薬師。
上空を飛んでいたりゅうたろう達が旋回したあと、その場を離れた。
あそこか。
だが、何故飛び去った? 何か見つけたのか?
せりが鼻をひくひくと動かした。
ヴラドも眉をひそめている。
「これは……」
嗅覚の鋭い猫や、特定の匂いに敏感であろうヴラドでなくとも分かる。
風に乗って流れてきたのは、血の匂いだ。
りゅうたろう達が旋回した辺りに、大きな赤黒い染みが見えた。
血溜まりの中に、ヴラドのように黒い翼を持つ魔族達が何人も倒れている。
「大丈夫。まだ生きてます!」
ドライアドの薬師が叫んだ。
「チャビ……」
チャビに「回復」を頼もうとすると、せりが私達の前に立ちふさがった。
「シャーッ!」
「せり?」
せりは私達に向かって威嚇してきた。
近づけさせないようにしているのか?
「この匂いは……」
薬師が顔をこわばらせる。
匂い?
血の匂いが強くて分からないが、何かあるのか?
「エディール草の花です。花粉を吸い込むと、意識を失います」
なるほど。
だから、りゅうたろう達は離れていったのか。
「……エディール草は、この辺りには自生していません」
ヴラドが低い声で言った。
つまり、エリザベートをさらった連中が花粉をばらまき、意識を失った魔族達に危害を加えたということか。
「……」
いや、花粉をどうにかする方が先だ。
「福助、『風魔法』。吹き飛ばせ!」
「にゃ!」
福助が張り切って鳴いた。
福助の回りを、きらきらしたものが踊るように跳ね回った。
福助と契約している風の精霊達だ。
ごおごおと音を立て、激しい風が辺り一帯をなぎはらう。
あー、うん。
森も一部消えてなくなったが、まぁ、ご愛敬だ。
「せり、大丈夫?」
ふんふんと匂いを嗅いでいたせりが、ぴしっと胸を張った。
「にゃあ!」
大丈夫なようだ。
頷いてみせると、薬師は急いで倒れている魔族達の元へ駆け寄った。
薬師の腕から蔓が伸び、怪我人へ触れる。
傷が塞がっていくと同時に、蔓に咲いていた花がはらはらと散っていく。
怪我人は薬師に任せるとして。
私は無限収納から大鎌を取り出した。
せりの「気配察知」がなくとも、さすがに分かる。
「血の匂いにつられたようですね」
そう言いながら、ヴラドは黒い翼を広げた。
魔物が私達を取り囲んでいる。
次第に、その輪が小さくなっていく。
「せりとよつばは、私と一緒に薬師さんと怪我人を守って!」
「にゃあ!」
「にあん!」
「ほかの子達は……」
ちらり、とくぅが私の顔を見た。
おこんはわくわくしたように、しっぽを振っている。
「行ったれやぁぁぁ!」




