第一章 11話『『元』究極メイド、思わぬ収穫を得る』
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俺の名はハンス。
34歳独身のしがない冒険者だ。
特別な才能もなければ、これといった功績もない、まあ平凡と言えば平凡な冒険者だ。
だけど、そこそこの腕前で生活は成り立っているし、この歳まで無事に生き延びているんだから、悪くないだろう。
そんな俺は今回、依頼主の依頼でここ、クヌフ森林へと来ていた。
冒険者として、依頼主からの仕事ってやつだ。
まあ、これがちょっとした小銭稼ぎになるって訳だ。
正直、楽な仕事ならありがたいが、どうせまた一筋縄じゃいかないんだろうな……そんな予感しかしない。
俺は森に入るとすぐに川辺を目指した。
早めに拠点を確保しておけば、暗くなってから焦る事は無くなる。
この森に何度か入って慣れていた俺は、いつも通りの道を辿って川辺を目指した。
するとどうだろうか。
川のせせらぎよりも先に、人の声が聞こえるじゃないか。
しかも戦闘中の音だ。
俺はそそくさと茂みに隠れてその現場を偵察した。
そして俺の目に入ってきた光景について、冒険者家業14年の俺が断言する。
その光景は、異質かつ異様。
俺が生きてきた中の人生で初めて見るものだった。
魔物は猫型の巨大な図体をしている。
そいつの正体はこの森の長であり、この森の守護をしている極めて危険性の高い魔物だ。
俺も何度か遭遇したが、命からがら逃げ延びた。
その危険度は脅威のランクS+。
全部で9つあるランクの内、上から数えて3番目に位置するランクだ。
複数人での対峙が基本のそいつは、その凶悪で獰猛で敵に恐怖を抱かない姿から、『恐怖しない者』と呼ばれている。
そんな凶悪で凶暴な魔物とたった一人で戦っている人間がいた。
それは――
「そこそこ手強いですね。ではこれでどうでしょう……!」
メイドだぁぁ――!!
メイドさんがあの魔物と同等以上に渡り合ってるぅぅ!!
何あれ怖い!
何で見た感じただのメイドの女の子がベテランの冒険者でも苦戦する魔物と戦えてるの!?
おかしくない!?おかしくないのか!?いややっぱおかしいのか!?俺の目がおかしいのか!?
え!?だってこの森の長でしょ!?
なんでメイドさんにボコボコにされてるの!?
さっきからアンタの攻撃一撃も当たってないじゃないですか!!どうしたの森の長!?
脚もガックガクに震えてるじゃない!!恐怖しない者はどこ行った!?恐怖しかしてませんけどぉ!?
よく見てみると魔物本人も、自身の攻撃がここまで当たらなかったことが無いと言わんばかりに首を傾げて唸っていた。
しかしそんな隙も見逃さずにメイドの少女は畳み掛けていた。
いやいやそうですよね!!普通困惑しますよね!!
御本人ですらよく分かってないじゃないですか!!
――というかあの女の子容赦無いなおい!!
確かに襲われたらやり返すのが普通だけど!!それにしたって一方的な蹂躙すぎるよ!!
これから女の子と接するたびにこれを思い出しそうで魔物と同じく今から脚が震えるよ!!
「これで――終わりです」
心の中で叫んでいると、メイドの少女がとどめを刺すかのような宣言をした。
めちゃくちゃに心の中で叫んでいた俺だが、その戦闘自体には目が釘付けになっていた。
流麗なメイドの少女の無駄のない動きと、それに自然に組み込まれるスキルによる牽制の飛び道具。
戦闘において本当に無駄がなく、それはまさに闘いの理想形だ。
「一狩り、完了です――!!」
魔物の頭の上を持っていた短剣で殴りつけたんこぶを作って気絶させた。
恐らくこの実力なら魔物を容易く殺すことも可能だっただろう。
だが簡単な殺しを選ばず、今後の対応がどうなるか分からない、難易度の高い生かすことを選んだ。
あの少女は――只者ではないだろう。
ハンスは鞄を拾いに行ったアミナの方へと歩いていった。
彼が近づくと、アミナはちょうど投げられた事で鞄についてしまった、土埃を払っていた。
「ふぅ。中身は無事でしょうか……確認しましょう」
アミナが鞄を持って簡易的なテントの元へと戻っていく。
しかし何故か、ハンスは反射的に身を隠してしまっていた。
如何わしい場面ではないとは言え、少女の姿を隠れてみていたを知られてはどんな仕打ちをされるか分かったもんじゃない。
ハンスは音を立てないようにゆっくりと後方に下がっていった。
そしてある程度離れたと思い、正面を向いて歩こうとした瞬間、持ち前の鈍臭さが災いし、脚が木の根っこに引っかかって転んでしまった。
「ふんぎゃ!!」と声を出して顔面を地面に打つと、アミナはそちらを振り返った。
アミナと目が合ってしまったハンスはただ汗をかいて半笑いするしか無かった。
―――
「いやぁ〜人がいるとは思いませんでしたよ」
アミナとハンスは焚き火を囲みながら会話をしていた。
日はすっかり傾き、夜の森は危ないと判断した為だった。
どうやらこの大陸は日が沈み始めてから夜が明らかに速いようだ。
その代わりに昼は第四大陸より長い。
なんとも不思議な土地だ。
「すまないね……つい君とそいつの闘いに見惚れてて………」
ハンスは頭を掻きながら言った。
その言葉に嘘偽りはなく、本心からの言葉だったのをアミナも感じ取る。
「それにしても、どうしてこの魔物は私の事を襲ってきたのでしょうか」
アミナは自身が倒した魔物の方を見た。
荒い息を吐いて気絶した先程とは違い、今はすやすやと可愛い寝息を立てて眠っている。
「俺の予測だけど、アミナさんが収集を一通り終えるまで待ってたんじゃないかな。こいつは森を守護している森の長だけど、勿論森の物を食べたりして生活している。一人で森を駆けずり回るより、たくさん資源を抱えている自分より弱いモノを襲うほうが効率的だと思ったんだろう。貴女がだから川辺に来て休みそうなタイミングで、鞄を強奪したんだと思う」
ハンスが一番もっともらしい推測を言う。
結論から言うと、それは正解であった。
アミナが設置した土人形を壊しても、アミナ自身を襲わなかった理由は、まだ素材や資源を集めさせるためだ。
そして最後に自分より弱いモノを殺して奪う。
ハンスの言った通りの作戦をあの魔物は取っていた。
しかし最大の誤算があった。
それは、アミナが自身より強かったということだ。
「アミナさんはこの魔物。どうする気なんだ?」
不意にハンスが聞いてきた。
特にそこまでは深く考えていなかったアミナは自身の考えを率直に言う。
「どうもする気はありません。私は鞄を返していただければそれで良かったので。殺して皮を剥ぐ訳でもないですし、肉を取ろうとも思いません」
「そうか……貴女は随分、変わった人だ」
ハンスが目を閉じ、笑いながら言った。
すると何かが揺さぶられる音と共に、その魔物は震えながら目を覚ました。
「あっ。おはようございます。先程はすみませんでした。お怪我は大丈夫ですか?」
アミナは立ち上がって魔物に近づく。
しかし先程の戦闘でのトラウマからか、魔物は巨大すぎる体を持ちながらも、恐怖を隠せずアミナを警戒していた。
そして後方に逃げようと飛ぼうとしたが、アミナとの戦闘で傷ついた体は上手く動かなかった。
飛ぼうとした瞬間に体が硬直し、地面へと留まった。
「あら……大丈夫ですか?」
アミナは心配そうに魔物の背中を優しく擦る。
するとそれを見ていたハンスが自分の持ち物の中から瓶を取り出し、それを持ってアミナに声をかけた。
「助けたいならこれを使うと良い」
そう言ってハンスから手渡された瓶の中には、水色と緑色の中間の色、鮮やかな青緑色をした液体が入っていた。
「これは?」とアミナが尋ねると、ハンスは不思議そうに答えた。
「ん?知らないのか?それは回復薬って言うんだ。あんまし上等な回復薬じゃねぇから、効果はそれなりだが、怪我を治すには十分だろう」
アミナはそれを笑顔で受け取って「それではお言葉に甘えて」と言ってから魔物の口へと回復薬の入った瓶を運んだ。
魔物の口は微妙に開いており、そこから瓶の中に入っている回復薬を流し込んだ。
するとどうだろう。
魔物の体にあった傷がたちまち塞がり、血が止まった。
完全に治癒できたという訳ではないが、それでもパッと見では傷が確認できないほどに体が綺麗になっていた。
「すごい……!これが回復薬……!」
アミナは「ありがとうございます、ハンスさん」と言って瓶をハンスに返した。
お礼を言われたハンスは照れくさそうに「良いってことよ」と言って頭を掻いた。
「さぁ、あなたはもう自由です。森に帰っていただいても構いませんよ。……ご安心ください。明朝には私は立ち去りますので」
そう言ってアミナとハンスは焚き火の方へと歩いて行った。
魔物はアミナの背中をジッと見つめると、ノソノソとその後ろをついて歩いた。
そして、アミナが焚き火の周りの石に腰を掛けると、更に距離を詰めた。
何かの気配を感じてアミナは振り返るが、特に変化はない。
「気の所為でしょうか」と再び焚き火の面倒に戻ると、魔物は更に距離を詰める。
そうするとまた更に魔物はゆっくりと距離を詰める。
アミナが振り返る。
魔物が立ち止まる。
アミナが焚き火の方を向く。
魔物が詰め寄る。
そんな攻防?が暫く続き、そして遂に魔物は隠す気もなく、アミナの脇に座って焚き火で温まった。
「もしかしてその魔物、アミナさんについて行きたいんじゃないか?」
流石に察したわ、と言わんばかりの態度でハンスは言った。
アミナはその言葉に横にいる魔物を撫でながら聞いた。
「そうなのですか?」
魔物を撫でると、喉をゴロゴロと鳴らした。
最初は何か嫌な時の態度なのかと思ったアミナだったが、幸せそうな魔物の態度から、嬉しい時の行動なのだと察した。
そして魔物は頭をアミナに擦り付けた。
どうやら同意の意を示したいらしい。
しかしアミナはそれを確信はしない。
「フフ……くすぐったいですよ。何を言いたいのかも分かりませんし。……分かりました。あなたが私について行きたいというのなら、お好きになさってください。そうすれば、私はあなたが本当に私を好いてくれているのだと確信できます」
そう言ってフサフサの毛を撫でた。
やはり魔物は嬉しそうだった。
「なーんか、見てるこっちが恥ずかしくなってきちまったなぁ………。おっ、ほら川魚。食い頃だぜ」
ハンスは照れ隠しのようにアミナに魚のついた棒を差し出した。
それを受け取ったアミナは魔物に差し出して食べる事を勧め、自らも新しい焼き魚に手を伸ばした。
その夜、普段は静かなクヌフ森林に、嬉しそうな猫の鳴き声と、楽しく会話する二人の男女の声が響き渡った。
―――
翌日の朝、ハンスとアミナと魔物は森の外に出ていた。
周囲は異様なほどに静かで、冒険者の街で寝起きしているアミナにとって、この静寂は屋敷勤め以来、久しぶりだった。
「それではハンスさん。色々お世話になりました。依頼、頑張ってください」
森側に立っているハンスとは反対側に立っているアミナは、隣の魔物を撫でながら言った。
「おうよ、アミナさんもお店の開店、頑張ってくれよ。開店にしたら絶対に行くからよ」
それに対するハンスも腰に手をついてアミナに言葉を返す。
二人はお互いを激励し合い、最後に握手をして別れた。
アミナと魔物はスターターに向かって、ハンスはそのまま仕事の続行。
各々の目的の達成のために惜しげなく別れる。
―――
「そういえばあなた。まだお名前がありませんよね」
魔物に乗りながら荒野を移動しているアミナは魔物のふわふわの毛皮を撫でながら言った。
魔物はただ一言「みゃーん」と言うだけだったが、名前がないのは不便に感じた。
「それでは私がお名前を付けましょう。確かハンスさんはあなたをフィアーレスと呼んでいましたよね。しかしそれではあまり可愛げがないので、少しだけ変えましょう。」
顎に手を当てて考えているアミナは晴れ渡る空を見ながら呟いた。
「フィアー……フィアー……空……青……回復薬……」
魔物に関係した事や今見ている景色の特徴を次々と挙げていく。
そして何かいい名前を思いついたかのように指を立てた言った。
「あっ!『フィアレーヌ・ラピセリア・グランシエル・ノヴァリス・エテルナ』なんてどうでしょうか!」
自信満々の割にめちゃくちゃ長く複雑で、しかもダサい名前に、魔物は困惑した鳴き声を上げた。
「あれ、ダメでした?じゃあ間を取って『フィーちゃん』ということにしましょう」
まぁ先程よりかはマシか、と言わんばかりの同意の鳴き声を上げて、アミナもそれを感じ取った。
「フフ。――それではフィーちゃん。街まで帰りましょう」
地図のを確認し街の方向を指さしたアミナは、予想外の仲間を作り素材収集の遠出を終えて、スターターに凱旋するのであった。
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