味見。
「ん……」
魔族の人が目を覚ました。
しばらくの間ぼんやりとしていたが、はっとしたように飛び起きた。
「フラーは!?」
裏世界でもフラーと呼んでいるのか。やはり、渡り鳥なのだろうか。
私が思っていたより、表世界と裏世界は関わりがあるのかもしれない。
「フラーなら、もう大丈夫ですよ」
ほら、と猫達が狩って山盛りになっているフラーを指差して笑ってみせる。
魔族は呆気に取られた表情で私を見た。
「まさか、あんたが……?」
「あー、違います。うちの猫達が、ちょっとスゴいんで」
ぺろぺろと前足をなめてひげの手入れをしていたり、ほかの猫のしっぽにちょっかいを出している様子は、ただの猫にしか見えないが。
本当は、ちょっとどころではないからなぁ……。
「あ、ありがとうございます……?」
魔族の人は、首を傾げながら猫達に礼を言った。
うん、この魔族さんはいい人だ、多分。
「にあん!」
よつばが大きな声で鳴いた。
はい、はい。分かっていますよ。
「すみません。この実を、少し分けてもらえませんか?」
まぁ、よつばだけではなく、私も食べてみたいしな。
「実……?」
私のお願いを聞いて、畑の方に視線を向けた魔族さんはすっとんきょうな声を上げた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ちょっ、びっくりするでしょうが!
キングがぶわっとしっぽをふくらまし、くぅはしゃきんっと爪を出した。
落ち着け、大丈夫だから。
「な、な、なんだ、これ……?」
「荒らされていたから、植え直して水をあげたんですけど、ダメでしたか?」
「い、いや、苗だったはず……?」
魔族さんは、混乱しているようだった。
あー、やっぱり、あんな風に育つ作物ではなかったか。
「あんた、もしかして、すごい魔力の持ち主なのか?」
「え?」
魔族さんの説明によると、この作物は魔力を与えると成長するのだそうだ。
魔族は皆魔力を持っているが、一度に使える魔力は限られている。
毎日、こつこつと魔力を与えて作物を育てているらしい。
んー、魔道具であるじょうろに、よつばの魔力を入れたのが原因だったか。
「それに、こんなに一度に実をつけるなんて……」
あり得ない、と魔族さんはぶつぶつと言っている。
そっちは、農耕神様からもらった加護のおかげだろうなぁ。
「食べてもいいですか? おなか減っちゃって」
へらっと笑ってみせると、魔族さんははっとして私を見た。
「もちろん。好きなだけ食べてくれ」
よつば、全部食べていいっていう意味ではないからね?
ハート型のオレンジ色の実をもいで猫達の前に置くと、よつばだけではなくみんなが食べ始めた。
キャットハウスから呼び出したコハクの分ももらった。
柴犬サイズのせいか、ドラゴンを見ても魔族さんはあまり驚いていないようだった。
まぁ、フラーを狩り尽くす猫のあとでは、ドラゴンもインパクトないよなぁ……。
私も一つもいでかぶりつく。
ぷちんっと皮が弾ける感じはトマトに似ていたが、味は高級焼き肉だった。噛むたびに、じゅわっと肉汁(?)が口の中にあふれてくる。
なんだ、これ。めっちゃ美味しい!
ふと見れば、猫達も夢中で食べている。
自分も一つもいで食べてみた魔族さんが、あんぐりと口を開けた。
「なんだ、なんだ? いつもより、ずっと味がいいし、実もしまっている。それに、この果汁は……」
私は、三個目にかぶりついているよつばをちらりと見た。
ちょっと分けて、って言ったはずなのに、あんた、どれだけ気合い入れて魔力を込めたのよ……。




