『クビ宣言』
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「お前はクビだ」
なんの前触れも無く、それは告げられた。
私の主が朝食を終えた後、私が淹れたカップ一杯の紅茶を飲み干してから言った。
突然の出来事に私は思考が追いつかず、「は?」としか言えなかった。
「突然すまないな『アミナ』。だがもう決めたのだ」
私の名を呼んだ私の主、サルバン大領主はそう言った。
ここは世界に5つある大陸の一つで、剣と魔法が発達した『第四大陸・エラフ』。
その南の海岸沿いに位置する漁業の街『バンカー』だ。
私はその街の周辺一帯を治めている大領主サルバン様に仕えていた。
彼の家系を辿ると、元々冒険者という一般的に言えば庶民の出に辿り着く。
しかし彼の先祖は頭脳明晰で人を使う能力が非常に高く、魔法や剣術の腕も立った。その為たった十年程度でこの街の漁業権を手に入れ、今の地位にある。
この家には祖母の代から仕えており、私は若くしてメイド長も任せてもらえていた。
バンカーでもちょっとした有名人で、少し恥ずかしいが、なんでもそつなく熟す事から『究極のメイド』だなんて言われたりしていた。
今年私は18歳となり、これからようやく人生の花道が始まるのだと期待していた矢先の出来事だった。
「……クビ……ですか……」
「あぁ」
サルバンは淡々と答える。それに反してアミナは今でも呆気にとられている。
私はクビになった理由が全くわからなかった。
自分で言うのもなんだが、私は今まで勤勉に務めてきた。
祖母や母の教えである『究極のおもてなし』を日々心がけ、全ての日程を完璧なタイミング、全ての食事を完璧な温度と量、全ての行動を完璧に遂行してきた。
かと言って他のメイドに厳しくしている事もないハズだ。
この『究極』というのは私の祖母と母の教えであり、それを守っている私の自己満足だ。他の皆に同じメイドだからとそれを押し付けるのはあまりに傲慢だ。
「り、理由をお聞きしても……」
「理由は簡単だ。……"お前は完璧過ぎる"」
またしても思考が追いつかない。
耳に入ってきた言葉の意味を必死に考える。
完璧だからクビ……?
何故?
どうして?
意味がわからない。
理由を聞いても答えの見当がつかない。
「まぁそう落ち込むな。お前ならば他の土地でも上手くやれるだろう」
飲み終えたティーカップをコトリと置いて私に向かって言う。
しばらく黙っていた私は、またしても主の口から発せられた言葉に「え?」と聞き返してしまった。
「何故今、他の土地の話が出てくるのですか?」
私は思った事をそのまま口に出す。
クビになった事を少しだけ受け入れ始めていた私は、ここをクビになったのなら港町で接客業でもやればどうにかなるだろうと考えていた。
祖母の代から続けていたこの仕事を途絶えさせてしまうのは、私としてはとても無念な事なのだが、雇い主に「決まってしまった」と言われればもうどうしようもなかった。
しかし、その考えを全てドブに投げ捨てられた気分だった。サルバン様の言葉を言葉通りに受け取るのならば――
「お前には別の土地へ行ってもらう」
ほーらやっぱりね。
何でこの土地はダメなんだろうか。
私がそう言うよりも早くサルバン様は口を開いた。
「お前は完璧過ぎる。それが周りの者の肩身を狭くしてしまっているのだ。それは街の者とて同じだろう。お前がこの街で働けば、元々働いていた者が一人、路頭に迷うことになる。私は領主として、個の為に大多数の誰かを冷遇する訳にはいかないのだ」
それを言われた瞬間、私の中で何かがプッツリと切れた。
は?
私なら路頭に迷っても良いとでも?何言ってんだこのチョビ髭野郎。
私まだまだピチピチの18歳なんだけど?
これから人生が薔薇色になるんじゃないのかよ。
「あぁ、そうだ。もちろん手切れ金は渡そう」
そう言ってサルバンはメイドに金貨を持ってこさせた。
アミナの目の前に置かれた金貨は30枚。彼女の一月分の給料と同額だった。
「この金で何か新しい職を見つけてくれ」
サルバンはそれを差し出すように手を前に出した。
アミナはまだ呆然としている。それに畳み掛けるように、サルバンは口を開く。
「他の土地へは彼女に送らせよう。『リュウ』来てくれ」
サルバンは食堂の外にまで聞こえる声で人を呼んだ。
アミナはその名が聞こえた瞬間、この一連の出来事の全容を全て察した。
「お呼びでしょうか、サルバン様♡」
苛立ちを覚えるような、わかりやすく鼻についた声を発して入ってきた彼女の名は『リュウ』。
二月前にこの屋敷に仕えることになった新人のメイド。
アミナは彼女の教育係となっていた為、彼女の事をよーく知っていた。
なるほどね。
あんたの仕業って訳か。
アミナは心の中で呟く。
薄々察していたそれは紛れもない確信へと変わった。
アミナが、なるほど、と言った理由は彼女の教育係をしていた間の出来事に基づくものだった。
リュウはアミナより一つ年下の17歳の少女だ。
しかしアミナと違い、生まれがそこそこの家柄だった為、かなり良い教育を受けているようで、魔法が使えた。
それなのに自分より地位も身分も低く、オマケに魔法も使えないアミナが己の上司だというのが気に食わない様子だった。
アミナが何度注意してもやってはいけない事を繰り返すリュウを、一度叱った事があった。
たった数分で終わったそれは、次の日には数時間という時間の中行われたと、噂になっていた。
裏で盛りに盛った愚痴をしていたに違いない。
そしてそれが信用されている理由が、彼女が可愛いという事だった。
美人ではあるし魅力的でもあるのだが、彼女が愛されている理由の最も大きな部分が、何か小動物に感じる愛らしさを持っている事だった。
モテるのはアミナだが、人気があり人脈が広いのはリュウ。
そんな感じで当時、港町では噂になっていた。
その愛らしさと人気、愛想の良さで、たった一月で屋敷中の人間の信頼を勝ち取っていた。
それはアミナ本人にも匹敵する程だった。そんな頃、彼女の作戦が開始された。
最初は、リュウが叱られた事が盛られた話が出回る程度だったのだが、突然根も葉もないアミナの悪い噂が流れ始めたのだ。
『アミナは男癖が悪い』
『尻が軽い』
『暴力女』
『いじめをしていた』
『確証も無い事を言う』
『他人の間違いは指摘するくせに、自分の間違いは認めない』
等々、挙げればキリが無いほどの数の噂が流れていた。
当時のアミナはそれを「虚言」として、気にもせず放置していたのだが、遂にその放置していたツケを払わされる事になってしまったのだ。
なるほどね、合点がいったわ。
私がこの街で働けないようにしたのは街の人を守るっていうのが建前で、本来の目的はこの娘を私から守るためってか。
何が個を優先しないだ。ちゃっかりお気に入りを優先してるじゃないか。
サルバン様……いや、もう敬称なんていらないか。
この男に取り入って、私の後釜になる気かな。
「指示は理解しました。では私はどこの土地へ?」
「それは彼女に任せてある。リュウ、アミナの準備が出来たら送ってあげなさい」
サルバンはリュウへと視線をやり、リュウは鼻につく声で「はぁ〜い!このリュウにお任せ下さい!」と言った。
―――
アミナは自室へと戻った。
先程サルバンから受け取った金貨30枚をカバンにしまいながら、どこへ行くかも分からない土地への準備を進めていた。
「はぁ……ごめんね、おばあちゃん、お母さん」
思わず呟きをこぼした。
長年続いてきたこの流れを私で止めてしまった事が非常に悔やまれる。
何が究極のメイドだ、何が完璧過ぎるだ。何一つ上手くいっていないのにどこが――
「ほーんと、こんな女の何が究極なのかしらねぇ」
自室の扉が開いた。
アミナはため息を吐きながら扉の方を見る。
するとそこには案の定、リュウがいた。
先程とは全く異なる言葉遣いに、初めて見た人は戸惑い、困惑するだろうが、今までの事もありアミナは全く動じていなかった。
「何しに来たの」
アミナは素っ気なく言う。リュウは鼻で笑ってから口を開いた。
「何って、惨めに出ていく滑稽なあんたを見に来たのよ」
「そんな必要無いから」
「あら〜?そんな事言っていいのかしら?アタシが魔法で飛ばしてあげるんだから移動費が浮くのよ?それに、テレポートだから行きたい場所に行けるのよ?いいと思わない?」
「思わない」
「……あっそ。つまんないオバサンね」
リュウがそう言うと、彼女はアミナの部屋の中へと入ってきた。
背中を見せて移動の準備をしているアミナに彼女はにじり寄る。その気配に気がついたアミナが振り返る。
「ん?何よ、せっかちね。まだ準備出来てないからもう少し待ってなさい」
とアミナは言って、再び背中を見せた。
そう言われたリュウの顔は歪み、アミナを見下した様な目をした。
「あんたのそういう斜に構えた態度が気に食わないのよ……!!」
そう呟いたリュウにアミナは反応する暇もなく、地面に魔法陣らしきものが現れた。
「何これ……?」
魔法陣の中央で、まだ荷物を準備し終えていないアミナが困惑の表情をうかべる。
「これであんたを今からテレポートさせるのよ」
「なっ……!あんた、サルバン様の命令に背くつもり……?」
アミナは睨みながらリュウに向かって言葉をぶつける。
サルバンの指示はアミナが準備を終えたら飛ばすというものだった。だが彼女は今すぐにでもアミナを飛ばそうとしている。
しかしそれをものともしない表情で、彼女は魔法の発動を進める。
「あの人の命令なんてどうでもいいのよ。あんたの代わりにアタシが上手く取り入って、お金だけ奪ってアタシもトンズラするから。」
先程まで猫なで声で主人へと媚びを売っていた彼女の口からは考えられないような言葉が次々と出てくる。
「……でも、それよりももう一秒でも早くあんたを消したいのよ。存在そのものが不愉快だわ。何でもかんでも出来るからって調子に乗って。今だって受け入れたフリしてイラついてるんでしょ!?それを無かった事みたいに余裕そうなのが気に食わないのよ!」
言いたい事を全てぶつけた後、最後にリュウはアミナに向かって手をかざした。
「安心しなさい、あんたにはお似合いの場所へ飛ばしてあげるから」
「お似合いの……場所……?」
彼女の言った言葉に疑問を持っているアミナだったが、魔法陣の効果か何かで、中央にいるアミナは動く事が出来なかった。
その為逃げる事も出来ず、目の前で起きている事をただ見ているしかなかった。
「それじゃあね、『元』究極のメイドさん。魔物の大陸に行ってらっしゃーい」
その言葉を最後に、アミナの目の前の景色は途絶えた。
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