第13話:断絶の門と風の誓い
夜明け。オリヴィア高原の東端、朽ちた石橋の先に、その門は立っていた。
「……ここが、“双月の門”……?」
エイラの視線の先にあるのは、半壊した双塔の門――空と地の民がかつて盟約を交わしたとされる聖域だった。だが、今はその片方が崩れ、もう一方は傷跡だらけで、まるで“空との契り”だけが破られたかのように見えた。
傍らにはライアスがいた。昨日、共に高原を訪れた獣人の青年。その視線もまた、門を見据えていた。
「この門も、かつては儀式の地だった。空の者と地の者が互いの血を認め合い、盟約を交わした場所さ」
「なのに……なぜ、こんなに荒れたまま?」
「誰も手を入れなくなったんだ。この地を守るべきだった者たちが、すべて去ったからな」
風が吹き抜け、門の隙間から遠い地平が見える。
エイラはペンダントを手に取り、門に近づいた。
すると、微かな光が再び現れ、門の内壁に埋もれた碑文を照らす。
「二つの月が空に並びしとき、我らは種を越え、絆を誓った」
「されど力を欲した者は契りを裂き、風は止まり、地は揺れた」
「やっぱり……“裏切り”があったんだね」
「……俺たち地の種族にとっては、“抗い”だったと教えられてきた」
ライアスの声に、ほんのわずかな痛みが滲んでいた。
「空の民が星の力を独占したとき、地の民は飢え、空は届かぬものとなった。だから、盟約は破られたんだと」
「それでも、誰かがもう一度繋ごうとしていた。ここに、その痕跡が残ってる。忘れられた願いが、ね」
エイラは、風に髪をなびかせながら、そう呟いた。
誤解と本音
門の周囲には、かつての見張り台や祈りの台座が残っていた。
エイラはその一つに腰をかけ、ふと口を開く。
「ねえ、ライアス。……あなたは、私が空の巫女だったら怖い?」
ライアスは少し黙ってから、答えた。
「正直に言えば――怖いよ。俺たちの歴史にとって“巫女”ってのは、希望でもあり、災いでもあるからな」
「……そっか」
「でも、それより気になるのは……お前が、どうするつもりなのかってことだ。俺は、答えを見てから信じたい」
「ありがとう。……それでも、話してくれて嬉しいよ」
ほんのわずかに交わる言葉。だが、それは確かに“分断の地”で生まれた最初の橋だった。
門の向こうへ
そのとき、ペンダントが強く輝き始めた。
「えっ……?」
門の片側が震え、風のうねりが発生する。すると、瓦礫の間から“隠された道”が現れた。
「これは……!」
「どうやら、この門の奥にまだ何か隠されてるらしいな」
ライアスが剣を抜き、エイラは翼を広げた。
「行こう、ライアス。この先に、まだ語られていない真実があるはず」
かつて契りを結び、やがて引き裂かれた門の奥へ……
空と地の代表が、共に一歩を踏み出した。




