獣人の国。
ふてくされているよつばにおやつをあげてなだめていると、陸が見えてきた。
女神様がくれたマップ機能を表示する。
女神様は、猫達にスキルを与えた時に張り切りすぎた反動なのか、私にくれたスキルは「自動翻訳」「マップ」「無限収納」「キャットハウス」というものだった。
いや、完全に猫がメインだっただろう、これ。
まぁ、身体能力強化もつけてくれたけど。……レベル1だったけどな。自力で、レベル4まであげてやったわ!
とりあえず、裏世界でもマップ機能は問題なく使えるようだ。
表示されているのは、ルビー共和国。
獣人達が住む国だ。
表世界と同じように、裏世界も違う世界から迷い込んできた人々が多く住んでいるらしい。
裏世界は亜人が多く、人間は珍しいのだそうだ。
んー。
接岸してもいいが、この大きさの船が港に入ると騒ぎになるだろう。魔導で出来た船だから、乗組員もいない。
「キング」
白黒の体の大きな猫が、私を見上げた。名前の由来になった、アゴヒゲのような模様がある。
「あそこの港に『空間転移』」
キングのスキルは「空間転移」と「影魔法」だ。「影魔法」はいろいろと応用がきく。
まぁ、体に似合わずキングは器用だからねぇ。
キングがぱちりと目を閉じた瞬間に、船を無限収納にしまう。
エレベーターに乗った時のような微妙な浮遊感と共に、私達はルビー共和国の港に移動した。
「さて、魔王が住んでいるのは……」
この港からも見えている巨大な山。そこに、呪われた魔王が住む城がある。
この大陸は、真ん中に魔王の住む巨大な山があり、その周辺を幾つかの国が囲むように存在している。
なんでも数百年くらい前までは各国で争いが絶えなかったらしいが、魔王が大陸を統一してからは落ち着いたらしい。
ここの魔王は、いい魔王のようだ。
何回か世界を滅ぼしかけた、うちの魔王様とは違うみたいだな。
いや、わざと滅ぼそうとしたわけではないのだが。
キレたついでに、とか、うっかり、とか……。
…………。
うん、今はそんな事はどうでもいいな。
魔王の住む山が見えているからキングの「空間転移」なら一瞬だろうが、せっかく裏世界にまで来たのだから少し街の中を見て歩きたい。
久しぶりに、足元が揺れていない感覚も味わいたいし。
海神様にもらった加護のおかげで、航海中に海が荒れるような事はなかったが、慣れるまではしばらく船酔いに苦しんだ。
チャビに、何回も「回復」してもらわなければならないほどだった。
チャビは茶トラのふかふかした猫で、スキルは「回復」「雷魔法」「殺気」だ。
普段はおっとりした癒し系の猫だが、実は魔王姉弟のかたわれだ。
「りゅうたろう、行くよ」
手のひらサイズになったりゅうたろうが、ひらりと私の肩に飛び乗った。
ほかの猫達はキャットハウスに入ってもらった。
「コハクも一緒に行きたいの?」
柴犬サイズのコハクが、嬉しそうに私の頭上を飛び回った。
お宝に目がないコハクだが、港街にきらきらぴかぴかのお宝など、そうはないだろう。
港街は、潮の香りと食べ物の焼ける匂い、それに微かな動物特有の匂いが入り雑じった独特な匂いがしていた。
人間が珍しいのか、じろじろと無遠慮な視線を感じる。
いや、まぁ、りゅうたろうとコハクのせいでもあるだろうがな。