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第二章 87話『『現』剣豪サーヴァント、仮面を斬る1』

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 北ではメイ、東ではベルリオとイーリルが魔人会の幹部連中と激しい戦いを繰り広げている中、街の西側に位置しているザストルクの本庁舎でも、逃げ込んできた怪我人達を介抱するという戦いが繰り広げられていた。


「ふぅ……回復薬の個数にもだいぶ余裕が出てきましたね」


 アミナは木箱に収められた自身が作り出した回復薬を見ながら呟く。

 需要と供給で供給が勝つという事は、怪我をしたままの人が減っていっているという事。つまり、本庁舎に逃げ込んできた人達のほぼ全員に回復薬が行き渡った事を示す。


「流石アミナさんですね。これほど人命救助に役立つスキルは中々ありませんよ」


 ヒューリーが木箱を持って運ぼうとする。再び避難民が一番多い本庁舎1階へと持っていくのだ。

 流石にガラス瓶が大量に入った木箱だった為重いだろうとアミナは思ったが、ヒューリーのスキルである腕を生やすというのはシンプルに重いものを持ち上げるのにも役立つようで、特に苦戦した様子もなく軽々と持ち上げてみせた。


「ヒューリーさん、ありがとうございます。それと……すみません」


 アミナはお礼を言った後に申し訳無さそうな顔をして謝った。

 その言葉を受けたヒューリーはキョトンとした顔でアミナを見ていた。


「ヒューリーさんもボロボロだったのにこんな事を手伝わせてしまって……。しかも私達の戦いにも巻き込んでしまいましたし……」


 アミナはスカートをギュッと握る。

 彼女がそう言うのも無理はなかった。アミナ含め、帝都から繰り出してきたメンバーは事前に魔人会の目論見を知っていた。にも関わらずまんまと罠にハメられ、地下にいる間に事を起こされてしまった。

 魔人会の方が一枚上手だったと、魔人会が全て悪いのだと。人々はそう言ってくれるが、知っていたのに対処できなかった事には、途方も無い後悔と悔しさが残る。アミナはその事で悔やんでいたのだ。


 しかし、ヒューリーは少し笑みをこぼしてからアミナに語りかける。


「アミナさんは損な性格をしいらっしゃる御方ですねぇ。きっと恐らく、今までもそういった事を言い続けてきたのでしょう。相手がいくらアミナさんに手を伸ばしてもアミナさんは中々その手を掴んでくれない。しかし相手の手は引っ張り出してでも掴もうとする……手を差し出す側としては、少々もどかしいでしょうねぇ」


 目の前にいる変わった格好をした男のマトモな言葉にアミナは「え?」と思わず声が漏れる。

 アミナの思わぬ声に対して「いえ、何でもございませんよ」と含みを持たせた言い方をして、ヒューリーは扉の方へと向かっていく。

 彼について1階へと向かう為アミナもヒューリーの前へ出、扉を開けて先に行くように促した。

 すると再び細い目を更に細くして微笑んだ。


「私としては、もっと周りの方の手を取ってもバチは当たらないと思いますがね……」

 

 それだけを言ってヒューリーは階段を降りていく。後ろについて降りていたアミナは「ハハ……やっぱり駄目ですね、私」と苦笑いしながらヒューリーの発した言葉の意味を噛み締めながら、共に階段を降りていった。


 2人が階段を降りると、丁度カルムが外の様子見から戻って扉を開けたのが見えた。

 彼女はアミナとヒューリーが降りてきたのを察知するとそちらへ歩みを進め、近づいてきた。


「あ、アミナ様。回復薬の製造ご苦労さまです」 


「ありがとうございます。カルムさんも見張りご苦労さまです」


「お体に何か異常はありませんか?スキルの酷使は体に毒だとメイ様から聞きました」


 カルムはアミナの体を心配する。それもそのハズだった。

 今この本庁舎の中にある回復薬の8割以上をアミナがスキルで補っていたのだ。しかも手持ちのリヴァルハーブを使用して薄めた物をだ。他の倉庫に回復薬はあるだろうが、今この場にそれらは無い。その為アミナがスキルを使って作り出すしか無い。辛かろうが休んでなどいられないのだ。

 

 しかし、スキルの酷使が体に悪影響を及ぼすのもまた事実だった。

 以前アミナは、ガレキオーラという亀型の魔物の変異種である『硬羅の甲冑者(フォルザトイア)』と戦闘した時に、大規模な土の腕を作り出した事があった。

 その時にあまりの巨大な物質の形成に、鼻血を垂らしながらスキルを行使していた。

 

 だが今は特に体に不調は無い。あったとしても彼女の性格上、心配させまいとして正直に言う事は無いだろうが、今体に不調が無いのは事実な為、普通に返答した。


「心配には及びません。この通りまだピンピンしています。……私よりも、今は助けを必要としている方が大勢います。今はそちらを優先しましょう」


 アミナは元気そうな笑顔で答えた。

 依然として、彼女は毅然とした態度を取り続けている。短い付き合いだが、カルムはアミナの弱い所を一度も見ていない。

 メイは長い付き合いの為言わずもがななのだが、他のメンバーに比べてアミナはずっと強い面を見せているような気がした。

 

 例えばカイドウなら、自分の身体的な弱さを理解しており、それを無理に隠そうとしていない。

 フィーの場合も、強い面がよく目立つが、甘える時はとことん甘えるというのが傍から見ててもよく分かる。


 しかし、アミナはずっと強い面しか見せていない。自分を犠牲にして誰かを助ける。自分だけ傷ついて他が助かるなら良い、と思っているとすら感じられる。

 それは誰にだって出来る事では無い。故に強く、故に脆い。危うくて壊れやすい。カルムはアミナの毅然とした態度に、そう感じられずにはいられなかった。


「あっ、アミナさん。お疲れ様」


 そんな所に心地よい声が聞こえる。

 一同が声の方を見ると、そこには顔の整った残念な男が歩いて近づいてきたのが見えた。


「カイドウさんもお疲れ様です。包帯などは足りていますか?」


「うん、大丈夫だよ。流石に治しきれない傷もあったりしたけど、それよりも治り切る人の方が多かったからね。流石アミナさんの作った回復薬だよ」


 カイドウは笑顔で言う。

 彼もまた、本庁舎に避難してきている人の世話をしてくれていた。戦闘では全く役に立てないから、と人一倍働いてくれている。それが今の状況ではとても助かった。


「これからどうなるんだろうね……。フィアレーヌ君やメイさん達は大丈夫かな……」


 カイドウが不安を口にする。

 それは誰もが思っている事であった。しかし誰も口に出さない。避難してきた人達は、心配などしている暇が無いからだ。アミナ達も、今この場で救える命を優先する為に口には出していない。

 それ故にカイドウのように代わりに言ってくれる存在が状況を俯瞰で見れるようにしてくれる。


「北と東は遠いので分かりませんが、西の轟音は止んだように思えます。恐らく、フィアレーヌ様が制圧なさったのだと思います」


 カルムが見回りの結果を伝える。

 西部にある本庁舎から一番近い西部の城壁。一番近いと言ってもそこそこの距離がある為音も不確定だったが、フィーに限って負ける事は無いだろうと、カルムが判断してそう伝えた。


「じゃあフィアレーヌ君は直戻って来るかもしれないね。良かったぁ〜」


 カイドウが安堵の声を挙げる。彼のその言葉に一同の緊張が少し緩む。

 この短い時間で張り詰め過ぎた空気を緩めるには、特に何にも絡んでいない一般人である彼の存在が不可欠だったかもしれない。

 アミナは彼のそんな態度に微笑んだ後、ヒューリーの方を向いた。


「ヒューリーさん、ここまでありがとうございました。ここからは私だけでも大丈夫ですので」


 アミナはヒューリーの持っている回復薬の入った木箱を受け取って本庁舎の扉へと向かった。


「どこに向かわれるのですか?」


「はい、総合倉庫の方々にも回復薬を回そうかと思いまして。勿論倉庫内にもあるのでしょうけど、足りなくなっていたら大変です。少し、行ってきます」


「だったら僕も――」


 カイドウがそう言おうとしたが、アミナは「カイドウさんはフィーちゃんが戻ってくるのを待っていて下さい」と言われてしまったので、頷く事しか出来なかった。

 そして、アミナは最後まで笑顔を見せて本庁舎を後にした。

 

 アミナが出ていった後、3人は今後の為に動こうと思考を巡らせていた。

 

「さぁーて、僕はフィアレーヌ君を待つ間、もう一回この階を周ってこようかな。カルムさんはどうする?」


 カイドウはカルムに声を掛けるが、彼女は「いえ、私はここを見張っております」と言われ、1人でその場を後にした。


「それでは私も、失礼」


 カルムと、カイドウの背中に一度お辞儀をし、ヒューリーもその場を後にした。

 カルムは変わらず本庁舎が攻め込まれても対処できるように1階のロビーで見張りを続けていた。



―――



「えっと確かこの道を……」


 アミナは木箱を持って慎重に歩みを進める。

 それは本庁舎からこの街のあらゆる物資が保管されている総合倉庫までの道のりだった。

 この街にそういった倉庫は複数ある為、全ての倉庫へと向かう事は出来ないが、少なくとも一番近い倉庫内には避難民が大勢いた。その中に怪我人がいるかもしれない、そう考えたアミナは慎重だが素早く向かう。


 そして倒壊した大きかったであろう建物を曲がった先に、全然傷ついていない巨大な建物を見た。


「流石に頑丈ですね。周りがこんな状態なのにびくともしていない」


 アミナは走る速度を上げる。ここまで来れば魔人会の心配も無いだろうし、フィーが魔人会を抑え込んだのなら、今は西部か南部が最も安全になっているハズだ。

 それ等を考慮すると、特に気をつけねばならない事は無かった。


 身の丈の数倍以上もある扉を開け、アミナは倉庫の中へと入る。


 アミナが倉庫の扉を押し開けた瞬間、避難民たちの視線が一斉に彼女に集まった。


 それまで重苦しい沈黙が支配していた空間に、かすかなざわめきが走る。

「やっと来てくれた」「もう助けは来ないかと思った」と、安堵の吐息と共に呟かれる声が次第に増えていく。彼らの目には疲労と絶望が色濃く滲んでいたが、アミナの姿を見て希望を見出したような輝きが戻り始めていた。


 「皆さん、回復薬を持って参りました。今からお配りします。負傷している方、体調がすぐれない方は手を挙げてください」


 アミナの声に、避難民たちは次々と手を挙げ、互いに声を掛け合う。

 一部は足を引きずりながら、あるいは支えられながらアミナの方へと集まってくる。

 その中には子供を抱えた母親や、傷ついた腕を抑えながら歩く若者、衰弱した老人など様々な人々がいた。


 アミナは一人ひとりに丁寧に回復薬を手渡していく。

 感謝の言葉と共に震える手で薬瓶を受け取る人々。その小さな瓶が、彼らにとってどれだけの希望と救いとなるのかを思うと、アミナの胸にも重みがのしかかる。


 「ありがとうございます……。これで……少しは……」


 やつれた顔の男性が、震える声で礼を言いながら回復薬を口にする。即座にその表情にかすかな生気が戻り、隣にいた彼の仲間が肩を抱きしめて泣き崩れる。避難民たちの間に、少しずつだが確かな変化が生まれていく。


「皆さんに回復薬が行き渡ったのは良いのですが……倉庫内にどうしてこれだけの怪我人が……。総合倉庫と言うからには回復薬も少しはあると思っていたのですが……」


「あ、あぁ。それなら我々もそう思って探しました。しかし実際には回復薬なんて無かったです。だから」


 アミナの動きが一瞬止まる。こんなにも大勢の負傷者がいるにも関わらず、必要な薬が足りない。

 一応外部への商品だから使用できないのか、ただ単純に回復薬の発注が無かったのか。疑念が胸をよぎるが、今は目の前の人々の救助が最優先だ。


 「大丈夫です。今ある分で出来る限りのことをしましょう」


 アミナは自らに言い聞かせるように呟き、再び回復薬を手渡していく。

 その姿に避難民たちの目は期待と感謝を込めて注がれ続けていた。



―――



 ザストルク本庁舎の裏口から出ると、そこには人通りの少ない裏路地が広がっていた。

 正面の大通りからは視界が遮られ、ひんやりとした空気が漂う。昼間であっても薄暗く、建物の影が交錯するせいで、どこか常に暗い。

 湿気を帯びた空気が肌にまとわりつき、足元の敷石には長い年月の名残か、かすかな苔が張り付いている。ちらほらと古びたポスターや、剥がれかけた布告の紙切れが壁に張られているのも、この場所の寂れた雰囲気を強調していた。


 普段は人気のないこの場所に、今日は少しばかりの物音が響いている。足音は軽く、不規則だが急いでいる様子もない。かといって散歩を楽しむような足取りではなく、微妙に落ち着きがない。

 壁際に沿って歩くその姿は、一見すれば用事を済ませるだけのように見えるが、わずかな焦燥感がその動きににじみ出ている。


 路地に沿うように並んだ古びたゴミ箱や、積み上げられた木箱の隙間に一瞬、何かが動くのが見えた。

 黒い影、あるいはただの小動物かもしれない。だが、その動きはあまりにも規則的で、何度か繰り返されていた。まるで誰かが、何かを確認するかのような動作だ。


 軋む音がして、路地の奥にある小さな扉がわずかに開いた。中から覗くような視線が一瞬だけ走る。その扉は通常、廃棄物の搬入口として使われるもので、普段は閉じられたままだ。だが今日は少しだけ開き、通りの様子をうかがっているかのようだ。


 積み上げられた木箱の陰から、わずかに影が動いた。動物にしては気配が妙に重い。だが、その影は物音一つ立てることなく、音もなく壁際に沿って消えていく。


 その裏路地の薄暗さは、誰かが隠れて何かを行うのに最適な空間だ。だが、実際に何が行われているのかは、はっきりとしない。ただの偶然か、それとも意図的な動きなのか、それを確かめる者は誰もいない。


 通りに並ぶ無人の木箱と古びたゴミ箱が、ひっそりと佇む中、時折微かな物音が響く。

 しかしそれは、風に揺れる何かが立てる音かもしれないし、ただの勘違いかもしれない。この場にいる者たちは、あくまで自分の役割を淡々とこなしているように見えるが、その表情の裏に隠された意図までは誰にもわからない。


「……こんな所で何をなさっているのですか」


 静寂の中に1つの声が響く。

 その声は低く、そして様々な感情が籠められていたが、確定しているものがあった。

 ――それは怒りだと、すぐさま感じ取る。


「何をしていたのか、と訊いているんです。もうバレているので、シラを切る必要はありませんよ」


 カチャリと何かが音を立てる。その正体にも確信がある。特殊な刀身を持った武器の出す音だ。警備をしているとはいえ、常に持っているのが気になった為よく覚えている。


「いい加減答えたらどうですか。裏切り者様」


 そう言われて影は振り返る。

 丸い体型をして特殊な形状の帽子を被っている影は、目にまで届きそうな程口角を上げている。


「裏切り者の―――ヒューリー・パピヨン様」



最後までお読み頂きありがとうございます!


今回は戦闘から少し離れたお話でした。

そしてまさかお前なのかよ!!ってなってくれた人、ありがとうございます。

やっぱりな、ってなってた人、流石でございます。

私の中ではかなりミスリードと言いますか、そういったのをしたキャラでしたので。


それでは次回もお楽しみに!!

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