豪華客船。
あー、完全に見失った!
柴犬サイズならともかく、大きくなったコハクならすぐに見つかると思ったのが間違いだった。
キャットハウスからせりを呼び出す。最初から、せりに頼るべきだった。
「せり、コハクを『気配察知』」
せりはひげをぴくぴくさせながら、歩き出した。
んー? こっちの方向って……。
せりが迷わず港へと向かって歩いていく。
……戻るのかよ!
港には、船が何艘も停泊していた。
せりは、それらには見向きもせず、真っ直ぐに一艘の船に向かっていく。大きくて綺麗な船で、おそらく豪華客船のような感じだろう。
「にゃあ!」
私を振り返って、せりが誇らしげに鳴いた。どうやら、コハクはこの船にいるらしい。
船に変わった様子はない。……ドラゴンが乗り込んだら騒ぎになりそうなものだが。
あー、さては小さくなって潜り込んだな?
私は小さくため息をついた。
まったく悪知恵が働くようになって。どう考えても、猫達から悪影響を受けたに違いない。
さて、どうするかな。
見つからない内に、こっそり終わらせたい。
せりの「隠密」で潜り込めばいいか?
「……にゃあ!」
船を見上げたせりが、嫌そうにしっぽをぶんぶん降っている。
「せり、どうしたの?」
「にあん!」
よつばが、勝手にキャットハウスから飛び出してきた。
「にあん! にあん!?」
ひどく興奮した様子で、目の色が変わっている。
あ、れ……?
最近、見たぞ、これ。
よつばが前足をちょいちょいと動かした。
「!」
よつばの仕草は「解除」のスキルを使う時のものだ。
この船、結界か罠があったのか?
「ピィー!!」
この声はコハクか!?
船の中から聞こえてきた。
りゅうたろうの毛が、ぶわっと逆立った。せりも牙を剥き出している。
コハクに何かあったのか?
「キング、船の中に『空間転移』!」
キングがぱちりと目を閉じ、私達は微妙な浮遊感と共に船の中に移動した。
「……?」
妙な違和感を覚えた。
周りを見回すが、これといって変わった様子はない。
んー?
「あ、そうか……」
人の気配がしないのだ。
港に停泊している船に、乗客の姿も船員の姿もない。そもそも、人が乗っていた気配がない。
「ピィー!!」
「……!」
コハクの声が聞こえ、それに答えるようにりゅうたろうが口をにゃーの形に開ける。
「にあん! にあん!」
よつばはますます興奮している。いきなり走り出した。
「待ちなさい!」
せりを抱き上げて、慌ててよつばのあとを追った。りゅうたろうも一緒に走っている。
「コハクもこっちにいるの?」
「にゃあ!」
私の腕の中で、せりが力強く鳴いた。
……なんだ、この船。
何かがおかしい。
「りゅうたろう、先にコハクの所に行って!」
私の言葉を聞き、りゅうたろうがさらに勢いよく走り出した。あっという間に姿が見えなくなる。
「にあん!!」
よつばが船倉へ向かう階段を、転がるように降りていく。
薄暗い階段の下は、よく見えない。
だからさぁ、あんた達猫には見えているからいいんだろうけど、私には灯りが必要なんだから、少しは気を使ってくれても……。
いや、うん。分かっている。
猫が人間を気遣うなどあり得ない。
ため息をつき、私は無限収納から炎鉱石から作られた魔道具を取り出した。
ガラス玉のようなものの中に、赤々と燃える炎が灯っている。触れても熱くはなく、これ一つで二週間ほどはもつ。
ドワーフの作った魔道具は多少値が張るが、品質は間違いない。
裏世界に来るに至って、いろいろ詰め込んできたのは正解だった。
せりを床に下ろし、灯りを手に私はゆっくりと階段を降りた。