第二章 86話『『現』コルネロの英雄達、過去の英雄と戦る4』
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「……リグザの体は今――魔物と同じ状態だ……!!」
青白い業火が3人を囲む中、イーリルは今しがた確認できた事を口にする。その言葉にリグザはピクリと少しだけ反応を示し、それを聞いたベルリオも小さく頷いた。
イーリルは握られていた手を触れて確認しつつ、ベルリオと言葉を交わす。
「リグザの圧倒的な身体能力。それは魔人会に入る前でもあったハズだ。……けれど、きっとそれだけじゃ無い。魔物と同じ体を手に入れて、それによって今の防御力になったと僕は考えている……」
一歩足を後ろに引き、イーリルは呟く。駆け寄ってきたベルリオはその意見に賛同するかのように頷く。
「まぁ、ただ単純に、君の攻撃も僕の技術も通用しないのが悔しくてそう考えてる節が、無い訳じゃ無いけどね……」
冗談っぽさを交えながら、イーリルはその根拠を口にする。
「彼はあんな見た目だが、普通に人間だ。弱点は必ずあるし、元が人間なら耐久力だってきっと何とか出来る。しかも、特段特筆するような血族ではなかったと思う。一般的な、人と亜人のハーフだったハズだ」
自分の腕を慎重に触っていたイーリルだったが、一定の場所まで触れると顔が歪んだ。きっと骨が折れているか肉がちぎれている。だがそれくらいの傷ならばこの場で放置しても致命傷にはならない。そう判断して意識をリグザへと戻す。
「それなら俺も聞いた事あるぜ。種族名は確か……無彩族だ」
無彩族――それはリグザの肌の色の由来でもある一族の呼び名だ。
別段、一族として何か特筆した能力などがある訳では無く、体の色を除けばほとんど人間に近い。亜人の要素はベルリオの方が多いくらいだ。
ベルリオがそれを口にした途端、リグザは大声で「黙れ!!」と叫んだ。
ずっと激しい戦闘を繰り広げていたハズなのに、ここまで大きな声は2人も初めて聞いた。それに驚いて少しだけ固まる。
「そんな差別されていた時代の汚らわしい名で呼ぶな。我々には『エレティナ』という誇り高い呼び名がある」
彼の言う通り、無彩族はその薄気味悪い肌の色から、過去には差別の対象となっていたのだ。彼等の中ではエレティナという呼び名があるようなのだが、世界的には無彩族という呼び名の方が浸透してしまい、ベルリオがそう呼ぶのも仕方無かった。
ベルリオは、今更何が誇りだ、と言おうとしたが、リグザの顔――特に目を見てその言葉を引っ込めた。
その目は、自分の無力さを語り、魔の持つ力の魅力に負けた時に見せた目でも、イーリルを軽視するような目でも無かった。
それは、間違いなく誇りを抱き、それを心の核にしている。そんな者の目だった。
だが、だからこそ、ベルリオは聞かなくてはならなかった。
「……おいリグザ。1つ質問だ。お前の中で、一族は誇りか?」
一瞬間を置き、リグザはその問いに答えを返す。
「あぁ、勿論だ。俺が魔に落ちても、それだけは変わらない」
「……そうか。じゃあもう1つだけ質問だ」
リグザは黙って言葉を待つ。それは質問に答えると捉えて良さそうだった。
「お前は今、何の為に戦っている……?」
ベルリオのその問いに、リグザは変わらない表情をしているが、どこか引っかかる部分があったのか、ほんの少しの動揺が見て取れた。
「その一族の誇りの為か。それとも力をくれた魔人会の為か」
リグザは答えない。ただベルリオの口から発せられる言葉を身一つで受けている。
そんなベルリオの暗い表情を見たイーリルは心配そうに彼の名を呟くが、ベルリオにはそれは聞こえていないように思えた。
「あんたが圧倒的な力の前で絶望して、そっち側に行ったのは、別にもう責めやしない。ただな……」
手は震える。だが手だけでは無い。足や胴体、そして心も震えている。
そんな思いで、ベルリオは言葉を発する。
「俺は少し安心したぜ。英雄の誇りは捨てても、一族の為の誇りを捨ててねぇ事によ。でも、一族の誇りが、一族の為の思いがあったなら――!!」
ベルリオはそう呟いて握り拳を作り出す。
そして、凄まじい速度でリグザまで一蹴りで接近する。リグザは心の中で、速い、と呟くが、ベルリオの速度をまともに捉えられてはいなかった。
「――どうしてそれを、最後まで貫けなかったんだ!!」
ベルリオの渾身の一撃が、リグザの頬を殴りつけ、背後にある炎を突っ切って城壁へと激突させる。
ザストルク東部の城壁が崩れ落ちる音がした後、2人を取り囲んでいた青い炎が消え去り、その場には沈黙だけが残った。
「リグザを……殴り飛ばした……?」
イーリルの驚きの言葉の後に、殴り飛ばしたベルリオは振るった拳を前に突き出した体勢のまま少しだけ俯いていた。
今までは、蹴れば大木殴れば岩壁。そんな感覚がずっと続いており、イーリルの用意した魔道銃器も全く刃が立たなかった。
そんな相手へ攻撃が効いたのだ。ダメージは無くとも、先程と違い、後方へと吹き飛んだ。
全く変化しなかった現状が今、少しだけ動こうとしていたのだ。
「ベルの膂力が明らかに上昇している……。一体どうしたんだ……?」
「―――」
イーリルはベルリオに訊くような独り言を呟きながらベルリオの顔を覗く。しかし彼は答えない。
長い前髪で顔が隠れており、どんな表情をしているのかさえ分からなかった。
「ベル……?」
何の反応も示さないベルリオを疑問に思ったイーリルが再び声を掛ける。
すると、ようやく言葉が届いたのか、顔をバッと上げてリグザが跳んでいった方向を見た。
「……ハッ!!俺ぁ一体……?リグザの野郎は?」
何だかとぼけた事を言う親友に対し、イーリルは少し呆れてしまった。殴った衝撃で耳が聞こえなくなったのか、はたまた気絶でもしたのか。どちらにせよ心配していた気持ちを返してほしかった。
「まさか……覚えてないのかい?」
「あ?何をだよ」
「君は今しがた――あのリグザを殴り飛ばしたんだぞ」
イーリルは風穴の空いた城壁を指差しながら言う。イーリルの指を目で追ったベルリオはその風穴と親友の顔とを交互に見た後、最終的にイーリルの顔を見て
「はぁぁぁぁ!!????」
夜の静寂にベルリオの叫び声が響き渡る。規格外で予想外の大声に、イーリルは耳を塞いで嫌そうな顔をする。
「ほ、本当に忘れているとは……殴った時の記憶は無いのかい?」
「いや、悪いがマジでねぇ……。叫んで近づいたトコまでは覚えてんだけどよぉ……」
腕を組んでベルリオは必死に思い出そうとする。しかし、彼の脳内には、鍛錬、イーリル、肉、鍛錬、最強、肉。と、これらの言葉や記憶しか無い為、先程の記憶は全く思い出せなかった。
そんな必死になって思い出そうとしているベルリオを見ていると、先程までの緊張が薄れ、肩の力が抜けた。
「まぁいいさ……でもとにかく、リグザに一撃入れたのは間違いない。今まで変わらなかった事が変化した……この一方的な戦況においてこれ以上の収穫はないよ。このまま畳み込んでそのまま――」
イーリルが言葉を続けようとした瞬間だった。高笑いに似た何かが二人の耳へと入り込んだ直後、城壁が砂埃を吐き出して瓦礫を押し出した。そしてそこから何か大きな影が飛び出してきた。
ベルリオとイーリルの前の地面に着地したそれは、2人を見下ろしながら大笑いする。
「クハハハッ!!!いいぞ!!もっと踊れ!!」
それは案の定、リグザだった。
ベルリオに殴り飛ばされた時の頬が凹み、赤くなっている。しかしそれ以外に傷は見受けられず、この通りピンピンしていた。
「チッ、一発殴り飛ばしただけじゃダメか……」
緩んだ空気が一変して再び緊張に戻る。ベルリオは腰に刺していた剣がすぐ手元にない為ファイティングポーズを取り、イーリルは変わらず魔道銃器を構えている。
「先程の拳……なるほどな。獣族本来の力という訳か……俺と少し似ているな」
リグザは品定めするような目でベルリオを見下ろす。そして何か知ったような口をきいた。
「あ?ふざけんな。誰がお前なんかと一緒だ」
「まぁそう焦るな、時期分かる。……折角だ。俺がこの体になった経緯……つまり、メルナス様のスキルを教えてやろう」
突然、リグザはそういい出した。
自身の上司の、しかも魔人会という謎多き組織の最高幹部のスキルの内容を教えてくれると言っている。
しかし、どう考えたって罠に決まっていた。だが、それがどんな罠だろうと、嘘の情報だろうとも、聞いておく事で何かに繋がるかもしれない。少なくともイーリルはそう思考していた。
「へぇ。やけに親切になってくれたモンだな」
「この体になってから殴り飛ばされたのは久々だったからな。それに、今ここで俺と戦っている以上、どちらが勝ってもあの人と戦う事は出来ないだろうしな。まぁ、前者の礼とでも受け取るといい」
リグザはそう言って2人……主にベルリオを見つめていた。どうやらリグザが敵として認めているのは、ベルリオだけのようだった。
そんな視線に不快感と謎の納得感を感じつつ、イーリルは目の前の巨漢の話に耳を傾ける。
「俺をこの体にした、あの人の能力は―――」
―――
「色々な生物や物質の再現。それが私のスキル。自分でも自分以外でも色々改造できるんだぁ。だから私の部下達は私が体を改造してあげたりしてるんだよ」
メイとの激戦の最中、メルナスは突然呟く。
何故そんな事を呟いたのか、メイは理解不能だった。しかしいつもの憎まれ口の様な口調で何となく聞き返す。
「急にどうした、自分の能力のネタバラシなんかしちまってよ。頭おかしくなっちまったのか?……って、元々か」
「もう、酷い言いようだなぁ。ま、お姉さんはそれが良いんだけどさ」
地面に落ちていた下水道の壁が崩れ落ちてできた石ころ、それを蹴り上げてメイの後ろまで吹き飛ばす。素の身体能力だけでもメイと張り合えるくらいはありそうだった。
「いや実はね、私の部下の1人が私の能力バラそうとしてたからさ、お姉さんにもついでに教えてあげようかと思ってねぇ」
「そんな事まで分かんのか……だが御生憎様だ。お前のスキルに関しちゃ、こっちで大体の見当はついてんだ」
メイは先程の予測を思い出す。
彼女が体から生み出してくる無尽蔵の生物達。それを見てメイは、メルナスのスキルを『あらゆる生物を再現できるスキル』だと予測した。
しかしメルナスは今、『色々な生物や物質の再現』と言った。生物は分かるが、物質――つまり生物以外も可能というのは想定外だった。
「物質って事ぁ、生きて無くても再現できるって事か……随分と使い勝手の良いスキルだな。だが生物は生物から再現されても理解できるが……お前の場合どうして無生物まで再現出来んだ?」
メイはお粗末な訊き方をする。メイにとっては自然に訊いたつもりだったのだが、あからさま過ぎる質問に普通なら答えない所だが、嫌味で言った「使い勝手の良いスキル」というのがメルナスにとっては褒め言葉らしく、「えへへ」と喜んでいた。
「お姉さんならよく知ってるでしょ?生者は殺せるけど、死者は生き返らない……そういう事だよ」
意味深な発言をし、そこでしばらく黙った。その説明だけでどうやらスキル内容の開示は終わってしまったようだ。
「でねでね、部下の体を改造してるって話に戻るんだけどね。西にいる部下には魔獣の耳と魔物の足を付けてあげてスキルもあげたっけな。東にいる部下に関しては"魔獣"そのものに体を作り変えちゃったんだ。しかもその感覚は私にも共有されてるから、スキルの内容言おうとしたのが分かったって訳」
「感覚共有までされてるって事ぁ、中々信用されてねぇみてぇだな」
「当たり前じゃーん。あんな余所者だったり、すぐ負け認めるようなグズちゃん達を信用できる訳無いでしょ?西側に行った子なんてもう死んじゃったみたいだし、本当によわよわな子だったよ。そこそこ良いスキルもあげたのに、勿体ないよねぇ」
メルナスはケラケラ笑いながら言う。しかしメイはその部下とやらに同情する気は毛頭無かった。
それよりも西側の部下は死んだ、というのが気になった。どうやらフィーはその部下を倒せたようだった。メイはその事に胸を撫で下ろす気持ちで安堵した。
「またまた御生憎様だな。その部下ってのはウチの仲間が――」
「知ってるよ?あの猫ちゃんでしょ?」
メルナスはメイの言葉を遮って食い気味に言う。メイは「あ?」と小さく呟いてから思考を巡らせる。
こいつ……一体どこでフィーの事見てやがった。感覚共有してんのはくれてやった部位だけじゃねぇのか……?そうだとしたらフィーを知ってる発言にも矛盾はねぇ。……いや、耳だけでも十分か。あいつ猫だからにゃーにゃー言ってるしよ。……でも何か引っかかりやがるな。あの、っつーぐらいだ。前々から知ってるような口調にゃ違和感しかねぇぞ。
「もう死んで負けた子の事はいいでしょ?今は私だけを見てよ……ね。お姉さん」
纏わりつくような笑顔を浮かべ、メルナスはメイへと細くなった目を向ける。
そしてメイは心の中で呟く。
イーリル、ベルリオ。こいつの言ってる事ぁ何かやべぇ。東部のこいつの部下には気ぃ付けて、絶対負けんじゃねぇぞ……!!
―――
「ぐあぁっ!!」
再び静寂の中に1つの悲鳴が響き渡る。それは地面へと打ち付けられたベルリオのものだった。
「ベル!!」
イーリルが心配の声を上げて駆け寄る。しかし、それを防ぐかのように巨大な手がイーリルのあばら骨を砕きながら真横へ吹き飛ばす。地面に転がりながら受け身を取るが、それでも体中に残るダメージは想像を絶するものだった。
「くそっ……イーノ……!!」
吹き飛ばされたイーリルを心配して、地面にめり込んだベルリオが手を伸ばす。それに対しイーリルは立ち上がろうとしてあまりの痛みに崩れ落ちる。
そんな2人へ巨大な影が迫る。
「チクショウ……!!まだこんな力残してやがったのか……!!」
「あぁ……これは相当不味いね……!!」
2人は何とか立ち上がろうとするが、目の前にいる生き物の威圧感に押されて中々立ち上がれない。
倒れた2人の目の前にいる大きな影は、大きな雄叫びを上げて2人を見下ろす。
「どうだ!!これがメルナス様に与えられた俺の真の能力……『魔獣化』だぁぁ!!」
灰色の豚のような見た目をした魔獣はそう笑いながら叫び、2人を見下ろしてただただ雄叫んでいた。
その醜き魔獣が、過去の英雄。リグザ・デザルドムだとは、もはや言うまでも無いだろう。
それが新たな絶望が、2人に降り注いだ決定的な瞬間であった。
最後までお読み頂きありがとうございます!
今回も視点が交互になったりしました。
次回は恐らくちょっと平和な視点になると思われます!
いや、まぁ多分、この街にいたらどこも平和じゃないんですけどね。
それでは次回もお楽しみに!!




