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第二章 71話『『現』プロの殺し屋、戦闘を開始する』

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「オセ・グラウデ・メルナス。――以後、お見知りおきを……ね」


 目の前にいる少女はそう名乗って屈託のない笑顔をメイに向けている。

 小動物のような可愛気はあるが、不気味で気色の悪い。そんな笑顔を前にメイは反射的に武器を取り替える為に「閉じろ五門」と呟いていた。


「あれ、その大きいのは使わないの?」


 少女――メルナスはメイへそう訊く。彼女の問いの間、「開け一門」と呟いていつもの短剣『(タケル)』を取り出した。そしてメルネスの問いへ答えを返す。


「ガキにデカい武器で戦んのは性に合わねぇんだよ。私は蟻を踏まねぇタチでな」


「へぇ〜?そんなに武器から血の匂いさせておいて、無駄な殺生はしない的な事言ってるの?」


「蟻を踏まねぇだけだ。ま、私がどう思うかで無駄かどうかは変わってくるがな」


 そんな返しをするが、メイはメルナスの発言に眉をピクリと動かして少しだけ反応を示した。

 その理由は、メイ自身が己の武器の手入れを欠かしていないというのが挙げられるからだ。戦闘後の武器のケアは勿論、点検だって一週間に4回はしている。メイが暇だからそうしているというのもあったが、アミナの店で働く前からその頻度で整備は行っていた。


「この匂いはねぇ……スンスン」


 大袈裟な仕草でメルナスは鼻をピクピク動かす。

 彼女のその態度にメイは警戒を解かずに武器を握っている。そしてメルナスは鼻を動かすのを止めるとニヤリと笑って「アハッ、くっさぁ」と人を小馬鹿にするような言い方をした。


「なるほどねぇ。1632人か……結構少ないんだね」


チィッ、なんだこのガキ。私が覚えてる数をピタリと当てやがる。武器達(こいつら)で殺した人数は920人。……残りは私の体からでも臭ってるってのか。返ったらフィーのヤツに嗅いでもらうとするかね。


「へっ……やっぱり、こびり付いた血と肉と魂ってのは、簡単にゃ取れねぇんだな……」


 意味あり気にそう呟いたメイを見てメルナスは「はぁ?何がぁ?」と初めて不機嫌そうな顔を見せた。どうやら自身が現在の状況で置いてけぼりなのが気に食わない様子だった。

 メイはニッと笑って建を握り直す。


「なぁに、先人は偉大だって話だ」


「ふーん。ねぇねぇ、そんな事より。どこでそんなに殺したの?やっぱり戦争経験者?戦場の最前線に乗り出して、殺しの快楽得たりしてたの?」


 到底常人には理解できない類の質問をメルナスは投げかけてくる。

 まず訊きたいと思う事自体が異常で、どうかしているとしか言いようがない。


「ねぇねぇどうやって殺したの?頭をかち割って中身を引きずり出して楽しんだりした?喉元引き裂いて食道をストローにして胃液とか血ぃ吸い出した?胸元砕いて肺を取り出して枕にして寝っ転がったりした?お腹斬り裂いて腸を首に巻いてマフラーにしたりした?」

 

 まるで、なぜなぜ期の子供のように質問を投げ続けてくる。そんな彼女の表情はこの数分では見た事が無い程に生き生きとしており、頬は紅潮し、タレ目気味の目が細くなっている。

 快楽を語る人間の表情は、いつ見たってくだらない程笑顔になる。メイは心の中でそう呟いた。


「やけに楽しそうだな」


 メイはメルナスを見た率直な感想を述べた。するとメルナスは「まぁ〜ねぇ〜」と体をクルクルと回した。彼女の頭から伸びているツインテールがフワフワと動きながら彼女に続いてクルクル回る。


「私、人の死に際って素晴らしいと思うの。だって、あれだけ綺麗で暖かい物なんて世の中に中々無いんだよ?……その人がどんな人生を送ってきても、その人がどんな犯罪者でも、臓物の美しさと温度は変わらないの」


 メルナスは回転するのを止めると、少し俯いた後に軽く天井を見上げ「私ね」と話を始めた。


「産まれたのがすごーく寒い所でね。よく山に入って狩りをしてたの。……してたって言うより、させられてたって方が正しいかな?ほら、北って食料の少ない過酷な土地ってイメージでしょ?だから一生懸命お父さんと頑張ってたの」


 メイは最初「何言ってんだ?身の上話なら聞かねぇぞ」と言ったのだが、メルナスは気にせず喋り続けていた。


「でね、ある日。雪山で1人の時に迷子になっちゃったの。洞窟に入ったんだけど、火も消えて吹雪も強くなってきて、寒くて敵わなかったなぁ」


 メルナスはそう言うが、とてもそうとは思えないような笑顔をしている。きっと彼女にとっては、自身の死に際も大好きの1つなのだろう。


「その時ね。1匹のワンちゃんがいたの。その子は私が大事に育ててた猟犬だったんだ。――私はその子をどうしたと思う?」


 唐突にメイへ質問を投げる。今までの言動から大抵の予想はつくが「さぁな。お前と同じ思考になるのも、お前の思考を知るのも嫌だから答えねぇ」と一蹴した。

 しかしメルナスはメイの言葉など全く気にしていないように話を再び始めた。


「私はワンちゃんを殺したの。そしてその子の体に触れたの――」


 するとメルナスは内股になって体をモジモジとさせ、片方の手を下腹部へ、もう片方の手を口元に持ってきてニヤついている口を隠した。


「――暖かかったなぁ。思い出すだけで体が疼いちゃうの……」


「気持ち悪い野郎だな。前アミナに「お前は戦闘狂だから戦闘で快楽感じるのか」って言われたの思い出すが……流石にここまでじゃねぇな」


「でね、『血の通った人間』って言葉あるでしょ?だから人間はどれだけ暖かいのかな、って思ったの。それでその日、どうしたと思う?」


 またこの系統の質問。そして先程から全く話が噛み合っていない。メルナスはメイという相手1人に対して演説でもしている気なのだろう。

 先程と同様、メイは「知るか」と彼女の問いを一蹴しただけだった。


「私はその日、集落で暮らしていた村人89人を、手に持ってたナイフで皆殺しにした」


やっぱり――とはあまり思いたくなかったが、このイカれた殺人鬼と私の思考は同じようだな。ま、殺人鬼って事に関して言や、私は人の事言えねぇけどよ。それにしたって分かりやすい快楽殺戮人間だな。マスマーダー……いや、シリアルキラーかサイコキラーってのがよく似合うな。


「皆の血は暖かくてね。吹き出る部位によって暖かさが全然違うの。でも綺麗さは同じでさぁ。数年前にこの国であった戦争でも、いい物見せてもらったんだ。若い男の人達の肉体が破裂して飛び散って……アハッ。……っていけないいけない。また見えちゃった。目の前にないのにちゃんとあるんだよね。ぶつぶつって皮膚が裂ける音、どろどろって肉が散る感触、ほら、まだ指に残ってる気がするの。 あの時、ねえ、すごく綺麗だったんだよ? 真っ赤な花が、一面に咲いたみたいでさ。息を呑むほど鮮やかで、ちょっと熱くて、ちょっと甘い匂いがしてしょっぱくて……うん、忘れられないの。だって、忘れたくないんだもん」


 メルナスは長々とその当時の快楽を口に出した。知りたくもない、既に知っているその光景の話を聞きながら、メイは静かに唇を噛み締めて剣を握る力を強める。


「でも当時は興が削がれちゃって途中で帰ったんだけど、帰ってから思い返すと凄い良かったなって何回も後悔したんだ」


 よく喋るガキだ、と言おうとしたが、言った所でメルナスとの話は噛み合わない。結局その言葉は口にせずにメイは先程と変わらない態度でメルナスの話を聞く。


聞いてやるつもりなんて無かったのに。何故だ。話を最後まで聞きゃ、心置きなくぶっ殺せるような気がした。それだけかもしれねぇな。


「……ああ、だめだめ、また心臓がうるさいや。うるさいのは嫌いなのに、こういう音はなんで好きなんだろうね?」


 知るか。知らねぇ。知りたくもねぇ。心の底からそう叫びたい気持ちを堪えながらメイは冷静さを維持するために小さく深呼吸をする。


「あぁ思い出したら……もう無理限界。ねえ――また見せてくれる?」


 メルナスは鬼気迫る表情で目を見開いてメイの方を見つめる。

 それは先程の小動物のような可愛さの欠片も無い、禁断症状が出た者が発する臭いと目の血走り具合だった為、メイは剣を構えた。

 そして案の定、突然の衝撃がメイの手にある短剣、建へと伝わった。


「――ッ」


「もう一度、あの花を――咲かせてくれる?」


 突如としてメイの目の前にまで迫っていたメルナスは、メイの眼前に血走った目を近づけ、それだけを呟いた。

 戦いの始まりとしてはそれだけで事足りた。

 メイにとっては、それだけで十分だった。



最後までお読み頂きありがとうございます!


遂に1つ目の戦闘が始まりました!!

そしてメルナス、ちょっと気持ち悪過ぎますね……!!

それと次回は一度本庁舎のパートを少し挟んでから別の視点へ移ります!!


それでは次回もお楽しみに!!

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