転移。
「エリザベートがさらわれた」と聞いて、ヴラドはただでさえ白い顔が青白くなった。
私は隣にいる酒天童子にこっそりとたずねた。
「エリザベートって誰?」
「ああ、ヴラドの妹だよ。まだ小さくて……、年はいくつだったかな」
こんなこんまいの、と言って酒天童子は自分の腰辺りを手で示した。
いや、あんたがデカいだけだから。
とはいえ、それを差し引いても、そのエリザベートがまだ子供なことは間違いなさそうだ。
「何をしている!」
魔王サマがヴラドを怒鳴り付けた。
えー、なんかがっかりだ。
魔王サマはいい魔王だと思っていたのに……。
「大事な妹なのだろう! 城の事はいいから早く行け!」
……すみません、魔王サマ。
心の中で土下座しておく。
「つかさ殿」
魔王サマが私に声をかけてきた。
「どうか、ヴラドを助けてやってほしい」
そう言って、魔王サマは深々と頭を下げた。
「はい」
おそらく、さらったのはフードをかぶった連中だろう。
なら、個人的にオカエシもさせていただきたいしな。
私はヴラドと共に、門庭の転移魔方陣へ向かった。
ヴラドの城と、ここの城は直接繋がっているという話だった。
私達が魔方陣の中心に立つと、外側から徐々に光り始めた。
「……ん?」
えらい時間がかかるな。
そう言うと、一緒に行く事になったドライアドの薬師は首をかしげた。
「お城のは、発動が早い方ですよ」
普通なら、もっと時間がかかるらしい。
どうりで、みんなキングの「空間転移」に驚くわけだ。
一瞬、目を閉じるだけだものな……。
魔方陣の光が、ようやく中心に届いた。
ぐにゃり、と空間が歪む。
いや、空間だけではなく、私達の体もぐにゃぐにゃと変な風に歪んでいる。
うわ、なんだ、これ。
あ、ヤバい。気持ち悪いぞ、これ……。
ヴラドのお城も、やはり特殊な結界が張られていて直接は転移できないということだったから、キングの「空間転移」を使わなかったのだが……。
あー、よつばに「解除」してもらうべきだったか……。
後悔していると、ぐにゃぐにゃしていた体が次第に輪郭を取り戻し始めた。
それと同時に、周囲の景色が変わっていく。
ゆっくりと、光がおさまっていく。
まわりは薄暗い森に囲まれ、古いお城の石垣には蔦がはっていた。
「にゃあ!」
せりが声をあげた。
ふんふんと地面の匂いを嗅いでいる。
この、何かを引きずったような、黒い染みは……。
ああ、そうか。
魔王サマのお城に、エリザベートがさらわれた事を伝えにきた魔族が這ってきたあとか。
血の跡は城の外までずっと続いていた。
先は見えない。
この距離を、あの魔族はずっと這ってきたのか……。
せりが血の跡を追って走り出す。
私達もあとを追う。
「りゅうたろう、コハク。空から確認して!」
大きくなったりゅうたろうが、ひらりとコハクの背に飛び乗った。




