檻の中。
階段を降りた先には、ぽっかりと壁に穴が開いていた。
りゅうたろうが壊して開けたのかと思ったが、よく見てみればどうやら隠し扉だったようだ。
という事は、よつばが開けたんだな。
隠し扉の中に入ると、獣くさい匂いがした。
上とは違い、ざわざわと人の気配がする。
んー? 少し用心した方がよさそうか。
「くぅ、警戒よろしく」
「にゃお」
仕方ないな、という風にゆらゆらとしっぽを揺らしながら、くぅが私の隣を歩く。
「ピィー!」
コハクの声が聞こえてきた。
近い!
「せり!」
「にゃあ!」
せりが走り出す。私達もせりを追って走った。
獣くさい匂いが強くなる。
「ここか!」
飛び込んだ部屋の中を見て、私は一瞬固まってしまった。
「……何だ、これ」
部屋の中には無数の檻があり、そこには獣人達が閉じ込められていた。
皆、怯えたような目をして、私を見ている。よく見てみれば、足や首に枷がつけられ鎖に繋がれていた。
「にあん! にあん!?」
よつばの興奮した声に、はっと我に返った。
振り返ると、狭い水槽に人魚が閉じ込められており、よつばはその前で鳴いていた。
人魚は私を見ると、顔を歪ませ泣き出した。こぼれた涙は真珠の粒に変わり、水槽の底に沈んでいく。
「……よつば、檻と鎖を解除」
「にあん……!」
よつばは片手間に前足をちょいちょいと動かし、檻の鍵を開けた。
「大丈……」
獣人達に声をかけようとして、私は言葉を失った。
翼が生えているものは、その片翼を切り取られ。
牙が生えているものは、その牙を抜かれていた。
まさか、あの人魚は喉を……!
「チャビ、『回復』して!」
茶トラのふかふかの猫が、ごろごろと喉を鳴らし始めた。
チャビの「回復」は復元に近い。怪我も病気も、その状態になる前に戻るのだ。
実のところ、無機物にも効果がある。ぼろぼろになった建物等も新築のようになるのだ。
獣人達の傷も、みるみる内に癒えていく。
しかし、副作用もある。チャビのごろごろを聞くと、眠ってしまうのだ。
私達は免疫があるから平気なのだが、獣人達はやはり眠ってしまったようだった。
「ピィー!!」
コハクの声が聞こえた。
「にゃあ!」
せりがイカミミで鳴いた。
そういえば、先に行ったはずのりゅうたろうの姿がない。
違う部屋にいるのか?
「せり、りゅうたろうとコハクを『気配察知』」
せりはイカミミのまま、床を前足で叩いた。
下か。
入り口らしきものは見当たらない。ここも隠し扉なのかもしれない。
「よつば、『解除』」
よつばは相変わらず人魚の水槽にへばりついたまま、前足をちょいちょいと動かした。
だから、人魚は食べないと言っているでしょうに……。
がこんっと音を立てて、入り口が開く。
檻を運ぶためなのか、入り口は大きく、なだらかなスロープになっている。
「りゅうたろう、コハク!」
飛び込むと、虎ほどの大きさになったりゅうたろうとコハクが、フードを被った男達と睨みあっていた。
「なんダ、お前ハ!?」
私の姿を見て叫んだ男の近くには、小さな空の檻が落ちていた。
おそらく、小さくなっていたコハクを捕らえて入れていたのだろう。先ほどよつばが適当に「解除」した時に、コハクの檻も開いたのだ。
しかし、身体の大きさを変えられるコハクなら、普通の檻なら壊して出てこれたはずだ。
つまり、檻か鎖かは分からないが、力を封じる何かがあったのだ。
大体、フードを被っている連中にろくなやつはいない。
経験にもとづく、個人的偏見によるがな。