第二章 85話『『現』コルネロの英雄達、過去の英雄と戦る3』
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「お前……!!その顔をどこで見やがった!!」
ザストルク案内所の広い下水道内でメイの低い声が響き渡る。
メルナスは変わらず不気味な笑みを浮かべているが、少女であったハズの彼女は、今や小さな少年の姿になっていた。
短めの黒髪で勿論童顔、見た目的に7歳程だと推測できる。その顔立ちは幼いにも関わらず、変身前の人物がその子だと意識すると、無邪気な笑顔すらも気色悪く感じられる。
「アハッ、やっぱりこんな感じであってるんだね」
「私の質問に答えろよ形無し変態野郎……。その顔をどこで見たって聞いてんだ……!!」
メイの怒りは収まらない。むしろメルナスが一言喋る度にその怒りは増しているようにも見えた。
そんな彼女をメルナスは「うーん」と顎に指を当てて考えるようにして答えた。
「別に知りもしないけど……お姉さんが好きそーな子に体を変えてみたの!どう?私がお姉さんの事を好きみたいに、お姉さんも私を好きになってくれる?」
「再現は人間にも適応されるっつーのか……!!」
「うーんとね、まぁそんな所かなぁ。……それよりもだよ!お姉さんが好きな姿になった訳だから、抱きたくなったんじゃない?今なら抱きつかせてあげてもぉ……い・い・よ?」
メルナスの人を舐め腐った態度にメイの抑え込んでいた怒りが爆発する。そしてその少年の格好をしたメルナスの心臓付近を建で突き刺した。血が飛び跳ね、メルナスの着ている白い服が真紅に染まる。魔物を体中に再現しているからか、それとも怒りでそう感じるだけなのか、その血はどこかドス黒い気がした。
勿論この行為が無意味だという事をメイは理解していた。
だが頭では理解していても、体が、本能が、魂が、この少女を刺さずにはいられなかった。
口から血を吐きながらメルナスは姿を元に戻して、思い切り口角を上げて鋭い八重歯を覗かせる。
すると今度は上を向いて口を大きく開いた。ただ口を開けた訳では無く、顎も外れ、口が裂けている。そんな開き方だった。
メイは何故か抜けなくなった建を、メルナスの周囲の肉を削ぎ落としながら何とか引き抜いた。その間も、メルナスは上を向き続けている。
一体何をしてやがる……。
メイが疑問に思っていたその瞬間だった。メルナスの裂けた口から手が生えてきたのだ。
それはメルナスの顎に置かれ、さらにもう1つの腕も生えてきて顔に手を置く。まるで何かがそこから這い出ようとしているかのように。
そして腕に力が入れられると、中身が一気に飛び出してきた。
その手の正体――というか、メルナスの体から出てきたのは、全裸のメルナス自身だった。
自分の口から体を飛び出させ、なんとも言えない快楽の笑顔を浮かべている。
「どう?びっくりした?お姉さん全然顔変わらないから驚かせたくってぇ」
体中ビチャビチャに何かの液体で濡れていたメルナスは素足で地面へと降り立ってヘラヘラとする。
するとそのうち体中から布が生え始め、先程まで着ていた服を完全に再現していた。どうやら再現できるのは生物だけに限らないらしい。いつの間にか濡れていた髪も体も整えられ、ツインテールまでも何もせずとも戻っていた。
「さっきのが気に食わなかったんだったらぁ〜これあげちゃう」
メルナスは掌から何かを地面へボトッと落とした。メイは思わずそれを目で追う。普段ならそんな隙を見せたりなどしないのだが、メルナスの精神的な撹乱に見事踊らされてしまっているようだった。
「―――ッ!!!」
メイは落とされた何かを見た瞬間に背筋が凍り、頭に血が上る。
メルナスが落とし、メイが見たもの。それは―――人間の胎児のようなものだった。
勿論息なんてしておらず、ましてや本物な訳も無い。
だが、そんな事は今や重要ではなかった。目の前の外道は、間違いなく生命を馬鹿にしている。
そんな生命への冒涜を許す程、メイの心は寛容ではなかった。
視点を下げていたメイは少し上げてメルナスの方を見る。すると彼女は指を曲げて口元に持っていき、またしてもニヤニヤと笑っている。
それがメイの怒りをさらに加速させる。
珍しく腕に血管を浮かべるほど力んだメイは建を再びメルナスへと突き刺した。
吐血したメルナスは嬉しそうに頬を紅潮させながら呟く。
「もう〜そんなに私の血が浴びたいのぉ?」
「――黙れ。そして、そのまま爆ぜやがれ」
建を手から離し、少し飛び退いてから着地する。
メルナスは不思議そうに自分に突き刺さったままの建の柄をツンツンと触れた後に匂いを嗅ぎ、蛇のような長い舌でそこを舐め始めた。
またしても嬉しそうな顔をして頬を紅潮させている。黙ってそれをやっているのが余計に気色が悪い。
「……『リベラーテ』」
メイが小さく呟いた。すると建が光り輝き始めた。
柄を舐め続けているメルナスは「?」と一切何が起きているのか分かっていないような反応を示し、首を傾げた。
次の瞬間、光り輝いていた建の刀身が光量を増し、内側から破裂するかの如く、一気に爆散した。
メルナスの上半身が吹き飛び、周囲には血飛沫や内臓が飛び散る。
それはさながら、小規模な爆発だった。
「チッ……イーリルから貰った魔法の籠もった魔鉱石まで使っちまった」
メイは足元に転がってきたメルナスの目玉を踏み潰した後、地面に突き刺さった建を回収しながら呟いた。
名称に反応して発動する魔鉱石で、イーリルがメイに渡していたのは、爆発系統の魔法が籠められた魔鉱石だった。
上半身が吹き飛んだメルナスをメイは見つめて待つ。そして「三文芝居は良いからさっさと再生しやがれ」と言った。
その言葉を言い放った後、すぐさまメルナスの体は再生を始めていた。一体吹き飛んだ上半身のどこでその声を聞いたのか、メイにはどうでも良かった。
「あーぁ、折角一枚の希望を持たせてあげようと思ったのに」
「んなモンいらねぇんだよ。私が欲しいのは、お前をぶっ殺したって事実だけだ」
「もう、せっかちなんだから♡」
そんなやり取りが続き、メルナスは完璧に体を修復した。
2人の戦いは、まだまだ終わりそうに無かった。
―――
一方、ザストルク東部の城壁前で過去の英雄、リグザ・デザルドムと激しい戦いを繰り広げているベルリオとイーリルは、熱い炎に取り囲まれ、体力を奪われ続けていた。
「はぁ……はぁ……このままじゃ、炎に対して耐性のない僕等が一方的にやられるだけになってしまう……」
「あぁ、チクショウ……。強いクセにうぜってぇ動きしやがるぜ……」
お互い汗を拭って息を整えていると、また次なる攻撃が2人を襲う。
拳を握った腕の形をした青い炎。芸が無いと言ってしまえばそれまでだが、その練度は凄まじく、2人を的確に追尾して接近する。
その度にイーリルが魔道銃器を撃ち放って炎を散らし、ベルリオが剣で薙ぎ払う事で応戦する。
「うおらぁ!遠くからチマチマやってんじゃねぇ!」
ベルリオが雄叫んでリグザへと接近する。そして剣を振るい接近戦へと持ち込む。
しかし彼の拳と刃を織り交ぜた連撃に怯む事無く、リグザは反撃していく。刃には刃。拳には拳。それに追加で炎の腕が無数に伸び、ベルリオとイーリルの2人を一度に相手する。
二手一刃に対して、実に十手と二刃。
リグザの青白い炎は、単に焼き尽くす熱ではなく、触れるものすべてを抉り、引き裂くような力を持っていた。
その腕が蛇のようにうねり、無数に枝分かれし、ベルリオとイーリルの間を埋め尽くしていく。鋭い切先のような炎の端が、ベルリオの頬を掠める度に焼ける臭いが立ち込める。
ベルリオは一瞬も気を抜けない。踏み込みの際にリグザの剣を受け流し、同時に鋭い拳を繰り出すが、相手は炎の腕で防ぎ、まるで盾のようにそれを使いこなしている。
一瞬の隙を突き、ベルリオの腹部に重い膝蹴りが突き刺さる。肺の中の空気が押し出され、苦痛が全身に駆け巡るが、それでも目を逸らさず、剣を振りかざす。
リグザはその剣を炎の腕で絡め取り、逆に力を加えて弾き返した。ベルリオの手元から剣が離れ、宙を舞う。しかしその瞬間、イーリルの銃弾がリグザの顔面すれすれを掠め、彼の注意を引く。反射的に炎の腕が伸び、イーリルの方へ襲いかかる。
その隙をついて、ベルリオは手元から失った剣を追いかけるように地面を転がり、拾い上げる。リグザの注意が一瞬逸れたその瞬間、ベルリオは再び接近し、拳を鋭く振り下ろす。
リグザは再び炎の腕で防ごうとするが、その厚みがわずかに薄くなっている。イーリルの援護によって攻撃の隙が生じているのだ。
ベルリオの拳がリグザの肩口に叩き込まれ、炎の防御が揺らぐ。
だが、リグザは微塵も表情を崩さない。その目は冷徹な輝きを保ち、青白い炎が再び膨れ上がるように燃え盛る。
次の瞬間、リグザの反撃が始まる。彼の剣がベルリオの喉元を狙い、炎の腕がイーリルを絡め取ろうとする。
追い詰められた二人。だが、この状況で怯むことはない。
ベルリオは剣を構え直し、イーリルは再度魔道銃器を装填する。両者の呼吸が重なり、戦場の熱気がさらに濃密に渦巻いていく。
リグザの攻撃はなおも苛烈を極める。炎の腕は無数に伸び、絡みつき、締め付け、斬り裂く。まるで彼の意志そのものが形となり、戦場を支配しているかのようだ。
ベルリオは剣で応じ、イーリルは銃撃を放ち続けるが、それらの攻撃は炎の障壁によってことごとく弾かれ、焦げた臭いだけが立ち込める。
ベルリオの呼吸は荒れ、額から汗が滲む。腕に重くのしかかる疲労感が、動きに鈍さを生じさせる。一方でリグザは微塵も疲れを見せない。むしろその炎の勢いは、さらに増していくかのようだ。
イーリルもまた、焦燥感を募らせていた。魔道銃器の弾数は限られている。無駄弾を放つわけにはいかない。リグザの動きを見極め、一瞬の隙を狙うが、その隙は容易に現れない。
そんな中、リグザが動くのを止め、小さく呟いた。
「どう考えても――こいつが足手まといだな」
今までほぼ動いていなかったリグザが一瞬で背後に周り、イーリルの腕を握り潰す勢いで掴んで持ち上げている。イーリルの手からは魔道銃器が落下し、焼け焦げた地面へと落ちていった。
「ぐぁっ……!!」
「おいよせやめろ!!イーリルに何する気だ!!」
ベルリオは体を翻して振り返る。そして剣を振り抜こうとしたが、リグザのベルリオを尻目に睨む鋭い目つきが全てを物語っていた。動けばイーリルがどうなるか分からない、と。
「フッ、想像通りだな。護るものがあれば人は弱くなる。俺はメルナス様に負けてそれを学んだ」
「ふざっけんな!そんなのの何が学びだ!負けたのを正当化しようとしてんじゃねぇぞ!!」
ベルリオは声を荒げて反論する。イーリルの手は未だ握り潰されそうになっている。その事が気が気でなかったのも、大声を出した理由の1つだろう。
「ふむ。確かにそう言われてしまえば何も言い返せんな。……だが、そんな俺に負けているお前等の現状も、反論の余地は無いと思うがな」
あぁ言えばこう言う過去の英雄の言葉が図星で、ベルリオは奥歯を噛みしめる。むき出しになった歯茎は、怒りと現状の悔しさをよく現していた。
「戦場で生き残るのは、圧倒的な強さを持った強者か、それを大きく下回る隠れる事しか出来ない弱者だ。そして、強者とは常に孤独だ。故に英雄は常に1人。――貴様も、この男を失った方が、強くなるかもしれんな」
「テメェ……何言ってやがる……!!そんな訳ねぇだろうが!!俺とそいつはガキの頃からのダチだ!力の俺でも、知恵のそいつでも……片方が欠けたら意味がねぇんだよ!!」
ベルリオが熱の籠もった反論をリグザにする。力で敵わなくとも、そこだけは譲れない。彼の根っこは、リグザの発言を許す程穏やかな状態ではなかった。
すると――
「……貴様、何をしている」
リグザがイーリルに対して言う。ベルリオは何が起きているのか見ようとするが、リグザの巨体で全く見えなかった。
「―――!!」
イーリルは突然、持ち上げられた手の肘を曲げて体を持ち上げ、もう片方の手を使ってリグザの大きな拳を口の前に持ってきた。
そして、口を大きく開いて鋭く煌めいた犬歯を、リグザの拳へとめり込ませた。するとリグザの拳から少しだけ血が流れた。
しかしリグザはため息を付くだけだった。
「くだらんな。そんなので俺に何が出来るというのだ」
リグザは呆れてイーリルを手放し、ベルリオの正面へと移動した。その速度も凄まじい程速く、突然地面に落下させられたイーリルは息切れを起こして地面に伏せっていた。そんな彼を心配するようにベルリオは後退して駆け寄る。
「イーノ!大丈夫か!?」
「あ……あぁ……。それよりもベル。あいつの血、見たかい?」
「えっ?い、いやっ……見てねぇ」
突然の問いかけにベルリオは困惑しながらも答えた。
するとイーリルは「じゃあこれを見てくれ」と言って口を開いた。そこには先程、イーリルが必死の抵抗でリグザに噛みついた時に出てきた血が付着していた。
それはドス黒く、人間のものにしては鮮明さに欠ける色をしていた。
「まさかこれって……!!」
「あぁ……ヤツは魔人会の少女と契約をした、と言っていた……。そして、それはきっと、アイツがさっき様呼びしたメルナスって人物に違いない。そしてその人物は副官が様付けで呼ぶような人物。つまり魔人会の最高幹部である可能性が高い。そんな人物と契約を交わしたとなれば、考えられる可能性が1つ――浮かび上がってくるだろう……?」
イーリルは含みを持たせるような言い方をして、ベルリオもそう言われる前にイーリルの言いたい事を察していた。
そして、今まさに明らかになった事実を、イーリルは口にする。
「ヤツから出た血、人間離れした圧倒的な身体能力。……リグザの体は今――魔物と同じ状態だ……!!」
最後までお読み頂きありがとうございます!
前半部分はメイの視点となっていますが、一応ベルリオとイーリルがメインの視点です!
それでは次回もお楽しみに!!




