ミス。
ほかの吸血族は命に関わるような重症を負っていた。
だが、今私が見下ろしているこの吸血族は、這って動ける程度の負傷だった。
犯人が自分も襲われたように見せかけるのは、推理小説などでよくある手法だ。
今回の件は私のミスだ。
あの時、せりは「気配察知」で敵の侵入を感じて鳴いたのだ。
だが、私は血を流しているこの吸血族を見て、怪我人のことを察知したのだと思い込んでしまった。
ええい! 猫の言いたいことを間違えるなんて、私も猫飼いとしてまだまだだ!
もっと、修行をつまなくては!!
いや、待て。いったん落ち着け、私。
今は、この吸血族の対処が先だ。
まぁ、予定が狂ったのはこの吸血族の方もだろう。
おそらく、ヴラドを誘き出し、ほかの吸血族もろとも始末する予定だった。
ドライアドの薬師がエディール草の花粉に気づかなければ、そうなっていたはずだ。
そして、自分は怪我人のふりをして魔王サマの城に潜り込むつもりだったのだろう。
だが、チャビの「回復」でぐっすりと眠り込み、結果として私達が戻ってくるまで何も出来なかったのだ。
「あんたの目的は何?」
ゆっくりと吸血族が顔をあげる。
目が赤くなっている。
「!」
魔王サマ達が身構える。
「……何故、我ら吸血族がこやつに媚びへつらわねばならぬ! 古より続く、誇り高き我が一族が!!」
さっと、酒天童子とジークフリートが魔王サマの前に立った。
「ヴラド、貴様もだ! 何故、吸血族の長たるものがへりくだる!?」
顔を歪ませ、吸血族が叫ぶ。
……ああ、そうか。
裏世界は、数百年前に魔王サマが統一した。
だが、長命な種族には「たった数百年前」のことなのだ。
私達の感覚では、数十年、いや、数年しか経っていないのと同じなのだろう。
納得できない、現実を受け入れられない。
そういうものがいても、おかしくはない。
私は、ちらりとヴラドを見た。
ヴラドは、強く拳を握りこんでいた。
長い爪が手のひらに食い込み、ぽたりぽたりと血が落ちている。
長として、ヴラドは一族の不満分子をあぶり出しておくべきだった。
そして、それ相応の処断をしなければならなかった。
気づかなかったのか、それとも、気づいていながら判断が甘かったのか。
結果として、一族のほかのものを危険にさらした。
これは、ヴラドのミスだ。




