第18話 星の回廊
王都《ルミナ=ネフェイル》の空気は、昨日までとは違っていた。
石造りの街並みに微かな風が走り、止まっていた噴水が細く水を噴き上げている。
都市が――まるで眠りから覚めたかのように、静かに息づき始めていた。
白銀の兵は、門の傍らで膝をつき、低く告げる。
「巫女よ。都はお前を認めた。ならば次は、“星の回廊”へ進むときだ」
「……星の回廊?」
「空と地を繋ぐ、古き光の道。そこにこそ、失われた記憶と未来への答えが眠る」
兵が指さしたのは、王都の中央にそびえる晶塔。
塔の表面は淡く脈動し、まるで心臓の鼓動のように光を放っていた。
エイラは息をのむ。
ペンダントが胸元で震え、光を溢れさせていた。
それに導かれるように、彼女は塔のふもとへ足を運ぶ。
星図の顕現
塔の前に立つと、足元の床が淡く光り始める。
幾何学のような紋章が浮かび上がり、ペンダントと共鳴した。
次の瞬間――
空間いっぱいに、無数の光点が広がった。
それは天井も壁も越えて、王都そのものを包む巨大な“星図”だった。
「……これは……!」
浮かぶ光はアヴィア大陸の地形を形作り、さらにその外側に、環のように連なる“遺跡の位置”を示していた。
そこを繋ぐように、一本の光の道が走っている。
「これが……星の回廊……」
エイラは手を伸ばす。
すると光は波紋のように揺れ、一本の航路が彼女を指し示した。
その先は、雲と大地の境界――“狭間の領域”と呼ばれる未知の場所。
影の干渉
だがその時だった。
星図の一部に、黒い染みのような影が走った。
冷たい風が吹き込み、空気が濁る。
耳に、あの声が忍び込んできた。
「風の継承者よ……進むのか?
その道は、均衡を壊す道だ。お前が望む未来は、誰かを犠牲にして築かれる」
黒い霧が光の回廊を覆い、幻影のようにエイラの前に立ちはだかる。
その姿は、人のようであり、翼を持つ影のようでもあった。
「あなたは……影の継承者……?」
「我らは滅びを選ばぬために、力を欲した。
それを裏切りと呼ぶか、必死の抵抗と呼ぶか……」
声は低く、しかし哀しみに満ちていた。
エイラの胸が揺らぐ。ほんの一瞬、迷いが生まれる
(本当に……私が進むことが正しいの?)
意志の光
だがその迷いを払うように、幻影のラメリアの声が脳裏をよぎった。
「巫女を巫女たらしめるのは、血ではない。
ただその“意志”だ」
エイラはペンダントを強く握り、影を見据えた。
「私は……進む!
たとえ犠牲があったとしても、誰もが空を仰げる未来を選ぶ!」
その瞬間、ペンダントがまばゆい蒼光を放つ。
影は悲鳴のように掻き消え、星図の道が再び輝きを取り戻した。
星の回廊へ
白銀の兵が、遠くからその様子を見届け、静かに頷いた。
「……風は試練を乗り越えた。ならば行け、継承者よ。
次に待つのは、空でも地でもない。狭間の世界――“虚空の道”だ」
エイラは翼を広げ、光の回廊に足を踏み入れる。
足元が消え、彼女の体は光に包まれ、ふわりと宙へ吸い込まれていく。
視界が揺れる。音も匂いも失われ、ただ無数の光だけが脈動していた。
その中を、彼女は真っ直ぐに進む。
(私は……行く。必ず答えを見つけるために)
光の奔流の中、エイラの背を押すように、風が囁いた。
――次の扉が、待っている。




