#008 ルルネ様、妹と朝食を食べる
「――姉さん、私と一緒に冒険をしましょう」
ガロウに一撃でのされ――接戦した翌朝、藤堂家の食卓。
私の目の前に座る妹、藤堂美央が朝食の目玉焼きを咀嚼して飲み込んでから、そう口にした。
「……冒険、じゃと?」
「はい、冒険です」
美央は私と違って真面目な性格だ。
突拍子もないことを突然言う子ではない。
美央が焼いてくれたベーコンを食べる手を止めながらぽかんとしていると、さらに美央が口を開いた。
「姉さん、ENOで配信をされていますね?」
「なぜわかったのじゃ!?」
「…姉さんは相変わらず自覚がありませんね」
「……むぅ」
「掲示板で話題に上がっていたので、私も見に行ったのですよ」
「け、けいじばんじゃとぅ?」
そういえば前にもコメントで『掲示板』という単語が出てたような気がする。
アンチだったら怖いなぁ……。
後でこっそり見に行ってみよう。
「はい、ENOの女性配信者は珍しいですからね。気になって見に行ってみたのです。そうしたら妙にちんまい自称吸血鬼のとっても見覚えのある顔が居ましたので」
「うぐぅ……」
「吸血鬼ごっこに興じる姉さんを画面越しに見たときは、ちょっと倒れそうになりました」
「っうぐぐぐ……そ、そにしても美央よ、お主もENOで遊んでおったのじゃな」
「はい、これでもENOはβテスト時から遊んでいます。姉さんと同じで時々配信なんかもしているんですよ?」
美央は配信の先輩だったのか!
それにしても美央がENOで遊んでいたなんて、正直意外だった。
私から見た美央は一言で表すなら「天才」だ。
それも超が付くほどの。
スポーツ、勉強、芸術、家事全般などなど。
美央が苦手としているものなんてホウレン草くらいしか見たことが無い。
容姿だって中学三年生なのに、私とは違って胸も大きいし、くびれている。
別に悔しくなんてないよ(超重要)
腰のあたりまで伸ばした黒髪は艶やかで、顔つきも少し冷たい雰囲気をまとってはいるものの、美少女といっても過言ではない。
街中を歩くと必ず道行く人が振り返るのは私の密かな自慢だ。私の妹マジ天使なんだが。
人間にステータス表示が出来れば、そのほとんどの数値がカンストしているだろう、まさにチート人間。それが美央だ。
天才なんて言葉一つで片づけるのは失礼かもしれないけど、それでも、美央がそうなるべく努力をし続けているのを見てきた私から言わせれば、努力する才能だって天才の枠組みに入れても良いと思う。
そんな何でもこなせてしまう美央だからこそ、それほど遊びや趣味に熱中しているという姿を私は見たことが無い。
新しい趣味を始めてはすぐに極めてしまい、次に移る……そんな繰り返しをしてきていた美央がゲームを遊んでいるというのが、私にとってはちょっと意外だった。
しかも、βから今まで遊んでいて、配信なんかもしているという。
かなり遊び込んでいるみたいだ。姉としては美央が楽しめる趣味が出来たみたいでちょっぴり嬉しい。
「それで、冒険とはどういう意味じゃ?」
「言葉そのままの意味です、姉さん。今日の夜にでもPTを組んで一緒に遊んでみませんか?」
「…ほう」
美央の言葉に小さく息を飲む。
美央から遊びに誘われるなんて、何年ぶりだろうか。
正直に言って、私と美央の姉妹はそれほど仲の良い姉妹ではない。
険悪、というものではないし、嫌い合っている、ということではないのだけど、私たち二人の間にはある種の「気まずさ」が存在していた。
お互いを避けたり、そんな事をするほど仲が悪いわけでも無いが、一緒に出掛けたり、会話を楽しむようなこともない。
そういえば美央とこれだけ何気ない会話をするのも久しぶりだ。
気まずさの原因は明らかに6年前の「あれ」だけど、ゲームを通して美央と仲良くなれるなら私も嬉しい。
今まではそれこそ共通の趣味ができたことなんて一度も無かった。
それがまさかのVRゲームになるなんて、不思議だよね。
「うむ!良かろう!我ら最強姉妹の力を世の中に見せつけてやろうとするかのぅ!」
思わずにんまりしてしまいそうになるのを堪えながら、椅子の上に立って腕組をする。やばい、すんごい嬉しい。
「姉さん、お行儀が悪いです」
「おお、すまぬ!つい、はしゃいでしまったのじゃ!」
「全く――では、今日の夜にでも向こうで合流するとしましょう」
「うむ!」
「では、打倒【月爪】ガロウを目指して頑張りましょう」
「……へ?」
え、あのクマさんと戦うの?
あまりの戦力差に、もはや再戦とか考えてなかったんだけど。
だって私まだレベル7なのに、ガロウは37って表示されてたよ?
美央がいくらβテスターだからって、二人で勝てる相手じゃないと思うんだけど……。
「ところで――配信を見ましたが、何ですかあの姉さんの体たらくは?」
美央の「ところで」のあとに少し溜めてから話を始めるのは、怒っているときの昔からの癖だ。ふふ、変わってないなぁ。
「うむ!レベルが違いすぎたのじゃ!」
「関係ありません」
「だ、だってネームドってすんごい強いらしいし……!」
「言い訳しないでください。藤堂家の長女ともあろう姉さんがそれでいては困ります」
「ひぐぅ…!」
「藤堂の家訓は常勝無敗、私たち二人で必ずあの熊公を打倒するのです」
そういえば美央はものすごくプライドが高い子だったっけな……。
「それではまた夜に、ENOでお会いしましょう姉さん」
現実世界のお話です。
区切り的にどうしてもいつもより短くなってしまい、申し訳ございませんでした…




