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第二章 79話『『現』ランクS+魔物、狩人を狩る1』

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 体を普段のサイズに戻したフィーと、それを見つめている魔人会最高幹部、天魔六柱の『結晶』の名を冠している、オセ・グラウデ・メルナスのもう1人の副官。魔獣狩りのロイド=バズノーズ。

 鋭い視線をぶつけ合いながら、互いを牽制し合っている。

 しかし一瞬、ロイドの足がジリッと動いた。その瞬間、フィーは小柄ゆえの素早い速度でロイドの懐まで迫り、攻撃の瞬間だけ腕を大きくし、ロイドの顔面を思い切り殴打した。


「べふッ!!」


 情けない声を上げながら、ロイドは西部城壁に体を打ちつけ、そこには大きな穴が空いた。結局、フィーの心がけていた、街を破壊しない、というのは上手くは行かなかった。

 

(どうにゃ……)


 フィーはロイドが飛ばされた所を見つめる。大穴には砂煙が舞っており、まだよく見えなかったが、聞こえてくる音から、その後の展開は用意に想像できた。


「あぁー……いっつつ……」


 首をゴキゴキと動かしながら、ロイドは砂煙の中から姿を表した。しかしフィーは今度は驚かず、やっぱりか、といった表情をしていた。


「流石『恐怖しない者(フィアーレス)』。いい一撃(モン)もんじゃんじょん」


 ロイドの一言に、フィーは引っかかる。

 これまでこの国でフィアーレスと気がついた者が全くいなかった。それは他国の危険度ランクS+の魔物だからと思っていたが、どうやらそういう事でも無いようだ。現にロイドは、フィーの異名を知っている。

 知っている者は知っている。異名とはそういうものなのかもしれない。


「おぅ?なぁんで知ってんのかって顔だな。そりゃ知ってるに決まってるじゃねぇか。俺は魔獣狩り。めぼしい魔獣は大体マークしてんだよ」


 フィーは自身の思考が読まれている様な感じがして苛立った。まるでメイと喋っているようだった。だが、メイの方が数千倍はマシだ、と心の中で呟いた。


 そもそも魔獣というのは、魔物の中でもフィーのような獣に属する魔物の総称である。

 その為、迷宮遺跡ララバイで戦った『異形の彫刻家(スカルプト・ホラー)』は魔獣では無いし、ガレキオーラの変異種である『硬羅の甲冑者(フォルザトイア)』は魔獣に分類されている。獣かどうかの違いである為、戦う事の無い一般人にとっては、あまり馴染みが無い。


「まぁ……あれだ。悪く思わなでくれよ。お前殺さねぇと、俺があの人に殺されん―――だぁぁぁ!!!」


 頭をボリボリとかいてフィーにその言葉をかけた瞬間、再びフィーによる攻撃がロイドを襲った。今度は巨大な腕で地面に何発も叩き込まれ、地面に深くめり込んでいった。

 自身の五感を掻い潜ってこの場に現れたような得体の知れない輩にくれてやる時間などフィーには無く、さっさと倒してしまって、他の場所の救援に急ごうとしていた。


(今度は死んだかにゃ。早く他のトコに――ッ!!)


 すると、ロイドが埋まっている場所に置いたままにしている手が突如として盛り上がり始めた。

 自身の腕の下を見ると、ロイドが巨大化したフィーの手を持ち上げており、埋まった地面からも既に脱出していた。


「人の話を聞かねぇ猫だなぁ!一体どんな教育受けてんだこの野郎!俺じゃなきゃ死んでたぞ!」


(そりゃ、殺す気で振り下ろしたんだからにゃ……。でも、全然効いてにゃい……。何であんなに平気そうなのにゃ。何発もオレの攻撃を耐えられるヤツなんているハズにゃいにゃ……。クソッ。何でオレが戦う敵は毎回オレの初撃を全員耐えやがるにゃ……!!)


 殺す気で振り下ろした。だからこそ、効いていなかった時のショックは大きい。そのせいか、ブロッセやガーベラとの戦いを思い出してしまっていた。

 そしてフィーはこう言っているが、内心何故効いていないのか、どういった原理なのか、殺す気の攻撃を耐えたロイドをどうやって倒そうか。考える事が多過ぎて思考がごちゃごちゃとし始める。

 

 思考を巡らせているフィーを見て、攻撃してこないと考えたのか、ロイドが口を開く。


「お、来ねぇのか?俺のターン!!ってか?そんなら遠慮せずにいかせてもらおうか!!」


 袖の中から飛び出た刃をぶつけた後、ロイドはフィーに向かって走って接近する。

 姿勢を低くしたロイドは、フィーと同等か、またはそれ以上の速度を持ってして迫ってくる。

 基本的な防御力には自信があったフィーだったが、ロイドの放とうとする斬撃には思わず体を小さくして回避してしまった。

 フィーが避けた事で、ロイドの刃が地面を深々と抉った。いくらただの石床だからとはいえ、刃のリーチ以上に地面を抉られてしまっては、その威力を信じざるを得ない。小さくなった体を戻しつつ後方へ跳ぶ。


 しかしフィーの予想を上回る速度で、次の斬撃は放たれる。両の腕を交差させるような軌道を描いた刃は、フィーの肉体を確実に切断しようとしているように思えた。

 そんな時には体を大きくし、腕が閉じられる前に体で押し退け、一発蹴りを入れる。


 またしても吹き飛ばされたロイドは地面を転がりながらしっかりと受け身を取って立ち上がると、今度はフィーの周りをグルグルと走り回る。

 彼の走った後に残る残像が円を成してフィーの視界に現れる。ただの人間の身体能力にしてはかなり素早い。速度だけで言えばフィーとメイも勝てるか分からなかった。しかしそれ以外の面で勝てれば問題ない。

 フィーはそう考えて全ての感覚を、文字通り走り回っているロイドに集中させる。


 (ここだ……!!)


 フィーはロイドの来る場所を今感じ取れる全ての感覚を使って予測する。そして予測地点へと爪だけを肥大化させて伸ばした。

 すると、ロイドの着ていた洋服の袖を見事貫き、彼の動きを止める事に成功した。


「げっ!?」


 自身の動きを止められたのが驚きだったのか、そもそもそうった性格だったのか。大袈裟なリアクションをした。

 そんな彼をフィーは爪を小さくする事でロイドを引き寄せ、近づいてくる時の勢いを利用して腹部を殴りつけた。


「ごえっ!!」


 先程に続く情けない悲鳴を上げ、ロイドは吹き飛ばされる。本日何度目か分からない吹き飛びだ。

 城壁へと再び突っ込んだロイドは、崩れた城壁の瓦礫に押し潰され、見えなくなった。


(もう出てくんにゃよ……)


 フィーがそう呟くと、一瞬、体に違和感が走った。何かが体を這いずり回ったようなチクチクとしたむず痒い感覚。


 次の瞬間、フィーの体から一斉に赤く黒い命の証が吹き出した。


(なっ……?)


 自身から吹き出し続ける血を見下ろしながら、フィーは驚きの顔をする。全身に熱が迸り、それが後に痛みとなって襲いかかってくる。その傷を見てフィーは思考を巡らせる。

 毛穴から出血したんじゃない。細かな傷が体に無数に刻まれており、そこから大量に出血している。しかし斬られた記憶など全く無い。


 フィーが疑問に思って痛みのあまり体を低くしているそんな中、瓦礫をどかしながら城壁から出てくるロイドが見えた。彼は口の中に入った細かな石の破片をぷっぷっと吐き出しながらフィーに近づいてくる。


「おっ、やっぱり効いてんな。流石の魔物でもここまでのダメージだとよく効くらしい」


 ヘラヘラとした姿勢で言う。よく見ると彼の手に握られている刃物には、自身のものと思われる血が付着していた。あまりの出血量からか、その血が彼の腕まで伸びている。


「おいおい、寝転んじまってどうしたよ。――狩りはこれからだろ?」


 恐らく長い猫生で数度あるか無いかである人間からの見下しに、フィーは我慢ならない怒りと、アミナ以来に感じたであろう少ない恐怖に身を震わせ、目の前の敵を討ち滅ぼす事だけを、ただ思考していた。



最後までお読み頂きありがとうございます!


フィーがなんと一瞬で血まみれに……!?

こんな所ですが、次回はまた別の視点に移ります!


それでは次回もお楽しみに!!

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