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ノラ猫と女子高生の恋  作者: 藍瀬 七
第1章 猫と少女の奇妙な日常
10/29

第10話 猫に戻った夜、約束のために

デートの後、再び猫の姿に戻ってしまった哲也。恋人・唯に会うために、人間に戻ろうと奮闘するが、そこで出会った商人のおじいさんの願いは、意外にも切なく重たいものだった。失った姿を取り戻すため、哲也はおじいさんとの約束に応えることができるのか——?

この話では、魔法によって生まれる奇妙な運命と、それに翻弄されながらも大切な人を想う気持ちを描いています。

 透が「勝負はこれからだ」と告げたその夜、俺は自宅で唯とのデートを思い出し、彼女の笑顔に胸をときめかせていた。幸せに浸っていたその瞬間、急に体に異変が起こる。


「ん?なんだ、この感じ……」


 体が痺れるような感覚に襲われ、思わずソファに手をつく。視界がぐらつき、次の瞬間には目線が低くなり、体中が毛に覆われていた。


『ポワン』


「にゃーにゃー!?(嘘だろ……また、猫に戻ってる!?)」


 自分の小さな前足を見つめ、驚いて声を上げたが、それは猫の鳴き声に変わっていた。戸惑いながらも、すぐに唯のことが頭をよぎる。


「ふにゃー……(唯ちゃんに会えない……どうしてまたこんなことに……)」


 俺は焦り、街中へ駆け出す。夜の冷たい風が毛をなびかせ、心臓がドキドキと速く鼓動する。この魔法が自然に解けるのか、特別な条件があるのか全く分からないまま途方に暮れるが、青山さんなら何か知っているかもしれないと思い、アパートに戻りスマホで連絡を取ろうとする。


 ♦♦♦


 一方、唯は哲也が突然いなくなり、連絡も取れないことに不安で胸が押しつぶされそうだった。彼がいつもそばにいてくれたことの大切さを痛感し、その存在が今の自分にとってどれほど大きいかを思い知る。メッセージに既読はつかず、唯は涙を堪えながら透を訪ねた。


「透さん、哲也くんが急にいなくなって……何か知ってる?」


 唯の問いかけに驚いた透は、静かに答えた。


「俺も何も聞いてません。でも、哲也様が突然いなくなるなんて……何か特別な理由があるんじゃないですか?」


 その言葉に唯の目がかすかに揺れる。もし哲也が重大な事情を抱えているなら、自分には話してくれなかったのはなぜだろう。胸にチクリと痛みが走り、不安が一層膨らんでいく。


「何があっても哲也くんを探したいの」


 唯の決意に、透は少し複雑な気持ちを抱えながらも、彼女を支えることを誓った。2人は互いの想いを胸に、哲也を見つけ出すための捜索を始める。


 「分かりました。俺も手伝います。哲也様を一緒に探しに行きましょう」

 

 ♦♦♦


 その頃、俺は青山さんがアパートに駆けつけてくれたので、ひとまず安心した。青山さんは猫に戻った俺の事態を理解したが、猫語が分からないため、おじいさんと連絡を取ってくれた。


「はい、黒長くんが猫の姿に戻ったので、急いで治す方法を教えてほしいんです」


「今ワシは取り込み中じゃからの、悪いが街まで連れて来てくれんかのぅ」


「分かりました。急いでそちらに行きますね」


 青山さんは電話を切り、俺を抱えて街の露店へ向かった。


 夜の街は冷たく、人通りも少なかった。露店に到着すると、おじいさんは猫の行列の接客をしていた。猫の姿の俺を確認すると、こちらを見つめる。


「にゃーにゃー!(おいっ!早く人間の姿に戻してくれ!)」


「まあ、落ち着きなされ。青山、ここまで連れて来てくれて感謝するぞぃ」


「いえ、僕が黒長くんのサポーターですから、これくらい当然です。それより、猫語が分からないので、後の事はお任せしても?」


「もちろんじゃ。こういった事態はよくあることなんじゃよ」


「にゃーにゃー(俺は唯ちゃんに会いたい。だから人間に戻してくれ!)」


「お主の願い、受け止めよう。今回は”また”例の魔法の薬を使うが、今度は別の願いを叶えてもらうぞ」


 おじいさんは小さな瓶を取り出し、俺に渡した。中には金色の液体が揺れている。俺は2回目の願いということで、少し戸惑った。


「にゃー?(今回の代償はなんだ……?)」


 おじいさんはしばらく沈黙し、夜空を見上げて語り始めた。


「実はな、ワシは長い間、妻との再会を願っているんじゃ。彼女は随分前に亡くなったが、未だに別れを受け入れられん。もしお前がワシの願いを叶えてくれるなら、最後に彼女ともう一度話をさせてほしい」


 その言葉に驚き、胸が締め付けられる。


「にゃーにゃ?(でも、そんなこと俺にできるのか?どうやって……)」


「お主は猫の姿を持つがゆえに、魂の境界に触れる力がある。この薬を飲んだ後、私の願いに協力してくれるか?」


 俺は考え込んだ。唯と会いたいという自分の願いと、おじいさんの深い愛と悲しみに触れ、2つの気持ちが交錯する。そして決心した。


「にゃー(わかった。ジジイの願いを叶える手伝いをする。その代わり、この薬を使って唯に会えるようにしてほしい)」


 おじいさんは満足そうに頷き、俺に薬の瓶を渡した。


「よし、それでよい。この薬を飲んで人間に戻った後、一緒にワシの家へ来てくれ。そこから願いを叶える儀式を始める」


 俺は瓶を開け、一気に飲み干した。体が温かくなり、光に包まれる。気がつけば、自分は再び人間の姿になっていた。


「戻れた……唯ちゃんに会える!」


 喜びに包まれつつ、ジジイとの約束を果たすため、彼の後を追った。

 

読んでいただきありがとうございます!今回は再び猫に戻ってしまった哲也が、人間に戻るために奮闘する姿と、おじいさんとの約束に向き合う心情を描きました。愛する人のために何かを犠牲にする覚悟や、おじいさんの切ない願いが、少しでも読者の皆さんに響けば幸いです。次回は、哲也と唯の再会のシーンをお届けする予定です。お楽しみに!

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