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第二章 91話『『現』剣豪サーヴァント、狙いの一閃』

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 轟音――。

 各方面のみ騒がしい夜のザストルク。

 そこで唯一安全だと思われていた避難所である本庁舎。そこで今、地面を抉る轟音が鳴り響いていた。


「―――」


 土煙が舞い、カルムの視界を塞ぐ。

 しかしその中から容赦無く、長く柔軟性のある腕が無数に伸びてくる。

 それを踏む、あるいは斬る事で空中での回避を繰り返し、反撃のタイミングを伺っている。


「ほらほら、どうなさったのですか?防戦一方ではないですか」


 自分のスキルで生やした腕に座りながら、ヒューリーは出せる限界値である10本の内の6本をカルムへと放っている。

 避けた先にその腕が着弾すると地面が抉れる。つまり一手一手が致命傷になり得る一撃な為、慎重にいなしつつスキルの詳細を見極めている。


道化のあのスキル……。恐らく巨大な腕程破壊力があり、小さな腕程速度が速い。長所と短所が逆になっているという訳ですね。……しかし、巨大な腕がいくら遅いと言っても、私についてこれる段階の速さではあるし、小さな腕の膂力が低いとはいえ、それでも一般人の拳より遥かに強力。……なんと厄介な事でしょうか……。


 カルムは迫りくる腕の猛攻を避けながら思考する。

 そして一言、ヒューリーに言葉をかけてみる。


「そこまでの力があって何故、冒険者にならなかったのですか」


「……何?」


 ヒューリーは怪訝そうな顔をして呟く。

 カルムが口にしたのは、アミナとヒューリーが出会った時に話していた会話の内容だ。それをアミナから聞いていたのだ。


「何故、冒険者を諦めたのですか」


「………」


 何かを考えるような動作を、ヒューリーは繰り返していた。

 そして何かにピンときたのか、拳を掌にポンッと乗せると、「あぁ〜」と唸った。


「あの小娘に話した事の話ですね。いやはや、歳のせいか物忘れが激しくていけない」


 アミナの事を小娘、と言うまで来た。

 やはりあの丁寧な態度は作り物の嘘っぱちのようだった。


「冒険者を諦めた理由?そんなの簡単ですよ。私は最初から冒険者などやっていません。つまり――あれは嘘です」


 カルムの思考が一瞬停止する。

 流石にヒューリーの一挙手一投足全てを疑ったり、逆に行動全てを信頼する程おめでたい頭では無かったが、それでも多少なり真実を話していると思っていた部分もあった。

 だが実際に目の前で、簡単に嘘だと明かされた。

 軽薄なヒューリーの事だ。恐らくまだ沢山のブラフを巻いているに違いない。これからは何が嘘で何が真実か見極めていかなければならなくなった。


「……何故、そのような嘘を――」


「訊いてばかりで呆れるお嬢さんですねぇ。どれだけ甘やかされて生きてきたんですか?訊けば何でも答えてくれる……私は先生では無いのですよ?」


 カルムの話を遮るようにしてヒューリーは強めに言う。

 別段、カルムの出自を知っている訳では無い為、皮肉で言ったつもりは無かったが、彼女の過去を考えるとこれ以上無い皮肉と罵倒だった。

 しかしカルムは


「……先生とは何ですか。馬鹿にしないで下さい」


 と的はずれな返しをした。

 それを聞いたヒューリーの顔からは笑顔が消え、間の抜けた表情をしていた。そして何かを察したのか「これは失礼、甘やかされたというのは撤回しましょう」と嘲笑しながら呟いた。


「可哀想な貴女に教えて差し上げます。彼女もとい、あなた達に嘘をついた理由ですよね。そちらも単純明快。――私が道化で、世界は舞台だからです」


 カルムにとって、彼の言葉は全く理解出来なかったが、それを言っているヒューリーの顔は清々しいほどに晴れやかだった。


「世界は大きな舞台に過ぎない!!それは小さな片田舎でやっている劇の舞台や、王都や都会でやっている演劇の舞台と同じです!!大きさが違うだけでその成り立ちや役割は同じ!!演者の土台となり全てを支える!世界を構築し、規則を地の底に設ける!!そもそも、演者がそこに立てなければその世界は始まりすらしない!!……つまり!!世界が舞台ならその上に立っている我々は演者!!世界中の人間全てが自分を偽っている嘘つきなのです!!」


「世界の人々全てが、貴方のような人間であるハズ無いでしょう」


「いいや同じですよ!!私も貴女も!!この世に生を受け、生まれ落ちた時!!人間は皆何かの役を演じなければ生きていけない!!それは常に嘘をつき続けるという事!!それは常に本来の自分では無いナニカを演じ続けるという事!!私は人のそれが見たい!!先頭で!最前で!かぶりつきで!……だから私は、私では無いナニカを演じる為に、誰よりも長く嘘をつき続けるのです!!!」


 生き生きとした口調と荒々しい口調が混ざったように言う。

 もはやカルムに、彼の擁護はしようが無い。ただ己の価値観を押し付け、それが真理だと錯覚している異常人だ。

 そしてもう一つ、彼女の中に確固たる決意が漲ってくる。


「……どうやら、今の貴方をアミナ様に会わせる事は――絶対に出来ませんね」


 引き抜いていた赤刀・ダムネスを納刀し、カルムは構える。

 

 アミナはヒューリーの事を完全に信用してしまっている。それに関して言えば、アミナを責める事は出来ない。ヒューリーが空想上の話を現実と織り交ぜながら相手の表情を伺い、相手が共感しやすくなるように仕向けたからだ。 

 アミナの場合は、スキルを必要のないもの、と言った時点で変化が見られ、その話を深堀りする事でアミナの共感を得た。自分と同じ考えをしている人物がいると分かれば、出会ったばかりの人物であろうと心を救われる部分はあるだろう。


 だからこそ、全てを露わにしたヒューリーを、アミナに会わせる訳にはいかなくなったのだ。


「へぇ、ならどうするのですか?私を斬るにしても、まず私に近づかなければなりませんが……?」


 ヒューリーは余裕そうに、総勢12本の腕を広げてみせた。

 その一本一本が致命傷になり得る一撃を持ち、カルムの速度へとついてこれる速度も持っている。

 それらを掻い潜りながら一太刀いれるのは骨が折れるが、逆に言えば、それさえできれば勝機は見えてくる。カルムに対してスキルで出した腕でしか戦わないのは、接近戦に持ち込まれたく無いからだろう。

 つまり、なんとかして近づき、こちらの渾身の一撃を入れれば勝つ可能性は十分にある。あとは実行するだけだ。


「かかってこないのですか?なら先に本庁舎にいる方々を消した方が早そうですね」


 カルムは軽く息を吸って吐く。そして抜刀の準備をしてヒューリーへと接近していく。

 すかさずヒューリーは全ての腕をカルムへと向ける。


「あの人達には、死んでも触れさせません……」


 唸りを上げて2本の腕がカルムへとまず接近してくる。

 その二本を姿勢を低くする事で回避し、抜刀。振り上げるような一撃と、納刀の道筋に腕の位置を調整し、納刀と同時に斬り捨てる。


 次に迫ってきたのは4本の腕だった。

 四方から取り囲むようにカルムを襲う。

 彼女は宙に跳び、体を回転させる。空中では避ける動作が難しいと踏んだヒューリーが腕で彼女の姿を追う。

 するとカルムは回転しながら抜刀し、4本全ての腕を斬り刻んだ。

 スキルで出した腕だからすぐに再生出来るかもしれないが、このコンマ1秒の戦いでは、それはかなりのタイムロスとなるハズだ。


 そして最後にカルムを襲ったのは再び4本の腕。今まで6本を斬り捨てた為、それが彼に残っている最後の腕だった。


「粘りやがるなぁっ……!!」


 全てを的確に躱して近づいてくるカルムへ、ヒューリーの怒りは溜まっていく。そして腕をより力ませ、巨大化させた。

 先程よりも巨大で速い。その2つが強力な腕が4本、カルムへ迫っている。

 

 彼女は瞬時に、どの腕から斬るべきかを見極める為に、目玉を何度も動かして確認する。

 必須だったのは足元から迫りくる腕だった。


 上空から迫ってくる巨大な腕達に比べ、比較的小さな腕がカルムの足へと迫っていた。

 意識を上空の腕に向けさせて足を奪う作戦なのだろうが、カルムはそこまで理解していた。


 まず抜刀と同時に地面を抉りながら足元に迫る一本の腕を切り落とし、その勢いのまま上空から接近してくる腕を1つ落とす。

 上空から迫ってくる残った腕達は、重なるようにして突き刺し、そのまま斬り進みながらヒューリーの元へと走っていく。


「なぁっ――!!」


 その時、初めてヒューリーの顔が恐怖に染まる。

 そして腕から引き抜いた剣を一瞬で納刀し、すぐさま抜刀してヒューリーへと斬りかかる。

 赤い刃が風を切るようにして振るわれた。


 血飛沫が舞い、赤い血が地面へと滴り落ちる。

 

「――けはっ……」


 腹部から垂れた血が、腕を伝って地面へと落ちる。

 ヒューリーの体から伸びた一本の腕が、カルムの腹部を抉り、貫いた。


「言ったでしょう……?私達は、嘘つきだと……」


 腕をカルムから引っこ抜き、カルムを地面へと横たわらせる。

 カルムは辛うじて息をしており、何とか瞬間的に立ち上がってヒューリーと距離を取った。


「おっと、そんなになってもまだ動けるとは……そこに関しては敬意を評さねばなりませんねぇ」


 息切れを起こし、荒い息をカルムは吐き続ける。

 左の脇腹に目を落とすと、やはりそこには風穴が空いている。血が絶え間なく流れ続け、欠損した臓器が垂れ落ちそうになる。


「はぁ……はぁ……腕は10本まででは無かった……。それも嘘だったという事ですか……」


「えぇえぇ、勿論ですとも。最初から敵に自身の奥の手を明かす者はそうそういませんよ。奥の手とは、相手が勝利を確信した時に使うものですからねぇ」


 するとヒューリーは、自身の背後から大量の腕を生やしてカルムへと見せた。

 その数は30や40はくだらない。それよりも遥かに多い数の腕だった。


 彼が10本までしか出せない腕をあそこまで巨大化させて膂力や速度を強化出来たのは、本来の限界値が遥か上だったからだ。

 腕を強化していたとしても、彼にとっては手加減となっていたに違いない。

 そして全ての腕を出現させ終わると、ヒューリーは口角を目に届きそうな程にまで上げて笑う。


「私の手の、本来の最大本数は200本。――どうです?これぞホントの……百人力ですねぇ」



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