猫化。
丸眼鏡が私を見ながら話し始めた。
「これでも、だいぶましになられたのです。…ふっ」
もう、笑ってあげた方が本人も楽になれる気がするのだが。
「申し遅れました。私は魔王様の側近をつとめております、吸血族のヴラドと申します」
吸血……。
そうか、肉食とは限らないわけか。
生気を吸い取る種族もいるだろうしな。
そんな事を考えながら、私は話の続きを聞いていた。
ヴラドの話では、魔王サマが呪われたのは今から約三ヶ月前の事だったらしい。
突如としてネコミミとしっぽが生え、四つ足で歩き出した。
言葉も話せず、ただニャーニャーと鳴いていたそうだ。
城の呪い師によれば、猫になる呪いをかけられているが、魔王サマの魔力が高かったため中途半端に猫になってしまったらしい。
ドライアドの薬師や呪い師の尽力により、どうにか今の状態にまで回復したとのことだ。
ちらりと魔王サマを見ると、盛大なため息をつき、両手で顔をおおっていた。
「こんな状態なら、いっそ完全に猫の方がましだったニャ……」
いや、まぁ、気持ちは分からなくはないが……。
その後の事は、先程聞いた通りらしい。
そして、いまだに何も分からないとの事だった。
「なんで、そうなったかも覚えていないのニャ」
ぽつりと言う魔王サマのしっぽが、しょんぼりとたれている。
んー、初期はだいぶ猫寄りだったみたいだしな。
記憶が曖昧でも仕方ないだろう。
ただ、まぁ、こっちはある程度繋がったが。
豪華客船の連中がくぅを見て「魔王」と呼んだのは、表世界での通り名を知っていたわけではなく。
おそらく、呪いによって猫になってしまった魔王サマ本人だと思っていたのだろう。
つまり、呪いをかけたのは豪華客船に関係のあるものだ。
魔王サマが猫になったと思い込んでいたところをみると、今の状態を知らないのだろう。
んー、呪いをかけただけで結果は確認していない、または出来ていない……。
「早く呪いを解いてほしいニャ!」
魔王サマの悲痛な叫びに、はっと我に返った。
そういや、呪いを解くために来たのだった。……うっかり忘れていたな。
私はじぃっと魔王サマを見た。
ダンディーなおじ様風な魔王に、オプションとしてネコミミとしっぽがついている。
語尾にはニャ。
……レアだよな。
呪いを解いてしまうのは、少しもったいないような気もしないでもない。
ちらりとまわりの様子をうかがうと、少なくとも女性陣とヴラドは私と同じ気持ちのようだ。
……このままでも、いいような気がしてきた。
いや、ダメだ。海神様の依頼だし、きちんとお仕事しないと。
前払いでもらってしまったしな……。




