聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
「おかしくないですか! 大事なのは、愛でしょう! それなのになんですか。愛だけでは大切な相手は守れないなんて!」
「まあ、とりあえず落ち着け」
エリカはもう何杯目になったのかも忘れたエールを飲み干し、ジョッキをテーブルに叩きつけた。世の中は、理不尽だ。この生きにくさを受け入れるためには、酒の力を借りるしかない。そうだ、飲むしかないんだ!
「ひどいっ。あんまりです。あなたも、愛よりお金が大事だと? 地位と名誉を持った相手でないと、大切なものを守るに値しない。そうおっしゃるんですか!」
「そういう意味ではないが」
悲しい女が欲しいものは、冷静なアドバイスやら指摘などではない。ただの共感だ。これだから女に不自由したことのなさそうなイケメンは。
わかってくれないことが悔しくて悲しくて、ついつい八つ当たりをしてしまう。それこそ、たいして仲良くない知り合いにうざ絡みをするくらいには酔っ払っていた。
「うわーん、もうダメだ。お願いです! 私と契約結婚して、一緒に聖獣の卵を育ててくれませんか! 団長ならお金もあるし、地位も名誉もあるし、腕っぷしだって文句ないですよね?」
「……いいだろう」
「約束ですよ! 約束忘れたら、絶対に許しませんからね! 指切りです。破ったら、針千本飲むんですよ。どうせ準備できないとか思っていませんか。まち針とか刺繍針とか合わせたら、簡単に千本くらい用意できるんですからね!」
「当然だ。約束を破ったら、針千本どころか針山に飛び込んでみせよう」
「なにそれ、こわい」
指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます。指切った。翌日、約束を忘れたのはもちろんエリカの方だった。
***
エリカは騎士団の付設食堂で働いている、ごくごく平凡な女だ。そんな彼女が自宅の裏庭にある鶏小屋でとんでもなく大きな卵を見つけたのは、つい先日のこと。
(ちょっとこれ、どういうこと?)
エリカが見つけたのは、両手で抱えなければ持ち運びできないような大きな卵。ずっしりとした卵は、鶏の卵とは思えない。
(しかもなんかうっすら光ってるし!)
ところが動揺しているのは、エリカだけ。小屋の中の鶏たちは、さも当然のように過ごしていた。一羽の雌鳥――ピヨリーヌ――にいたっては、我が子のように卵を温めていたりする。
(いやいや、おかしいでしょ。どう考えても普通に温めている場合じゃないでしょ。もしかしてこれって聖獣の卵なんじゃないの?)
無類の聖獣好きであるエリカは、聖獣の卵がたびたびとんでもない場所から発見されていることを知っている。神話として各地に伝わっている聖獣伝説は、実際のところそれぞれ本当に起きたことなのだ。
火属性の聖獣の卵が、温泉から発見されたこともあるし(あわや温泉卵かと危ぶまれたが、その後問題なく生まれた。中身は火竜だったそうだ)、地属性の聖獣の卵が、改築中のお城の基礎部分で見つかって、工事が百年ほど延びた国だってある。どうもかなりのんびり屋の聖獣だったらしいが、王家が保護者となったので問題はなかったらしい。
だから今回のようによそさまの鶏小屋の中で生まれたっておかしくはないのだ。地味に驚くけれど。
「痛い、痛い。ちょ、ピヨリーヌさんってばやめて。盗らないから。大丈夫だから! 一応、協会に届け出るだけだからってば。ぎゃー」
うちの子に何しやがるんですかと、エリカの手をつつき回すピヨリーヌ。雌鳥ごと卵を籠に入れるつもりが、怒れる母性を前にしぶしぶ諦めたエリカは、とりあえず単身で聖獣保護協会へと駆け込んだのだった。
ところがエリカの予想に反し、聖獣保護協会の窓口の対応はけんもほろろなものだった。
「私ではなく、この土地の領主を保護主として国に報告するですって? そんなの聞いてません! 聖獣の安定した生育環境のためにも、発見場所をできるだけ保全し、その場で養育することは法的に認められているはずです!」
「その通りだよ。だから君は今の家から退去しなくちゃいけない。今すぐに」
「じゃあ正直に届け出た私が馬鹿みたいじゃないですか!」
「お嬢さん、考えてもみてごらん。若い女の子がひとりで聖獣の卵を育てているなんて悪い奴らが知ったらどうなるか」
「それはつまり、聖獣の卵を守るためには何よりも財力が必要だということですか」
「お金だけではなく、男手もね」
悔しい。どうして、女というだけでこうも理不尽な目に遭わなければならないのか。ぽろりと涙が頬を伝う。
ずっしりと手に食い込む荷物が重い。生育環境の保護という言い分で、エリカはピヨリーヌをはじめとする鶏たちや家財道具を移動させることも認められなかった。できる限り旅行鞄の中に詰め込むだけで精一杯だった。
「聖獣を私が育てることはできないのはわかりました。生育環境を維持するため、家屋が聖獣優先になることも理解できます。けれど、大事な家族も問答無用で奪われ、その補償も一切ないというのはおかしいでしょう!」
「だが聖獣の保護については取り決められているけれど、発見者が保護できない場合の救済策については定められていなくてね……。必要なら国に異議申し立てをするしかないかな」
一般市民が国への申し立てなんかできるはずがない。そもそも伝手もお金もないのだから。
とぼとぼと歩いていたエリカは、とうとうヤケクソで入ったことのない酒場に飛び込んだのだった。
***
「おはよう、愛しいひと」
「ひ、ひええええ、だ、団長! ど、どうしてここに?」
「結婚した夫婦がひとつ屋根の下で過ごすことは当たり前だろう」
「けっ、けっ、けっ」
「どうした。寝起きでむせたか」
「結婚ですか!」
「なんだ、覚えていないのか。昨夜、自分が熱烈に求婚してきたじゃないか」
回想することしばし。普段は滅多に口にしない酒に飲まれて酔いつぶれたあげく、通りすがりの騎士団長にうざ絡みした記憶が蘇ってくる。エリカは慌ててベッドから降りると、騎士団長に頭を下げた。
「も、申し訳ありません! もしかして、私、聖獣保護のために結婚してくれって団長に泣きつきました?」
「酒場に響き渡る声で叫んでいたとも。だが、安心してほしい。婚姻届はすでに日時を遡って受理されているし、あの場にいたのはみな俺の部下たちだ。口外しないと約束しよう。約束を破るような奴は、物理的に物言わぬようにしてやるだけのこと」
(それはつまり、部下さんたちはうっかり秘密を漏らすとこの世に別れを告げることになると?)
エリカの疑問に騎士団長は柔らかく微笑むだけ。その笑顔の優しさに、思わず冷や汗が出る。慌てて別の話題にすり替えた。
「それにしてもここはどこでしょうか」
「ここは俺の家だ」
「騎士団長って高給取りなんですね」
「俺が誰かわかっていて、俺に契約結婚を申し込んだのでは?」
「はあ。少なくとも私よりはお金を稼いでいそうだとは思っていましたが、まさかこんなお貴族さまのようなお屋敷だったなんて」
メイドさんとか出てきちゃったりなんかして。冗談混じりで笑いかけようとしたとき、エリカは顔をひきつらせた。タイミングよくノックされた扉の向こう側からは、なんとも渋い家令と頭を下げたメイドたちが待機していたからだ。
「旦那さま、準備が整いました」
「ああ、ありがとう。エリカ、湯浴みが済んだら朝食にしよう。昨日はそのまま寝てしまっただろう?」
(さらりと呼び捨て!)
騎士団長の言葉に、まだ年若いメイドが頬を染めた。
どことなくそわそわした眼差しを向けてくる家令たちに止まっていたはずの冷や汗が再び吹き出す。
(ち、違うから! 確かに同衾していたみたいなんですが、色っぽい話じゃないんです。酔っぱらいが意識を失ったあげく、今現在もちょっとばかり二日酔いなだけで……)
はたと気がつき、エリカは騎士団長に飛びついた。周囲のメイドたちが黄色い声をあげる。弁解したい気持ちを抑え、ひそひそと耳元で囁いた。
「自宅の件ですが、どうなるのでしょう? 聖獣保護協会のかたは聖獣に関してはお任せできるとは思うのですが、鶏たちについては玄人ではないはず。この猛暑の中でちゃんとお世話していただけているのか心配です」
「その件だが、もう少し手続きと裏取りに時間がかかりそうだ。聖獣の卵に鶏たち、自宅のことなど気になるのはよくわかるが、どうかもう少し堪えてくれ。部下たちも鶏たちのお世話を頑張っているんだ。……どうも、ピヨリーヌ殿には嫌われているようだが」
(うちのピヨリーヌにどつき回される騎士さまたちって……。本当に、お転婆な娘ですみません!)
深々と団長に頭を下げられて、とんでもないとエリカは首をぶんぶんと振り続けていた。
***
屋敷の中では、エリカは賓客としてもてなされている。
「ここまでしていただく必要とかありませんから!」
「いえいえ、旦那さまの大切なかたです。どうぞ、お仕えさせてくださいませ。奥さまのお越しを、我々は今か今かと首を長くしてお待ちしていたのです」
(嘘でしょ、契約結婚だってこのひとたち知らないの? えーん、期待させてごめんなさい。私、書類上の妻なんです)
にこにこ笑顔の家令を前に頭を抱えるエリカ。その横で、騎士団長が笑う。
「すまない。彼は俺が結婚するのを長いこと待っていたんだ。君との結婚についてのいきさつは伝えているから、罪悪感を持つ必要はないよ」
「ううう、すみません。酔った勢いで、大事な旦那さまをたぶらかしてしまい……」
「いえいえ、坊っちゃまのことをたぶらかしていただきありがとうございます。どうぞこの先もどんどん弄んでやってくださいませ」
「だから、どうしてそういう話になるんだ。だいたい坊っちゃまはやめてくれと言っているだろう」
どうやら家令は騎士団長の結婚を心待ちにしていたようだ。貴族らしく後継などの問題があるのだろうか。それならば、契約結婚をする理由もわかる。自分への同情うんぬんだけでなく、結婚を急かしてくる家族や親戚たちへの牽制にはなるはずだ。
(でも、それって後々結局ご自身の首を絞めることになるのでは?)
この結婚は自分にしか得がないのではないか。そう訝しんでいたエリカは、用意された部屋に足を踏み入れて仰天した。ドレスにアクセサリー、靴やバッグといったものが流行をおさえた形でしっかりとそろえられている。昨夜、エリカが泣きついたから用意したというレベルではない。
「なんですか、このザ新妻なお部屋は!」
「まさしく、若奥さまのお部屋でございます」
「いやいや、いろんなものがそろいすぎじゃありませんか。ほ、ほら、これとかなんか凄すぎる……」
どこで手に入れることができるのか知りたいような知りたくないような、そんなスケスケいやんなランジェリーを指差しつつ、エリカは家令に言い募る。
「口下手な坊っちゃまは、贈り物を購入するもののお渡しすることがまったくできないありさまでして……」
数年来の片思いなら、この部屋をがっつり調えられるのもわかる気がする。だがそんな相手がいるなら、どうして自分と契約結婚を結んだのだろう。なんだか急に胃が重くなった。
「好きなひとがいるとか初耳ですよ。……って、じゃあお相手に今も気持ちが伝わっていないままなんですか?」
「おっと、失礼いたしました。この辺りのことはわたしではなく、坊っちゃまに直接訊いていただいたほうが良いですね」
(両思いじゃないのに着てほしい下着を準備するとか、騎士団長って思ったよりこじらせているのでは?)
妙にもやもやするのは、二日酔いか騎士団長の性癖のせいだということにした。
***
騎士団長はそれからもとても優しくエリカに接してくれた。今まで仕事場においても、確かに彼は紳士的だった。だが同じ屋敷でエリカを見つめる騎士団長は、まるで本当に大切な恋人を見つめるかのように嬉しそうな顔をしているのだ。
(まったく、私はどなたかの代わりなんですよね。いやだ、勘違いしちゃいそう)
作った料理をいつもきれいに食べてくれる騎士団長は、エリカにとって仕事中の密かな癒しだった。他の騎士たちのように卑猥な冗談を話すこともなく、酒場のような必要以上に接触の多い給仕を求めてくることもない。ただいつも、「美味しかった、ありがとう」と声をかけてくれることがとても嬉しかった。このひとなら、大丈夫という信頼がエリカの中にあったに違いない。だからこそ、弱っていたときにすがりついたのだろうと合点がいって、急に胸が痛くなった。
自分の勝手な都合で、騎士団長の妻として隣にいるべきではない。そう思うと、いてもたってもいられなくなる。団長が出かけたのを見計らって、エリカもまた家を飛び出した。
「奥さま、一体どちらへ?」
「あの、ちょっと自宅を確認しに。うちの子、ちょっと繊細なもので、ちゃんとご飯を食べているか心配で!」
「何と奥さまに、お子さまが!」
(すみません、鶏なんです。しかも全然繊細じゃないんです!)
唖然とする家令を残し、自宅までの道のりを必死で走るエリカ。ふらふらになりながらたどり着いた自宅で、予想外のものを目撃しうろたえてしまった。
「な、なんてこったい!」
そこにいたのはもっふもふのペンギン?のひなだった。
(あれ、何? どこから来たの? そもそもペンギンのひなは、一時的に親鳥よりも大きく見えるというけれどあれは大きすぎなのでは?)
それにしてもあのひなは、一体何をしているのか。ぴいぴいと叫びながら大口を開けている。それはひなが親鳥から食事をもらうために口を開ける様子に見えた。
(このサイズでこの子は一体何を食べるの? ペンギンなら魚を食べるんだろうけれど、この辺りに海はないし……。川魚とか? でも誰が、どうやって捕まえるのかしら?)
ふと疑問に思って、巨大なひなの視線の先を辿ったエリカは思わず固まった。
「ど、どうしてうちの庭にコカトリスが!」
いくら聖獣の卵が見つかったとはいえ、そんな伝説級の生き物が普通の自宅にほいほい現れてはたまらない。よく見ると、そこにはなんとも雄々しく羽を広げ、脚でがっちりとヘビを押さえつけたピヨリーヌがいた。
***
ピヨリーヌはなんの問題もないかのように、ヘビをペンギン?のひなの口にずずいっと放り込んだ。
「嘘でしょ!」
(そんなミミズみたいにヘビって食べられちゃうものなの?)
するするごっくん。ぺろりとたいらげてみせたペンギン?のひなは、ピヨリーヌがお世話をしていることから考えても、あの卵から生まれた聖獣なのだろう。
(竜とか、不死鳥とか、そういう生き物じゃないものが生まれることもあるんだなあ)
神話や伝説として伝わっていないのは、やはりペンギン?だとなんとなく締まらないからなのだろうか。ぼんやりと考えるエリカに、罵声が浴びせられる。
「お前のせいだ! 急に領主命令で内部調査が入って首になるなんて。卵を取り上げて何が悪い。聖獣というのはな、お前のような地味な女ではなく、わたしのような立派な男が育てるべき生き物なのだ!」
唾を飛ばしながら怒りを露わにしているのは、聖獣保護協会の窓口の男だった。勝手な言葉に、エリカは男をにらみつける。だが男の手には、ナイフが握られていた。
「エリカ!」
遠くから団長の声が聞こえる。
「りょ、領主さま? うわあああ、わたしはおしまいだ!」
(団長が領主さま? そんなことってある?)
だが、今はその質問をするべきときではない。迫りくる刃から少しでも身を守るべく、小さくしゃがむ。けれど恐れていた衝撃が来ることはなかった。代わりに聞こえたのは野太い絶叫。
「ぐえええええええ」
男がピヨリーヌに襲われていた。すごい勢いで蹴りあげられ、くちばしで目を突かれている。
(さすがピヨリーヌさん。的確に急所を狙っていくスタイルね!)
いくらどつき回されているとはいえ、日頃は彼女なりに手加減をしてくれているのだとエリカにも理解できた。
「え、聖獣さん。あなたは何を?」
もきゅもきゅもきゅ……ごっくん。ヘビを飲み込むのだってどう考えてもおかしかったのに、聖獣は聖獣保護協会の男の頭を飲み込んでしまった。
さすがに首より下は口の中に入らないようで、首をあっちに振ったりこっちに振ったり。散々試行錯誤したあとで、結局でろりと吐き出した。
ぺぺぺぺぺ。
さらによだれまみれのカツラがすごい勢いで吐き出される。べとべとの男は、燃え尽きた目で遠くを見ていた。どうやら、聖獣の胃の中で見てはいけないこの世の真理を覗いてしまったらしい。
「大丈夫か!」
「あ、団長。大丈夫です。ピヨリーヌさんと聖獣さんが守ってくれまして」
そこでぎゅっと抱きしめられた。団長の手が震えている。
「頼む。こんな無茶はもう二度としないでくれ。俺は確かにずっと一緒に暮らしてきたピヨリーヌさんよりも信用できないかもしれない。君が大好きな聖獣にも劣るかもしれない。口下手で、好きな相手にプレゼントひとつ贈ることができずに屋敷の部屋に貯め続けてしまうような気持ち悪い男だ。それでもどうか、見捨てないでくれ。俺にできることは何でもするから。どうかこれからもずっと隣にいてほしい。俺に君のことを守らせてくれないか」
驚くような告白を耳にしたエリカは、とりあえずあのスケスケいやんなランジェリーについて詳しく聞いてみようと心に誓った。
***
うなだれたまま連行されていく男を見送り、エリカはピヨリーヌや聖獣、そして騎士団長に改めて頭を下げた。
「それにしても、まさか聖獣さんまで私を守ってくれるなんて」
「聖獣は、自身の家族を命懸けで守ると聞く」
「つまり、私は聖獣さんのお母さんとして認識されているってこと? あああああ、いだい、いだい、ごめん、冗談だってば。皮膚をむしらないで。えぐれる、えぐれるから!」
ピヨリーヌに追いかけ回されたエリカは、早々に白旗を上げた。わかればいいのよと言いたげに、ふんすふんすと足音高く、最強の雌鶏は可愛い我が子の元に歩み寄る。
「ううう、ピヨリーヌさんひどい。私、めっちゃお世話しているのに」
飼い主としてお世話をするのは当然とはいえ、塩対応が続けばやっぱり心が折れる。しょんぼりするエリカのもとに、とてとてと巨大なペンギン?がやってきた。
謎の聖獣が、なでろと言わんばかりにエリカの隣でふんぞり返る。膝を抱えているエリカよりも大きい。ふわふわの幼鳥なのに、なんともいえない威圧感だ。
「ごめんね、なでたいところだけど、やっぱり親御さんの許可がいるかなって……いっだあああ。え、なに、可愛いうちの子を早くなでろってこと? わかった、わかったから!」
なでろという要求をやんわり断った結果、しょんぼりとうなだれた聖獣。その瞬間、エリカはピヨリーヌから怒涛の叱責を受けることになった。
「え、触らせてくれるの? 過保護なんだか、そうでもないんだか、ピヨリーヌさんの距離感がわかんないよ」
一連の流れを見ていた騎士団長が口を挟む。
「ピヨリーヌ殿にとって君は、母親なのでは?」
「えー、下僕の間違いじゃないですか」
「だが以前に食堂で、道端で死にかけていたピヨリーヌ殿を君が拾ったと聞いた。それならば、君は間違いなく育ての母だ。つまりピヨリーヌ殿の子どもである聖獣殿は、君の孫になるのではないだろうか」
その通りだと言わんばかりにピヨリーヌが、こっこと相槌をうった。
「そ、そんな、私、20代でもうおばあちゃんなの!」
「心配はそこなのか」
「これはうっかりすると、数年後にはひいおばあちゃん……。そんなバカな……」
「なるほど、俺も早速おじいちゃんか。最高だな。彼らに負けないように俺たちも家族を増やさねばな」
その後、この地はふわふわもふもふで可愛らしい聖獣が暮らすことで一躍有名となる。ひと懐っこい聖獣を一目見ようと、多くの人々を迎え入れ発展していくことになった。
この地の領主の館には、コカトリスによく似た、ヘビを踏みながら羽を雄々しく広げる可愛らしい雌鶏が紋章として飾られていたという。
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