表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/25

#021 ルルネ様、集団戦を経験する

「のわぁぁぁ……どうして我はこんな所に来ておるのじゃあぁ……」


リムロ大橋手前の平原で私は頭を抱えていた。

周囲に視線を向ければ、簡易的な隊列を組む100人近い冒険者達の姿。


流石に壮観だけど、私もその隊列の一部に組み込まれているのには頭を抱えてしまう。

私の第一回ウキウキダンジョンツアーはどこにいっちゃったの?


冒険者の隊列は僅かな凹凸などはあるものの、横並びの三列に並んで広がっている。


一番狼に近い前列が前衛ビルドのプレイヤー、真ん中の列が魔法ビルドや弓ビルドの遠距離攻撃ができるプレイヤー、後衛が回復ビルドや支援ビルドのプレイヤーが並んでいるらしい。

規模を問わず、パーティープレイではこの並び方が基本になるのだと、私を拉致した『銀騎士』オメガとやらが教えてくれた。

情報ありがとうね、お前だけはゆるさん。


私は当然前衛ビルドなので、気がつけば一番前の列に配置させられている。

必死に「我も魔法使える!むしろ魔法メインまであるのじゃ!」とアピールしたんだけど、INTの数値を告げたら問答無用でこの位置だったんだよ……無慈悲。


大規模戦闘なんてしたこと無いから、狼達の視線に晒されて、武者震い(強調)が止まらないんですけどぉ……。


眼前には100メートル程先に件の狼とやららしき群れが見えた。

わぁい、一番前のの列だから景色がよく見えるやー……。

狼達は冒険者達の3倍くらいの数に見えるのは気のせいかな……?


『狼多すぎw』

『あれ全部レベル25近いの?』

『ワールドクエスト以外でこれだけの規模の戦闘とか珍しいな』

『クレイモア主導ならまあ』

『ルルネ様、餌になっちゃう……』

『真祖(餌)』


「死んじゃう……我、狼たちのおやつになっちゃうぅ……!」


あれだけいると、もはや群れじゃなくて、軍だよね。

早くも帰りたいよぉ……。


パーティープレイなんてしたこと無いから、のんびりできそうなダンジョンに行こうとしてたのに、いつかオメガくんには痛い目を見てもらうんだ。


救いを求めるように同じパーティーメンバーであり、右隣に並ぶ褐色獣人ちゃんに視線を送れば――


「にゃあっ!」

「……に、にゃぁ、じゃ」


う、うん、ちょっと不思議な子みたいだね。


見た目は赤髪ショートボブで、快活そうな印象を受ける子だ。頭上には虎模様の猫耳、腰元からも同じ模様の尻尾が楽しげに揺れていた。

改めて見るとこの子、リアルだと私と同い年くらいじゃないかなぁ。

ブラトップとホットパンツ、腕には肘もとくらいまでを守る手甲と、脛まである足甲のみを装備していた。

私が言うのもあれだけど、前衛にしてはかなり装備が軽装な気がする。

両手にはめた、肉球つきのグローブは漫画みたいにデフォルメされた猫の手を模していて、その両手にはめた肉球グローブ同士をぶつけており、どうやらやる気満々のご様子。

ダメだ、この子は私の洗練された作戦(戦闘中の隙を見て逃走)には付き合ってくれそうもないや……。


一応左隣にも視線を向けておくと、オメガくんに満面の笑顔でサムズアップされた。

ダメだ、この人もやっぱりお話になりそうもない。


顔以外を覆う白銀の全身鎧はよく見ると細部に細やかな意匠が施されており、明らかに高性能の装備品であることが伺える。

腰から下げた両刃の片手剣と、背中に背負う盾も仄かに光輝いており、魔法効果を持つ装備ということが分かる。

『クレイモア』というギルドは有名らしいし、その副団長でもあるオメガくんも白銀鎧の性能に見合う実力者なんだろう。


鎧と同色の髪、無駄に王子さまみたいなイケメンフェイス、女性人気の凄そうな彼だけど、私にとってはファーストコンタクトが最悪だったから誘拐犯のイメージが先行している。


だけど『銀騎士』っていう二つ名はかっこいいよね。

私も二つ名ほしいなぁ。

『†黒薔薇の姫†』とか『†イモータルプリンセス†』とか、センスつよつよなのがいいなぁ。




「――来るぞッ!総員構えたまえッ!!」


「のじゃあッ!?」



そんなことを考えていたら、いきなりオメガくんが大声で号令をかけた。


び、びっくりしたなぁ、もう……。


気が付けば眼前の狼達が、冒険者との睨み合いにしびれを切らせたようで、土煙をあげながらこちらに向かって突撃してきていた。


私も慌てて 【破邪ノ月爪斧《壱式》】を構える。


は、始まっちゃったものはしょうがない!

こうなったらやってやる!

新装備の実験台にしてやるんだ。


「さぁ、俺たちも行くとしようか。――【アンカーシャウト】!」


オメガくんがスキルを発動すると、無差別に冒険者たちに食らいつこうとしていた狼たちが一斉にオメガくんに向かって襲いかかる。


タンクビルドの基本挑発スキル、【アンカーシャウト】。

タンクはパーティーの中でも、敵の攻撃を引き受ける役目だ。敵の注意を引き付けるスキルや、防御を固めるスキルを多く取得し、他のパーティーメンバーに敵を向かわせないようにする役目。

ENOにおける前衛には3つの役割があり、その役割の中で最も攻撃に曝されるのがタンクだ。


オメガくんは両手の剣と盾を巧みに操り、10匹以上の狼の猛攻を、一人で次々と受け止め、防ぎ、捌いている。

プレイ技術に派手さは無いけど――ただひたすらに巧い。


『うっま』

『うますぎw』

『二つ名持ちは伊達じゃない』

『たぶん大規模戦闘におけるタンクとしては銀騎士は最高峰だからなぁ』


うん。  

悔しいけど同じ前衛として、あの戦い方は真似できそうにない。


「左、2匹!頼んだぞッ」


オメガくんが叫ぶと同時、彼の左手から狼が2匹飛び出してくる。

いくらオメガくんがつよつよだとはいえ、タンクにも抑えておける敵の数には限界がある。


「――うっっにゃあぁぁ!!」


慌てた私よりも早く、赤毛の獣人少女が飛び出てきた狼2匹に向かって鋭いストレートを続けて2発放つ。

その拳は私が今までENOで見てきたどの攻撃よりも速い一撃だった。

放たれた連撃が的確に狼の顎下を捉え、絶命させる。


タンクの討ち漏らしに即座に気がつき反応してみせた反応速度――いや、あの少女は常にタンクが捌ききれない敵の処理を考えた位置位取りで常に立ち回っていたんだ。


ENOにおける前衛、その2つ目の役割は、タンクの補助。

タンクの討ち漏らしを処理し、それ以外の時間では攻撃を加える。

パーティーの遊撃隊。

サブタンクという役割だとオメガくんが戦闘前に教えてくれた。

あの獣人少女がそのサブタンクというやつなんだろうね。


一見アホの子――じゃなくて、あんまり知的な感じのしない彼女だけど、その戦い方は非常に効率的で、頭脳的な戦い方をしている。


『え、今攻撃してた?』

『はやすぎわろた』

『なんも見えんかった』

『あれ?あの子どっかで』

『おへそしか見てなかった』


それにしてもあの女の子、「にゃあ」しか喋ってないけど、魂まで獣に染まってるのかな。

……正直めちゃくちゃかっこいい。


これは私も負けてられないね!


「真祖の力、その命を代償に味わうのじゃあぁぁッ!」


私は最前線に飛び出ると、オメガの盾の縁に食らいついている狼にむけて、力任せに 【破邪ノ月爪斧《壱式》】で殴り付ける。


前衛、3つ目の役割はタンクの引き付けた敵の殲滅。

パーティープレイで私に求められるのはそれだ。


命中――手元に衝撃を感じることなく、狼の体が横一閃に両断され、そのまま斧が振り抜けた。


『一撃!?』

『おぉ!?』


「のじゃあっ!?」


斧の刃がノコギリ状になっていて、切断能力はそれほど期待していなかったから思いきり振り抜いちゃったけど、遠心力で持っていかれそうになる体を慌てて引き戻す。


一応狼たちのレベルは25で、私のレベルは18。STRに特化したステータスにしているとはいえ、わりと格上の相手を一撃なんて……。

【破邪ノ月爪斧《壱式》】の性能の高さがよく分かる。


初心者用両手斧とは威力も、手に馴染む感覚も、まるで比べ物にならないし。

ふふふ、これはかなり強力なんじゃないかなぁ?


私は斧を手元に引き戻した動きを止める事無く、体を半回転捻れば、そのままの勢いで再度斧を振り抜いた。

今度はオメガくんの隙を伺っていた狼の一匹が、その一撃で両断される。


「おおっ、ルルネ君!なかなかやるじゃないか!」

「ナイスにゃ、ルルネ!にゃあも負けてられないにゃあ!」


同じパーティーの前衛2人からお褒めの言葉がかかる。

うむ、こやつらにも我の偉大さが理解できたようじゃな!

あれ?この2人に名乗ったっけかなぁ……?

まぁ今は戦闘中、細かいことは良いよね。


「クククッ、これが真祖の力じゃ!このままゆるりと蹂躙していくとするのじゃ!」


私の言葉と共に後衛から唱え終えた魔法による雷や炎、氷の礫が射出され、狼の群れに次々と着弾していく。


最初はこちらの3倍はいたと思われる狼の群れも気が付けば、冒険者の人数が上回っていた。



やがて――――

 


「群れの長はボクが討ち取った!!この戦い、僕達の勝利だ!!」


戦場の右翼側から勝鬨の声が上がった。

無心で斧を振るい続けていた私は、その声で手を止める。

終わった、のかな?


狼達も何かを感じ取ったのか、動きを一瞬だけ止めると、今までの猛攻が嘘のように踵を返して逃走を始めた。


「む?この声は……どうやら我々の団長殿がボスを仕留めてくれたみたいだね」


オメガくんが誇らしげな笑みを浮かべると、手にした聖剣を高らかに掲げてみせる。


「我々冒険者部隊の勝利だッ!!」


「「「うおおぉぉぉぉぉッ!!!」」」


それに合わせるように野太い勝鬨の声が周囲から上がった。

無駄に外見とカリスマ性だけはすごいんだよね、この誘拐犯くん。


「にゃあぁぁぁぁ!!」


獣人ちゃんがハイタッチを求めてきたので、ぷにぷにの肉球グローブに軽く手を合わせておく。

叫んだりは誇り高き吸血鬼のキャラじゃないしね、うん。


「う、うむ。やったのじゃ――のっじゃあぁぁぁぁ!!!?」


そのまま腕を捕まれると上下に凄い勢いでぶんぶんと振られた。

め、目がまわるっ!力強いこの子!助けてえぇぇっ!





こうしてリムロ大橋の戦いは幕を下ろしたのだった。



―――――




【ルルネ=フォン=ローゼンマリアⅣ世】


Lv : 18→20


HP : 112→122

MP : 71→77

STR : 182→186

DEF : 9

INT : 28→30

MND : 37

DEX : 7

AGI : 170→174

LUK : 13



【スキル】

血魔法:Lv3

魔眼:Lv5→6

吸血:Lv1

両手斧:Lv6→7

調薬:Lv6

暗視:Lv3

鑑定:Lv2

反撃:Lv4→5



【装備】

E:【破邪ノ月爪斧《壱式》】

E:『若草のリボン』

E:『若草のドレス』

E:『若草のブレスレット』

E:『若草のヒール』



【種族特性】

太陽・聖属性弱点

夜時ステータス微増





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 振り回されマスコットちゃまwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ