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第15話 獣たちの盟誓

風は乾いていた。

岩肌の露出した渓谷を抜け、エイラとライアスは歩き続けていた。


彼らの先にあるのは、地の民の牙城――黒牙の陣営。

この地では、種族ごとの古き誓いが重んじられると同時に、空への敵意もまた根深く残っている。


「……ここが、そうなの?」


岩の裂け目を抜けると、広がったのは火と骨で飾られた円形の集会所。

“火と骨の円卓”と呼ばれる、地の民の議会場だった。


すでに多くの獣の姿が集まっていた。

牙の生えた者、蹄を鳴らす者、大耳をひくつかせる者……


その中央に立つのは、黒い体毛を持つ長老・グラントゥス。


「空の巫女がこの地を訪れるとは……時代も変わるものだ」


重々しい声とともに、エイラとライアスは円卓へと導かれる。


対話の火種


エイラは、記憶の谷で見た幻――空と地の“交わり”があった過去――を語った。

そして、再び星の声が人々を導こうとしていると訴える。


「星の力は誰かのものじゃない。奪い合うものでもない。

かつて、空と地は力を分かち合い、生きていたはずです」


だが、円卓に響いたのは冷ややかな声だった。


「そんな幻想、今さら信じられるものか」


そう言って進み出たのは、仮面をつけたアヴィアンの男――

黒羽に身を包み、空の民とは思えぬほど地に馴染んだ男だった。


「お前は……!」


ライアスが声を詰まらせた。


「名乗る名などない。だが俺は見てきた。交わりの果てに何が起きたか。

空の民が地を裏切り、星の加護を独占しようとした過去をな」


彼の言葉に、円卓の空気が張り詰める。


「それでも、私は信じたい……!」

エイラは拳を握り、仮面の男に向き直った。


「争いは終わらせることができる。

星の声は、今も私たちに“選べ”と言ってる。分断か、交わりかを」


仮面の男は言葉を返さない。ただ、ゆっくりと背を向け、立ち去った。


獣たちの声


その沈黙を破ったのは、老いたグラントゥスの咆哮だった。


「……選べ、か。ならば、わしは選ぶぞ」


彼はエイラに歩み寄り、その額に額を合わせた。


「巫女よ。お前の言葉に、かつての盟誓を見た。

我らの牙は争いのためだけにあるのではない。

護るためにもある。忘れてはならん」


その言葉に、数人の獣人たちが立ち上がる。


「俺も見たことがある。空の民と共に狩りをした、祖父の記憶を」

「一族の伝承にあった……空の光とともに笑う獣の群れを」


一人、また一人と、交わりの記憶が語られる。

たとえ断片でも、それは確かに“あったもの”として、空気に力を与えた。


星の兆し


その夜、黒牙の陣営の空に、一筋の星が流れた。

誰もがその光に顔を上げ、しばし沈黙する。


「……ありがとう、皆」

エイラは小さく呟いた。


まだ戦いは終わっていない。

だが、この地に、ほんのわずかでも“絆”の火が灯ったのなら……


それは、次の希望へと続く光になる。


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