表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

第21話「崩壊の王都」

――空が、鳴っていた。


 最初は風の音かと思った。

 けれどそれは、世界の骨が軋むような、低い悲鳴だった。


 エイラは、崩れた回廊の中で目を覚ました。

 冷たい石片が頬に触れる。

 身体のあちこちが痛み、羽根の一部が焦げたように黒ずんでいる。


「セリス……」


 あの少女の声がまだ耳の奥に残っていた。

 “終わりによる救い”――

 その言葉の意味が、現実として押し寄せてくる。


 視界の先、王都《ルミナ=ネフェイル》の空が裂けていた。

 青白い稲光のような亀裂が空を走り、そこから光と影の粒子が降り注ぐ。

 浮遊する街路が傾き、塔の一部がゆっくりと沈み始めていた。


 風が逆流する。

 それは、王都の“心臓”――セレスティアの晶塔コア・オリジンが暴走している証だった。


(……このままじゃ……王都が……!)


 エイラは壁を支えに立ち上がり、足を引きずりながら外へ出た。

 空を覆う光は、もはや温かさではなく、焼けるような痛みを帯びていた。


 街の中央広場へ向かう途中、倒壊した塔の影から人影が現れた。

 白銀の鎧。見覚えのある姿――。


「……あなたは……」


 兵は膝をつき、顔を上げた。

 その瞳には、生者の光はなかった。

 だが、その声は確かに“彼”のものだった。


「巫女よ……王都は目覚めすぎた。

星を受ける器は限界を超え、いま、己を壊そうとしている。」


「どうして……止める方法はないの?」


 兵は静かに首を振った。


「我らが仕えた王も、巫女も、もういない。

ただひとつ――“心臓”を鎮める者が現れぬ限り、都は墜ちる。」


 その時、足元が震えた。

 大理石の道がひび割れ、風が逆巻く。

 遠くの塔が、重力を忘れたように宙へ浮き、ゆっくりと倒壊していく。


 エイラは目を細め、天空の中心――コア・オリジンを見上げた。

 塔の頂から、黒い光が噴き出している。


 その中心に、セリスの姿が一瞬、揺らめいた。


「……あなたが守るのね。私は、壊す役。」


 幻のような声が、風に乗って届く。


「セリスっ!」


 返事はなかった。

 代わりに、塔の光がさらに強くなり、王都全体が傾く。


 エイラは走った。

 崩れる階段を駆け上がり、折れた羽根で風を掴む。

 痛みが全身を走るたび、空気が赤く染まっていく。


 彼女の周囲で、都市が悲鳴を上げていた。

 街路は浮かび、建物がひとつずつ空から剥がれ落ちていく。


 遠くで、鐘のような音が鳴った。

 それは王都が最後に鳴らす“終焉の合図”だった。


(……間に合わない……でも……!)


 エイラは歯を食いしばり、塔の根元へと辿り着く。

 そこには、光の奔流が渦巻く巨大な裂け目があった。

 その向こうには――地上が見えた。


 広大な大地。風を切る海。

 そして、そこからこちらを見上げる人々。


 その中に、ライアスの姿があった。


「……あれが……空の都……?」


 地上、アヴィア大陸・北辺の高地。

 ライアスたちは異常な風の流れを追っていた。

 空の上に浮かぶ光の柱が、亀裂を走らせながら崩れ落ちていくのを見上げる。


「嘘だろ……。昔話じゃなかったのかよ……!」


 仲間の獣人が叫ぶ。

 風の匂いが変わっていた。焦げた羽根の匂い、星の粉のような匂い――。


 ライアスの胸が痛んだ。

 心の奥に残る、あの少女の声。


  『空をもう一度結びたいなら、“上”に行け。』


「エイラ……!」


 気づけば、彼は駆け出していた。


 再び空。


 エイラは塔の基部に立ち、両手を光の流れに差し込んだ。

 コア・オリジンの暴走を鎮めようと、星の力を逆流させる。


「お願い……まだ、終わらないで……!」


 だが、その手の中で光が悲鳴を上げた。

 塔が軋み、都市の浮遊石が次々と崩壊していく。


 白銀の兵が遠くで叫ぶ。


「巫女よ――このままでは、お前も堕ちる!」


「構わない! それでも、誰かが……止めなきゃ!」


 風が爆ぜた。

 塔が、音を立てて折れる。

 空全体が光に包まれ、王都がゆっくりと落下を始める。


 最後の瞬間――

 エイラは空を見上げた。


 裂けた空の向こうに、まだ星があった。


  「……私は、まだ……空を諦めない。」


 その言葉を残して、彼女の身体は光に包まれ、地上へと堕ちていった。


 ――その夜。


 空の裂け目が完全に開いた。

 星々が狂い、風が二つに裂かれる。


 一つは希望を運ぶ光。

 一つは終焉を呼ぶ影。


 アヴィアの均衡は、ついに崩壊した。


✦ 次回予告


第22話「墜ちる光、呼ぶ声」

――墜ちた光は湖を割り、封じられた“風の巫女の記憶”を呼び覚ます。

地上に再び風が吹く時、エイラとライアスの運命が交わり始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ