第17話 唯サイド - 夕陽の中で揺れる想い
唯の視点で描かれる今回の章では、彼女の内面に少し踏み込んでみました。哲也への気持ちは本物だけど、どこか迷いを感じている唯。そんな彼女がどう成長し、答えを見つけていくのか――ぜひ一緒に見届けていただけたら嬉しいです。
放課後の教室。夕陽が差し込み、窓際の席が橙色に染まる中、私はぼんやりと窓の外を眺めていた。屋上で風に吹かれている哲也の姿がふと脳裏をよぎる。
彼の笑顔。自分の隣にいる時の安心感。どれも大好きなはずなのに、心のどこかに不安が根を張っている。
「猫なんだよね、哲也は……」
私は小さな声で呟いた。その言葉は空気に溶け込み、誰の耳にも届かない。それでも、自分にとってはずっしりと重い現実だった。
「唯ー! 行くよ!」
教室の入り口で日向が手を振っていた。私は慌てて鞄を手に取り、彼女の元へ向かう。
「どうしたの? 最近ぼーっとしてること多いけど。」
日向は私の顔を覗き込む。私は苦笑いを浮かべて「ちょっと考え事してただけ」と返した。
二人で並んで歩く帰り道。日向は軽快に話を振り、私を元気づけようとしてくれる。それがいつもありがたく、救われる気持ちになる。
「ねえ、唯。最近新名くんと話してるとこよく見るけど、もしかして――」
日向がわざとらしく口を手で隠し、いたずらっぽく笑った。
「違う違う! 浩平くんとは何もないよ!」
私は慌てて否定する。
「ほんと? でも、浩平くん優しそうだし、何か相談してるんじゃないの?」
「……まあ、ちょっとだけね。」
それ以上のことは言えなかった。哲也の正体を知らない日向には、この複雑な事情を話すわけにはいかない。猫だなんて言っても、信じてもらえるはずがない。
♦♦♦
帰り道の途中、私は日向と別れ、少し寄り道をすることにした。商店街のカフェに入り、一人で考え事をする。ふわりと漂うコーヒーの香りが、少しだけ心を落ち着けてくれる。
哲也が猫だという事実は、私にとって受け入れるのが簡単ではない。彼を好きな気持ちは本物だけど、彼が人間としてこの先も隣にいてくれる保証はない。それが不安だった。
「ああ、もう……」
カップの縁を指でなぞりながら、私はため息をついた。そのとき、カフェの入り口から聞き覚えのある声がする。
「唯ちゃん?」
顔を上げると、そこには新名浩平が立っていた。彼は軽く頭を下げると、私の向かいの席に座る。
「こんなところで会うなんて珍しいね。何かあったの?」
「え、いや、特に何も……」
私は動揺しつつも、笑顔を作る。浩平はそんな私の様子をじっと見つめた後、柔らかい口調で続けた。
「無理しなくていいって。唯ちゃん、最近悩んでいるように見えるからさ。」
その言葉に、私の胸がざわついた。浩平の言葉には妙な説得力があった。もしかしたら、彼も何か気づいているのかもしれない。そんな気がしてならなかった。
「唯ちゃんが笑っていられるなら、それが一番だと思うよ。でも……もし何か大切なことを抱え込んでいるなら、一人で悩むのはやめたほうがいい。」
「……浩平くん、ありがとう。でも、これは私がどうにかしなきゃいけないことだから。」
私は小さく微笑みながら答えた。その笑顔はどこか寂しげで、浩平は何かを言いかけて口をつぐむ。
「そうなんだ。でも、何かあったら話してくれよな。僕は唯ちゃんの味方だからさ。」
♦♦♦
カフェを出た私は、哲也との時間を思い出しながら、空を見上げた。橙色に染まった夕焼けが、胸の奥のモヤモヤを少しだけ和らげてくれる気がした。
「哲也くんと、ちゃんと話さなきゃ……」
私の中で、少しずつ覚悟が芽生えていた。自分の未来を切り開くために、彼と向き合う時が来ていると感じたのだ。
唯の葛藤を中心にお届けした今回の話、いかがでしたでしょうか?哲也の秘密と向き合いながらも、彼女自身が成長していく姿を描くのは本当に楽しいです。次回も唯の視点で、さらに彼女の決断が明らかになる予定です!引き続き応援よろしくお願いします。




