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第二章 81話『『現』コルネロの英雄達、過去の英雄と戦る2』

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 燃え盛る業火、迸る血潮。

 目の前にいる英雄にとって、それは日常の風景だった。

 前方からの殺意と後方からの憧憬の眼差し。それらを常日頃から浴び続け、纏わりついたそれを血で洗い流す。それが英雄である彼の日常だった。


 そんな争い事の全盛期に活躍した英雄に、2人の若き英雄達が必死に食らいついている。

 名乗りを上げた落ちた英雄、リグザ・デザルドムとの戦闘。ベルリオとイーリルにとっては苦戦を強いられるのはもはや必然であった。


「ガァッ――!!」


 リグザの放つ青白い業火の熱がベルリオの頬を掠める。それは触れただけでも血液が沸騰し、肌が燃え尽きそうな熱量を持っている。掠めただけでも相当な痛みが押し寄せる。その痛みを咆哮で誤魔化しながら、ベルリオはリグザの元へ突っ込む。


「―――ッ!!」


 振り上げられた剣はリグザの首元目掛けて振り下ろされたが、リグザは地面に落ちていた剣を踏んで宙に浮かべると、それだけでベルリオの一撃を防いで弾き返した。剣そのものはその辺に落ちていた魔人会の構成員達の剣だが、扱う者によって武器は真価を発揮する。


 体勢を立て直そうとして一旦下がったベルリオへ、まるで生きているかのような炎が接近する。その炎は蛇や龍に近い何かの形状をしていた。

 ベルリオの後ろに回り込んで接近するそれを、イーリルが魔道銃器で撃ち抜いて散り散りにする。1つ目の魔道銃器はリグザに握り潰されてしまったが、この街に人数分の魔道銃器を持ってきていた事が幸いした。予備の魔道銃器と弾丸を懐にもう一つ忍ばせる事が出来た。


 再びベルリオは体勢を低くしながらリグザへと接近する。獣族特有の頭の上についている耳が、風を切るリグザの剣の音を聞き取り、咄嗟に体を翻す。


 しかし接近は止まらない。そのまま腹部への殴打を一発。

 相変わらずその感覚は樹齢数百年の木を殴っているようだった。鍛え抜かれた肉体がこれ程の存在感と防御力を誇るのだと分かると、まだまだ鍛錬が足りていないと思い知らされている気分になる。


 すると今度は視界の外から炎の腕が無数に伸びてくる。向かってくる敵全てを灰にしてきたリグザの青い炎だ。

 しかしベルリオは効かぬ打撃を繰り出し続けている為応戦できない。そこでイーリルが魔道銃器で炎を撃ち払いながら距離を取り、ベルリオの援護をする。


 そして一撃、また一撃とベルリオの打撃が繰り出される。


 ベルリオの拳がリグザの腹部へと食い込む。しかし、そこに確かな手応えはなかった。殴った衝撃が逆に腕へと返ってくる。すぐさま体勢を立て直し、ベルリオは次の攻撃へと移る。だが、その一瞬の隙を見逃さず、リグザは足を軸に回転しながら拳を突き出した。空気を切り裂くような轟音とともに、衝撃波が生じる。


 ベルリオは瞬時に腕を交差させて防御の構えを取る。衝撃が体全体を包み込み、足元の地面が砕ける。爆風に吹き飛ばされながらも、ベルリオは背後の壁に着地し、そのまま跳躍してリグザへと突進する。


 一方、イーリルは冷静に戦況を見極めながら、魔道銃器の銃口を炎の腕に向ける。リグザの青白い炎は生きているかのように蠢き、無数の腕となってベルリオを包囲しようとしていた。その軌道を先読みしながら、イーリルは連続して引き金を引く。

 魔力の籠もった弾丸が炸裂し、炎の腕が弾け飛ぶ。しかし、リグザの炎は一度砕かれた程度では消えない。爆発したかと思えば、まるで無から生まれるように次々と新たな腕が生み出され、ベルリオを狙う。


 ベルリオはその攻撃を間一髪で回避しながら、地を蹴る。地面が陥没するほどの勢いで一気に距離を詰め、リグザの懐へと潜り込む。拳を固め、腹部へと強烈な一撃を繰り出した。しかし、リグザはそれを予測していたかのように、一歩後方へと下がる。そして、その勢いを利用するように、彼の両足が地面を蹴る。次の瞬間、リグザの膝がベルリオの腹部に突き刺さった。


 鈍い衝撃が響き渡り、ベルリオの体が宙を舞う。口の中に鉄の味が広がる。しかし、彼はそのまま吹き飛ばされることをよしとせず、空中で体を捻りながら、リグザの腕を掴んだ。そのまま引き寄せ、肘を叩き込む。


 リグザの頬がわずかに揺れた。しかし、それだけだった。ベルリオの攻撃を受け止めたまま、リグザの瞳が淡々と輝く。直後、彼の腕がうねるような軌道を描き、ベルリオの脇腹へと鋭い拳が突き刺さる。


 衝撃でベルリオの体が地面へと叩きつけられ、粉塵が舞い上がる。地面にヒビが走る中、彼は歯を食いしばりながら体勢を整え、すぐさま立ち上がる。しかし、リグザはすでに次の一手を仕掛けていた。


 足元から燃え盛る炎が奔流のごとく広がり、ベルリオの周囲を囲む。逃げ道はない。だが、ベルリオは臆することなく、その炎へと飛び込んだ。瞬間、皮膚が焼けるような熱が襲いかかる。だが、それすらも意に介さず、彼は突き進む。


 リグザが迎撃のために剣を振るう。しかし、ベルリオはそれを読んでいた。上半身を素早く捻り、間一髪で剣の軌道をかわす。そして、その勢いを利用し、リグザの膝へと強烈な蹴りを叩き込んだ。


 初めて、リグザの体がぐらついた。その刹那、イーリルの銃弾が横からリグザの肩口を狙う。弾丸が皮膚を掠め、微量の血が滲む。しかし、リグザの表情は変わらない。


 むしろ、その眼光はさらに鋭さを増していた。


 彼の青い炎が、一層強く燃え上がる。炎の渦が周囲を包み込み、戦場の温度がさらに上昇する。


 間髪入れず、リグザの足が地を蹴る。

 轟音とともに風圧が巻き起こり、その場に立つだけで精一杯なほどの圧がベルリオを押し包んだ。視界の端に映るのは、青白い炎が尾を引く光景。反射的に身を引いたが、それでも肩口を掠める熱を感じる。皮膚の一部が焼ける感覚があるが、そんなことを気にしている余裕などない。


 リグザの拳が振り下ろされる。まるで鉄槌が落ちてくるかのような重量を帯びた一撃。ベルリオは身を捻り、ぎりぎりで避ける。しかし、その拳が地面に着弾した瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、大地が陥没する。岩盤すらも砕け散るその威力に、ベルリオは息を呑んだ。


 その間もイーリルは動いていた。魔道銃器を構え、リグザの僅かな隙を狙う。風を切る音が響き、弾丸が一直線に放たれる。しかし、リグザはそれを察知していたかのように身を翻し、弾丸を紙一重で回避する。青白い炎がその軌道を照らし、暗闇の中で弾丸の軌跡がくっきりと残る。

 避ける必要の無い攻撃にも完璧に対応してくる。落ちたとはいえ、戦士としての感覚と誇りは未だ健在のようだ。


 その隙を突いてベルリオが肉薄する。今度は拳ではなく、蹴撃。足に全身の重みを乗せ、リグザの脇腹を狙う。しかし、その蹴りをリグザは掌で受け止めた。信じられないほどの力がベルリオの足を捕らえ、そのまま投げ飛ばされる。


 空間が歪むほどの勢いで地に叩きつけられたベルリオ。肺から強制的に息が押し出され、視界がぐにゃりと揺れる。しかし、意識を飛ばしている暇などない。横転しながら起き上がり、再び構えを取る。


 その間に、イーリルが魔道銃器の装填を終えていた。再び弾丸が放たれ、リグザの動きを阻害する。しかし、リグザは片手を掲げると、まるで盾を形成するかのように青白い炎を前面に展開する。弾丸はその炎の中に飲み込まれ、消滅した。


 そして、炎がうねりを上げながら形を変える。巨大な獣の顎が形作られ、その口がベルリオとイーリルを飲み込まんと迫る。

 ベルリオは即座に地を蹴った。迫りくる炎の顎を紙一重で避ける。その瞬間、イーリルの銃声が鳴り響く。弾丸が炎の核となる部分に命中し、一部が砕け散った。


 しかし、それでも消滅はしない。リグザの炎は意志を持つかのように再生し、形を維持し続ける。ベルリオとイーリルは息を揃えて動くしかなかった。互いの位置を確認しつつ、攻撃を仕掛けるタイミングを計る。


 そしてべルリオが踏み込む。リグザの懐に入り込み、全力の拳を繰り出す。リグザはそれを片手で受け止めた。しかし、その瞬間をイーリルは見逃さない。


 リグザの注意がベルリオに向いた一瞬の隙。その刹那、イーリルが銃口をリグザの額へと向ける。そして引き金を引いた。


 轟音が響き、弾丸が放たれる。

 だが、リグザはわずかに首を傾けた。それだけで、弾丸は額を掠めて飛び去る。ほんの数センチの差。それだけで勝負は決しなかった。


 次の瞬間、リグザが腕を振るう。

 青白い炎が、奔流となって二人を襲った。


 灼熱の壁が迫る中、ベルリオとイーリルはそれぞれの手段で回避する。ベルリオは地を転がりながら、イーリルは空間を跳ぶようにして炎を避ける。 

 その勢いを利用し、やはり打撃が放たれる。


 ベルリオの拳が振るわれるたびに、空気が震え、地面が抉れる。獣人特有の膂力が存分に発揮されたそれは、掠っただけでも相手の骨を軋ませる威力を秘めている。しかし、リグザはその猛攻をまるで先が見えていたかのようにいなしていく。


 重厚な剣捌きと、卓越した戦闘経験。そして何よりも、彼の全身を覆う青白い炎が、その巨体を俊敏なものへと変えていた。まるで炎そのものが彼の意思を読み、動きを先導しているかのようだった。


 ベルリオの拳が虚空を切る。次の瞬間、リグザの拳が彼の腹部へとめり込んだ。


 鈍い衝撃が全身を駆け巡り、ベルリオの口から息が漏れる。内臓が揺さぶられ、意識が一瞬飛びかける。しかし、そのまま倒れ込むわけにはいかない。獣人の本能が彼を支え、すぐさま後方へ跳躍し、距離を取った。


 それを追うように、リグザの青い炎が飛ぶ。炎の蛇となったそれは、空中を這い回り、ベルリオの背後へと回り込む。まるで逃げ場を塞ぐような動きだった。

 距離を取れば炎が、近づけば圧倒的な戦闘力で押し潰される。ここまで有利に事が運ぶのは、リグザの今までの鍛錬の成果と言わざるを得ないだろう。

 スキルが無いからと言い訳すればそこまでだ。だがそれを乗り越えなければ目の前の男には勝てない。ベルリオの本能は、脳に直接そう語りかけている。


 そこへ、イーリルの銃撃が割り込んだ。


 魔道銃器の弾丸が炸裂し、炎の蛇を散らしていく。しかし、リグザはその隙を見逃さない。宙に舞うベルリオへと踏み込むと、その脚を掴み、そのまま大地へと叩きつけた。


 轟音と共に、地面が砕ける。土煙が舞い上がり、ベルリオの身体が瓦礫の中に埋もれる。意識が遠のく。しかし、リグザはそこに止めの一撃を加えようとはしなかった。


 いや、加える必要がなかったのかもしれない。戦闘を楽しんでいるのか、それとも2人を追い詰めている優越感に浸っているのか。どちらにせよ、2人が憧れた英雄としての彼の姿はもはやどこにも見当たらない。


 その時、イーリルの狙撃がリグザのこめかみを正確に捉えた。

 

 閃光が走る。


 弾丸が命中した刹那、青い炎が爆ぜ、リグザの顔を覆い隠した。爆煙の中から響くのは、低く、くぐもった笑い声。


 ――無傷。


 それどころか、リグザはさらに強く燃え上がっていた。


 イーリルの額に汗が滲む。弾丸は確かに当たった。それも、急所を狙った一撃だ。しかし、それすらもものともしないのが、目の前の化け物だった。


 リグザはゆっくりと顔を上げる。傷一つないその顔が、不敵な笑みを浮かべた。


「クク……どうした小僧共。これがどうにもならない才能と実力の違いってヤツだ。俺が感じた事をきっとお前達も感じているだろう」


 「チッ……」


 イーリルは舌打ちしながら、ベルリオへと視線を向ける。彼はすでに瓦礫を押しのけ、地面に膝をついていた。荒い息を吐きながらも、まだ戦えるといった様子だ。

 

「ペラペラペラペラと、僕の好きな英雄の姿で薄っぺらい言葉を並べるな……!!お前は、楽して力を手に入れたのを自分の実力と勘違いしてるだけだ!!」


 イーリルの叫びが戦場に響き渡る。彼の手は震えていた。しかし、それは恐怖ではない。込み上げる怒りと、燃え滾る決意の証だった。


 リグザの表情がわずかに歪む。微笑みとも、嘲笑ともつかぬ曖昧な表情が、青白い炎の明滅の中で揺れる。しかし、その眼差しには一切の動揺はない。まるでイーリルの言葉など取るに足らぬ雑音だと言わんばかりに、静かに剣を振り上げた。


 イーリルはそれを見て、一気に間合いを詰める。ベルリオが下がりながら呼吸を整えている今、時間を稼ぐのは自分の役目だ。ベルリオより弱いのも、力が足りないのも自覚している。

 しかし約束した。彼がピンチの時は守る、と。


 リグザの剣閃が走る。風を切る音が耳を裂く。

 イーリルは寸前で回避しながら、魔道銃器を構える。弾倉の残りは少ない。無駄撃ちはできない。


「……ッ!!」


 引き金を引いた瞬間、リグザがわずかに踏み込む。銃弾が放たれる直前、剣の平で叩き落とされた。火花が飛び散る。イーリルの目が見開かれる。


「そんなものか?」


 リグザの冷え切った声と共に、もう一撃。今度は回避が間に合わない――。

 だが、次の瞬間、獣の咆哮が響き渡った。ベルリオの拳が、炎の壁を突き破りながらリグザの腕を狙う。

 リグザは舌打ちしながら即座に後退。ベルリオの拳が空を切る。


「ようやく戻ったか」


 リグザが呟く。しかし、その目は、先ほどよりもわずかに鋭さを増していた。

 イーリルは荒い息を吐きながら、ベルリオと並び立つ。


「……次は、逃がさねぇぞ」


 夜風が静かに戦場を撫でた。

 再び、炎と鋼が激しくぶつかり合った。



最後までお読み頂きありがとうございます!


今回はまるまる戦闘回となりました。


それでは次回をお楽しみに!!

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