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第二章 90話『『現』コルネロの英雄達、過去の英雄と戦る 終』

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俺は負けた。

圧倒的な力の前に。

圧倒的な力の差に。

圧倒的な――能力の違いに。



生まれつきの能力はただ平凡。炎が体から出せるだけ。

でも、そんな俺でも家族や友人達は、俺をエレティナの誇りだと言ってくれた。

それがたまらなく嬉しくて、俺は強くなろうと決めた。強くなって……くだらない差別の歴史を帳消しにできるくらい強くなって、向かってくる全てを打ち負かせるくらい強くなって、一族を、故郷を、家族を守ろう。そう誓った。


誓った――ハズだった。


どうやら俺のスキルは、出現させた炎が青くなるだけで、スキルだけで青い炎が出せる訳じゃないと分かった。

そこからは猛烈に修行した。

血を飲み、汗を噛み締めるような修行の日々を。魔法が使えるようになって、ようやく青い炎が実用的になった。

肉体的な修行も怠らず、毎日毎日、剣の鍛錬も武術の修行も、全て欠かさずに行っていた。


俺は15歳になって、コルネロ帝国の武装騎士団に入団する事にした。

本当はもう少し早く入団試験を受けたかったが、合格できる確信がなく、数年更に修行した。


そしてなんとか、無事試験には合格した。

筆記も実戦も、その日の為だけに打ち込んできた。


当たり前だが、最初は一般の騎士からだった。

俺と同じ年くらいか、俺より年下だろうくらいの同期ばかりだった。


正直に言えば、俺はうぬぼれていた。

俺はこいつ等より修行を頑張った、俺はこいつ等と違ってスキルを持っている。俺はこいつ等と違って戦う事に誇りを持っている。俺はこいつ等と違って何かを護る為に戦っている。そう考えてた。


でも、現実はそこまで甘くなかった。

俺が長い年月かけて習得した技術は、騎士団内ではほとんど刃が立たず、唯一通用したのは、試験をべべで通過したという太ったヤツだけだった。


そう、俺はほとんどの同期に負けていった。

太ったヤツの事をべべと言ったが、きっと俺も大差なかっただろう。

なんとか使えるようになった魔法も、模擬試験では使えずじまいで圧倒されて即敗北。


そんな俺は、自分が唯一勝てた太ったヤツとつるむようになった。

……多分、自分より優秀そうなヤツと一緒にいるのが嫌だったんだと思う。


鍛錬の日々は過ぎていっても、相変わらず俺の強さに進展はなかった。

何度も、何度も何度も何度も組手をした。しかし、俺に勝機が見える事は無かった。

いつもギリギリで――そう、ギリギリを演出して勝つ事で、同期の連中は弱い俺をからかっていたんだ。


その度に俺は太ったヤツに愚痴を投げた。

そしてそいつと修行と称して組手を何十回もやった。当然、あいつが俺に勝てる訳も無く、俺は全ての組手で勝利した。

多分、俺は弱くない。俺は勝てる。俺だって努力してる。比べる対象が悪いだけだ。上手くいかなくてもたまたまだ。だって今は上手くいって勝ててるじゃないか。

そう言って欲しくて、そう言いたくて、そう言われたくて、その太ったヤツを倒し続けて優越感に浸っていた。


弱くて差別の対象だった俺は勿論イジメを受けた。

俺より弱いヤツとつるんで修行と称して一方的な組手をする。勿論そんなので強くなれるハズも無く、俺へのイジメはどんどんと勢いづいていく。


そんな時に、俺を助けてくれたのは、俺が一方的に攻撃していた太ったヤツだった。

身を挺して俺を守り、イジメをしてきた同期の連中を返り討ちにした。

勿論手は出さず、背は見せず、ただ俺を守っていた。


その時そいつは「君のお陰で受け身が大分上達したんだ」と抜かしやがった。

俺はその時、そいつに心から謝罪をした。

泣きじゃくりながら謝る俺に、訳も分からない様子だった。


木剣で殴られた場所や、拳を振るわれた場所、それらが赤く染まり、血が吹き出ているところもあった。

それは俺も一緒で、そいつと血の色は同じ。俺にもちゃんと人間の血が流れている。そこで初めて、その事に気がつけた。


今まで、魔物だの魔人だの色々言われてきた。一番酷かったのは、魔人の生き残りだからこいつの一族滅ぼそうぜ、と言っていたイジメの首謀者。

俺とその太ったヤツ……名前は確かルーニだったな。

俺とルーニはそいつ等を見返す為に日々の修行に加えて、更なる修行を積み、見事打ち負かす事が出来た。


そいつ等は二度と、俺とルーニをからかわず、差別的な発言もしなくなった。

それどころか、だんだん俺とルーニを持ち上げ始め、戦績を上げる度に「リグザが次期総団長だ!」や「ルーニも負けてねぇぞ!」など言う者まで現れた。

調子のいい連中だと思いもしたが、不思議と悪い気だけはしなかった。



そんな毎日を過ごしていると、俺は20歳にして第6師団の小隊長となり、遠方へ演習へと出ていた。

そして演習が終わり、帝都へと返っている途中のキャンプ地。俺は食料調達の為に森に入っていた。

ある程度の食料が手に入り、キャンプ地へ戻ると、そこに待っていたのは同期と後輩達の惨殺死体だけだった。


俺は恐怖と絶望と混乱と悲しみ、そして深い憎しみを抱えた。

そして学んだ。

弱い者は守れない。弱い者は歩幅を合わせられない。なら俺が合わせるしか無い。


勿論自身を責め立てもした。

俺がいれば状況は変わっていたかもしれない。俺がいれば守れたかもしれない。

しかしそんな、たらればの世界など存在しない。

この受け入れがたい地獄のような現実を、人々は世界と呼んでいる。


だからこれからは、俺が若い世代を守り、次に託す。俺はその為の踏み台になる。

そうなる為にも、まずは国の人々へ希望を与えられる英雄になる。



俺は、ルーニの死体を抱き上げながら、そう決意した。





そして事が起きたのは、俺が8代目コルネロ帝国武装騎士団総団長になってから少しした時だった。

総団長になってから、俺は様々なルールを作った。

入団試験に年齢制限を設け、大切なものの為に死んでも戦えという古臭い騎士道を廃止し、大切な者の為に生きるというものへと改変した。


他を失う事を恐れ、自分を失う事を恐れなくなった人間は必ず壊れてしまう。だから失う事への恐れを忘れないよう、騎士道として掲げた。


そんな時だった。俺は当時多発していた集落の襲撃を防ぐ為の遠征任務へと出た。

そして特に何も発生しなかった集落から帝都へと帰還している最中、怪しげな仮面を被った集団に遭遇した。

正体は言わなくても分かる。

魔人会だ。


同行していた騎士団員は一斉に剣を振り抜き、魔人会へと斬り掛かった。

形勢はこちらに有利。そう思われたが、1人の少女の登場によって全てが変わった。

俺達は一瞬で捻じ伏せられ、地面に這いつくばった。腕が肩から離れ、上半身と下半身が一生の別れをしている者までいた。


その時、改めて自覚させられた。

弱い俺では何一つ守れない。

明らかに自分より弱そうなヤツに一瞬にして倒された。

知らぬ間に肩書となっていた灰燼という異名も役に立たず、炎を当てても何度でも再生し、俺は遂に諦めた。


そんな時、少女は俺に持ちかけてきた。

「私と契約すれば、もっと強い力が手に入る。だからその体――血と臓物と骨……全部、私に預けて」と。


俺は辛うじて動く口で断った。

しかし、少女はそれを聞いていなかったかのように振る舞い、変わらない笑顔を俺に向けている。

何度も断ったが、断る度に少女は俺の指先を少しづつ切り落としていく。


そして情けない事に耐えかねた俺は――魔の手に落ちる事となった。



そこからは素晴らしかった。

体を魔獣へと改造させられ、魔力量も筋力も圧倒的に跳ね上がった。

そしてやりたくも無かった魔人会の行為にも段々と正当性を見出し始め、終いには、これは強くなって一族を護る為だ、と過去の信念を持ち出して、全く関係無い事へと当てはめていた。


そして50年あまりが経過し、今日のザストルク襲撃。

人は殺すなという命令がくだされ、それを遵守しながら人々を避難所まで誘導する。

我ながら、この行為のどこに強くなる要素があるのか訊きたいくらいだ。


俺を止めに来たのは、2人の若造達だった。

片方は俺の後継で、もう片方は知りもしない武器を持っている。

どう考えても武器頼りの若造が足手まといだった。


2人で英雄などあり得ない。強者は常に1人で全てを背負って立ち、決して誰にも背は預けないと相場は決まっている。

俺はその足手まといを消そうとしたが、獣人はそれを徹底的に拒否し、足手まといの分まで動いている。


護るものがいても邪魔なだけ。そう考えていた俺だが――



――そんな足手まといによって、俺の体は今、風穴を空けられていた。




「ベル!!大丈夫かい!?」


 イーリルが巨大な魔道銃器を携えて、倒れているベルリオへと駆け寄る。

 倒れている彼の目の前には、大量に血を吹き出したリグザが地面に倒れており、魔獣の姿から人形へと戻っていた。


「あぁ助かったぜイーノ。お前の事だから、なんか秘策があると思ったぜ」


 彼の手を借りて立ち上がったベルリオは、人差し指と親指を立てて銃の形を模し、撃つ動作を真似してみせた。


「これは僕が独自で開発していた代物さ。君にすらこいつの事を明かしていなかったから、不安にさせたかもしれないね。すまない」


「いいって事よ。今こうやって無事なんだからよ」


 ベルリオはギリギリ動く体を元気そうに動かすフリをしてイーリルに心配をかけまいとしていたが、それが空元気だという事くらい、イーリルには分かっていた。


「―――」


 するとリグザが体を動かそうとした。

 しかし全く動く気配がない。それどころか、魔獣の体を手に入れた事の副作用で手に入れた圧倒的な回復力も機能していなかった。


「動こうとしても無駄だよ。それは回復薬の効能すら無効化する超威力の魔道銃器の弾丸だ。ベルが目印として突き刺してくれた義手は、完全に心臓の位置を示していた。そして僕は正確にそこを撃ち抜いた。貴方はもうじき死ぬ」


 イーリルにハッキリと言い捨てられる。

 それを聞いたリグザは、取り乱す様子もなく、「そうか……」と呟いた。


「……1つ、訊いてもいいか」


 リグザは2人に向かって言う。

 死にかけの最後の言葉だ、と情をかけるようにして2人は彼の最期の言葉を聞く。


「お前は……俺に憧れていたか……?」


 リグザはイーリルの方を見て訊いた。


「……今の貴方を見て素直にそう言う気にはなれないけど……うん。子供の時はとても憧れていた」


 そして次にベルリオの顔を見て同じ質問をする。

 当然、イーリルと同じ様な言葉が返ってきた。


 体の力が抜け始めた。どうやら死が近いようだ。

 それを悟ったリグザは、改めて2人へ声を掛ける。


「過去の憧れ……それを今捨てろ……」


 意味の分からない言葉を吐いたリグザに対し、2人は顔色1つ変えずに彼の口の動きを追っている。


「憧れという壁を超え、地に足をつけた時。必ずお前達は俺よりはるか先を歩いている事だろう」


 リグザは2人を見て言う。

 その言葉を受けたベルリオは、奥歯を噛み締めてから視線をリグザとぶつけた。


「……自惚れるなよ英雄。お前が地に落ち、魔に満ちた時、俺達はとうにお前の先を歩いている。護る事を忘れたお前に、憧憬の念を抱く余地は微塵も無い」


 イーリルに続き、ベルリオにまでハッキリとものを言われた。

 そうなったのは実に何十年ぶりの事だっただろうか。

 俺はもしかしたら、誰かにこう、ハッキリ言い切って、切り捨てて欲しかったのかもしれないな。


「ふっ……そうだな。今更か……」


 リグザはどこか嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 そして横に向けていた顔を夜空へと向けて、そっと目を閉じる。


「あぁ……いつからだろうか……。護る事を、忘れたのは――」



最後までお読み頂きありがとうございます!


これにてザストルク東部での戦闘は終了です。

次回は別視点へと移ります。


それでは次回もお楽しみに!!

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