#007 ルルネ様、熊と戯れる
「くっふっふ!兎狩りにも慣れてきたものじゃな!」
最初のリーフラビットを倒してから2時間。
今日で何度目かのレベルアップのファンファーレが鳴った。
リーフラビットの攻略法を完全に理解した私は、リーフラビットを狩り続けた。
鎧の人が言っていた通り、ここは確かにレベル上げに最適なようで、この作業だけでレベルがいくつか上がっている。それにリーフラビットの毛皮や角などの素材もかなりの数が集まった。うまうま!
遠距離攻撃で攻撃の妨害をしながから、一撃を加えて倒す。
リーフラビットは攻撃手段が突進だけであり、比較的攻撃を見極めて倒すのが容易い。
攻撃にかなりのステータスを割り振っていたおかげで一撃で倒せるし、魔眼スキルで攻撃の隙も作りやすい。
かなり私の相性の良い敵だ。
鎧の人、ありがとう!
「やはり兎と真祖では生物としての格が違いすぎるのじゃ!」
『ふつうはやらないんだよなぁ』
『やらないんじゃなくて、やれないの間違いなのでは?』
『パワーレベリング(物理)』
『まじで人外の動きだった』
『どやどや真祖ちゃんかわいい』
すごい勢いでコメントが流れていく。
よく分かんないけど、多分褒められている。満足満足。
確かに私みたいに極端なステータスと装備を最初に選ぶ人は少なそうだし、全部の数値を平等に割り振ったりしてる人にはリーフラビット戦は難しいかもしれないなぁ。あの高火力での反撃をもらわない為にも、一撃で倒せるような火力は必須だし。
「んむ!やはり極振り……!極振りこそが最強なのじゃな!」
『違うそこじゃない』
『ステータスもあるけどそうじゃない』
『極振りしてる人はたまーに見かけるけどね』
「ぬぅ……まぁいいのじゃ」
はふりとため息をついて、ゲーム内時計を確認する。
む、もう23時かぁ。
21時から配信を始めたから、かなり狩りを続けていたことになる。
普通のゲームであればまだしも、VRゲームは現実と殆ど違いが無い世界で遊ぶ為か、疲労がたまりやすい。
別に体を動かしたりしてるわけじゃないけど、その視界から入る情報量に脳を酷使するからじゃないか、なんて言われてるけど……。
そんなことを考えていたら、どっと疲れを意識してしまう。
楽しすぎて、ついつい長く遊んじゃった。
明日の学校にも響いちゃうし、あんまり遅くまで遊んでると妹にどやされちゃう。今日はこの辺りでそろそろ切り上げようかな。
その前に――、
上がったレベルで入手したポイントを割り振っちゃおう。
ENOでは1レベル上がるごとに、5のステータスポイントがもらえる。
プレイヤーはそのポイントをHPとMP以外の数値に割り振って、自分好みのキャラクターを作ることができる。
どうしようかなぁ。
現在のステータスはSTRとAGIへの2極振りけど、正直今の「避けて叩く」というシンプルな戦い方はかなりしっくりきている。
うん、とりあえずは今のままステータスを伸ばしていく方向で良いかな。
―――――――
【ルルネ=フォン=ローゼンマリアⅣ世】
Lv : 1 →7
種族:【吸血鬼(眷属)】
HP : 32 →63
MP : 19 →37
STR : 65 →77
DEF : 9
INT : 10
MND : 8
DEX : 7
AGI : 42 →60
LUK : 2
【スキル】
血魔法:Lv1 →2
魔眼:Lv1 →2
吸血:Lv1
両手斧:Lv1 →3
調薬:Lv1
暗視:Lv2
鑑定:Lv1
反撃:Lv1
――――――
うん、完成!
レベルは6つも上がったし、戦闘で使ったスキルもいくつか上がってる。
満足満足!
【吸血】スキルは噛みつくのが難しくてまだ一回も使えてない。
相手に噛みつくのってけっこう難しいなぁ。
手っ取り早く斧で攻撃しちゃうんだけど、吸血鬼として吸血スキルは絶対に伸ばしておきたい。
【反撃】スキルは敵の攻撃の瞬間に攻撃を加えることで、その一撃の威力を上げるというスキル。だけどこれもリーフラビットが素早いのと、タイミングがかなりシビアで、何度か試したんだけど一度も成功していない。
あんまり動きの素早くない敵と戦って、この二つのスキルレベルも上げていきたいなぁ。
「今の最高レベルってどれくらいなのじゃ?」
『βテスト参加の最前線プレイヤーが48』
『40後半くらい』
『澪音ちゃんの配信でステータス開示してたけど43レベルあった』
「ふむ、じゃあ大体40レベル半ばくらいが上位プレイヤーな感じじゃな」
『せやね』
『40後半とかどれだけ経験値いるかもわからん』
『β組もほとんど40前半だと思うよ』
『パワーレベリング(物理)でこのままレベル上げてこ』
「なるほどのぅ」
今日は一気にレベルを6つも上げる事が出来たけど、この先はそうもいかないはず。RPGって大体レベルが上がれば上がるほど、必要な経験値も多くなっていくタイプが多い。あと、序盤はだいたいレベルが上がりやすいんだよね。
それでもこんなに一気にレベルが上がるものとは思ってなかったけど。
ま、そこまで急いでレベルを上げる必要はないよね。
私は大きく伸びをすると両手斧をインベントリに戻す。
「うむ、眷属どもよ。今日はこの辺りで失礼させてもらおうとするかのう。おやすみなさい、じゃ」
『おつ』
『おやすー』
『楽しかった!』
『真祖ちゃんなのに夜におやすみなのです?』
『次も楽しみにしてる!』
『チャンネル登録した』
『おつー』
【グギャアアアァァァァァァァァッッ‼‼‼】
「へ?」
何か今――
「グルルルルッ……」
目の前に、
すっごいおおきい
クマが
いたよ
「ぎにゃあああぁぁぁ!!?」
思わず悲鳴を上げる。
あれ、クマが出たときって叫んじゃだめなんだっけ!?
し、死んだふり、は確か良くないって聞いた気がする!
だめだ、混乱してる
『くまだー!』
『くま』
『やばい』
『にげろ』
『ネームドだ』
『さすがにまずい』
なんで?
なんでくま?
ほわい?
全長3メートル位はありそうなクマが目の前に立っていた。
大きさ以外は現実のクマと変わらないが、体が銀色の毛で覆われており、現実のクマ以上に狂暴そうな顔つきをしていらっしゃる。間違いなく友好的じゃないのが分かる。
いや、VRの間近で見るクマ怖すぎるんですけどぉ…。気絶しなかったのを褒めてほしい。
後ずさりしながらクマをターゲットしてみると、名前が表示された。
≪【月爪】ガロウ≫ LV:37
うん、なんか二つ名みたいなのついてるし、明らかに雰囲気でリーフラビットよりもはるかに格上の相手というのが分かる。
いくらコメントに集中してたからって、こんな巨体の接近に気が付かないとは思えない。足音とか気配を消すスキルでも持っているのかな?心臓止まるところだったんだけど!
『逃げて』
『にげろおぉぉ』
『ネームドはフィールドに稀に沸くボスモンスター』
『同レベルの4人パーティーでようやく勝てるかどうかの相手だぞ』
『むりむりむり』
『悲鳴助かる』
『ルルナちゃんのAGIならワンチャン逃げれるか…?』
『にげて』
「に、にに、逃げるじゃとぅ?く。くくくくまごとき、真祖たる我の敵では無いってことを見せてやるのじゃ……!」
『声震えすぎワロタ』
『かわいそうはかわいい』
『にげてえぇ』
『やめとけ』
インベントリから初心者用両手斧を取り出し、じりじりと距離を詰めてくるクマこと【ガロウ】に対して正眼で構える。
レベルが6つも上がったんだ。このクマさんを相手に新しいステータスの試用運転をしてやる!
「勝負じゃガロウ!我のサーガは今ここから始まるのじゃあああぁぁぁ―――
『 ― YOU ARE DEAD ― 』
『貴方は死亡しました。最後に立ち寄った街のリスポーン地点で復活します』
「またかよぅ!!」
リーフラビットのレベルが表示されて、ガロウのレベルが表示された件についての余談。
リーフラビットのレベルが高すぎた為、レベル1の鑑定スキルでは名前しか分かりませんでした。
ガロウを含む殆どのネームドモンスターは、プレイヤーが戦闘を行うかか判断するためのレベルがデフォルトで表示されています。