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婚約破棄の罪の行方 罪を償うべきはあなたです…………あ、いや、こっちの罪は償わないでください!

作者: ノ木瀬 優

途中で視点が切り替わります。

レイチェル視点⇒聖女視点です。

苦手な方はご注意ください。

 3年間苦難を共にしてきた仲間たちと最後の時を過ごす卒業パーティーの会場で、私の婚約者であるリチャード王太子殿下が叫ばれました。


「レイチェル=ドロイド! 貴女との婚約を破棄する事をここに宣言する!」


 会場に響き渡ったその言葉に、皆さん言葉を失います。ほとんどの生徒が動けずにいる中、幾人かの優秀な生徒は、事態を収拾できる人を呼びに会場を後にされました。その中には、婚約破棄を宣言されたリチャード王太子殿下の側近達も含まれております。


(さすが、優秀ですわね。さて……)


 いつの間にか、リチャード王太子殿下と私の間にいらっしゃった方々が、左右に分かれ道を作って下さっておりました。これは、私にリチャード王太子殿下の相手をしろという事なのでしょう。私は作られた道を歩き、リチャード王太子殿下の前に立ちました。


「リチャード王太子殿下。突然、何をおっしゃるのでしょうか。お戯れにしては、度が過ぎますよ?」

「戯れなどではない! 私は、本気で貴女との婚約破棄を望んでいるのだ!」

「…………そうですか。なぜ、婚約破棄を望まれるのか、理由をお聞かせいただけますか?」

「私が貴女との婚約破棄を望んでいる! 理由はそれだけだ!!」


 はっきり言ってリチャード王太子殿下のお言葉は、意味不明であり、その目的が見えてきません。少なくとも、私が知るリチャード王太子殿下は、このようなバカげた事をされるお方ではなかったのですが…………。


「私とリチャード王太子殿下の婚約は王命で定められたものです。それを一個人の感情で破棄されるのですか?」

「一個人ではない! これは、王太子である私の正式な宣言だ!」

「なっ!」

「「「「――っ!」」」」


 王太子としての宣言。リチャード王太子殿下はそうおっしゃってしまいました。これではもう『学生の悪ふざけ』として誤魔化す事も出来ません。事態の深刻さを察した他の生徒達も、声にならない悲鳴を上げています。


 というのも、リチャード王太子殿下の他に、王位を継げるものが、現状、この国にはいないのです。これは、陛下のお子が、リチャード王太子殿下しかいないという事ではありません。そもそもリチャード王太子殿下は、側室であるマリア様のお子で、第二王子です。


 ですが、王妃は、第一王子のシリウス殿下をお産みになられた後、儚くなってしまわれました。そのため、王宮内の勢力争いはマリア様の独壇場となり、シリウス殿下は異国の王女と婚約が結ばれております。そして、国内有数の権力を持つ公爵家の令嬢である私を、リチャード王太子殿下の婚約者とする事で、リチャード王太子殿下を正式な王太子とされたのです。


 もちろんこれには、リチャード王太子殿下が優秀であり、次代の陛下として問題なく、争いの種を国内に残しておくべきではないという判断もあったのですが…………まさか、リチャード王太子殿下がこのような事をなさるとは、予想もできませんでした。


「…………これは貴女の差し金ですか? 聖女マイ」

「ひっ!」


 私は生徒達の中に紛れていた聖女と呼ばれる少女を睨みます。


 聖女。それは、この世界に紛れ込む、異界の少女を指す言葉です。異界の少女がこの世界に紛れ込む際、特別な能力を授かる事から聖女と呼ばれています。


 聖女の能力や知識は、王国の益となるため、聖女を見つけたら、王家が保護する事がしきたりとなっています。そしてほとんどの場合で、王子と聖女が結ばれたそうです。まぁ、聖女には政治能力がないため、側室にする事が多かったそうですが……何を隠そう、リチャード王太子殿下のお母様であるマリア様も、聖女と呼ばれた方でした。


 聖女マイが現れた際も、王家が保護する事になり、私は、聖女マイがリチャード王太子殿下の側室になるのだと思っておりました。ですが、聖女マイは、リチャード王太子殿下の側室になる事を拒否されました。かといって王妃になりたいというわけでもなく、リチャード王太子殿下とは、常に一定の距離を保っていました。


 別に『王子と聖女は絶対に結ばれなければならない』というわけでもなく、聖女マイがリチャード王太子殿下の事を嫌っているというわけでもなかったので、そういう聖女もいるか、と私達は、あまり気にしておりませんでした。


 ですが、ある日を境にリチャード王太子殿下の様子がおかしくなります。


 その日、私とリチャード王太子殿下と聖女マイでお茶会をする予定だったのですが、私が先生から呼び出しを受けてしまったため、途中で退席し、リチャード王太子殿下と聖女マイが2人っきりになる時がありました。もちろん、2人っきりと言っても、部屋の扉は開いていますし、外には給仕の者が控えております。ゆえに、やましい事など決してなかったはずなのですが、その日から、リチャード王太子殿下の様子がおかしくなりました。


 聖女マイとの2人っきり(もちろん密室ではない)の茶会が増えたかと思えば、公務を私におしつけ、ご自身はどこかに行ってしまわれるようになったのです。


「聖女マイ。貴女の事は信用していました。ですが、貴女と2人で会話をしてから、リチャード王太子殿下の様子がおかしくなってしまったのも事実。答えなさい。貴女は何をしたのですか?」

「え、いや、私は……」

「レイチェル! 婚約破棄はマイの差し金ではない! 彼女を糾弾するのは止めてくれ!」


 そう言って、聖女マイを庇うリチャード王太子殿下。一見すると、愛しの聖女を庇う王太子という構図に見えなくもないですが、2人の距離は離れていて、やはり2人の間に男女の関係は見られません。


(ですが、リチャード王太子殿下は、聖女マイと話してからおかしくなったのは事実! 差し金ではなくとも、聖女マイがきっかけなのは間違いないはず!)


 そう思い、再度、聖女マイに詰め寄ろうとしたところで、威厳ある声が響きました。


「そこまでだ」


 その声は、熱くなりかけていた私の心を一瞬で鎮火させます。


「皆の門出の日に何をしておる? 我が息子リチャードよ」

「…………陛下」

 

 会場の入口には陛下とマリア様、そして、お二人をお連れしてきたであろうリチャード王太子殿下の側近達がいらっしゃいました。


「リチャード。お主の側近から、お主がレイチェル嬢に婚約破棄を宣言したと聞いたぞ。なんの冗談かと思ったが、この様子……」

「はい、陛下。冗談ではありません。先ほど、私は、王太子として、レイチェルとの婚約破棄を宣言いたしました」

「っ!? お主! それが、何を意味するか分かっておるのか!?」

「ええ、もちろんです。覚悟の上です」

「……なぜじゃ? なぜそんなことを――」

「まぁまぁ、良いではありませんか」


 陛下のお言葉を遮り、マリア様が話し始めます。


「私はリチャードの意見を尊重しますよ。それで? 聖女の舞さんと婚約を結ぶのかしら? あら? うふふ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。政務は、私の時のように(・・・・・・・)優秀な側近がいれば何とかなるわ。後は――」

母上(・・)。お言葉ですが、私は聖女マイとは婚約しません」


 マリア様のお言葉に身をすくめていた聖女マイ。その聖女マイを再び庇うように、リチャード王太子殿下が前に出ます。


「? あら? そうなの? ではなぜ、レイチェルとの婚約を破棄したの?」

「…………私がレイチェルと婚約したくなかったから。ただ、それだけです」

「???」


 リチャード王太子殿下のお言葉に、マリア様は困惑されました。


「えっと、ね、リチャード? でも、ね? 王太子には婚約者が必要でしょ? だから…………あ、他に好きな子がいるの? それなら――」

「私は誰とも婚約したくありません。今も、そしてこれからも、です」


 あまりに堂々としたリチャード王太子殿下のお言葉。それが何を意味するのか、政治に疎いマリア様もようやくそれに気付いたようです。


「リチャード? 貴方、何を言っているの!? 今ならまだ間に合うわ。レイチェルでも舞さんでもどっちでもいいから、どちらかと――」

「王妃よ。少し黙っておれ」

「っ! あなた!」

「王命である婚約を、王太子が自分勝手な理由で破棄した。この意味が理解できぬお主が、これ以上口を挟む事は許さん」

「――!?!?」

 

 厳しい陛下のお言葉に、マリア様は口を閉ざされた。その様子を一瞥してから、陛下はリチャード王太子殿下に問いかけます。


「リチャード……なぜじゃ? なぜこんなことをした?」

「……私がそうしたかったからです」


 最初と変わらないリチャード王太子殿下の答え。それが何を招くのか、それを分かったうえでの発言の様です。


「そうか……リチャード、お主を国家反逆罪の容疑で拘束する。恐らく……死罪になる……であろう。……刑の執行まで……牢に……入っておれ。衛兵!!」


 陛下が絞り出すように告げると、衛兵さんがリチャード王太子殿下の両脇を固め、そのまま連れて行こうとします。


 その時、リチャード王太子殿下はうっすらと笑みを浮かべられました。


「っ!」


 そんなリチャード王太子殿下を見てしまった私は、いてもたってもいられなくなりました。


「待ってください! 陛下、リチャード王太子殿下の奇行には何か理由があるはずです! 聖女です! 聖女マイが関係しています!」


 発言の許可を得ていない私が、陛下に直接進言する。下手をすれば、首が飛びかねない所業でしたが、今の私に、それを気にする余裕はありませんでした。


「ほう……聖女マイ。レイチェル嬢の言っている事は本当か?」

「え、あ、えっと……あの……」

「陛下! おやめください! 今回の事は私の意志です! マイは関係――」

「衛兵、リチャードの口を塞げ」

「んぐっ!!」


 衛兵さん達がリチャード王太子殿下の口を塞がれました。それでも必死に何かを訴えるリチャード王太子殿下。あれでは隠し事があると自白しているようなものです。その程度の事が分からない陛下ではありません。


「……さて、聖女マイよ。今、儂は愛する我が息子を失おうとしている。国王としても、次代の王を失おうとしている。この苦しみが分かるか?」

「へ、陛下……私は……」

「何が、リチャードをこんなにしてしまったのか? それすら分からぬ。儂は、息子の死に際の思いすら受け取れぬのか?」

「……」

「聖女マイよ。国王としてではなく、1人の父親として頼む。リチャードに何があったのか、教えてくれ」


 聖女マイは陛下を見つめた後、リチャードを見ます。


「んー! んーんーんー!!!」


 リチャード王太子殿下は、口をふさがれながらも、必死で首を振っています。『決して話さないでくれ』。リチャード王太子殿下のそんな言葉が聞こえてくるようです。その様子を見た、陛下が聖女に告げました。


「教えぬというのなら……お主もリチャードの共犯とみなす」

「――!」

「選ぶがよい。真実を話すか、死罪か。道は2つに一つだ」


 あれだけ叫んでいたリチャード王太子殿下が静かになりました。聖女マイを巻き込む事までは考えていなかったようです。


 陛下の合図で、衛兵さんは塞いでいたリチャード王太子殿下の口を解放しました。


「へ、陛下……私は……陛下……どうか……どうか何も言わずに、私を……私だけを殺して下さい。どうか……どうかお願いします」


 口を解放されたリチャード王太子殿下が、弱弱しく陛下に懇願します。


「……なぜそこまで死を願う? シリウスに遠慮しているのか? あやつはお主の事を恨んだりしてはおらんぞ?」

「違う……違うんです……」


 項垂れてしまうリチャード王太子殿下。その様子を見て、ついに、聖女マイが口を開きました。


「えっと……陛下。私の能力はご存じですか?」


 聖女の能力は、分かり次第国に報告されています。もちろん、陛下もご存じです。


「もちろん知っておる。最高位の『鑑定』の能力であろう?」

「そうです。そして、人を『鑑定』した時、私はその人の根源を知ることが出来るんです」

「根源、とな?」

「はい。あ、マリア様に分かりやすい言い方をすると、血液型やDNAを知る事が出来るんです」

「あ、そうなのね? でもそれがなんだって……。――!! 貴女! まさか!!!」

「――! 衛兵!!」


 陛下の指示に従い、衛兵さんがマリア様を拘束します。


「あなた! 待って! 違う、違うの!! これは――」

「マリアよ。そこで黙って聞いておるのだ。許可なく声を出したら、お主とて容赦はせん」

「っ!!」

「さて、聖女マイよ。そのケツエキガタやディーエヌエーという物がなんだというのだ?」

「はい。えっと、つまりですね。私の『鑑定』で、その人の特徴や生まれ持っての疾患、病気が分かる他に、親子関係、つまり、血のつながりの有無を知る事が出来るんです」

「血の繋がり…………。――! まさか!?」


 陛下が、いえ、この場の全員が、リチャード王太子殿下を見ました。


「はい。残念ながら、陛下とリチャード王太子殿下に血のつながりはありません」

「「「「――っ!!!」」」」

「…………間違いないのか?」

「はい、間違いありません」


 後から分かった話ですが、私が途中で抜けたお茶会で、聖女マイはリチャード王太子殿下に言われて、リチャード王太子殿下を『鑑定』したそうです。それは、ほんのお遊びのつもりでした。結果、リチャード王太子殿下の血液型はO型。AB型である陛下からは産まれてくるはずがない血液型だったのです。


 その時、聖女マイは極々稀にそういう事もある事を知っていたらしく、『これ、すっごく珍しい事なんだよ!』と言ってしまったそうです。そう、聖女マイには、リチャード王太子殿下が不義の子である可能性など、想像する事も出来なかったのです。ゆえに、鑑定の結果を正直にリチャード王太子殿下に伝えてしまいました。


 ですが、リチャード王太子殿下はそこまで甘い方ではありません。もしかしたら、何かしらの違和感を感じていたのか、聖女マイに、もっと詳細に『鑑定』して欲しいと依頼しました。結果は…………。




「マリア。何か申し開きはあるか?」

「ち、違、違います! そんな、そんなことは決して! あの子が! あの子が嘘をついているんです!! リチャードは間違いなく、貴方の息子です!!!」


 顔面蒼白ながらも必死に言い募るマリア様。その様子が、何が真実かを物語っていました。


「では、真実の口を使用しても問題ないな?」

「あ、あぁ、そんな……」


 真実の口は、何代か前の聖女が開発された道具で、その口の中に手を入れて話した内容に嘘があると、手を喰いちぎられるという道具です。


「聖女マイはかまわぬな?」

「え? あ、はい。構いません」

「マリア?」

「あぁぁ、違う! 違うんです!!」

「…………もはや真実の口を使うまでもないな。衛兵、マリアを地下牢に連れていけ! 間違えるなよ? 牢ではない。地下牢だ」

「!? そんな!」

「「はっ!」」


 地下牢は重罪人を入れる場所とされており、牢と比べて劣悪な環境になっております。貴族が地下牢に入れられることは基本的にはないのですが、聖女は貴族ではないので、地下牢に入れる事にされたようです。陛下の個人的な感情も含まれていそうですが。




 マリア様が連れていかれた後、陛下はリチャード王太子殿下にお声がけされました。


「リチャード……お主の意図は理解できた。だがなぜだ? なぜ、あれを庇って死のうなどと考えた? 正直に話してくれれば、いかようにも出来たはずだ」


 陛下の血を受け継いでいない者を次期国王にするわけにはいかない。その考えは分かります。ですが、陛下のおっしゃる通り、他の方法が、リチャード王太子殿下が死なずに済む方法がなかったとは思えません。


「…………私は陛下を……父上を尊敬しております。産まれた時からずっと……ですから……どんなに愚かだと思われようと……父上の息子として死にたかった……それだけです」

「っ! リチャード!!」


 リチャード王太子殿下のお言葉に、陛下をはじめ、すべての者が胸をうたれました。


 陛下の子ではないとバレたくない。しかし、次期国王に自分が成るわけにはいかない。ならば自分が国王になる前に死ぬしかない。が、下手に自死でもしようものなら、王太子を死なせた責任を誰かがとる事になる。そんな他人を巻き込むような事は出来ない。であれば、王命に逆らった愚か者として処刑されよう。そういう事だったようです。


「リチャード……儂の血を継いでいないお主を、王太子とするわけにはいかない。お主から、王太子の地位を剥奪し、シリウスを王太子とする」

「…………はい」


 陛下の宣言にリチャード殿下(・・)は、しっかりと返答されました。


「だが……お主が儂の血を継いでいないとしても……お主が儂の息子であることに変わりはない! 跡継ぎとする事は出来ぬが……どうかその才を持ってシリウスを支えて欲しい」

「陛下……はい!」

「そして皆の者、門出の日に王家の恥を晒してしまった事、慙愧(ざんき)に堪えぬ。が、王家の恥はもう去った(・・・・・)。これから王家も新たな門出を迎える。その事を皆の門出と一緒に、祝わせて欲しい!」

「「「はい!!!」」」

 

 王家の恥はもう去った。陛下はリチャード殿下の前でそう宣言されました。つまり、リチャード殿下は王家の恥ではない。そう宣言された事と同義です。その日、パーティーが終わるまで、リチャード殿下の目から涙が止まる事はありませんでした。






 その後、私とリチャード殿下の婚約は、両家の話し合いのもと、解消しない事に致しました。そうです。リチャード殿下は、まだ、私の婚約者のままです。


「本当によかったの?」


 王太子の地位は、シリウス殿下が引き継がれ、隣国の王女が王妃にとなる事で調整がついております。また、リチャード殿下の側近達は、今後は、シリウス殿下に仕える事になりました。


 つまり、今のリチャード殿下は、陛下の子であり、王家の一員ではあるものの、なんの権力もない状態です。そんな自分と婚約を続けて本当にいいのか、リチャード殿下は事あるごとに聞いてこられます。


「いいんです。私が貴方との婚約を望んでいるのですから」


 リチャード殿下が衛兵さんに連れて行かれそうになったあの瞬間、私は自分の気持ちに気付きました。ゆえに、帰宅してから、私はお父様に直談判したのです。リチャード殿下の有能さ、他の公爵家とのバランス、王家に与えられる貸し、その他色々。これでもかというくらい、リチャード殿下と婚約を継続するメリットを力説し、お父様を説き伏せました。


 その事はリチャード殿下にだけは教えて差し上げませんけど、ね。














◆  ◆   ◆


(これで良かったんだよね?)


 盛り上がるパーティー会場の片隅で、私は事の顛末に思いを馳せた。


(いやまぁ、結果的に嘘はついてないし? これ以上はどうしようもないし? 大団円って事で良いよね! ってか、真実の口って何!? あっちの世界にあるやつの本物!? だとしたら危なかったなぁ…………)


 陛下が私にも真実の口を使うと言った時は焦った。そう。実は私、嘘をついていたのだ。私の『鑑定』で分かるのはその人の情報のみ。つまり、その人の血液型やDNA、病気や持病の有無なんかは分かるけど、それで、親子関係を証明するなんて、私にはできない。


(だって、私、普通の女子高生だし!? 血液型でAB型からO型が産まれない事くらいは知ってるけど、DNA見て親子関係判別するとか不可能だから!!!)


 あの場ではああ言うしかなかったとはいえ、嘘をついた罪悪感がきつい。


(でもしょうがないよね。本当の事言うわけにはいかないし……)


 リチャード殿下が陛下の子でないのは本当だ。そこに嘘はない。では、それがなぜわかったのか。それは、陛下をよぉく『鑑定』した時に、陛下が先天的な種無しだと分かったからだ。


 つまり、陛下はお子を作る事が出来ない身体という事であり、リチャード殿下はおろかシリウス殿下も陛下の子ではない、という事で…………。


(王妃も側室も托卵とかシャレになってないって! しかも、王家の血を直系で継いでいるのは、陛下だけでその陛下が種無しって……詰んでんじゃん!)


 このことを話したら、この国は崩壊するかもしれない。私はリチャード殿下を相手にして学んだのだ。たとえ真実であっても、伝えない方が良い事もある、と。


 こっちの罪は、墓場まで持って行く事を私は密かに誓ったのだった。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
新しい作品ということで成長が感じられることを期待しましたが、そうでもなかったようで残念です。あくまで私の好みに合わなかったのだと思うことにします。
[一言] 託卵した側室と第二王子の一人勝ち。国は無くならないけどどのみち王家の血は絶えるっていう。 内々に陛下にバラして後継者打診したらほかに継承権持ってる奴の1人や2人余裕でいたと思う。直系の王子二…
[一言] イイハナシダナー; ・・・って、ちょっとおおおおお!? 悲劇ですわ喜劇ですわとしか言いようがない
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