いを終えた後に何をしていたのか瞬間的に理解させられた。
「そうか……逃げ遅れた人を助けて回ってくれていたのか……恩に着る」
「みゃうみゃにゃ」
「今のはなんて?」
獣の言葉を理解できないイーリルがベルリオに訊く。すると彼はイーリルへと目線をやってから答える。
「どうやら、俺達の足音が聞こえたから来てくれたらしい。1人はまともに歩けなくて、もう1人は骨が折れてる。歩き方でそういうのが分かるらしい。……ほんと、獣族なのに、そういった所は彼には敵わないな」
ベルリオがそう答えると、フィーは2人に背中を見せてきた。そして顔を振って何かを示している。
「もしかして、乗れって言ってるのかな」
「もしかしなくても、だな。そうだな。お言葉に甘えて、今は休ませてもらおう。きっと、フィアレーヌ殿の方が体も頑丈だし、体中の傷を心配する必要も無さそうだ」
ベルリオはフィーの体にできていた無数の傷跡を見ながら呟いた。
大方、彼も激しい戦闘を繰り広げたのだろうと予想がついた。しかしそんな傷もほとんど塞がっており、人を数人乗せても大丈夫なまでに回復している。そんな彼に、ボロボロなベルリオ達が気を遣う必要など無かった。
2人はフィーの好意に甘え、背中に乗せてもらう事にした。大きくふわふわな毛並みが安心感を抱かせ、2人を安堵させる。
「フィアレーヌ殿。他にも逃げ遅れた人がいないか、このまま東部の探索もお願いしたい。住人を今も背負っているという事は、本庁舎には寄らず、西部から南部を通ってこちらに来たのだろう?だったら引き続き探索しつつ、余裕があったら北部にいるメイ隊長と合流しよう」
イーリルの指示にフィーは静かに頷き、駆け出した。
その素早くも静かで、風を切るような走り心地に、2人はようやく戦闘の緊張感から開放され、ゆっくりと夜空を見上げる事が出来た。




